白き流星のレコンギスタ   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十ニ話 強襲、マスク部隊(1)

 

 

 

 

 

「エルフ・ブルックの量産機が到着したか」

 

 

カリブ海からアメリア大陸を跨った南大西洋側。そこには海洋航行用の空母と、キャピタル・アーミィのエルフ・ブルックで編成された新たな部隊が集結していた。

 

クンパ・ルシータ大佐お墨付きのマスク大尉が率いる空戦特化の編隊。だが、他のキャピタル・アーミィの軍人から見て、そんな部隊は粗末な物にしか見えなかった。

 

 

「あれが噂のマスク大尉かよ」

 

「アメリアの白いMSにやられたって?」

 

 

華麗なるエルフ・ブルックの初出撃で勝ち星を上げられなかったマスクに対する風当たりは強い。そして何より、キャピタルの軍人たちが彼を見下す理由が明確にあった。

 

 

「所詮はクンタラなんだろうさ」

 

 

クンタラ。

 

宇宙世紀末期に生み出された負の歴史において、下級階層の人間を蔑むものだ。

 

当時敷かれていた階級社会で下層に位置したクンタラの人々は、同時代に起こった未曾有の食糧危機によって極度の飢餓状態に追い込まれた際には代用食として捕食される側に回っていた。

 

そこから「他人に食われる程に劣っていた」という差別意識が生まれ、時が流れたリギルド・センチュリーの時代でも偏見は根強く残っており、クンタラ出身の人間は冷遇を受け続けていた。

 

 

「知っての通り、私はクンタラ出身だ」

 

 

エルフ・ブルック部隊の隊員を集めたマスクは、その身の上を堂々と開示した。

 

蔑まれているという事情からクンタラ出身者は本能的に自衛手段に長けている。マスク自身もだ。だが、それ以上にマスクには自身のコンプレックスを打破するべく、プライドと強い意識を持ち合わせていた。

 

 

「クンタラの置かれている立場というものは理解しているつもりだ。故に、我々がこうやってアメリアの海賊船に奇襲を仕掛ける任務を与えられた意味を考えて欲しい」

 

 

 

クンパ大佐が集めた優秀なパイロットたち。彼らもまたクンタラ出身で腕はいいが軍から冷遇を受けて蔑まれている者たちだ。ゆえに、マスクはそれを導く覚悟と義務がある。

 

整えられた戦いの舞台。与えられたエルフ・ブルックというチャンスをモノにできなければ「クンタラ」と呼ばれる人々はずっと蔑まれる対象から脱却することができないのだから。

 

 

「この屈辱…新たなるエルフ・ブルを与えられたこのマスク部隊が、遠き過去から塗りたくられた汚名を晴らし、名誉を挽回するのだ!!」

 

 

差別意識を無くし、平等で純然たる世界で、クンタラ出身者が力を示して世界を導く。それがマスクの信念であり、彼がマスクを被る理由でもある。

 

マスクの激励に、他のパイロットたちも声を上げて呼応する。部隊のメンバーへの指揮向上も終えたところを見計らい、エルフ・ブルックを搬入していた作業員がマスクへと近寄ってきた。

 

 

「マスク大尉、あの機体もエルフ系の新型機なのですか?」

 

 

そう指さされた先を見ると、輸送艦のコンテナから搬入される一機のMSの姿があった。形はエルフ・ブルやカットシーとは大きく異なり、肩には折り畳まれた四枚のバインダー式スラスターと、四肢は開いた花弁のような造形が施されている。

 

 

「クンパ大佐直々の部隊導入というやつさ」

 

 

エルフ・ブルックとは別系統のMSの試作型、とマスクはクンパ大佐から聞かされている。だが、あまりにも形状が独特なモノだ。

 

あくまで試験機なので量産をする予定はないと聞くが…、とマスクはその奇天烈な機体を眺めながら思考を巡らせる。

 

 

(ヘルメスの薔薇の設計書はあんな羽根付きまで建造してしまうのか)

 

「機体性能は落ちていますが使えますよ、この機体」

 

 

そう言ってカタログデータを見せてきた作業員の手から端末を受け取る。たしかにヘルメスの薔薇の設計書で記されていたスペックよりは性能がやや落ちているような印象を受けた。

 

 

「なぜ機体性能が落ちている?」

 

「ヘルメスの薔薇の設計書から起こされた機体ですよ?未知の技術を再現できなかったのだから、キャピタルが保有している技術で代用したのですよ」

 

「この…ファンネルという装備は付いてないのか?」

 

「技術局の作業が難航しとるそうで」

 

 

コクピットの設備の製造が追いついていないと作業員は答えた。バイオセンサー…という人の脳波に反応する機械を組み込まなければ扱えない武器だと言う。そんな魔術的なシステムに信頼性など置けるのか?

