白き流星のレコンギスタ   作:紅乃 晴@小説アカ

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第三話 海と空と混乱と

 

 

 

「ベルリ・ゼナムって…軌道エレベータの運行長官の一人息子じゃないですか!!」

 

 

不貞腐れたアイーダ姫をカーヒルに任せた俺は、人質になってもらったベルリたちを預けることになった。彼らは人質なのだから、尋問や拷問は禁じられている。捕虜の扱いについてなんて、アメリアの軍組織にまともなものがあるわけないのだから、こちらの采配で決めるしかないのが実情だ。

 

休憩室にベルリたちを送り届けた後、クルーのノーマルスーツや、パイロットスーツの仕立てを担当するアネットさんから軽食が入ったランチボックスをもらって、俺はメガファウナの艦橋へと上がる。

 

艦橋のドアを潜ったと同時に、先に戻って情報を集めていたドニエル艦長から冒頭のセリフをふっかけられたのだった。

 

 

「まさかそんな大物を人質にするなんて、ラリーさんやりますねぇ」

 

「ギゼラ、茶化すな!冗談言っとる場合じゃないぞ!?」

 

 

迎撃システムを担当するギゼラの茶化しに釘を刺すドニエル艦長だが、それを聞いた俺も寝耳に水だった。まさか最前線で、Gセルフを操縦していたパイロットの少年が、キャピタルの運行長官の一人息子だったとは。

 

 

「おそらく、経路はモニタリングされていますから…アーミィは運行長官の息子を奪還する名目で攻めてきますねぇ、こりゃあ」

 

「すいません、ドニエル艦長。状況が状況だけに…」

 

 

メガファウナの副長の言う通り、人質を盾に逃げたとはいえ、その経路は追跡されているだろう。追っ手を巻く用のミノフスキー粒子の散布濃度も心許ないものだったし、Gセルフに発信機がつけられていたらレーダーの撹乱も無意味になるだろう。

 

俺の独断で人質というカードを作ってしまったのだから。そう謝るとドニエル艦長は帽子のツバをいじりながらため息を吐いた。この人はやってしまったものは仕方ないという人だからなぁ。

 

 

「…人質の利用価値はもうないのなら、いっそフライスコップをやって帰ってもらったらどうです?」

 

「戦いに飢えてるアーミィが止まりますかい。奴らは我が国やゴンドワンのように戦争経験がないんだ。実戦の機会を人質が返されたから辞めますなんて…」

 

「人質を返しても、きっとGセルフとアイーダを引き渡せ!って行ってくるのがオチでしょうなぁ」

 

 

あーそうだろうなぁ、と希望的な意見は所詮、希望的なものだと諦める艦長。アメリアとゴンドワンの戦い、そして月周辺の活発な動きを見てキャピタルもガードからアーミィなんていう組織に形を変えたのだから、実践経験を新しい組織に与えたいと言う思惑もあるのだろう。

 

本当に、アイーダ姫がまんまと捕まってくれなければ、その矛先をゴンドワンの方に向けることもできただろうに。

 

そんなことを言ってもしょうがないが、とわかっているが、あの突貫じゃじゃ馬娘と天才少年を相手にしていれば愚痴の一つや二つは言いたくなるものだった。

 

 

「進行方向ソノママ!艦長ォ!」

 

「まったく!ステア!予定通りだ!各員、荷物はすべてメガファウナに積み込むんだ!いつ戦闘になってもおかしくないんだからな!」

 

「ベルリと少女たちは?」

 

「休憩スペースで隔離してますよ。ベルリって子、頭がいいんですかね?自分たちの素性は語らず、この船の所在を…」

 

 

副長に人質となった彼らの状況を報告していると、キャプテンシートに備わる有線回線の受話器を持っていたドニエル艦長が怒声のような大声を上げた。

 

 

「なにぃ!?クリム中尉が人質をGセルフに乗せてるだとお!?」

 

 

あちゃー、と副長と俺が顔を手で覆って天井を見上げたのはほぼ同時だった。

 

 

「出たよ、天才の悪い癖だ」

 

「今すぐやめさせろぉ!!コクピットにもう乗ってる!?あの大統領のバカ息子め!!」

 

「これは中尉には聞かせられんなぁ」

 

 

他人が思うこと、だいたい他の人もおんなじ事を思っていると言うことが証明された場面だった。受話器を叩きつけるように置いたドニエル艦長は、勢いそのまま命令を発した。

 

 

「ラリー隊長!MSデッキへ!!あのバカが乗り込ませた人質を下ろしてくれ!!」

 

「了解」

 

 

まぁそうしないと不味いですもんね!言われるがままブリッジを後にすると、出た瞬間に副長がレーダーシステムに目を走らせた。

 

 

「っ!ちょいまち!ミノフスキー粒子散布を確認!!敵がおいでなすった!」

 

「クソ!なんてタイミングだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

混乱と無鉄砲さにかき回されるメガファウナ艦内とは違い、クリムに言われるがままGセルフに乗ることになったベルリは、ゆっくりと大気圏内パックでホバリングしながら操縦の感覚を味わっていた。

 

 

「ほんとにこれって、アイーダさんしか操縦出来なかったんだ」

 

 

