持ち帰った立花響を医療カプセルに入れて治療及び解析を行うウェル博士。
回収時ネフィリムに持ち運ばせたため気づかなかったが異常な発熱を起こしていた様だ。
ネフィリムがその熱を吸収していた為気付くのに遅れたが・・・
これにより何かが立花響の体で起こっていると確信し今に至る。
「成程」
英雄願望の狂気に満ちた表情とは打って変わって研究者としての冷静な表情でデータを確認する。
聖遺物についての知識ではナスターシャに劣るが生物学については天才と言っても過言ではないウェル博士は観測されたデータから立花響の生命に関わる事態であると断定した。
全身に張り巡らせられたガングニールの触手が各器官に纏わりついている。
「これは・・・最後のピースを埋めてくれるかもしれませんねぇ」
現状を確認して最適解を導き出した。
確認したモニター先は簡素な牢屋。
未来が囚われていた。
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ガシャガシャとシャッターが叩かれる音がする。
「なんだよ、うるせーな」
ガシガシと頭を掻きながら寝室からドアに向かう。
まだ日が昇っていない早朝。
もう少し寝てから開店準備をしたかったと思いながら歩く。
「ふぁあ、開店にはまだ・・ってお前らは!!」
調を背負いドアを叩いていた切歌。
昨日の戦闘と学園祭で会った2人だ。
しかし、見るからに疲弊している様子で調は滝の様な汗を流しながら切歌の背中で荒い呼吸を繰り返していた。
「お願いです・・・話を聞いてください。幽香に会わせてください」
「おね・・・がい・・します」
クリスに疲弊しきった2人を断る事は出来なかった。
「今、幽香はいねぇ。取り敢えず中に入れ」
ドアを開けて入る様に促すと切歌と調は意識を失い力が抜ける。
「あぶねぇ!!」
何とか受け止めて転倒を防ぐ。
受け入れてもらえた事で緊張の糸が切れたのだろうか。
「ったく、早く帰ってこいよ幽香・・・」
四苦八苦しながら何とかソファに寝かせる事が出来たクリスは弦十郎に連絡を取った。
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日差しが入り店内を照らす様になった頃に切歌は目を覚ました。
ボーッとした思考で今までを思い出す。
調の温もりを探して一瞬焦るが隣りで寝息を立てていた。
ほっとすると状況が見えてきた。
毛布をかけられてソファに寝かされた状態。
服も着替えさせられており身綺麗になっている。そして店内に漂ういい香り。
「デースぅ」
香りに刺激されたこどで「くきゅる〜」と可愛い音を立ててお腹が空腹を主張している。
「おっ!!起きたか!!」
はっきりと元気な声をかけて来たのはクリスではなく奏だった。
「クリス〜起きたぞー!!」
「わかった〜こっちもいいぞ」
カウンターの奥から聞こえるクリスの返事。
大きな奏の声に調も体を起こし目を擦る。
「何はともあれ飯だ!!話はそれからで良いだろう?」
奏は2人にウィンクしてついてくる様に促す。
調と切歌は顔を見合わせてからおずおずと後に続く。
厨房に近いカウンターにハンバーグ、パン、ゴロゴロ野菜のスープにサラダ、オレンジジュースが並んでいる。
「おっ!!うまそー!!勿論アタシの分もあるんだよな!!」
ご馳走様を前に声を輝かせる奏。
「ああ、無いとうるさそうだからな」
ニヤリと笑いながらエプロンを脱ぎ軽く畳むクリス。
最初は遠慮がちに食べる2人だったが奏が大袈裟に美味いと声を上げながら食べ進め、これが美味い、あれが美味いと2人に勧める。
それに感化されてか2人も夢中になって食べはじめる。
作戦成功といった感じでクリスにウィンクする奏はおかわりを貰い2人もそれに続く。
「「「ご馳走様!!(デース)」」」
「はい、お粗末さま」
揃って手を合わせて言う3人とそれに返答するクリス。
片付けをしながらクリスは一瞬で仲良くなった奏に感心していた。
今も2人を引き連れてテーブルを拭いたり食器を運んだりしている。
正直2人とどう接すれば良いかわからなかったクリスは感謝している。
片付けも終わり本題に入る。
此処でも奏が上手く進行をしてくれて2人の目的を聞き出してくれた。
