七色向日葵   作:ブランチランチ

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G第8話

 

シューっと排気音が室内に響く。

それが終わると透明な蓋がスライドして中身が完全に外気に触れる。

 

重い瞼を開き霞む視界が捉えたのは配管が張り巡らされ仄暗い場所だった。

 

出迎えてくれた人を忘れる事は無い。

あの時のお姉さんだった。

優しく微笑んでいる。

 

お姉さんを認識しても体の自由がきかない。瞼を開くのすら重く、体のあちこちに力が入らない。

 

そんな私をお姉さんは優しく優しく抱き抱えてくれた。

 

花の香りがふんわりと鼻をくすぐりとても暖かく心地よいものだった。

 

頭を撫でる手もやさしくて私はそのまま眠りについた。

 

そして何となくまた助けて貰ったと感じたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

緒川慎次は事の収拾に翻弄されていた。

セレナ・カデンツァヴナ・イブ救出作戦は成功したが問題が山積みの状態である。

 

そもそも、米国基地を秘密裏に急襲するというとんでもない事案だったのだが何とか決行寸前までこぎつけていた。

 

しかし、そこで問題が起きた。

装者立花響と外部協力者小日向未来の誘拐である。

 

両名は風見幽香が懇意にしている2名である。それを行ったと思われる組織は今回のノイズ事件の首謀者であり、外部から得られた情報により今回の基地を設立した組織と同じであると調べがついていた。

 

これを知り風見幽香が取ったのは単独での強襲。

 

結果は想像を絶するものであった。

 

舗装されて近代兵器が並び精鋭と言って差し支えない部隊がいた基地は草花が覆い木々が生い茂る姿になっていた。

 

更に屈強な兵士達は緒川達を確認すると泣きながらに助けを求めた。

 

それだけで異様だったが森に近づくとさらに異様だった。

 

木や蔓に飲み込まれて体の一部が辛うじて見える兵士達。

 

銃器は散らばり交戦の後もある。

 

ここにいる兵士達は震えて許しを請うばかりで会話が成立しないものが殆どだ。

 

植物に呑まれていないもの達は腕や足を失い正に虫の息だ。

 

緒川が隊員達と救助していると悲鳴が森の外から聞こえた。

 

緒川は数人を連れて出ると数人の兵士が少女を抱き抱えて歩く幽香に銃口を向けている。

 

しかし、恐怖からか銃口は震えている。

 

幽香は意に介さずそのまま歩く。

次第に近づく距離に兵士の震えが大きくなる。周りの兵士は余計な事をするなと取り押さえたいが指が引き金にかかっているのを確認しているので動けない。

 

「クソ!!俺は!!俺は!!」

 

近づくに連れて足音が大きくなる。

緊張が頂点に達して引き金を引こうとする瞬間に幽香が睨む。

 

その気迫に全員が呼吸困難になる錯覚を覚え体が硬直する。圧倒的な強者からの圧に生存をする為に刺激してはいけないと緊張は恐怖に塗り替えられる。生殺与奪は眼前の女性が握っている事を嫌でも思い知らされる。1分にも満たない時間だが外された視線により体の強張りが解ける。

 

自然と下がる銃口に周りがこれ以上不敬をかわないように必死で男を取り押さえる。

残りの兵士達は振り返るなという願いを込めて全員が幽香の背を見るが望み通りそのまま船に歩いて行った。

 

そこからは緒川達が指示を出して兵士の救助や施設の制圧を行った。

 

制圧といっても無抵抗どころか安全の為に緒川達に泣きつくような有様である。

 

そんな状態であったため現場を部下に任せて、複数の責任者を連れて緒川は船に戻り聞き取りを行う事にした。

 

包帯を巻き杖で体を支える兵士は初めに優香と交戦した部隊の指揮官。

 

次はやつれて無数に穴の空いた服を着ている男は森で幽香と戦闘した部隊の指揮官。

 

最後は屋内を案内させられた研究員である。

 

「怪我をしている所申し訳ありませんがお話をお聞かせください」

 

「これであの化け物から護ってくれるなら這ってでも話させてもらう。だからどうか部下達を助けてくれ」

 

残りの2人もコクコクと頷く。

 

