お楽しみいただけたら幸いです。
「マリア〜早く行くデス!!」
そう言ってサングラスとハンチング帽で軽く変装したマリアの手を引っ張り先導する。
「キリちゃん前見ないと危ない」
切歌とは反対の手を握り少し前を歩く。
調もいつもよりテンションが高い。
苦笑しながら両手に花の状態。
(アイツらが居なければね)
後ろには黒スーツのSP達。
マリアの監視である。
先日の行動もあり、見えない所で何かをしたと判断されて監視が厳しくなっている。
自分の行動がセレナにどんな影響を与えるか気が気でない。
しかし、切歌と調が自身を励ましたいという気持ちも分かるのでなんとか楽しもうとする。
校門に近づくと賑わいが伝わってくる。
チラシを配る生徒やオススメを宣伝する生徒。楽しそうな雰囲気が遠目でも分かる。
「お待ちしておりました。ご来場頂きありがとうございます」
「デース!?」
「!?」
喧騒を眺めていたマリア達は緒川の声に驚く。意識が校門の前に向いて居たからなのか?こんなに近づく人に気づかないものだろうか?
そんな疑問を抱きながら返答する。
「今日はお招きいただきありがとう。楽しませて貰うわ」
「是非お楽しみ下さい。もう少し行くと案内役が居ますのでお進み下さい」
「分かったわ」
和かな笑顔で先に進む様に促される。
マリア達はそのまま進む。
「お付きの方はすみません。その胸のものは我が国では所持しているだけで犯罪となります」
うまい具合に間に入りマリア達に気付かれない様に割り込む。
「何を言っている許可は得ている。こんな事をして何かあったらタダじゃ済まないぞ」
「護衛については問題有りません。こちらで最強の御方を付けましたので、それより許可書の確認をする為に此方へ」
あくまで和かだが確認しなければ通さないという意思が見て取れる為SPは素直に従った。
「後で苦情は入れさせて貰う」
「了解しました」
捨て台詞と共に他の職員に連れられて行くSP。
(紛れてるのが何人か居ますね。直ぐに対処しなければ・・・後は頼みましたよ)
一般客に紛れたSPを見破った緒川は対処するべく動くのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「デス!!デース!!」
瞳をキラキラさせてマリアと調の前をちょろちょろと駆け回る。
食べ物の屋台やミニゲームの屋台、それぞれ学生が呼び込みを行っている。子連れの来客や老夫婦が学生の呼び込みに誘われて楽しんでいる。
喧騒を眺めながら歩くと白い傘が目に入る。
校舎を眺める彼女は此方には気付いていなかった。
驚きで足を止めるマリアに調がどうしたのかと振り返る。
そんな2人に首を傾げて戻って来る切歌。
「どうしたデス?マリアァー調ぇー!」
透き通る声は難なく周囲の人に届く。
白い傘は動き出し、隠れていた顔が此方を見る。
風見幽香は此方を見るとにっこりと微笑み歩いてくる。
驚きで動けなくなるマリアの視線は風見幽香からは離れない。
「ちょっと待つデース!!」
「貴女は何?」
マリアを庇う様に幽香の前に立ち2人は睨みつける。
「ちょっと!貴女達!!」
慌てて声をかけるが2人は取り合わない。
「大丈夫デス!!私達が追っ払います!!」
「心配しないで」
無駄に自信満々の2人。
「ちがっ!!」
混乱で上手く言葉が出ないマリア。
「何を揉めてるの?」
そんな3人に眉をしそめながら幽香が話しかける。
「マリアになんの様でデスか!!」
「目的は何」
幽香に詰め寄る2人。
「何をって、今日の案内役なのだけれど?」
首を傾げて告げる幽香。
「「「え!?」」」
3人は声を揃えて驚いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「申し訳ないデース!!」
「ごめんなさい」
勢いよく頭を下げて両腕もガルウィングの様になってる切歌。
静かに頭を下げる調。
「私からもごめんなさい。まさか貴女が出てくると思わなかったから驚いてしまったわ」
マリアも謝る。
「そんなに謝らないの。こっちも事前に連絡してなかったのだから謝るのは此方よ。ごめんなさい。」
傘を閉じて頭を下げる幽香。
