お楽しみいただけたら幸いです。
無印3話
日傘を片手で持ちながらCDショップ周辺を散策する。人が戻りつつあり、日常に戻ろうとしていた。幽香は周辺の草木より響のことを聞き出すと黒服の人間と一緒に車に乗りどこかへ行ったという。
政府の人間により保護されているなら問題ないと考え周辺の花を見ながら帰路に着こうとしていると一人の少女を見かけた。
銀髪が特徴的な少女はどこか寂しそうな顔で、街の喧騒を眺めていた。何を見てるのかと視線を向けると父と母に手を引かれ満面の笑顔でいる幼子のようだ。
「どうしたのお嬢ちゃん?」
幽香は自分でも驚くくらい自然に声をかけた。
「っ!!」
少女は驚きこちらを向きながら距離をとり睨みつけている。
「んだよ、私になんかようか!!」
「別にようがある訳じゃないんだけど、寂しそうな顔を見てたら声をかけてしまったわ」
「あ、私が寂しそうだと、とんだ言いがかりだな!!」
少女は強い口調で否定するが先ほどの表情を見た後だからかそのまま立ち去る気にはなれなかった。
「まぁ、そんなに威嚇しないの、家には帰らないの?」
「帰っても一人だから適当に散歩してたんだよ!!」
「それならいいわね」
サッと距離を詰めて少女の手を取り少女の抗議を無視して自宅を目指す。
道中で名前を聞き出し、のらりくらりとクリスの抗議をかわしながら自宅まで帰って来た。
「なんで私はここに連れてこられたんだ!!」
「いいじゃない、一人で寂しかったんでしょ?」
「んっ!?んなわけあるか!!」
顔を真っ赤にしてカウンターに座る少女雪音クリスは掴まれた手から逃れられずに連れてこられてしまった。
「とんでもねぇ力でつれてきやがって!!」
キシャーと猫が威嚇する様に騒ぎ立てるクリスだが幽香は気にしない。
「あんだけお腹鳴らしてたんだから、それでもつまんでちょっと待ってなさいな」
クスクスと笑い厨房に入る幽香をじっと睨みつけて見送る。
自分の前には一杯のお茶と少量のクッキーが置かれていた。じっと睨んでから恐る恐るクッキーを一枚食べると、花の香りが鼻腔をくすぐりふんわりと甘さが口に広がった。
美味しいと感じ、お茶を口に含むと先ほどとは違う花の香りに少量の苦味を感じ口に残る甘さをリセットしてくれる。口に入れる順序を変えれば甘さが際立つ。気づけばどちらも空になったがお腹は全然物足りないと主張してくる。
「気に入ったかしら?まだまだ足りないでしょ?」
空いた皿とカップを片付けて新たな皿を置いていく。一つ目は透明なスープにニンジン、キャベツ、ウィンナー、じゃがいもが沈んでいる。二つ目は鉄板の上でジュージューと音を立てるハンバーグ脇には別皿でデミグラスソース。
「ごはんとパンはどちらがいいかしら?」
「ごはん」
ボソリと呟くクリスに、にっこりしてご飯を置く。
「おかわりはあるから遠慮なくどうぞ、あっ、でもケーキがあるからいっぱいにしちゃだめよ」
「んっ、その・・いただきます」
「ふふっ、どうぞ召し上がれ、お冷ここに置いとくわね」
面と向かって言えないクリスは少し視線をずらして言った。そんなクリスを可愛いと思いながら返答する幽香。
始めはニコニコと眺めていた幽香だが徐々に顔が引き攣っていく。美味しそうに食べるのはこちらとしても嬉しいからいいのだが口の周りや服、テーブルと食べ散らかしが広がっていく。呆れながらも食べ終わるまでは指摘しないと決めた幽香であった。
「ん、ごちそうさま」
デザートまで全て平らげてからボソッと言うクリス。テーブルは食器を片付けながら綺麗にしたが、クリス自体は酷いありさまだった。デミグラスソースやケーキのクリームが服につき、口の周りまでベトベトになっている。
「満足してもらって良かったわ、でもちょっとこっち向きなさい」
「な、何しやがる!!、力強っ!!」
頭を押さえてこちらに向かせてハンカチで顔を拭いていく。
「あなた、かわいいのにこんなに汚して、服もシミになっちゃうから洗濯してあげるわ」
「顔くらい自分で拭けるって!!子供扱いするな!!後力が強い!!」
「だってあなた暴れそうだったから、面倒ね今晩泊まっていきなさい。あの様子じゃ家でひとりぼっちだったんでしょ?朝までには服も乾くわ」
そんな幽香の言葉を聞いて少し黙ったクリス。
「・・・なんでここまでするんだ?私は他人だろほっときゃいいだろ」
俯きながらクリスは幽香に問う。その様子は迷子の子供が項垂れている様に見えてしまった。
その様子はある人物が悲しみに暮れている日々に見た光景に似ていた。
「ちょっと知ってる子に似てたのよ。ちょっと前まで貴方みたいな悲しそうな顔をしてたわ。だからね貴方の笑顔が見たくなったのよ。あの子みたいな太陽の様な笑顔をね」
「なんだよそれ・・・わけわかんねぇよ」
幽香を見るクリスの顔が少しだけ明るくなった。笑顔には遠いが少しは良くなった。
「まぁ、深く気にしなくていいわ、私は意地悪なお姉さんだから勝手にするわ」
悪戯な笑顔をクリスに向けて宣言するのだった。