 

マスクは薔薇の設計書を書いた〝誰か〟の底が知れるなと鼻で笑って端末を返した。

 

 

「なるほどな、これもまた旧時代の産物というわけだ。機体名は何と言う」

 

「アーミィでの正式運用名はゾルトレイ。ヘルメスの薔薇の設計書では…キュベレイと名を冠しているようです」

 

 

キュベレイ。

旧時代の神話に出てくる神の名前。

 

スコード教というフォトンバッテリーで世界に平和と繁栄を享受させると言う教義が広まっている世界で神の名を語るとは、ナンセンスだ。

 

だが、マスクにしてみればこの上なく合っている名前のようにも思える。なにせ、あの機体に乗ることを許されたのは、自分と同じくクンパ大佐から気に入られている…あの女なのだから。

 

 

「乗っているのはいと麗しい者ではなく、執着に狂った死神かもしれんな」

 

 

開いた「ゾルトレイ」のコクピットから乗り込んだパイロットは、シートに腰を下ろして操縦桿や全天周型モニターをじっくりと眺めてから、小さく呟く。

 

 

「この機体、私はどこか知っているような気がする」

 

 

コクピットがだとか、機体の形がだとかじゃなくて、もっと感覚的なものだとレイカは思った。見たことも聞いたこともない機械のはずなのに、遠い昔にどこかで出会ったかのような懐かしさもあった。

 

 

《ゾルトレイ、レイカ・マツオカ少尉、聞こえてるな?》

 

「はい、感度良好です」

 

 

通信越しに聞こえるマスク大尉の声にレイカは答えながらゾルトレイの操縦桿に手を添えた。

 

 

《では、機体の海洋上テストを開始するぞ》

 

「了解、レイカ・マツオカ、ゾルトレイ、出ます!」

 

 

基となった流線型のフォルムから角ばった形状へと変わった両肩のバインダー式スラスターで、ゾルトレイは空へと飛翔する。

 

まるで蝶が空を舞うように。しかしその機体の力は蝶が舞うように優しいモノではできていない。

 

現れたエフラグの上に着地したゾルトレイは、マスク率いるエルフ・ブルックの編隊の後に続くようにカリブの海を目指したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「デレンセン・サマター大尉か」

 

 

メガファウナのハンガーに降りてきたベルリは、コンテナの一角でスタッフやアイーダ、ドニエル艦長たちが集まっている様子を見た。

 

彼らが囲う真ん中には、拘束はされていないもののノーマルスーツを脱いでいるデレンセンが不満そうな顔で取り囲むクルーたちを睨みつけていた。

 

デレンセンが乗っていたエルフ・ブルは大破。機体の大部分が破損し、スラスターノズルは焦げ付いて、機体の表面も大気圏の摩擦熱で剥がれている有り様だ。

 

そして、それより酷かったのがラリーの機体だった。

 

機体各所には高速機動をした皺寄せで過負荷とガタが来ているし、スラスターは内部ノズルとバルブが軒並み破損。幸いにもフレームと装甲へのダメージは免れていたが、部品を交換するには大規模な解体を行う必要があった。

 

よって、今はハッパ率いるカリブ海洋研究所のメンバー総出でローンズーは絶賛オーバーホール中である。

 

 

「私は体の良い人質、といったところですかな?」

 

「人質というより捕虜となります、大尉殿」

 

 

切って返されたアイーダの言葉に、デレンセンはフンと鼻を鳴らした。

 

 

「まさか、宇宙で引っ叩いた海賊の女がアメリアの軍トップの御令嬢とは恐れ入りますよ」

 

「…あれは私の独断によるミスです」

 

「海賊がなんと言っても、運搬するフォトンバッテリーを奪おうというのだから、それは単なる略奪行為となんら変わらん…!」

 

 

取り繕うように言うアイーダにデレンセンは怒りをあらわにして言った。海賊部隊の被害が増えているのは事実で、奪われたフォトンバッテリーの被害も無視はできない。

 

そして、その海賊部隊のパイロットがアメリアの姫君だ。怒らない理由などデレンセンは持ち合わせていなかった.

 

 

「我々がアメリア直轄の隠密部隊であるということは、そちらの推測通りです」

 

 

デレンセンの言葉にそう答えたカーヒルに、アイーダは信じられないような目を向けた。

 

 

「カーヒル!」

 

「姫様、ここまで来て我々が一般運送企業だなんて見えすいた嘘をついても何もなりません。それに彼は騙し通せる相手ではありません」

 

 

あくまでメガファウナは一般的な運送会社で船体登録をしているし、自分たちの立場もアメリアの軍属というよりはアイーダの父であるグシオン総監の私兵みたいな扱いに近い。

 

だが、バックにアメリアのサポートがあるのは事実であるし、それを見抜けないほどデレンセンは甘くはない。

 