「貴女達は立派にボディガード出来たのよ。偉いわね」
幽香は切歌と調の頭を撫でて褒める。
「ほぇぇ、気持ちいいデェェス」
「んっ」
目を閉じて蕩ける切歌。
気持ちよさそうに撫で撫でを受ける調。
「そういえば知ってる人なのにマリアはあんなに驚いてたのですか?」
撫でられながら首を傾げる切歌。
「私も子供の頃に会って以来だったから・・・」
「何と!!お姉さんは実はオバっ!?」
切歌が言い切る前に撫でていた手は頭部を鷲掴みにし鈍痛が走る。アイアンクローである。
「何かしら?」
「あば!!あばばばば!?その、あの、お姉さんはもっとお姉さんだったデス!!」
にっこりと微笑む幽香の顔は、表情とは裏腹に虎やライオンなどの猛獣に睨まれた様な迫力がある。切歌は、必死に手を引き剥がそうとするが、どうにもならず焦って訳わからない事を口走る。
「キリちゃん・・・」
失礼な事を言いかけた事と訳のわからない物言いに呆れる調。
「あっははは」
マリアはそんなやり取りに緊張が解けて笑った。
切歌の天然な幽香とのやり取り、調の呆れ顔。SPに囲まれ落ち込むマリアの横でいつも緊張していた2人。久々に見るコミカルな日常の一コマがツボにハマってしまった。
「マリアが笑ったデース!!お姉さんもっとやるデス!!」
「え、えぇ」
「キリちゃん・・・」
「あっはっはっはっは!!」
引き剥がそうとしたアイアンクローを両手で掴みキラキラした目で幽香を見ている。
それに引く幽香に呆れる調。再度お腹を抱えて笑うマリアであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
廊下を走るクリス。
曲がり角を曲がると人とぶつかってしまう。
「すっすまねぇ!?」
「いつつ・・・何をそんなに慌ててるんだ?」
ぶつかったのは翼だった。
2人は尻餅をついてしまう。
「追われてるんだよ!!」
鬼気迫る表情で言うクリス。
「なんだと!?」
驚く翼は複数人の足音を聞き手刀を構えて迎撃態勢を整える。
「やっと見つけた雪音さん!!」
緊張した翼が対峙したのはどう考えてもただの生徒達だった。
「どういうことだ?」
困惑する翼を置いて女生徒は続ける。
「お願い!!雪音さん!!この通り!!」
拝み倒す勢いで掌を合わせて頼み込む。
「だから、柄じゃねぇって!!」
胡座をかいてプイッと顔を逸らすクリス。
「でも、雪音さんの歌はとても良かったもん!!折角だしステージに出てよ!!」
「「うんうん!!」」
残りの生徒も詰め寄る。
「ふむ。雪音はステージに立つのを断っていると・・・、皆は立って欲しいと・・・」
やり取りを見ながら考える。
すると珍しく悪戯心の様なものが芽生えた。
「そんなに頑なにならなくても良いのではないか?」
話しかけながら頼み込む生徒にウィンクする。それを受け取り黙る女生徒達。
黙ったのを確認してから胡座をかくクリスの横に座る。
「なんだよ。いくら先輩からの頼みでも・・・」
断る言葉を紡ぐクリスに被せる様にクリスが知らない情報を告げる。
「しかし、今日は幽香も来てるようだぞ?」
「幽香が?でも用事があるって・・・」
「ああ、叔父様絡みで詳しくは聞いてないが学園祭を回ってるらしい」
「・・・・・」
クリスは翼の言葉を待っている。
「緒川さんから聞いたのだがステージを見る事は決まってるらしい。まぁ、その他は叔父様の選定ルートを通るらしくて、幽香は大分文句を言ってたと緒川さんは苦笑していた」
緒川から聞いた話をクリスに話していく。
「そこで雪音がステージで歌っているのを見たら幽香は喜ぶんじゃないか?」
「・・・」
クリスは普段から楽しそうに話を聞いてくる幽香を思い出す。
「心当たりがあるようだな」
ニヤリと口角を上げる翼。
「べっ、別に幽香を喜ばすためじゃねぇ。その、あれだ!!偶には驚かしてやろうって事だ!!」
恥ずかしくなり頬を染めながら言うクリス。
みんなは生暖かい目で見ている。
「そこで一つ提案なのだが」
翼は思いついた事をここに居る者に告げる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「美味しいもの一杯で幸せデース!!」
