夕日と、影と、カバン

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黒カバン

私が、初めてそのカバンを認識したのは、下校中だった。夕暮れが私の小柄な背中と世界を照らす中、マンションと網のフェンスの間に置かれたそのカバンは、その黒さから最初は影に見えたのだが、そのような影の出来方は異常なので、注意深く自転車で近づくと、ようやくカバンだと認識する事が出来た。夕日の赤に、陰の黒に、カバンの黒。その光景はなんとも幻想的であり、美しかった。清純な水に黒い絵の具を1滴垂らした時のような、異質な美しさがあった。とは言っても、その時間はもはや夕暮れ。自転車に乗りながら見ていたということもあり、通り過ぎた時には、もう好奇心は縮こまっていた。

さて、再びカバンに近づいたのはテストの帰り道。明日もテストということで学校は正午で終わった。先程、「好奇心は縮こまっていた」と述べたが、実は私は、密かに、そのカバンに近づくチャンスをうかがっていた。さて、平日の正午という事で人通りは無く、急いで家に帰る必要も無い。つまりは、チャンス。カバンに近づくチャンスだ。自転車を停め、少し周りを見渡し、カバンに近づいた。間近でみるとかなりの大きさで、恐らく縦は50cm、横は80cm、幅は40cm程であった。その見た目は、いかにも爆弾が入っていそうな見た目であり、タイマーの音が聞こえないかと、恐る恐る、顔を近づけた。が、カバンは多くの砂埃で塗れており、これが最近置かれた物でないことを物語っていた。私は、カバンを開けることにした。その前に、一旦家に帰り、自転車を置き、昼食をとることにした。家とカバンまでの距離は短かったのだ。今度は、カバンを離れても、好奇心は縮こまらなかった。

昼食をとり、徒歩でカバンまで来た。カバンが見えた。駆け足で駆け寄り、躊躇せずチャックを開けた。パンドラの箱を開けたような恐怖感とほんのりとした幸福感があった。中には、何も無かった。そう、「何も無い」のだ。本来あるはずのカバンの底も、40cmの幅に限られた空間も、無いのだ。ただ、ひたすら暗黒が続いていた。まだ夕日は出ていない。私は、恐る恐る手を伸ばした。最早、好奇心を押し殺す事は不可能だった。あの時、あの夕暮れの日に、殺しておくべきだった。その無限の空間を手でまさぐると、何かが手に触った。この無機質で感想した感じは、紙だ。カバンから紙を引っ張り出し、何が書いてあるのか、その場で、読んでみることにした。

 

嘘だ。そんな事はありえない。ありえないことの証明は、悪魔の証明は、既に化学が成し遂げたはずだ。そんなものが、あるない。これが、この恐ろしい物は、なんだ?絶対にありえない。頭が痛い。これは、なんだ?この紙に書いてあるのは、お話か?しかし、化学など最早信じられない。化学が嘘であることの証明する為、無限の空間を覗き込んだ。頭をカバンに潜入れ、古い匂いをかいでみた。瞼を開いた。ああ、なんだ。ここで、悠久の時間を経た、真実があったんじゃないか。私は安堵した。今なら、鳥取砂丘の下に古代文明があるって話も、世界はアメーバに造られたなんて宗教の話も、信じられる。今、私は、非常に純粋だ。実感出来る。衝撃。私は、何者かに突き落とされた。ああ、真実の世界に落ちていく。闇と同化した。


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