この人、碇くんに少し似ているかもしれない。いえ、碇司令に似ているのかしら。
そんな事を思いつつ、少し躊躇しながら少女は尋ねた。
「渚くん。わからない、これからどうすればいいのかわからないの」
「綾波レイならどうするの、かい?」
「違うわ、碇くんが教えてくれたもの。私は私のままでいいって」
少年は少しだけ驚いたように見えた
「そうだ、そうだったね。君は君のままでいい。美しい世界を作ったシンジくんらしい、実に美しい言葉じゃないか」
「そう、よくわからないわ」
この2人、中々噛み合わないのである。
「渚くん、私はこれからどうすればいいの?」
「綾波、君は君のまま、幸せになればいいんだよ。それが終世たる神殺しと創世たるネオンジェネシスをやってのけたシンジくんの願いでもあるんだ」
「何を言ってるかよくわからないわ、それに幸せ。私の幸せってなに」
「それは自分で見つけるものさ、そうでないと彼が君を救い出した意味がないからね。ところで綾波、こんな所で立ち話もなんだからどこか落ち着ける場所で話さないか?そうだ、どうせならピアノが聴ける喫茶店がいい」
人を自分のペースにのせてしまう生来の強引さで、少年は一歩二歩と少女の予想の先をいく。返事を待たずして少女の細い手首を再び掴み、改札口に向かう階段へと歩き出したその矢先、少年は振り向いて屈託のない笑顔で言った。
「ごめん綾波、歩くの速かったね」
「ええ…でもいいの。」
目の前の笑顔が探し人を想起させでもしたのか、伏目がちに答えた少女の白磁の頬はわずかに朱に染まっていた。
「手首、痛まないかい?綾波」
少年の顔が心配げに僅かに曇る。あるいは少女の気分を損ねた事を懸念したのだろうか。少年の心配を拭うように少女は微笑んだ。
「平気」
言葉だけ聞けばぶっきらぼうに聞こえるが、その穏やかな微笑をみた少年は少し驚いた顔をする。その反応を見た少女は、少年の眼をまっすぐ見つめて付け足した。
「こんな時どんな顔をすればいいか、碇くんが教えてくれた」
「そうか、君にとってシンジくんは本当に大切なんだね」
「ええ、碇くんはとても大切な人」
その名を出す度頬がわずかに朱に染まるが、今度は目を伏せてはいなかった。決意とも宣言ともとれる少女の言葉を聞いて、少年も優しく微笑み返した。
プラットフォームから階段を登り、古びた連絡通路を渡って反対側に降りた2人はこれまた古びた改札口に向かう。買った覚えのない切符を駅員に見せ、駅の外へと出た2人がほとんど同時に立ち止まる。
「知らない」「場所だわ」
控えめながらも人が往来し、荒廃の跡など微塵もない”駅前”に「彼」の選択と献身を感じた2人は、興味と怖さの入り混じった気持ちで、見ず知らずの土地へ第一歩を踏み出した。