簡易テーブルに広げられた食べ物達。
綿菓子、たこ焼き、チョコバナナ、焼きそば、焼きリンゴ、etc・・・
「美味しい」
パクパク勢いよく食べる切歌と黙々と食べる調。
「見てて気分良いわね」
元気良く食べる2人にクスクスと微笑みながら幽香は言う。
「ええ」
2人の顔を見ながら最近はこんな時間は無かったなと表情を曇らせるマリア。
食べ物に夢中な切歌と調に感づかれないように幽香は耳打ちする。
「大丈夫よ。そう遠くない内にもう1人ここに加わるわ。私達に任せなさい。・・・だから笑いなさい」
耳打ちしながらそっと手を握る幽香に
「お願い」
そう言い握り返すマリア。
そっとジュースをマリアに渡す幽香。
「あーーーー!!」
そこに聞き慣れた騒がしく明るい声が上がる。
「幽香さん!!来てるなら連絡くださいよ〜!!」
響は幽香の背中に飛びつく。
「響!!急に飛びついたら危ないよ!!」
それを咎めるのは未来であった。
「あら、見つかっちゃたわね」
肩に顎を乗せる響の方へ振り向く幽香。
「およ?幽香さんこの方達は?」
「案内してるのよ。切歌に調、マリアよ」
なんのこともないと普通に質問に返答する幽香。
「マリア?さん?」
響はマリアを見ると少し固まり理解する。
「!!?!?」
叫ぶ前に口を押さえて声が発せられるのを抑える幽香。
「響ちゃん。お忍びなのよ〜驚くのは良いけど静かにねぇ」
こくこくと頷き自分でも口を塞ぐ響。
未来も目を大きくして驚いている。
「た、立花響です!!好きなものはご飯&ご飯!!食べるのが大好きです!!よ、よろしくお願いします!!」
直立し言い切ると勢いよく頭を下げた。
「私は小日向未来です。お会いできて光栄です。」
未来はにっこりと微笑みながら会釈する。
「ええ、よろしく」
マリアは握手で答える。
「お姉さんの知り合いデスか?」
食べるのを中断して此方に向き直る切歌と調。
「そうだけど、ちょっと動かないでね。」
「ん〜ん〜。かたじけないデース」
幽香は優しくハンカチで口周りのソースを拭う。
「幽香さん、また女の子たらし込んでる〜クリスちゃんが妬いちゃいますよ〜」
「大丈夫よ。ちゃんと可愛がるから」
揶揄う響にふふっと笑い返答する。
「クリスも大変だ」
いないクリスに同情する未来であった。
「私は切歌デース。こっちは調デス。お姉さん達もよろしくデース!!」
「よろしく」
「うん、よろしく。立花響です!!」
「小日向未来です」
自己紹介をして響達が買ってきた食べ物も空になる頃に丁度良い時間となった。
「それじゃあメインイベントね」
食べ物の容器を捨ててから仕切り直す。
マリアと切歌、調は首を傾げる。
響と未来は察する。
「ステージですね。友達も出るから楽しみです」
「ステージデスか?楽しそうデース!!行くデス!!マリア!!調!!」
一同は会場へ向かう。
運良く中央の席を確保出来ステージが開演する。生徒達がそれぞれ歌う。勝ち残りで行われるステージは聞き応えと見応えがある。
「あのコスプレ面白かったわね。今度ウチの店でもやってもらおうかしら?」
クスクスと板場達のステージを振り返る。
「あはは」
そんな幽香に一同は苦笑い。
「次なる挑戦者は何と!!今をときめく我が校のスーパースター風鳴翼だーー!!」
司会も興奮し紹介する。
会場は騒然とし歓声が鳴り止まない。
そんな喧騒の中翼はステージに立ちマイクを口元に持って行くと会場は静まり返る。
「歌う前にひとつだけ喋らせて欲しい。私の次の挑戦者が私に勝てたら一つの我儘を言う。どうか応えて欲しい。・・・ありがとう、時間を取らせた。始めよう!!」
殆どの観客は何の事かわからないが翼の見つめた先にいた人物は頷く了承した。
ツヴァイウィングの曲が流れ始めて会場は盛り上がる。
照明、演奏は大忙しで翼を追う。
一曲という短い中に翼は今できる最大の力を持って歌う。観客は声に、仕草に、視線に熱狂する。
一体となったステージは曲の終わりと共に拍手と歓声に包まれる。
「最後のステージありがとうございました!!新たなチャンピオンはもちろん翼さんです!!」
怒号の様な歓声が飛び会場は大盛り上がりだ。
