1話
米国某所、F.I.S.の研究施設にて、完全聖遺物ネフィリムの起動実験が本日行われる。
他の聖遺物とは違い自立兵器であるネフィリムが制御不能に陥った場合に対処するため、セレナ・カデンツァヴナ・イブは実験室とは別の部屋で開始を待っていた。
「マリア姉さん、そんなに心配しないで、マムだって念のためっていってたでしょ」
自身にしがみついて離れない姉に対し困ったという色を含んだ笑顔で話しかける。
「そんなこと言ったって心配なものは仕方ないじゃない、私は、まだ上手くシンフォギアを纏えないからセレナと実験に参加出来ないし・・・」
姉のマリア・カデンツァヴナ・イブはセレナに抱きつきながら呟く。
シンフォギア、聖遺物のエネルギーを用いて構成される鎧型武装であり、適合者の身体能力を上昇させ強力な防御能力を持つ異端技術の結晶である。そして、シンフォギアを纏えるものを装者と呼ぶ。しかし、適合者の存在は極めて少ない上に、ある程度適正を伸ばさなければシンフォギアから解放されるエネルギーにてダメージを負ってしまう。
マリアは装者としての訓練途中であり戦闘行為を行えるほど高い適正値には至っていなかった。今回は戦闘の可能性があると聞かされて、マムことF.I.S.の老女性技術者のナスターシャ教授に頼み込み見学させてもらっている。
(いつも守ってくれるマリア姉さん、望んで纏ったギアじゃないけど、この力でマリア姉さんたちを守りたいと思ったのは私・・・大丈夫・・・守るから)
離れないマリアを抱き返し実験の開始を待つ。
アラームが鳴り響き、轟音が幾度となく響く。歌を介さずの強制起動によりネフィリムは制御不能に陥った。起動時に予想以上のエネルギーを吸収したネフィリムは、強固な実験場を破壊し参加した技術者や実験を視察にきた米国要人に襲いかかった。
即座にセレナもギアを纏いネフィリムを止めるべく動くが、巨体に見合ったパワーと見合わない俊敏さを前に苦戦をしいられている。
「何をしている!!、とっととネフィリムを止めろ!!」
「来るなー!!、あーー」
「私を助けろー!、ギャーーー」
ネフィリムに襲われて叫ぶ研究員や要人、ネフィリムは羽虫を払うように腕を振るうと数人の人間が弾け壁や床を真っ赤に染める。
「セレナーー!!」
「マリアやめなさい!!」
マリアは叫ぶことしかできない。
研究員や要人を助けようとネフィリムに立ち向かうたびに剛腕による攻撃をその身に受けるセレナ。
傷つく妹に駆け寄ろうとするがナスターシャ教授により引き止められる。
状況は最悪だった。
ネフィリムを止める為にはセレナの絶唱が必要になる。しかし、絶唱は装者に多大な負荷をかける。通常状態ですら命を落とす危険があるが、セレナは度重なる攻撃で瀕死の手前までダメージを負ってしまっている。
「誰か・・・誰か、セレナを助けて」
「マリア・・・」
涙を流しながら絞り出すような声でマリアは願った。セレナが助かるようにと、、、
「あら、じゃあお姉さんが叶えてあげるわ」
「っ!!」
驚きながら言葉の聞こえた方を向くと、この部屋に似合わない人物が立っていた。
緑の癖っ毛で白いシャツ、赤のチェックが入ったベストに同じ柄のロングスカート、首元に黄色のスカーフを付けている女性。さらに室内であるのに日傘をさしている。
「あなたは・・・」
「貴方はどこから侵入したのですか!?」
「さぁ?、私も急に飛ばされて混乱してるのよ、取り敢えず助けてくるわね」
言い淀むマリアに代わりナスターシャ教授が問いただすが答えは返ってこない。
謎の女性は日傘をたたみ激闘を繰り広げるセレナの元に散歩をするかのような気楽さで歩を進めた。
ネフィリムに追いすがり攻撃を受けながらなんとか周りの人達を逃したセレナは膝を突きながらネフィリムと対峙していた。
(何とか、時間は稼げた、、、後はネフィリムを止めるだけ)
痛む体を無視して覚悟を決める。
セレナが息を吸い込んだと同時にネフィリムが襲いかかる。回避の為に動こうと体に力を入れるが激痛の為動けなかった。
(姉さん!!)
迫るネフィリムを前に目をつぶってしまうセレナ。
打撃音が響き渡るが衝撃が来ないことに恐る恐る目を開けると見知らぬ女性がネフィリムの腕を片手で受け止めている。
「えっ?なんで?え?」
ネフィリムの一撃をにこやかな笑顔で受け止める女性に混乱するセレナ。
ネフィリムも今までと違う結果に戸惑っているようだが、即空いている左腕で追撃をかける。女性はネフィリムの腕を離し、ひょいと体を逸らし避ける。更に噛み付くネフィリムだが、近づいた顎に女性がアッパーを入れる。傍目からは腕を軽く持ち上げたようなアッパーなのにネフィリムの顔が持ち上がりそのまま後方に体勢を崩した。
「あら、頑丈なのね、でもお終いよ」
更に広角を上げて笑う女性が右手を引き絞りネフィリムに拳を放つ。いわゆるテレフォンパンチであるが、引き絞って溜めた力に腰を使い体の力を乗せたパンチはネフィリムに風穴を空けそのまま残りの体は壁にめり込んだ。その後、うめき声を上げながら元の蛹型に形を変えていった。
「終わったの?」
圧倒的な力によって活性化前の蛹型に戻ったネフィリムを確認するも半信半疑なセレナであったが、女性がそれをひょいと拾いこちらに投げてきた。
「これで良いかしら?」
「助かりました、あ、ありがとうございます」
近くまできた女性にお礼を言いながら立ちあがろうとするが力が入らない。
「あっちの子も泣きながら来てるみたいだし少し横になってなさい、あら?」
「そう、、させて、、もらいます、力がもう」
「紫も勝手ね、わかったわよもう、ご褒美にこれをあげるわ、それじゃあね」
優しく横になる体を支えてくれた女性はセレナの右手に何かを握らせた。
「??種?、あれ?」
右手の中身を確認すると何かの種があり、一目右手を確認した一瞬で女性を見失ってしまった。種を落とさないように右手を閉じると同時に意識が遠のいていく。
後に種を検査した結果サネカズラという種と判明し、この女性をナスターシャ教授の証言を元にして米国が全力で捜索するが影すら捕らえることが出来なかった。
6年後になるまでは・・・