緒川は内心何をしたのか聞きたくない衝動に駆られたが諦めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

鈍い音が轟きガラガラと何かが崩れる音が夜間の基地に響いた。

 

その音は直ぐにサイレンがかき消しサーチライトが一斉に照らされる。

 

入場ゲート横の検問所が崩れ外と基地を隔てる壁が崩れている。

 

コンクリート片と土煙で視界が悪い中、10メートルは有ろうかという木が瓦礫の中に見える。

 

夜間警備を行なっていた兵士が銃を携えて

殺到する。

 

足を止めて円形に囲み警戒する中ゆったりとした足音が聞こえてくる。

 

コツ、コツとゆっくり進められる音は煙の中から聞こえる。

 

煙から現れた人影はサーチライトの光を浴びながら赤い双眸で此方を睨みつける。

 

「う、撃てっ!!一斉射撃っ!!」

 

指揮官は背後に冷たいものを感じて声を上げる。

 

兵士達も得体の知れない恐怖を祓う様に引き金を引く。

 

それと同時に幽香はコツっと足を鳴らすと地面から波が立つ様にツタがコンクリートを砕き現れて弾丸を防ぐ。

 

防ぐのみならず波紋の様に幽香を中心にして津波の様に兵士を飲み込む。

 

「な!?なんだ!!うあ」

 

「来るなー!!」

 

「下がれーー!!」

 

ツタに向かい銃を乱射する者。

ツタに呑まれながらナイフを突きたてる者。

逃げようと走り出す者。

 

殆どの者はツタに飲み込まれ苦悶の籠った呻き声を上げている。

 

「銃は使うな!!味方に当たる!!クソビッチが!!」

 

飲み込まれた兵士達は盾となったのだ。苦悶の声を上げるツタの盾に。

 

ツタは壁となっていたが少しだけ離れて幽香が出てくる。

 

ナイフを構えた兵士5人が取り囲み斬りつけようと踏み込むが腹や肩にカウンターの拳をもらう。

 

腹に拳を貰った者は泡を吹いて気絶し、肩に拳を貰った者は砕かれた肩を押さえて絶叫した。

 

「面倒」

 

そう呟いた幽香は地面に手を当てた。

 

全員が身構える中、地鳴りと共に足元が崩れ何かに包まれた。

 

基地には突如として密林が現れた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

増援として駆けつけた部隊は困惑しながらも密林に入っていく。

 

 

複数人が視認出来る距離を保ちながら横に広がり進む。

 

入ってすぐに隊員達は恐怖した。

 

木には埋め込まれる様に見知った友が助けを求めている。

 

体の半分が呑まれたもの、腕と顔だけが出ている者、顔だけが外に出ている者。

 

様々であるが共通して木に囚われている。

 

助けを求める声と常軌を逸した光景に動悸が早くなり恐怖にとりつかれる。

 

そして、それらは襲いかかった。

 

葉を合わせた様な見た目にツタが取り巻き噛み付く様に襲う植物群。

 

まさに化け物。

 

4、5メートルはあるそれは突進してその口の様な器官で隊員を捉える。

 

銃も折れる力になす術もなく捉えられるとツタが口を押さえて捉えていく。

 

銃で応戦するも怯みもしない怪物達に逃げ惑うばかりの隊員。

 

「貴方達はそれ好きねぇ、ならこれは如何かしら?」

 

木の上で眺める優香はパチンと指を鳴らすと木々の枝に花が咲く。

 

白い花びらで向日葵の様に中央に種子を蓄えている。

 

「ばぁん」

 

その掛け声と共に種子が降り注ぐ。

 

頭上から打ち出される種子は散弾の様に弾けて装備を貫通して体内で止まる。

 

苦痛の悲鳴と共に転げ回る隊員。

 

「だらしないわねぇ・・・まだ種が植えられただけじゃない。」

 

辛うじて被弾しなかった隊員はその言葉に恐怖した。被弾した者は痛みで聞き取れなかったのが幸いしたのかうずくまるばかりだった。

 

パチンと幽香が指を鳴らすと数名の被弾した隊員の内側から枝が血肉を押しのけて鮮血の発芽を行う。

 

種を受けた者は自分のこれからに恐怖し、受けていないものはその惨状に恐怖した。

 

