白き流星のレコンギスタ   作:紅乃 晴@小説アカ

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第五話 エルフ・ブルックの脅威(1)

 

 

 

キャピタル・アーミィの襲撃から一夜明けて、アメリアの諜報部隊であるメガファウナには密命が届けられていた。

 

なんでも、この極秘任務はアメリア軍の総監であるグシオン・スルガンが提案した作戦の様で、その準備は夜明け前から目まぐるしい速度で進められていた。

 

 

「メガファウナは本国からの指令で艦隊作戦のための陽動行動をするんだ!だからさっさと荷物を積み込みなさいって言ってるんでしょうが!」

 

 

ドニエル艦長の声が艦内に響くのも無理はなかった。

 

食堂を兼ねた休憩室に閉じ込められっぱなしだったことに抗議した結果、機密ブロック以外の艦内の行き来を許されたノレドたちは、忙しなく搬入されてくるコンテナの様子をハンガーの端から眺めていた。

 

 

「あっちこっちコンテナいっぱい」

 

《ハコビコミ!ハコビコミ!》

 

 

環境チェック用ロボットであるノベルが電子音声でそう繰り返す。コンテナの様子を見てたラライアが走り出そうとしたので、ノレドは彼女の首根っこを掴んで静止させた。

 

 

「ラライアは大人しくするの!」

 

 

そんなやりとりを横目に、搬入チェックを行うアダム・スミスへ、メカニックであるハッパが話しかけた。

 

 

「Gセルフ用のバックパックと、各予備品はこちらで最後です!」

 

「ラージャ!それにしてもひっくり返してみればあれやこれやと作ったものだ」

 

「それだけヘルメスの薔薇の設計書ってのは凄いものなんでしょう?」

 

 

運び込まれてくる大型のバックパックはアメリアのカリブ海洋研究所で組み上げられたものだ。設計図にあったから作ってみたはよかったものの、グリモアやアルケイン、モンテーロなどには取り付かないバックパックも数多くある。

 

まだテストは出来ていないが、メカニックであるハッパがメガファウナに乗り込んでいるのだから、そのテストは艦内で行われることになるだろう。

 

 

「凄いのは、それを作った誰かさんが、だな」

 

 

ヘルメスの薔薇の設計書とは恐れ入るよ、とアダム・スミスはつぶやく。あの技術書のおかげで10年前では考えられなかったほどに戦争の様相は変わっていた。今はどちらがより多くの設計データを持っているのが戦局を左右するとまで言われてあるほどに。

 

どんどん開発される技術についていくこっちの気持ちも考えて欲しいものだと思わず愚痴を言いたくなる気分だった。

 

 

「ところで、あの人たちはいつまで走らされてるんですかねぇ…」

 

 

ハッパに言われて、アダム・スミスもハンガーの広いスペースを見た。そこでは複数人のクルーが同じ場所をぐるぐると走らされている光景が広がっていた。

 

 

「そろそろMSの移動も始まるから、キリがいいところで隊長が辞めさせるさ」

 

 

あの温厚な隊長が般若の顔をして天才と姫様を扱いてるんだ。変に関わるとこっちまで巻き込まれるぞ。それだけ言って自分の仕事に戻るアダム・スミスを見て、ハッパも残りのバックパックの搬入作業へと戻ってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…この…天才に…走らせるとは…まっ…たく…!」

 

「ハァ…ハァ…なんでこんなに走らなきゃならないのですかぁー!!」

 

 

何周目に突入したのかなんてぶっちゃけ数えてない。数なんてすぐに変わる。だから意味がない。

 

昨日までの余裕たっぷりな顔を青くしながら、それでも重い体を引きずって走るクリムとアイーダ姫。うむうむ、だいぶこたえている様だ。

 

 

「姫様は勝手に出撃した分で、クリム中尉は人質で勝手にMSの動作テストをしたからでしょうが!」

 

「ペースが落ちてるなんて愉快な事してるなぁ!そんだけペース落として余裕があるなら、あと十周は走られるだろ!さぁ、走れ走れ!」

 

 

ドニエル艦長の的確な指摘に便乗して、さらに周回数を上乗せする。最初は艦内ハンガー百周だったが、ペースが落ちれば追加、泣き言を言えば追加、不満を言えば追加と、すでに数字は元の百周から大きく変わって何周目か覚えていない。

 

まぁ百周走ろうがなにしようが、二人が反省の色を見せない限り延々と続く地獄のマラソンコースなのだがな!

