白き流星のレコンギスタ   作:紅乃 晴@小説アカ

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第四話 カットシー、目の前の現実と想像力

 

 

アメリアとゴンドワンの大陸間戦争。

 

それは、およそ10年にもおよぶ地球の大国同士の戦争だが、開戦当初は旧時代の海上艦隊戦や、航空機、歩兵などの戦闘を主軸とした戦闘が散発的に大陸間の各所で発生していたが、その戦争がもたらした技術発展の力は両国の軍人を増長させるには充分なものとなってしまっていた。

 

特に、宇宙からもたらされたと言われる「ヘルメスの薔薇の設計書」が決定打となった。

 

宇宙世紀時代の技術遺産でもあるそれには高度な技術が記されていて、等しくアメリアとゴンドワンに開示された設計図から、両国は技術開発競争を繰り広げたのだ。

 

その設計図に記された兵器の本質も、真なる性能も知らずに。

 

もたらされた技術による戦闘は、旧時代のものから旧世紀のものへと段階を上げて、アメリアもゴンドワンも、MSやMAでの戦争をするようになっていた。

 

MSやMA、艦艇の建造速度は、旧時代から培ってきた製造産業に強いアメリアに分があったようで、10年におよぶ大陸間戦争はアメリア優勢のまま膠着状態に陥っていた。

 

 

「隊長、本当に宇宙からの脅威というものはあるのでしょうか」

 

 

アメリアが建造した宇宙戦艦は、タブーを危惧したキャピタル側の反発を懸念し、廃棄扱いとなったが、アメリアは極秘裏に海賊部隊を設立していた。

 

大陸間戦争で俺がMS部隊の隊長になってしまったものだから、今や戦友のカーヒルを連れて大気圏内ギリギリの高度へとやってきていたのだ。

 

 

「それを調べるのも、俺たち海賊部隊の役割なんだろうさ」

 

「しかし、天体観測もまたスコード教のアグテックのタブーに含まれます」

 

 

それはそうだろうな、とカーヒルの通信に応える。アメリアもゴンドワンも血眼になって奪い合っているヘルメスの薔薇の設計書だって、観測を禁じられている宇宙からもたらされた物だと言われている。たった一つの設計書で大陸間戦争の様相は大きく変わってしまったのだから、与えられる影響力というのは凄まじいものなのだろう。

 

だが、それを享受しているままではいけないという事もある。

 

 

「カーヒル。考えたことはないか?」

 

「はい?」

 

「ヘルメスの薔薇の設計書も、アメリアとゴンドワンの大陸間戦争も、そもそもアメリアとゴンドワンという大国が出来たのも不可思議じゃないか。世界はスコード教の教えの中、宇宙と地球を繋ぐへその緒からフォトン・バッテリーを受け取って生活をしてきたんだ」

 

 

フォトン・バッテリーひとつあれば、大きな街一つの一ヶ月間の電力を賄うことができるのだから、それを供給されることで世界は不平等な物ではなくなっていた。

 

たしかに、バッテリーを奪い合う争いも以前からあったのだろうが、フォトン・バッテリーを応用する技術力がない以上、奪い合うのは不毛でしかないので、戦争という戦争は起きなかった。

 

にも関わらず、アメリアとゴンドワンという大国が出来上がって、今やMSや船の動力となるバッテリーを奪い合ってる。

 

 

「もし、世界のどこかにいる〝誰か〟が、長らく続いた平和な世界を、旧時代の争いの時代に戻したいと画策しているなら、それを考えつくのは地球人では無理だろ?」

 

「その誰かが宇宙からやってきた…というのですか?」

 

「あくまで憶測だがな。だから、こうやって宇宙を観測するんだろう?」

 

 

そもそも、宇宙からの栄養を地球に送って生き長らえさそうと言うのだ。今の地球のあり方は宇宙という母に抱かれた赤子同然。

 

宇宙にいる〝誰か〟は、その在り方を1000年以上かけて作り上げてきた。それを壊そうと言うのだ。1000年、母に抱かれ続けてきた赤子にそんな胆力があるものかよ。

 

 

「隊長!望遠モニターが光を捉えました!」

 

 

カーヒルの声に、俺は操縦席に備わるコンソールを叩いた。彼の言葉通り、月周辺の宇宙には自然現象とは考えにくい小さな光の天体が映し出されている。それもかなりの数だ。見方を変えれば、敵の宇宙艦隊のようにも思える。

 

 

