白き流星のレコンギスタ   作:紅乃 晴@小説アカ

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第二話 タブーと戦争

 

 

南米、軌道エレベータの地上発着場であるビクローバーからアメリアのカリブ研究所までは割と長旅だったりする。

 

陸路ではないだけマシではあるが、フライスコップの速度でも到着までは数時間は掛かる。

 

ので、その間に催してくることも仕方ないがこと。

 

 

「済んだかい?」

 

「ありがとうございます」

 

 

トイレの気配から解放され、スッキリした顔となったベルリがコクピットハッチで待っていた俺に礼を言ってきた。

 

向こうにはアイーダ様やベルリの学友、そしてカーヒルが逃したと言っていたラライアという少女と、三人の女性が乗っているのだ。

 

コクピットシートにトイレが標準搭載されてるとは言え、女性三人の中でトイレをするとかどんな罰ゲームだ。そんなわけで、フライスコップを操縦するオリバーに速度を落としてもらい、ベルリがこちらに移動してきたわけだ。

 

 

「君たちは人質なのだから、そういったことまで面倒を見るのがこちらの役目ってやつさ」

 

 

そう答えると、途端にベルリの表情が怪訝なものとなった。

 

まぁ仕方のないことだ。

 

彼らからしたら俺たちは海賊。キャピタル・ガードが管理運営、そして護衛する軌道エレベータのクラウンから運搬しているフォトン・バッテリーを奪う犯罪人なのだから、そんな相手に人質にでもされたら不安な表情にもなるというものだ。

 

 

「俺の名前はラリー・レイレナード。この機体、ローンズーのパイロットでMS部隊の隊長なんてものをやっている」

 

 

そんなわけで、まずは自己紹介からはじめた。何にしろ、お互いのことを知らなければ何も始まらない。これは過去から培ってきた確かな経験則だ。

 

 

「…僕はベルリ・ゼナムです。キャピタル・ガードの候補生です」

 

 

俺が名乗るとベルリも同じように答える。しかし表情は良くはならなかった。とりあえず途切れないように当たり障りのない話題を振る。

 

 

「女の子ばかりのコクピットは居心地が悪かっただろ?」

 

「ノレドとは付き合いも長いですし。ラライアって子もおとなしかったから」

 

 

そうは言っているが、彼が気にしているのはGセルフを操縦しているアイーダ姫なのだろう。人質にされるわ、守ろうとしていた相手に引っ叩かれるわ、散々な目に遭ってるわけだからな。そう思うと何か申し訳ない気持ちになってきた。

 

 

「すまないな、こんなことに巻き込んじまって」

 

 

通信回線を切って、俺はベルリにそう言った。謝るのは形的に良くは無いだろうが、人道的に見れば彼らに謝罪しなければならない。本当なら、アイーダ様とGセルフさえ戻ればなんて事はなかった。だが、あの場から無傷で逃げ帰るには彼らを人質にするのがベストだったからだ。

 

 

「やっぱり、貴方達はただの海賊じゃあないんですね」

 

 

どこかでベルリもわかっていたのだろう。というか、アイーダ姫が一人で先走った上に、こうやって大所帯で迎えにきたのだ。

 

MSを持つ海賊なんてものも、そもそもの話軍や政治が絡んでなければ無理だ。個人の勢力では実現なんかできやしない。そんなもの、少し考えれば分かることだ。

 

 

「非正規部隊ってやつさ。囚われてもアメリアは助けてくれん。実際にキャピタルはアメリアにも問い合わせたのだろう?」

 

「そこまでは僕も…」

 

 

ベルリの話では、彼はあくまでキャピタル・ガードの候補生であり、キャピタル・アーミィなんてものは知らないし、いくらキャピタル・テリトリィを守るためとは言え、機械技術の発展をしてるんだから、タブー扱いだと答えた。

 

となれば、アイーダ様やGセルフ、それにラライアという少女に執着している人間がアーミィの中にいるということなのか…。

 

そこで、ふと疑問が湧いた。

 

 

「ベルリ、何故君はGセルフに?」

 

「動かせれたから、ですかね」

 

 

疑問に疑問で返された。いや、彼自身もよくわかっていない様子だ。他のキャピタル・ガードの人間や、彼が話してきたケルベスとかいう教官、そしてキャピタルの技術者でも起動は愚か、コクピットハッチの操作すらままならなかったと言うのだ。

 

 

「あの機体は、アイーダ姫しか扱えないものだった。少なくとも君が乗ってシステムが反応するまではね」

 

「故障とかではないんですか?」

 

「さてな、何かしろのプロテクトが入ってるようにしか見えない。条件とか、何かを判断して搭乗者を選ぶような」

 

「そんなの!宇宙で使うものは皆んなが使えるものなんですよ!?僕やアイーダさんしか扱えないものなんて、タブー破りです!!」

 

 

それ、確かアメリアの技術者も言ってたな。スコード教の教えで科学技術というのは平等であり、誰もが使えるものでなければならない。そこに例外は存在しないとも。

 

 

「宇宙からの恵みへの感謝と、技術の発展・進歩を禁じているからこそ現在の平和と繁栄がある、か」

 

 

理屈はわかるが、それを宗教の教えとするもの何ともまぁ豪胆と言うべきか…。そんなことを思っていると、ベルリが不思議そうな顔をしてこちらを見つめていた。

 

 

「ラリーさんはスコード教の信者ではないのですか?」

 

 

んー違うな!