 

ついでに体力と持久力も養わせるためにパイロットスーツ着用を言いつけてあるので、二人は完全にグロッキー状態であった。

 

 

「こんな…屈辱…は…ぜぇ…ぜぇ…!」

 

「パイロットスーツを着て…走るなんて…正気じゃありません…!」

 

「罰則も兼ねてるんだ、当たり前だろ!それに宇宙ではその服を着てMSを操縦するんだ!右に左!上と下からGがかかり放題なんだから、持久力と頑丈さを身に付けておかないと身が持たないんだからな!わかったらあと十周加算だ!」

 

 

さらに周回数を増やされて絶望顔をする二人を蹴り上げる様に怒鳴りつける。やけになったのか、クリムとアイーダ姫はペースを上げてハンガーを駆けた。

 

 

「くっそぉおおーー!!」

 

「うわぁあーーー!!」

 

 

そんな二人を追い抜くのは、カーヒルやルワン、オリバーのMS部隊のパイロットたち。そしてその後方には3人と同じように動きやすい格好をしたベルリが追従していた。

 

 

「で…なんで僕も走らされてるんですか!?」

 

 

起き抜けに促されるままカーヒルたちと共に走っていたベルリが、ここにきてようやく今の状況にツッコミをいれた。現役のパイロットであるカーヒルたちに遅れずに着いて来れるベルリの体力に驚くが、ここまで何も疑問に思わなかった彼の天然ぶりにも驚かされる。

 

 

「パイロットスーツ着用してないだけマシじゃないかな?」

 

「そういう意味じゃありませんよ!?」

 

 

訂正、カーヒルも真面目な風にして割と天然なのかもしれない。それを聞いてルワンとオリバーが吹き出して笑った。

 

 

「隊長が言ってただろう?君を拘束するって。こんだけメガファウナがとっ散らかってるんだから、パイロット組とまとめて面倒見てる方が効率がいいのさ」

 

「だからって、走らせることないじゃないですか!?」

 

「君もキャピタル・ガードの候補生なのだろう?なら走って持久力を養うのは悪い事じゃないさ。宇宙じゃ考えられないくらいスタミナとカロリーを消費するんだから」

 

 

体力作りと筋肉をつけるのはキャピタル・ガードの訓練でも必須科目だった。とくに地上にいるときの体育教義のほとんどは筋トレが締めている。軍人もそこは変わらないのか、とベルリが思っていると一気にペースダウンしたクリムとアイーダが前方から近づいてきた。

 

 

「カーヒル…私もう…だめ…」

 

「頑張ってください、姫様ー」

 

「走らないとまた追加されますよー」

 

「ファイトです、姫様」

 

 

途切れ気味で疲労困憊といった様子のアイーダに、カーヒルたちの心のこもってない応援メッセージを送って通り過ぎてゆく。実に三十五周目の周回遅れだ。通り過ぎたところでクリムが倒れた。あれは死んだのだろうか…。

 

 

「助けないんですか?」

 

 

バテバテのアイーダを横目に見ながら、ベルリは前を走るカーヒルにそう問いかけた。カーヒルもベルリが言いたげなことを何となく察する。だが、自ら虎の尾を踏みにいく馬鹿な真似はしなかった。

 

 

「助けたら、もれなくこちらもパイロットスーツに標準備品担がされて走らされるぞ?」

 

 

あの隊長が怒り浸透な顔でアイーダとクリムにペナルティを課せたのだ。たしかにアルケインに乗りこんだ彼女を止められなかった自分にも落ち度はあるが、それで庇って許してくれるほどウチのMS部隊の隊長は甘くはなかった。

 

 

「けど、カーヒル大尉はアイーダさんの彼氏さん、なんでしょう!?」

 

「なんだよ、ベルリ。お前惚れてんのか?」

 

「ほ、そんなんじゃありませんよ!?」

 

 

ルワンから言われて、ドキリと肩を振るわせるベルリ。その様子を見ていてもルワンの指摘は図星だなとわかった。襲ってきた海賊娘に一目惚れとは…そう思うカーヒルだが、もし自分がベルリの立場だったら惚れ直す自信があった。

 

 

「こらぁ!そこのパイロット組!ちんたら走って喋ってるとパイロットスーツ着させるぞ!!」

 