2人が望むのはマリアの救出。
マリアがどんな状況にあるのかを2人が知る限りで全てを話す。
自分達が人質になっておりマリアの行動は常に制限されている事。
歌姫としての価値とシンフォギア装者としての価値を意のままに操る黒幕がいる事。
「後これを」
SPから渡された端末と記憶媒体を置く。
「これは?」
「基地を出る時にSPの人がくれました。マリアを助ける情報が入っていると・・・」
「わかった。ありがとう・・・絶対にマリアは助ける。私・・・いやツヴァイウィングの名にかけて」
そして2つを受け取る奏。
「お願いします」
「お願いデス」
2人は深々と頭を下げて懇願する。
「任せとけ!!」
2人の頭を撫でて奏は力強く言う。
そうして会談は終わった。
奏は外に控えていた職員の車に乗り込み弦十郎の元に向かう。
クリスは2人を風呂に誘い疲れを取る様に促す。幽香直伝のシャンプーで頭を洗ってやり仲良く3人で風呂の時間を過ごす。
風呂から上がった2人は疲れと安心からか、はたから見ても眠そうだったのでベッドに寝かしつけるクリスだった。
奏が持ち帰ったデータの中身を確認して弦十郎は自分達の想像を超える事態が起こっている事がわかった。
最大のものは月が落下起動をとりつつあること、それを知った米国は秘密裏に一部の者達が助かる様に事態を隠蔽しながら行動に移していた。
それに続く様にマリアを裏で操っている者が、セレナだけでなく米国の上層部や企業のトップの妻子をセレナ同様に監禁している事がわかった。妻子らの命を対価に米国の政財界でかなりの力を持つまでになったと記されている。
「この情報を信じるとすればとんでもない事ばかりだな・・・」
「月の軌道計算はどうだ?」
「月に関してはこのデータ通りですね・・・公表されているデータとはまるで違います」
「慎次から来たデータとのすり合わせは?」
「こちらもデータ通りです」
セレナ救出時に確認されたコールドスリープさせられた人々のリスト。
研究所からのデータと完全に一致している。
人質リストの裏どりが出来たこともあり他の研究所やリストも正確である可能性が高い。
「とんでもないリストだな・・・」
モニターに映し出されているのは内閣情報官であり弦十郎の兄である風鳴八紘。
入手したデータを確認しながらため息を吐く。
「これに関係あるかは調査中だが在日米軍艦隊が出航した事を確認している。速度は遅いが予想進路がこのデータにある座標を目指している様にも見える」
「米軍艦隊?」
「ああ、念の為頭に入れといてくれ」
「わかった。俺たちは響君たちの救出に動く」
「了解した。此方も何か掴めたら連絡する」
風鳴八紘との情報交換を終えた。
「各員!!クリス君が乗艦次第出航する!!準備を怠るなよ!!」
「「「了解!!」」」
乗員はシステムチェックに物資の積込みを急ピッチで行うのだった。
ある一室で翼は天羽々斬のペンダントを握り締めて自身の不甲斐なさに歯噛みしていた。
自身に力がない為にマリアとの戦闘で時間を取られ響は連れ去られてしまった。
奏には残り少ないリンカーまで使用させてしまいアリスも殆どの人形を失った。
手に籠る力が増すなか
「ひゃっ!?」
不意に脇腹を突かれて声を上げてしまう。
「なんだよ!難しい顔しちゃって、そんなんじゃ出来ることも出来なくなっちまうぞ?」
振り向いた先には奏がやれやれと首を振っていた。
「奏!!今は戯れあっている場合では!!」
怒鳴る翼を抱きしめて黙らせる。
「こんな時だから余計な力を抜きなって…一人で悔やむんじゃない。私やクリス、アリスに幽香、みんなで戦ってるんだ。一人で背負い込むなよ」
優しく翼の力をほぐす様に語りかける。
「そうだな、分かっているつもりなんだが私もまだまだだ」
「分かれば良いんだよ。今度は私も初っ端からいける。二人揃ったツヴァイウィングに出来ない事は無い。そうだろ?」
「ああ、立花も小日向も取り戻す」
抱き返し決意を新たにする。
「マリアも助けないとな!!同じステージに立った仲だしな!!」
「ああ、またあの日の様なステージに立ちたいしな」
離れた二人は笑みを浮かべて歩き出す。
表とは違う戦いのステージで舞う為に・・・