 

 

「ただシステムとしては優秀だと思っているよ」

 

「システム…スコード教の教えがですか?」

 

「技術の発展と進歩を手放す代わりに長寿と繁栄をもたらす。人類を地球というゆりかごに押し込めて、宇宙と結ぶへその緒をだけを通路とするから、人は宇宙世紀ってやつの過ちを繰り返さずに済んでいるんだろう?」

 

 

一昔前、誰かが言った綺麗な言葉と、綺麗な在り方を証明しているのだ。そんなものが宗教なんてものをやってるのだから、スコード教を依代にする人も多くいるのだろう。

 

人の信仰を集めるシンボルであると同時に、人の欲を縛る鎖でもある。

 

 

「けれど、この機体や僕たちを襲撃した機体もアメリアが建造しているんじゃないですか?」

 

 

だが、人として仕方のない性だと俺は思う。

 

前世とでも言うべき過去の記憶がそうだ。人はあくなき欲望を抑えることができない。神の領域であるサンクチュアリを暴き、たとえ神の墓があったとしても、それを暴いて技術を貪欲に求める。

 

それでいて滅びないのが人間という生き物だ。今こうやってリギルド・センチュリーという次世代の世界があるのが何よりの証明じゃないか。

 

 

「人は結局繰り返すのさ。押し込められて平等に、長寿と繁栄というものに飽きて、飽きて、飽きては繰り返すのさ。過ちってやつを」

 

「それこそ!」

 

「スコード教の教えに叛く、かな?だが、それはあくまで宗教だ。人の性を縛る鎖にしては効果が薄すぎる」

 

 

たとえそれで繁栄してきた世界だとしても、たったひとつの石が投げ入れられ、広がった波紋のせいで簡単にその繁栄は脆くも崩れてしまうのだから。

 

 

「それでも、僕はキャピタル・ガードとして、人類にフォトン・バッテリーを供給する義務と責任を自覚しているつもりです」

 

 

それがキャピタル・ガードの存在意義だから、そうベルリは言った。

 

宇宙からの地球へ供給されるフォトン・バッテリーを運び、それを平等に世界へと配給する。アメリアとゴンドワンが旧時代のような大陸間戦争をしようとも、だろうな。

 

 

「俺はアムテックのタブーとかに詳しくはない。だが、こうやってゴンドワンも、アメリアも、そしてキャピタルも、技術の進歩に手を伸ばせずにいられない。そこに実現可能なものがあるから」

 

「それは欲望でしか…」

 

「だが、そういう流れがきているのさ。宇宙から降りてくる危機も」

 

「宇宙からの危機?」

 

 

少なくとも、フォトン・バッテリーが宇宙のどこかから供給されているという以上、アメリアが禁忌を冒してでも観測した事実は覆らない。

 

それにその強迫観念のようなものを突き動かす理由がすぐ目の前にあるのだから。

 

 

「俺も、そして君やアイーダ様が乗り込むGセルフも、宇宙から落ちてきたんだからな」

 

「宇宙から…」

 

 

俺が何故ここにいるのかはわからないけどな、その想いは想いのまま留めた。するとモニターの先に反応があった。

 

 

「さて、到着したぞ」

 

 

カリブ海にあるアメリアの研究所はすぐそこだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイレナード大尉!私を置いて勝手に出撃するなど、どういう了見なのだ!」

 

 

カリブ研究所に停泊している宇宙戦艦、メガファウナに着陸して、ローンズーから降りたと同時に、天才がズンズンと歩いてきて突っかかってきた。

 

クリムトン・ニッキーニ。アメリア軍ではクリム・ニックと呼ばれるエースパイロットで、彼はゴンドワンとの大陸間戦争で大統領の息子という立場でありながら先陣を切ってMSでの戦いを繰り広げたのだ。

 

若かゆえの血の気の多さと、天才的な操縦センスから皆んなから「天才クリム・ニック」と持て囃されているが、皮肉も半分くらい込められているのだろう。

 

 

「クリム中尉は作戦遂行時までにお戻りにならなかったので」

 

「それを勝手と言うのだ!私がゴンドワン側への任務から抜けられないと知りながら!」

 

 

だからその合間にアイーダ姫の救出に向かったんでしょうか、というセリフはグッと飲み込む。

 

この天才は腕はいいが何より喧嘩っ早いのだ。アメリア以外のMSや船は全て敵と思ってるレベルで好戦的なものだから、アイーダ姫の救出任務なんかに連れて行った日にはこちらも向こうも甚大な被害は必至だったのだ。

 