「データはライブラリに保存しておけよ、カーヒル」

 

 

俺の指示に従い、カーヒルは観測したデータをライブラリに保存してゆく。赤子を宿す母の体から、その赤子を巣立たせようとする誰かがいるのか。

 

たとえそれが、再び地球を滅ぼすほどの宇宙世紀時代の過ちを繰り返すことになったとしても。

 

モニターに映るいくつもの光点を見つめながら、俺は過去に生きた世界の惨状を思い出していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ローンズーで空に上がった段階で、戦闘の火蓋が切って落とされていた。

 

キャピタル側のMSは移動用のサブフライト機に乗って対空でメガファウナのいる空域へと侵入してきている。

 

 

「Gセルフは上に行ったか!?敵は…真下か!クリムニック!!」

 

「こちらもゴンドワンとの戦争で空戦には慣れている!!」

 

 

すでにクリムのモンテーロは、海面スレスレを飛ぶキャピタルのダベーを捉えていた。放たれたビームはダベーの中央に直撃すると、サブフライトシステムから降りたカットシーが襲いくるモンテーロへの迎撃体制をとった。

 

空戦を開始するモンテーロのフォローをルワンたちに任せて、俺は空中でホバリングするGセルフの肩に手を置いた。

 

 

「接触回線!Gセルフ!ベルリ!戻れ!君は俺たちにとって…」

 

「人質なんでしょう!?けど、僕らのいるせいでキャピタル・アーミィが攻めてきてるんですから!」

 

「生意気を言うんじゃない!そう言ったことは俺たちの責任なんだから君が出る必要は…」

 

「ラリーさん!エフラグで来るなら下じゃありませんよ!上から来ます!」

 

 

クリムの空戦を目の当たりにしたベルリは、俺の言葉など聞かずにさらに上空へと舞い上がってゆく。たしかに水面ギリギリでわざわざ飛んでくるキャピタルのMSの動きは陽動にも見えるが…!

 

 

「あいつ、目の前の状況に対応することで手一杯か!オリバー!」

 

「やってますよ!!敵は不恰好ですが連携を使ってきます!」

 

 

カットシーの編隊を開いて取る2機のグリモア。その後ろからアイーダのGアルケインが狙撃を試みているが、放ったビームの光はカットシーとは別の方向へと流れてしまっていた。

 

 

「ビームが当たらない!?」

 

「姫様はビームを撃ちすぎです!下がって!」

 

 

憤るアイーダを庇うように出たカーヒルのグリモア。牽制射撃で相手を下がらせようとしたが、そのライフルは真下から放たれた一閃によって吹き飛ばされた。

 

損傷したライフルを捨て、カーヒルが下へと視線を向けるとそこにはダベーを盾にするように下からビームライフルを構えるカットシーの姿があった。

 

 

『舐めてもらっちゃあ困るのよ!』

 

「ちぃ…!小細工を!だが…遅いな!」

 

 

出てきたカットシーの翼を備わるジャベリンで切り落としたクリム。姿勢を維持できなくなったカットシーは水面へと叩きつけられて爆発した。

 

 

『くそ、堕とされたのか!?あれはGセルフと…俺を落とした機体か!』

 

 

カットシーを操るデレンセン。視線の先には雲の合間を縫って現れたアーミィの部隊を迎え撃とうとしているGセルフとローンズーがいた。

 

ローンズーは、Gセルフが奪取される前にデレンセンが乗るカットシーを踏みつけて叩き落とした機体であった。

 

 

「こいつ、Gセルフを狙って…ベルリ!?」

 

 

迎撃しようとビームライフルを構えたと同時、ベルリが乗るGセルフは武器と盾を持つ両の手を大きく広げてカットシー部隊の前に出たのだ。Gセルフの背後には無防備なメガファウナがある。

 

 

『Gセルフ、投降するのか!?』

 

「自分はキャピタル・ガードのベルリ・ゼナムです!攻撃をしないでください!船にはラライアとノレドが乗ってるんです!」

 

「お前!何をやってるんだ!戦闘を俺たちはしてるんだぞ!?」

 

『あのポーズは降参の合図なのか!?投降するのか、Gセルフとあの機体は!』

 

 

気がつけば、上がってきたカットシー部隊にも取り囲まれていた。ローンズーの操縦桿を握り締めながら思考を巡らせる。

 

ここで俺が撃てば、無防備なGセルフがやられる。だが、奴らはGセルフを奪還して大人しく帰る保証もない…どうする!!

