白き流星のレコンギスタ   作:紅乃 晴@小説アカ

9 / 22
第六話 エルフ・ブルックの脅威(2)

 

 

 

スコード教の法皇に謁見していたウィルミット・ゼナム長官は、ビクローブにある地上最大の教会から外へ出て息をついていた。

 

はるか空へと伸びる軌道エレベータ。その運行の全てを任されている彼女には、長年クラウンの安全と運行時間を遵守してきた誇りとプライドがあった。

 

そしてなにより、彼女も熱心なスコード教の信者であり、エレベータの管理と運営を守ることで人類の平和と繁栄に貢献していると信じていた。

 

故に、黄金色のクラウンを緑と黒のアーミィカラーに染め上げられ、軍事的な目的のために貸切で運営されていることが我慢ならなかった。

 

「法皇はタブーは守られていると言ってはいるものの…私のクラウンはアーミィカラーに塗り上げられているんだぞ」

 

 

そもそもキャピタル・アーミィがタブーを破っているじゃないか!ウィルミットから見ればアメリアもゴンドワンも、そして新設されたキャピタル・アーミィも、タブー破りをしているようにしか映らない。

 

ウィルミットがクラウンへ乗り込むと、簡易的な式典の場に出席していたキャピタル・ガードの調査部であるクンパ大佐と、アーミィのジュガン司令が最上列のクラウンに乗船しているのが見えた。

 

 

「大佐には、前世紀の技術資料であるヘルメスの薔薇の設計書を集めてもらうことになりますな」

 

「タブー破りを調査部にしろと言うならば、予算やスタッフはこれまでの数倍は必要となりますな」

 

「そういうことでキャピタル・ガードから人員を引き抜くことはやめていただきたい」

 

 

二人の間に割って入るようにウィルミットはそう言った。ただでさえ、クラウンの運行やフォトン・バッテリーの搬送、軌道エレベータの管理、点検もあるというのに、さらに人員を引き抜かれてはエレベータの運行に支障が出るレベルだ。

 

それに、半月後には年に一度のフォトン・バッテリーを宇宙から運搬する「カシーバ・ミコシ」の降臨祭があるのだ。スコード教の御神体である船が軌道エレベータの最上ナットである「ザンクトポルト」に入ってくるのだから、その準備をするのにも人手は必要だ。

 

 

「息子さんを救出することでアーミィは必死なのですよ」

 

 

そうクンパ大佐が釘を刺してくる。そうだ、現に今アーミィが動く目的としているのが、海賊船の姫と一緒に人質として連れて行かれたことが原因でもある。

 

女手一つで育ててきた息子は並外れた洞察力と判断力、そして適応力がある。いくら海賊とは言え、人質を海に投げ捨ててサメの餌になどするとは…そこまで野蛮ではないはずだ。

 

しかし、そう言い聞かせても、ウィルミットにとってベルリという息子はかけがえのない存在だった。

 

 

(あんなものを飛ばすのだから。アーミィはやはりタブーを破ってまで戦争を始める気なのかしら)

 

 

クラウンの目と鼻の先を飛んでゆくダベーやカットシー部隊を眺めながらぼんやりと思う。

 

さっき飛び立った新型のMSも、長官である自分ですら知らされていなかった機体だ。あんなものを作って戦いをしようと言うのだから、ウィルミットがアーミィに不信感を抱くのは必然だった。

 

 

(あの機体が飛んでいった先に…ベルリがいる。なのに、私は何も出来ないなんて)

 

 

ウィルミットにとって、たしかにクラウンの運行や管理はスコード教の信者としての使命ではあったが、それ以前に一人の母親として、息子の安否を気遣う女性なのでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラリーさん!宇宙からの脅威って一体なんなんです?」

 

 

アメリアの艦隊から送られてきた物資の受け取り準備を進めていると、突然ベルリがそんなことを問いかけてきた。

 

すぐ後ろにいるアイーダに目をやると気まずそうに視線を逸らした。

 