 

「その与えられた役目を果たすのも兵士たる勤めです」

 

 

やんわりと言うと苦味虫を箱ごと噛み潰したような顔をしてクリムがさらに文句を言おうとしたが、それを間とって止めてくれた人がいた。

 

 

「まぁまぁ、落ち着いて。ラリー隊長、アイーダ姫を無事に連れ帰っていただきありがとうございます」

 

 

メガファウナの艦長、ドニエル・トス艦長。

 

この曲者揃いの海賊部隊を取りまとめる事から部下からの信頼も篤いが、それ故に頭痛の種も多い苦労人でもあった。

 

この艦長、言いたいことはハッキリと言う性格の持ち主であり、例え相手が大統領の息子や軍総監の養女であってもその姿勢を変える事は無い。

 

故に俺としてもやりやすい艦長だった。

 

 

「ああ、艦長。だがケジメはしっかり付けなければならないな」

 

 

そう答えるとドニエル艦長は少し困った顔をしていた。今から俺がすることを察しているのだろう。艦長に転載を任せて、俺はGセルフの足元にいるアイーダ姫の元へと向かった。

 

彼女はバツが悪そうな顔をしていた。うむ、自覚はしているようだ。しかし容赦はせん。

 

 

「レイレナード隊長…わたしは…」

 

 

そこでアイーダ姫の声は頬を引っ叩く乾いた音と共に途切れた。叩いたのはもちろん俺だ。

 

 

「隊長!」

 

「貴方は…!」

 

 

カーヒルやルワン、そしてGセルフに乗っていた人質のノレドが驚愕し、俺の後ろにいたベルリが怒気を放った。はっはっは、そりゃまぁ女の子に手をあげたんだからそうもなるだろう。けどこっちも言わなきゃならんことがある。

 

 

「アイーダ様。我々の海賊任務についての決め事は覚えていますね?」

 

「…ッ!ええ、覚えています。一つ、クラウンを含むキャピタルタワー全ての設備に損傷を与えてはならない。一つ、速やかにフォトン・バッテリーを渡さない場合は銃口を向け脅し、それでも応じなかった場合は諦めること。一つ、キャピタル・ガードが出したMSとの戦闘は原則禁止…以上となります」

 

「アイーダ姫、この作戦で今口にしたどれを守り切ることができましたか?」

 

「…っ」

 

 

そうだとも。そもそもの話だ。

 

海賊部隊の目的はクラウンが運搬するフォトン・バッテリーを奪うことだ。武装解除し、戦闘なく奪い取るのが理想。しかし、キャピタル側の抵抗を受けた場合、クラウンや軌道エレベータのパーツやナット、ケーブルを傷つけないために戦闘は原則禁止というルールを決めていた。

 

にも関わらず、このアイーダ姫はビームライフルを打つわ、ビームサーベルを抜くわ…下手すると軌道エレベータが崩壊する危機があったのだ。引っ叩かれるだけでマシだと思って欲しい。これが軍属なら間違いなく軍法会議の後、銃殺が妥当な判断が下されるのだから。

 

 

「ルールはルールを守るからこそ発揮される誓約なのですよ。感情的にルールを曲げた結果、貴方はキャピタル・ガードに囚われ、危うい目に晒されるところでした」

 

「わ、わたしは…」

 

「姫様、フォトン・バッテリーの奪取は多大なる危険と統率力が必要となります。ですので、次の作戦があった場合は姫様は参加を認めません。反論も認めません」

 

「そんな…!」

 

 

この突貫じゃじゃ馬娘め。この期に及んで出ようと思ってたのか。だが、MS部隊の隊長は俺だ。認めるわけにはいかんなぁ。

 

 

「反論は認めないと言いました。今後、姫にはメガファウナの直防衛扱いとなります。ご容赦ください」

 

 

簡潔にアイーダ姫に結論を告げる。すると彼女は目に涙を浮かべて格納庫からメガファウナの艦内へと走って行ってしまった。すると、横にいたカーヒルが申し訳なそうな顔で前に出てきた。

 

 

「隊長…」

 

 

あーうん。わかってるさ。

 

 

「誰かがああ言わないと、次はどうなってるかわかったものじゃないぞ」

 

「…すいません」

 

「意中の女に嫌われたくないだろう?カーヒル。その気持ちだけ受け取っておくさ」

 

「すいません」

 

 

ただ、ただ謝るカーヒルをアイーダの慰め役として送り出す。こう言った時に支えになるのがアイツの役目なのだからしっかり仕事をしてこい。そんなやり取りを見てたベルリが俺のパイロットスーツを叩いた。

 

 

「今の人って…」

 

「カーヒル・セイント大尉。アメリア軍のエースで、アイーダ様の恋人さ」

 

「な、なんじゃとてぇ!?」

 

 

ベルリの素っ頓狂な声が響き渡る中、彼の学友であるノレド・ナグはむすっとした顔をしていて、彼女と共にいたラライアは静かに佇むGセルフの足に抱きついて眠っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

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