「 「 「 「すんません!!」 」 」 」

 

 

ラリーの一喝で締められたパイロット組とベルリも一心不乱にランニングを再開する。

 

その後、アダム・スミスからの苦情もあってパイロットスーツのフルマラソンは終わりを迎えるのだったが、クリムとアイーダはまさに打ち上げられた魚のような有様になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

キャピタル・テリトリーであるビクローブでは、アーミィの新型機配備による簡略的な式典が催されていた。

 

といっても、クラウンで宇宙から下ろされてきた機体が発進する様子でしかないのだが、アーミィに投資をする政治家たちに対するパフォーマンスも必要な要素でもあった。

 

 

「マスク大尉だな」

 

「よくもまぁ、新型のエルフ・ブルックを出してきたものだ」

 

 

新型機「エルフ・ブルック」。アーミィが建造したエルフ・ブルの正式量産型であり、コストは高く付くがレクテンを武装改修したレックスノーや、カットシーとは異なり変形機構による単独航行に加え、高い火力を誇る機体と言える。

 

その1号機のパイロットに選ばれたのが、調査部のクンパ・ルシータ大佐が推薦した「マスク」という通り名で呼ばれる人物だった。名の通り、顔の大部分をマスクで隠すという異様な出立ちではあるが、パイロットととしての成績は優秀だと言われている。

 

 

「あのマスクは?」

 

「調査部が開発した補助ユニットだとか。パイロットの操縦の補助もしてくれるそうですよ」

 

 

その様子を見ていたデレンセンは訝しげにマスクの様子を見つめる。たしかにあの機体の雛形となったエルフ・ブルのメインパイロットを務めているのはデレンセン本人であるが、そのパイロットを差し置いて、あの奇天烈な出立ちのパイロットを選ぶとは。

 

 

(クンパ大佐がああは言ってはいたが…果たしてどうなることやら)

 

 

本当なら変わって雪辱戦を行いたいところではあるが、デレンセン自身も軌道エレベータにてアンダーナットに向かわなければならない。戦力拡充のためにテストベットであるエルフ・ブルを受領するためだ。

 

 

「失礼、デレンセン大尉」

 

 

ふと呼びかけられて顔を向けると、そこには渦中の人物がのんびりとした様子で立っていた。

 

クンパ・ルシータ。

 

キャピタル・ガード調査部の大佐であり、キャピタルを代表し地球上の各国で禁忌が守られているかを調査・助言する部門の長だ。

 

だが、その裏ではアメリアの動静を察知し、「キャピタル・アーミィ」を創設した影の主導者とも噂させれている。

 

「ヘルメスの薔薇の設計図」を元に新型MSなどの製造を進めてはいるが、平時は敬虔なスコード信者かつ温厚な紳士で、誰に対しても礼を尽くす。

 

デレンセンからの評価は「なんとも胡散臭い人間」であった。

 

 

「あの子は使えるのですか?宇宙から降ってきたという」

 

「ええ、おそらくは」

 

 

デレンセンの問いかけに、クンパ大佐はやんわりと答える。マスク大尉のエルフ・ブルックは1号機。その隣には組み上がったばかりの2号機が発進準備を整えていた。

 

乗り込むパイロットもまた、クンパ大佐が口添えした人間である。それもパイロットの出自は大佐自ら機密扱いとしているのだ。

 

 

(あの存在が、惰弱な地球人や世界に変化をもたらしてくれることを祈るか)

 

 

内心でそうつぶやくクンパ大佐の視線の先では、長距離航続を目的とした補助スラスターが接続されたエルフ・ブルックが今まさに飛び立とうとしている光景があった。

 

 

「マスク大尉、発進どうぞ!」

 

 

マスクの操るエルフ・ブルックが飛び立つ。それに続くように2号機がスラスターを吹かして大空へと飛び立った。

 

コクピットの中で、彼女は小さくつぶやく。

 

 

「この感覚…どこか知ってる。私は知ってるのか?」

 

 

二機のエルフ・ブルックとカットシーの編隊が北上してカリブ海を目指す。戦いの時はすぐ近くに迫りつつあった。

 

 

 

 

 

 

デレンセン教官の今後について

  • 原作通りベルリの手によって戦死
  • 生き残るがアーミィとして敵に
  • 生き残ってメガファウナにくる
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