「さぁ!!最強のチャンピオンに挑むのはこの方!!雪音クリスさんだぁ!!」
マイクを両手に持ちステージ中央に立つクリス。
舞台袖を見ればクラスメイトが応援しているのがわかる。
会場を見渡し目標を確認する。
曲がかかり歌い始める。
多くの観客の中で思いを伝えたい相手に届く様に感謝の気持ちを込めて。
気持ちを乗せて丁寧に、見つけてくれてありがとう。
救ってくれてありがとう。
居場所をくれてありがとう。
新しい日々は戸惑いが多いけど、優しい皆んなに支えて貰っている。
ありがとう。
クリスの歌は翼と違い派手さやノリの良い曲ではない。しかし、暖かい気持ちが伝わる。
歌から伝わる少女の叫び。むず痒く照れ臭いこそばゆい感覚が身体を巡る。
聞きいる皆は微笑み聞き惚れる。
胸に灯るじんわりと優しい気持ち。
ピアノの音を最後に静寂が会場を包む。
染み渡る様に静寂の中でクリスの歌の余韻に浸る。
「ありがとうございました!!素晴らしい歌でした!!結果は!!」
観客は固唾を呑んで発表を待つ。
クリスも目を閉じて結果を待つ。
「なんと!?同点!!前代未聞のチャンピオンが2人!?」
観客は立ち上がり拍手で讃える。
クリスの横に翼がきてマイクを受け取る。
クリスと翼は背中合わせで会場の中央、目的の人物を指さす。
「「さぁ、一緒に歌おう!!」」
会場は静寂の中、指の指された場所に視線を向ける。
幽香は両脇の3人をがしりと掴むと跳ぶ。
「「「え!?」」」
ふわりと持ち上げられたマリア、切歌、調。
「デェェェェェェス!」
「きゃーーーーー!!」
ステージに着地する幽香。
マイクを受け取ると
「良いわ、でもこの子達も一緒よ」
宣言と同時に持ち直したマリアが立ち上がるとサングラスと帽子がずり落ち観客が目にする。
「え!?」
「嘘!?」
「何で!?」
「「「「マリアだぁーーーーー!!」」」
驚愕で観客が騒ぎ出し混乱する。
「狼狽えるな!!」
マリアがマイクを受け取り会場に叫ぶ。
「お忍びだったけど良い歌に出会えたわ。私にもチャンピオンに挑戦させて欲しい。良いだろうか?」
「マリアー!!」
「サイコー!!」
「ありがとう!!」
観客は盛り上がる。
「な、なんと!?歌姫マリアが!!乱入だぁー!!」
司会も何とか持ち直し宣言する。
その後ろで翼とクリス、幽香が話している。
「むぅ、まさかマリアと居たとは驚かされる」
「ったく!!いつも予想の上を行きやがって!!」
「ふふ、まだまだね。でも良い歌だったわ」
「っっ!!」
頭を撫でられて恥ずかしいが嬉しいクリスだった。
その後は、マリアが歌いそれを聞きつけた奏が乱入して伝説の学園祭となったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「少し良いですか?」
「エージェント緒川だったかな?」
「バレてましたか」
変装したSP達の中でも様子が異なり監視している様に見えなかった為声をかけてみた緒川だった。
「その、他の方と様子が違う様でしたので観察させて貰いました」
マリア達を見ていたという部分では同じだが他が監視するのに対して見守るという印象が強かった。
「正直に言うのだね。そういうのは好感触だ。そうだね、私はマリアのファンなのだよ。勿論、危険が有れば命を賭けて守るSPだが、他の奴らの様に監視するのは嫌いだ。それに風見幽香が居るなら私は必要無いだろうしね」
「幽香さんの事もご存知ですか。2人が会っているのは良いのですか?」
SPは肩をすくめる。
「友人が会うのを止めるのかい?ただ風見幽香は要注意人物としてマークされている。そちらも気をつけてくれ。」
SPは緒川に小型の記憶端末を差し出す。
「私が調べた「妹」に関する情報だ」
「!?、、、いいのですか?」
「風見幽香については私も半信半疑だったのだが・・・あんなに笑ったマリアを初めて見たよ・・・私からも頼む、マリア達を救ってくれ」
端末を差し出しながら頭を下げるSP。
「全力を尽くします」
覚悟を受け取る緒川。
怪我で落ち込んでいたのですが
少しずつ増えるお気に入りに元気を貰えました。
皆様ありがとうございます。
ぼちぼち投稿しますのでお楽しみいただけたら嬉しいです。