こうして恐怖は伝染していった。

 

「面倒だから偉い人間出して頂戴な?じゃないと花を咲かせるわよ?」

 

クスクスと頭上で傘を回しながら問いかける。

 

「ぐぅ、わ、私がこの隊を預かっている」

 

種子を受けたがまだ発芽していない様だ。

痛みを堪えながら応える。

 

「全滅させても良いのだけど面倒だから降伏してくれないかしら?私はこの基地にいる友人に用があるのよ」

 

「ゆ、友人?何の事だ?ここには実験材料しか、ああぐぁあ!!」

 

「別にアンタが知ってるかは興味無いのよ。降伏するの?しないの?」

 

内側からの痛みで問答を中断される指揮官。

 

隊員も先遣隊が全滅で増援も壊滅状態では抵抗出来る訳もなかった。

 

「降伏する!!降伏するから隊員達を助けてくれ!!」

 

その言葉に周りの隊員は武器を放り投げて戦闘の意思が無いという事を示す。

 

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「なんだ!!なんだ!!貴様ら!!」

 

研究施設に堂々と兵を連れてくる幽香に研究員が詰め寄る。

 

研究員が手を伸ばし掴もうとしたところで幽香は伸びてきた腕を握り潰した。

 

「邪魔」

 

そのまま壁に叩きつけて手についた血を振りはらう。

 

後続に続いていた研究員は絶句し気絶するものもいる。

 

「こ、コイツを手当しても良いか?」

 

「好きになさい」

 

恐る恐る兵士が聞き研究員を連れて行く。

 

研究員達は理解した。

もう既にこの基地は制圧されていると・・・

逆らえば殺されてしまうという事を

 

「セレナという娘が居るわよね?」

 

幽香は静かに問いかける。

 

「し、しらな」

 

言いかけると幽香は壁に指をめり込ませて壁面を引き抜き、言葉を発した研究員の前で握り潰した。

 

「あ、そ、その」

 

言葉は続かず後ずさろうとするが震えて動けていない。

 

「すまん、ソイツは知らないんだ。私が案内しよう」

 

少し遅れてきた研究員が全てを悟り答える。

 

「そう、頼むわ」

 

幽香が案内役の方へ向き直ると、知らないと言った研究員はへたり込んだ。

 

案内役の研究員の後に続き幽香、指揮官と続く。

 

立ち入り禁止の文字が書かれた扉を研究員がカードキーで開けるとそこには大量に卵状のカプセルが等間隔で並んでいた。

 

「なんだ!!これは!!」

 

驚愕する指揮官に研究員が応える。

 

「君たちは知らされていなかったのか、この基地はこれを守るための基地だったんだよ」

 

歩きながら目当てのカプセルに歩いて行く。

 

カプセルの中には人が納められており皆目を瞑っている。

 

それが百はあるだろうか。

 

「これだね」

 

そこにはセレナが寝かされていた。

透明な蓋に隔たれた先には、初めて見た時と同じで幼い姿だった。

 

「開けなさい」

 

黙って機械を操作する研究員。

機械を操作しそれに応える様に無機質な稼働音が静寂をうめる。

 

暫くすると空気を排出する音が響き透明な蓋がスライドされる。

 

ゆっくりと瞳が開かれる。

 

寝起きの様なとろんとした瞳だが幽香に向けられている。

 

腕を動かそうとしているようだが指先や肘が少し持ち上がるくらいだ。

 

優香は優しく抱き上げて頭を撫でる。

 

そうすると寝息が聞こえ始めたので手から綿を出して纏わせ暖かくする。

 

「少ししたら人がくるから此処で待ってなさい。全てが終わったら全員の種を出してあげる」

 

そう言って幽香は出て行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

話を聞いてから現場からの報告を聞く緒川。

 

積極的に兵士が協力して救助と救助者の搬送準備が整った。更に自ら護送船に乗船しおとなしくしている様だ。

 

未だ種が残っている事で兵士は従順だった。

研究員達はそんな兵士達を見て観念したようだ。

 

予想以上の救助者数の為に増援を依頼した。

 

まだ身動きが取れない状況に弦十郎に連絡をする緒川だった。

 

 

 

 

 

 

 

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