 

「クリム中尉やアイーダ姫に聞かなかったのか?」

 

「海賊部隊に入れば教えてやるって言われました」

 

 

天才と姫さまらしいな。ベルリと会話を続けながら、搬入されたコンテナに固定用ワイヤーを張り巡らせてゆく。

 

これから弾道飛行をしようというのだから、重力は地上の五割程度でなる。重さ1トン以上もあるコンテナが軽々と動くのだ。人が挟まれて死なないように固定をする必要があった。

 

 

「豪胆だな。君はそれを知ってどうしたんだ?」

 

「だって気になるじゃないですかぁ!」

 

 

固定フックにワイヤーを通してテコの原理でワイヤーを張らせる。コンテナの固定具合を確認し終えてから俺は興奮するような表情をしているベルリと向き合った。まったく、そんな顔をしながら誘拐した相手を見るんじゃないよ。

 

 

「あのなぁ、好奇心は猫を殺すとも言うぞ。キャピタル・ガードと言い張るなら、欲に手を出さずに大人しく人質をやってろ」

 

「そう言って連れ出したのは大尉じゃないですか」

 

 

俺がいつお前を連れ出したってんだ。あぁ、誘拐の時か。けどGセルフが動かせるからってモルモットみたいに機体に乗せてMS戦をさせたりはしないからな。ニコニコ笑うベルリ相手にため息をつくと、補給艦のスタッフがコンテナを下ろしながら大声で問いかけてきた。

 

 

「これどこに置きますー!?」

 

「それは6番コンテナだ!」

 

「手伝います!」

 

 

固定用ワイヤーを担ぐとベルリが申し出てきた。Gセルフはもちろん、ほかのMSにもベルリ一人では触らせないようにするという実質監視状態ではあるが、ベルリ本人のラフさ加減でいまいち人質とかいう緊張感が感じられない。

 

 

「いいからお前は…」

 

「人質でも役に立つことはあるんですから」

 

 

ワイヤー固定くらいキャピタルの授業では当たり前なんですよ、そう言ってベルリは俺が担いでいたワイヤー固定具一式を奪い取ると、コンテナを搬入しているスタッフの場所へと走って行ってしまった。

 

 

「まったく…」

 

 

ベルリ・ゼナムという少年は何とも不思議な子供だった。敵や味方といった垣根を感じさせず、誰にでも興味を示し、誰とでも仲良くできる…いわゆる、友達100人作れそうなタイプといった感じだ。

 

人というものは何かしろ領域というものがあって、普通なら踏み込まない。

 

だが、ベルリは人の領域を構わずに踏み込むし、逆に踏み込まれても柔軟に対応できてしまう。それが彼の強みであり、脆さでもあり、弱みにもなりかねない。そんな危うさがあった。

 

 

「補給艦は来るし、新型機のMSも来るし…どう見ても軍隊なんでしょ?」

 

 

一人でそんなことを考えていたら、ハンガーからMSデッキへとやってきた少女が話しかけてくる。たしか、彼女はベルリと共にきた学友のノレド・ナグだ。

 

 

「そう見えるなら、そうなのかもな」

 

 

彼女の探るような言い草を適当にあしらうように答えるが、途端にノレドの表情が険しくなった。

 

 

「そういう言い方は!」

 

「目に映る全ての真実を誰かから教えてもらえると思わないことだ。だが、君の直感はアテになると俺は思うよ」

 

 

キョトンとするノレドを横目に、さっさと他の搬入準備を進めてゆく。ある意味、今の言葉が答えなようなものか、と考えながら予備のワイヤーとシートを抱えて他のコンテナの固定作業に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「クリム中尉は、軌道エレベータの運行長官の息子がトワサンガの脅威を知らないと本気で思ってます?」

 

「クラウンの時刻表しか頭にない連中ですからね」

 

「トワサンガって、フォトン・バッテリーを宇宙から地球に配給するための、スコード教の神聖な場所なんですよね」

 

 