天才と持て囃されているクリムが、Gセルフを起動した瞬間に苦虫を噛み潰したような表情をしたのできっとそうなのだろう、とベルリはラリーから聞いた言葉を信じられるものだと判断できた。

 

つまりは、あの人は海賊部隊の中でも話がわかる人なのか?こちらを人質にしたとはいえ、基本的に彼の方針は理に適っている。

 

そんな信頼感のようなものがベルリの中で生まれつつあった。

 

 

「よーし、この機体のことわかってきたぞ!レイアウトは違うけど、基本はレクテンや他の機体と同じで…ええ!?何やってるの!?」

 

 

上にあがれば次の指示を出すと言っていたクリムは、少し目を離した隙に自機のモンテーロを引っ張り出して戦闘準備を始めているじゃないか!?

 

一応、人質であるこちらを放っておいて何を考えているだ、とベルリが驚愕しているが、そんなことお構いなしにクリムはモンテーロのコクピットへと上がってしまった。

 

 

「クリム中尉!人質ほったらかして何やってる!!」

 

 

その場面にラリーは間に合った。

 

コクピットハッチを開けたままビームライフルを受け取ったクリムのモンテーロに向かって大声で問いかける。

 

 

「見たらわかるだろ!迎撃準備というやつだよ!」

 

「本気ですかぁ!?」

 

「冗談言ってる場合じゃないだろ!!さっさとGセルフのビームライフルを出すんだ!!」

 

 

まだ敵の数も何も分かってないんだぞ!?それ以前にGセルフにビームライフルを出せとは無茶苦茶だ!大急ぎで他のMSの発進準備をするメカニックのアダム・スミスや、他のクルーを横に、俺はレーザー通信機のマイクを手に取った。

 

 

「ベルリ・ゼナム!まだレーザー通信で聞こえる範囲だな!?その機体に乗ってるんだな!?すぐにメガファウナに戻れ!」

 

「ラリーさんですか?何がどうなってんです!?」

 

「キャピタル・アーミィが攻めてくるんだよ!」

 

「キャピタルが戦争…!?なんで!?」

 

「俺が君たちを人質にしたからだ!すまない!」

 

「謝られてもどうにもなりませんよ!?」

 

 

海岸線上の向こう。敵の光が迫ってくるのが見えた。状況は予想以上に早く動いているらしい。クリムのモンテーロはすでに敵との一戦闘距離となっている様子だ。

 

 

「とにかく君はメガファウナの格納庫の奥に…ってぇ、Gアルケイン!?カーヒル!お前何やってんの!?」

 

 

Gセルフの帰還路を見ようと振り返った先には、ロングビームライフルを持ったGアルケインが今まさに発進しようとしている光景が広がっていた。

 

足元ではパイロットスーツのカーヒルが必死にアルケインを止めようとしている。

 

 

「すいません、隊長!少し目を離した隙に…!姫様!アイーダ!おやめください!!」

 

「自分のやった失敗は自分で取り返さなきゃならないんです!!」

 

「子供の言うようなことを言わないでください!?」

 

 

カーヒルの制止も聞かずに、アルケインはデッキから飛び上がると空中での迎撃姿勢へと入った。はっはっはっ!相変わらず総監の娘と大統領の息子は無茶苦茶しやがるなぁクソが!!

 

 

「来たぞぉ!?」

 

 

誰の声だったのか、メガファウナの先でキャピタルのMSとモンテーロが空中戦をおっ始めた。クリムの放ったビームライフルがキャピタルのMS搬送用のフライトユニットであるダベーに直撃する。

 

ダベーに乗っていた2機のカットシーも翼を展開して飛び立つと、攻めるクリムのモンテーロを迎え撃った。

 

 

「あれはキャピタルのダベーじゃないか!じゃあ、キャピタル・アーミィってのは本気で戦争をしようって言うの!?」

 

 

アイーダのGアルケインも迎撃に入る様子をGセルフに乗るベルリも目撃していた。あんな統率された戦闘行為はキャピタル・ガードではタブーとして禁じられているのに、それをアーミィのカットシーたちは平然とやってしまっている。それもアメリアのかもしれない海賊部隊相手に!

 

 

「母も僕もアーミィなんてものは知らなかったんです!戦争なんて、それはタブー破りですよ!!キャピタル・ガードなんですから…僕が止めてみせます!!」

 

「ベルリ!!ええい、どいつもこいつも!!」

 

 

指示された通りGセルフの装備を用意したアダム・スミスから、ビームライフルとシールドを受け取ったベルリも静止を聞かずに戦闘状態の空へと飛び立ってゆく。

 

思わず俺はレーザー通信機用のマイクを地面に叩きつけた。

 

 

「ルワン!オリバー!カーヒル!各機は出て行ったバカ二人を援護!俺はベルリを止めて、助ける!!」

 

「頼みます、隊長!」

 

「レイレナード機を出せってんだよ!」

 

 

隊のグリモアよりも先に、真っ白な塗装がされたローンズーを出してもらった俺はすぐにコクピットハッチへ上がるケーブルへと飛びついた。

 

 

「アダム・スミス、助かります!ローンズー、ラリー・レイレナード、出るぞ!!」

 

 

 

 

 

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