「文字は読めますか?」
学舎の木の上に住むようになり授業を盗聴し始めてから暫く…パシュトム先生がそんなことを聞いてきた。
パシュトム先生は…多分教える事が好きなのだろう。魔族では珍しいが。
それ以外に私を見逃したりあまつさえ学ばせてくれる理由が思いつかない。
「……わかりません。」
日本語ならわかるんだがなぁ…それを母語として記憶してしまっているからか、或いは単純に私の頭が悪いのか喋れはするが文字はわからないのだ。
「そうですか…喋れはするのですね?」
「はい。」
「ではこれを。」
そう言って渡してきたのはA4サイズくらいの二枚の紙…一枚は文字と様々な物、動作の絵がイコールで書かれた紙。もう一枚は文字とイコールだけ…その逆もある。二枚とも両面書かれている。
今思ったがこの世界の数字や記号は現代そのまま…さすがに新たに生み出す何てことは出来なかったようだ。
原作ではこういう所描写されなかったからな…不思議な気分になる。
「次の授業の終わりに確認するので、それまでに終わらせておいて下さい。では私はこれで。」
「あっはい。」
まぁこんなただ書き写すだけの宿題なんて元の世界の宿題より遥かに簡単だろう。
「………」
キツイ…何がキツイって文字とイコールの所…空欄に入るのが絵なのだ。
せめて絵に該当する数字を書けばいいと渡した時に断言してくれれば助かったのだが、わからない以上絵を描くしかない。
…よし、終わった。
さーてどうすっかな足は一応治ったけどだからといってすぐに動かしたらまた壊れそうだ。となると弓トレしかないんだよなぁ。
そう思い弓トレし始める私…正直かなり飽きてきている。魔術の練習をすれば良いだろって?先生にはまだ知識的なことしか教えてもらってないのだ。先生は理論より実践派ではなく、実践より理論派らしい。
普通だったら勝手に魔術を試して暴発したりするのがテンプレだろうがこの私は違う。というか体が壊れるのはもう足で懲りてるのだ。
…それにしても弓を実戦で使うにはどのくらいの距離で運用するのだろうか?全くわからない…今の的の距離は十数メートルくらいか…素人の私でもその距離は短いとは感じる。
…そろそろ腕キツくなってきたし寝よ。
「アナタはかなり…神経質なようですね。」
「…もしかして。」
「普通の魔族なら絵の番号を書くと思っていました…いや、そもそも普通の魔族なら宿題なんてやりませんが。」
やっぱり!あんな苦労して描く必要なかったんじゃん!
「ヴガアーッ!」
「まぁ…これに関してはハッキリ伝えなかった私が悪いですね…魔術の件も。」
「へ?魔術?」
「あの生徒達は少しやり方を言った瞬間に魔術をぶっ放したのでアナタも勝手に練習するのかと…面目ないです。」
「ホアァー!」
絵を描くのに苦労したからか少々発狂してしまった。
先生に魔術を使っていいと言われたので色々な魔術をちびちび使う。自分の適正を探るためだ。その結果…
「使った魔力と効果の比率からして幻惑系の魔術が得意のようですね。」
「あの、魔術の適正って変えたりとかって出来ますかね?」
「基本的には出来ません。体を完全に変えてしまう位でしょうか。」
「そうですか…」
あまり戦闘向きと言えるかは怪しいが…暗躍するなら最適だろう。…いやでも炎とか戦闘でバンバン使いたかったなぁ…幻で撹乱しつつ弓で仕留めるカンジか。尚更弓頑張らなきゃな…あっ。
「分身を作る魔術ってありますよね?それって分身の経験とかが本体に還元されるんですか?」
「記憶だけですね。分身が鍛えても何もありません。そもそもアナタの適正だと分身は難しいです…幻で代用するしかないですね。」
「ダメですか…」
結局、私が適正があるのは主に幻惑系、呪い系、精神系の三つ、適正が無いのは分身系、炎系の二つ、それ以外は並だ。
…こうして見ると完全にデバフ係の適正だ。
「まずは適正のある魔術で魔力を使う感覚を覚えましょう。それから適正が普通の魔術の内、重要なものを練習ですね。」
「はい。」
こちらを見てくる私…鏡を見ているのではなく幻影だ。特に綻びらしきものは無い。
呪い系と精神系の魔術は適正こそあれ、危険性があるのに変わりないと言われた。
…しかし、初めての魔術がこうも簡単に出来てしまうとは…いや出来なくては困るのだが。
暫くの間ひたすら幻影出したり、弓トレ、足が完全に治ったので走り込みだ。
「原作まであとどのくらいかな…」
少なくとも勇者が目覚めたとか、魔王軍が本格的な侵攻を始めたとかは聞いていないので、まだ全然余裕がある筈。
調べてみたら余裕あり過ぎだった。原作開始まで300年ぐらいあるぞ…魔族の寿命は長いから大丈夫だがこの間ずっとトレーニングするか?
いや…寧ろ今から暗躍した方が良いかもしれない。次の侵攻は確か…
「先生、私次の侵攻に参加するのでそれまでに戦闘技術詰め込んで下さい。」
「えぇ…何故また急に、まぁ良いでしょう。」
それからは足が壊れていた間と同じくらいにキツかった。
幻影出して走りながら弓で動く的を射る。疲れたら疲労回復の魔術。魔力も体力も切れたら先生の作った問題を解く。呪い系と精神系の魔術は初歩の物なら使っても問題ないと先生に言われたので、自分に怠けると電撃が走る呪いをかけて、そこら辺の一般チンピラ魔族を精神系の魔術で操って実戦練習相手になってもらったりした。
文にするとこれだけだが、滅茶苦茶キツかった…
「あの、すみません。これを。」
「…あ、あぁ、教師の推薦状か…問題ない。」
「ありがとうございます。」
「…あ、あぁ、頑張れよ。」
なんか驚かれていたが別にこれは私が凄い美人だとか有名だとかいう訳ではなく、魔族で開口一番にすみませんなんて言われて驚いたのだ。これが魔族クオリティである。
ともあれこれで魔王軍加入完了だ。戦争かぁ…ちゃんと戦えるだろうか?
「ニンキです。よろしくお願いします。」
先生に推薦状を書いてもらうに当たって私の名前が無いので自分で決めた。
ニンキ…願掛けの様なものだ。
「おう、早速頼むわ。」
そう言われ、私は拘束されている奴らの頭を魔術で片っ端から覗く。プロテクト的な物も無く尋問…と言えるか怪しいがそれは終わった。
そう、尋問なのだ。そもそも戦いにすら出なかった。
あんなに弓練習したのに……