コンテナの裏にわざわざ隠れて言葉を交わすクリムとアイーダは、ギョッとした様子で自分たちが隠れているコンテナの上を見上げた。

 

そこではちょうどベルリが固定用のワイヤーを通す作業をしていて、彼はワイヤーを突っ張らせる工具を腰にぶら下げたまま、スルスルとコンテナの下へと降りてくる。

 

 

「それを信じてるんですか?キャピタル・ガードの人たちは」

 

「Gセルフがトワサンガで建造されたMSだとしたら、君はどう考えるのだ?」

 

 

呆れたような目をするアイーダだが、クリムは聞かれた以上、開き直ったようにキャピタル・ガードであるベルリに問いかける。だが、ベルリが答える前に、偉そうにベルリを見ていたクリムの頭にゲンコツが降り注いだ。

 

「あのなぁ、そう言ったことは話しちゃダメだろ」

 

「レイレナード隊長」

 

 

頭に悶えるクリムにため息をつきながら、他の固定作業を終わらせたラリーはベルリがやりかけていたコンテナの固定を再開する。慌ててベルリもラリーの補佐に入った。

 

 

「天才のこの私を殴るとは…」

 

「階級は俺の方が上ですよ、中尉殿。それとも機密漏洩で今度はパイロットスーツで水泳でもさせましょうか?」

 

 

語気を強めた抗議も、更なる圧力で封殺される。隣にいたアイーダもパイロットスーツフルマラソンの記憶を思い出して顔を青ざめさせていた。あんなに辛かったことを今度は水泳をするなんて…やったら死にます。

 

顔にそう書いてある二人を見て、ベルリは少し面白いな、と思うのだった。

 

 

「…トワサンガで建造されたMSだということを、ラライアが証言してくれれば歴とした証明になるのですよ」

 

「Gセルフを口実に宇宙戦争のきっかけを作るってか。まだ正式な宇宙戦すらやったことない軍に」

 

 

まるで小馬鹿にするような言い方をするラリーの言い方にクリムは余計ムキになった。

 

ラリー・レイレナード。彼の出自はクリムニックも知るところだ。

 

旧世界なのか、異世界なのか、同じMSを駆るパイロットとして段違いの経験を持つ故の発言だろうが、グシオン総監から目をかけられているからといってアメリア軍を馬鹿にするような発言は見過ごすわけにはいかない。

 

 

「貴方もアメリアの軍人なのでしょう?それなら宇宙からの脅威と戦う覚悟もあるはずです」

 

「その覚悟とやらに無関係なキャピタル・ガードの候補生を巻き込むなと言ってるんだ」

 

 

無論、ラリーとしてもアメリアという軍属に属する以上、軍人として戦わなくてはならない場面で臆することはない。そこがアメリアが経験しない宇宙規模の戦争であったもしても。

 

果たさなければならない使命を果たし、生きて伸びることが今も昔も変わらない信念だ。

 

しかし、そこに無関係な人質まで巻き込もうとするクリムの向こう見ずさをラリーは指摘していたのだ。未来のアメリアを担う人間がしていい行動ではないと諌める。

 

それに反発するのが若さゆえというものもあるのだろうが、好き勝手を許せば規律もへったくれもないのだ。

 

 

「中尉、この受け取り表にサインを」

 

 

剣呑だった二人の空気をぶった切ったのは補給艦の護衛に着いてきていたアメリアのパイロット、ミック・ジャックだった。データ端末をクリムの方へ差し出してから、ラリーの方を一瞥する。

 

諌めるのが上官の役目なら、仲裁に入るのも同僚の務めというわけだ。

 

 

「ご苦労だな、ミック・ジャック。今日もまた違うMSじゃないか」

 

「あぁ、ヘカテーですよ。見た目と違って取り回しのいい機体です。では、私は艦隊に戻ります」

 

 