 

 

『投降するのか、Gセルフ!我々と共に来てくれるのだな!』

 

 

迷いのある思考を繰り返している間にも、デレンセンが乗るカットシーがライフルの銃口をGセルフのコクピットへ突き付けながら接触回線をつなげてきた。聞き覚えのある声を聞いて、ベルリは顔を綻ばせる。

 

 

「その声は…デレンセン教官殿ですね!僕、ベル…」

 

 

だが、その通信は長くは続かなかった。Gセルフと接触するカットシーを引き裂くように放たれたビーム。上がってくるのはクリムのモンテーロと、ルワンのグリモアだ。

 

 

「やりがやったな、天才ぼっちゃんがぁ!!」

 

 

Gセルフと同じように突きつけられていたカットシーのビームライフルを蹴り飛ばして、俺はスラスターの出力を最大限に上げた。

 

下手を打てばコクピットごと焼き殺されていたと言うのに、この天才パイロットは向こう見ず過ぎる!

 

 

「迂闊だな、素人軍のパイロットが!!」

 

『チィ…ッ!』

 

「なっ、動きが早い!?」

 

 

奇襲したクリムの動きを、さらに早い速度で掻い潜ったデレンセンは、速度を殺さないままモンテーロの背後へと回り込み、ビームサーベルを構えた。

 

 

『チェエェエストォぉおおーー!!!!』

 

 

咄嗟にクリムも直撃は避けるが、ジャベリンを持つマニピュレーターがカットシーのビームサーベルによって切り落とされた。

 

モンテーロは、空戦能力に秀でているがレスポンスでは小回りが効かない。その隙を突かれた。対して、局地型の機動戦を想定したローンズーは増設されたスラスターで小回りが効く。

 

 

「キャピタル・アーミィは本気で戦争をしようっていうのかぁーー!!」

 

「ベルリ!逃げろ!お前は我々の軍兵じゃないんだから!!」

 

 

Gセルフに襲いくるカットシーをビームサーベルで切り払う。人質である以上、ベルリを無用な戦争に引き込むつもりはない。

 

Gセルフを守るように立ち塞がる俺のローンズーに、デレンセンのカットシーが迫った。

 

 

『邪魔をするのか!!』

 

「そっちが邪魔なんだろうがぁ!!」

 

 

放たれたビームライフルの一撃をビームサーベルで切り払う。背後からくる別のカットシーの警戒も怠らない。肩に備わるスラスターを吹かして、その場でくるりと反転しながら背後から奇襲をかけてきたカットシーの両足をビームサーベルで切り落とす。

 

 

『うわぁああ!?カットシーの足が!?』

 

『ロッシュー!!』

 

「爆発はさせない!敵にとっての足枷を増やす!」

 

 

残りの敵は!あたりの索敵に気をやると、事態は最悪だった。デレンセン率いるカットシーの編隊が無防備なベルリのGセルフを三方向からの取り囲んでいたのだ。

 

 

『Gセルフ!投降しないのならば!!ここで墜とす!!』

 

「ベルリ!?」

 

「囲まれた!?三方向からの同時攻撃!直撃する…!!」

 

 

ビームライフルとカットシーの脚部から出るビームサーベルに取り囲まれたベルリは、その攻撃が躱せないと覚悟した。コクピットごと八つ裂きにされるイメージが脳内に走ったと同時に、ベルリは信じる神に向かって叫んだ。

 

 

「スコード!!」

 

 

その防衛本能に応じたのか、Gセルフを守るフォトン装甲の表面から全周囲のフォトン・シールドが展開された。デレンセンの構えていたビームライフルはひしゃげ、突きつけられていたビームサーベルも出力負けをしている。

 

三方向からの取り囲んでいたはずのカットシーは文字通り、Gセルフから吹き飛ばされたのだ。

 

 

『この出力は…!?ええい…あのGセルフの性能は何だったんだ!?ビームサーベルの何十倍もの威力があったぞ…!』

 

 

Gセルフの予想外のシステムに驚きを隠せないデレンセンだったが、その驚きのお陰で戦闘によって高揚していた気分がいくらか落ち着いたような気がした。

 

あたりを見渡すと、奇襲を仕掛けたはずの自分の部隊も手ひどくやられている有り様が見えた。

 

 

『損失は三機、行動限界機が四機か…撤退する!!』

 

 