Gセルフを捉えてからずっと睨んでいた憶測が確定して、デレンセンは不満げにカーヒルとアイーダを睨んだ。

 

 

「貴様らがアメリアの軍属であろうが、単なる海賊の無法者だろうが関係はない!我々キャピタル・アーミィの目的はそこにいるベルリ・ゼナム生徒と、ノレド・ナグ生徒、そしてラライア・マンディとGセルフを取り戻すことにある!」

 

「Gセルフはもともとアメリアのものです!」

 

「もとは俺が見つけた機体だ!ラライア・マンディもだ!」

 

 

それを無闇矢鱈と動かしてこちら側に差し出してきたのは貴様であろう、と指摘されてアイーダはぐうの音も出ない様子だった。

 

アメリアの姫君ともあろう方がなんたる向こう見ずな!そう吐き捨てるデレンセンの態度に、アイーダも我慢の限界を超えたように前へと踏み出す。

 

 

「貴方は!!」

 

 

一発引っ叩いてやる、という決意と共にデレンセンに詰め寄ろうときたアイーダ。その踏み出した行先に、横から入ってきたベルリが通せんぼをする。

 

 

「待ってくださいよ!デレンセン教官殿、僕とノレドがアーミィに保護されれば…」

 

「戦いは止まると言うのか?ベルリ」

 

 

ベルリの言いたいことを当てるかのように、ルワンとオリバーがベルリを見つめる。

 

たしかに、デレンセンが言っていることが事実なら、二人とラライア、そしてGセルフを差し出せば襲ってくる口実は無くなるだろう。だが、事はそれに収まらない範囲まで大きくなってしまっているのだ。

 

 

「少なくとも、キャピタル・アーミィはそこにGセルフとラライアもセットじゃなきゃ交渉に応じんぞ」

 

「話し合いの場を設けるというのか?戦場で?」

 

「そんな簡単な話ではありません!我々はすでにアーミィからの軍事的な攻撃を受けています。アメリア軍としてそれは打倒しなければ…」

 

「宇宙でも戦ったことのない軍がなにを偉そうに!」

 

 

ぎゃあぎゃあと言い合いを始めたアイーダとデレンセンを眺める。

 

すると、ハッパに「壊したのなら手伝いなさいよ」と修理に巻き込まれたラリーが、べったりと手についたオイルを手拭いで拭きながらのんびりとドニエル艦長やカーヒルのところへとやってきた。

 

 

「こりゃあ話がまとまらんなぁ、どうします?」

 

「とにかく、彼を捕虜としてこちらからはベルリとノレドを返すことを条件に話をしてみますか?」

 

 

カーヒルの提案に、ラリーは考える間も無くNOを出した。

 

 

「冗談。あいつらはGセルフとラライアを第一目標にしているようにも見るんだから、彼らを返したところで引き下がるものか」

 

「アメリア本国も軌道上に艦隊を飛ばしてしまったんですよ?どちらに転んでもアーミィとの戦争は避けられません」

 

 

艦隊が宇宙に行けるとわかれば、宇宙は我々が管理するべきだと演説で叫ぶだろうな、あの大統領なら。そう言うドニエルに、カーヒルやルワンたちも頷いた。あの大統領ありの天才中尉だからな、始末に負えない。

 

 

「ここにゴンドワンも加わって三つ巴か。嫌になるますね」

 

「そう言ってもられないぞ、カーヒル。ここで選択を誤れば我々は」

 

 

そう言葉を交わしていると、格納庫の奥にいたドニエル艦長を発見したアダム・スミスが慌てた様子でハンガーの出口で起こったことを報告しにきた。

 

 

「なんだとぉ!?クリム中尉がラライアを乗せてGセルフを出した!?」

 

 

とたん、ドニエル艦長の悲鳴のような声がハンガーの中にこだまする。ラリーを含めるMS部隊のパイロットは「おぉ…スコード」と言わんばかりに手を見上げながら顔を手で覆った。

 

 

「あ、あの天才坊ちゃんは…」

 

 

何を考えてるんだ、と言う間も無く、今度は艦橋からすっ飛んできた副長が報告をしてきた。

 

 

「艦長!機影確認!この形はキャピタルの可変機です!」

 

「マスク部隊が来たのか?」

 

「マスク部隊?なんです?それは」

 

「…今から戦う相手のことなど知っても碌なことにはならんぞ、ベルリ生徒」

 

「僕は…」

 

「しのごのいう前にパイロットスーツ!」

 

「は、はい!!」

 

 

先導するアイーダの後に続くベルリ。さっきまで格納庫の片付けに賑わっていたハンガーは、一気に戦闘態勢へと移行していく。

 

 

(あの機体…Gセルフをああも扱えるものか、ベルリ生徒が)

 

 

走り去ってゆくベルリの背中を見つめながら、デレンセンは教え子の潜在能力の高さを改めて痛感したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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