爽快に現れて、爽快と去ってゆく彼女を見送りながら、ラリーは新型機であるヘカテーを見上げた。機体のスラスターバランスを見るからには大気圏内用ではなく、宙域対応型に見える。おそらく、これから始まる軌道上の作戦に向けた機体の準備が本国では進められているのだろう。

 

 

《本艦はこれより積み上げ作業を中止する》

 

 

ラリーの思ったことを裏付けるように、出撃準備を進めていたメガファウナに急遽発進命令が降った。搬入物資のチェックをしていた副長が文句を言いながら応答していると、ヘカテーも急いで補給艦へと戻っていく。

 

 

「えぇ!?Gセルフのそれ、出したままなんですか?!」

 

 

艦橋に上がるためにハンガーへと入ったところで、ベルリはGセルフの背面から迫り出しているコア・ファイターを見て思わず声を上げた。色々見なきゃならんことがあるの!とハッパもコア・ファイターの部品やコンソールを弄っている。

 

Gセルフは現状、ベルリとアイーダ姫しか触れたない特殊な機体だ。人質として、MSに乗せて外に出すわけにはいかないが特殊な機体の技術協力としてベルリに協力はしてもらっていた。もちろん、ラリーの監視と立ち合いの元で。

 

 

 

「この警報はなんです?」

 

「この船が大気圏のギリギリを弾道飛行する予定が繰り上がったのさ。こっちは宇宙艦隊の囮をやることになるのだからな」

 

 

艦橋に直結する艦内のエレベーターに乗りこみながら、ベルリが言った言葉にラリーがぶっきらぼうに答えた。搬入された物資の固定は早めに済ましてあるから大丈夫だが、MSの調整やメンテナンスはまだ追いついていない状況だ。

 

 

「この船、やっぱり軍隊の船なんですね」

 

「ベルリ君。君はアメリア軍に入隊するつもりはないか?」

 

「中尉の位をくれるなら考えますよ」

 

「それだと私と同じだッ」

 

「弱いものいじめされるのは嫌ですからね。あ、ラリー隊長の部下なら良いですよ」

 

 

そう言ってベルリはにっこりとラリーの方を見て微笑む。対するラリーはうんざりした様子で顔を手で覆って天井を仰いでいた。

 

 

「ですって」

 

「勘弁してくれ、懐かれるようなことしてないんだがなぁ」

 

 

どうだか、と呆れた目でアイーダ姫に睨みつけられるのがどこか納得できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスク大尉、デレンセン大尉の通ったコースをトレースしてますが」

 

 

ビクローブから北上したエルフ・ブルックとカットシーの編隊は、予定通りカリブ海の無人島に隠れているメガファウナに向けて飛行を続けていた。

 

戦闘を飛ぶマスクのエルフ・ブルックに通信をする士官はあたりを見渡しながら索敵を行なっている。ミノフスキー粒子が散布された中ではレーダーなんて役に立たない。己の動体視力が最大の武器となるのだ。

 

 

「このあたりには船が隠れられる場所はあるか?」

 

「かなり多くありますね。無人島地帯ですから」

 

 

点在する岩肌剥き出しの島々を注意深く観察する。それに連動してマスクが補正をかけてくれるのだ。調査部もMSばかりに気を取られている部署ではないのだな、とマスクは言葉にしないまま感心していた。

 

 

(このマスクは一種のバイオセンサーを搭載していると聞くが、どうやらリミッターがかかっているらしいな)

 

「2号機!先行するな!」

 

 

マスクのエルフ・ブルック1号機を追い抜いたのは、2号機だった。コクピットにいるその人物は、まだモニターにも捉えられていないはっきりとした感触を実感している。

 

この先にいる…感じる…強い気配を。

 

スラスターを吹き、さらに飛翔するエルフ・ブルック。

 

そして、モニターは独特な赤色が特徴な宇宙戦艦、メガファウナを完全に捉えたのだった。

 

 

 

 

 

 

デレンセン教官の今後について

  • 原作通りベルリの手によって戦死
  • 生き残るがアーミィとして敵に
  • 生き残ってメガファウナにくる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。