夕日の方向へと撤退してゆくアーミィのカットシー。戦闘距離を脱した機体の中で、デレンセンは拳をコクピットのコンソールへと叩きつけた。

 

 

『戦友を失った上に、ベルリ生徒とノレド・ナグも救えなかったとは…なんとも情けない…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「退いてくれたの…?」

 

 

シールドが中破したGセルフ。鮮やかに引いてゆくカットシーの後ろ姿を見つめながら深く息を吐いたベルリに、肩が触れられる振動が伝わった。

 

 

「なんとかな。Gセルフ、聞こえてるな?」

 

「あ、はい!ラリーさん…」

 

「帰投する。あと、君を拘束させてもらうぞ」

 

「ええ!?なぜなんです!?」

 

「君がGセルフで戦ったからだ。人質である君が、だ」

 

 

Gセルフは確かに特別な機体だ。アイーダ姫やキャピタル・ガードのベルリしか乗れないという仕様がある。だが、それが今回の戦闘の理由になる事などないのだ。驚くベルリにはっきりと伝える。

 

 

「あの天才に唆されたことはわかる。だが、いくら状況が流動的であったとしても、君は俺の言葉に従ってメガファウナに帰投するべきだった」

 

「そんなこと!」

 

「君が降参するポーズをメガファウナ上空で取った意味がわからないのか!?」

 

 

ベルリの反論をすぐさま否定する。あの状況下で、あんな真似をするのは迷惑以外の何物でも無かったからだ。

 

 

「今回は無事で済んだだろうさ!!だが、君がアーミィの人質になった場合、今度危険に晒されるのはメガファウナや我々の部隊だったんだぞ!」

 

「デレンセン教官殿はそんな卑怯な真似をしませんよ!!」

 

「君がアーミィのパイロットとどういう関係だったのかは問わない。だが、戦場にいる以上、宇宙のように目の前の状況に流されるように対応していては…誰かが死ぬぞ」

 

 

そこまで言って、ようやくベルリは自分の置かれた状況を理解したようだった。これはキャピタル・ガードで行われている実地訓練や、クラウンの補修や点検とは全く異なる状況だ。なにせ、乗ってる機体の引き金を引けば誰かが死ぬと言う事実が付き纏ってくるのだから。

 

 

「僕は…誰かを殺したくなんて…」

 

「そう思うなら、君はMSに乗って戦うべき人間ではないんだ。戦場で引き金を引く以上、その重さをわからないなら…それは殺人者と変わりないのだからな」

 

「引き金を引く…重さ…」

 

 

この世界の引き金は、あまりにも軽すぎる。誰もがMSに乗れる環境、フォトン・バッテリーによる繋がれた繁栄の影響なのか。それともこれが瞬間的な洞察力と判断力が必要な宇宙での生き方に順応した生き方なのだろうか。

 

目の前の状況を真っ先に処理するベルリの生き方もひとつの在り方なのだろうが、それで殺してしまって後悔しても遅いのだ。

 

世界がどうなろうと、技術がどうなろうと、価値観や感じ方がどうなろうと、人を殺すと言う引き金の重さはどの時代も変わらないのだから。

 

 

「隊長、どこかのバカたちにも聞かせたい言葉だな」

 

 

メガファウナに着艦すると同時に、ドニエル艦長が個人回線でそう言ってきた。ミノフスキー粒子も薄くなったので、レーザー回線で聞き耳を立てていたらしい。

 

 

「茶化さないでくださいよ、ドニエル艦長。クリム中尉も、アイーダ姫も…まったく、ままならないものです」

 

「各機収容後、機体のチェックだ!敵が諦めてくれた保証はないのだからな!」

 

 

ラリーのローンズーに誘導される形でメガファウナへと着艦したGセルフの中で、ベルリは今日戦ったことや、ビクローブや、軌道エレベータでの戦いを思い返す。

 

今まで、ほんの少し運が良かっただけで、その事実を突きつけられることもなくて。

 

顔を手で覆って、小さくベルリは呟いた。

 

 

「僕は…誰かを殺す覚悟なんて…あるのか…?」

 

 

その後、Gセルフから降りたベルリを迎えたラリーによって彼は人質という名実通り、メガファウナに拘束されることになった。

 

 

 

 

 




Gのレコンギスタは設定を並べただけと評されるアニメだけど、個人的に想像力を掻き立てるというメッセージが籠ったアニメだと思います。この物語は、受け取ったインプットを自分なりに解釈して出した話でもありますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。
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