Each impacts   作:さみーじゃっくす

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綾波レイの場合4

初めこそ一筋の涙が流れていただけだったが、少年の優しい言葉も手伝ってか、少女はしゃくりあげながら大泣きをはじめた。自分がこれほどまでに泣く事に、泣く事ができる事にも戸惑っているのだろう。その戸惑いが新たな涙を呼ぶ。涙でぐしゃぐしゃの顔、呂律もろくに回らない口で少年に謝罪しようとする。

 

「ごめんなさい…私…」

「いいんだ綾波、いいんだ。」

 

いつ収まるのやらと心配になる程の滝の涙ではあったが、とはいえ明けない夜は無く、枯れない涙もまたない。

 

「綾波、落ち着いてきたかい?」

「渚くん。ええ、泣いて、少し楽になった。私、いままでこんなに泣いた事ないわ」

「綾波はそれだけ辛さを孤独に抱えていたのさ、君は強いね。でももう1人で抱えなくていい。この創世された新世界で友を、仲間を、家族を作ればいい。そして彼らと幸せも悲しみも分かち合えばいい。人はそうして幾千年も時を紡いできたんだ」

「ええ、ありがとう。渚くんが言っていること、あまりわからないけれど、それでもあなたと話していると安心する」

「やれやれ、君は本当に変わったんだね。なんだか僕がやりにくいくらいだよ」

 

目を逸らし気味に少年は後頭部を掻く。少女の前向きな変化に今度は少年がペースを握られ、照れ隠しにできる事といえばこのくらいなものなのだろう。

 

「今度は渚くんの話、聞かせてほしい。あなたはなぜあの駅にいたの?ニアサードやアディショナルインパクトの時は、何をしていたの?」

「そうだね、今度は僕が綾波に話をする番だ。僕が覚えていることは全て話そう。僕は使徒だったんだ、綾波。始まりのヒト、最後のシト、13番目の使徒。人類の仇敵でNERVの宿敵。君たちエヴァパイロットが命を賭して戦ってきた使徒だったんだ。もちろん今はシンジくんの力で人に生まれ変わったわけなんだけど」

「渚くんが、使徒。私と碇くん、セカンドの人とNERVの人達で倒してきた使徒」

「そう、僕がそうだ。円環の歴史の中で僕は何度も何度もシンジくんと出会った。シンジくんに殺されたり、NERVやゼーレの謀略で殺されたり、封印されたり、僕まで出番が回ってこなかったり。君には出会ったり出会わなかったりであまり親しくならなかったんだ。でもまあそんなことはいまどうでもいいね。シンジくんが救った旧世界で僕は一度死んでいるんだ。シンジくんを守り幸せに導くために僕はすすんで命を投げうった。それが自分のためだったかはいまでもわからないけど。ただ僕はただのヒトではなかった。精神も肉体も脆く壊れやすいヒトではなく、生命の書に名を連ねる準完全生命体のシトだった僕はこの世から消えて無くなったわけではなかったんだ。アディショナルインパクトの時僕はマイナス宇宙でシンジくんに会った。恐らくはっきりと覚えていないだろうけど、君もシンジくんに一度会っているはずなんだよ綾波」

 

あまりにも荒唐無稽で、にも関わらず妙に説得力のある少年の語り口。朧げに残る記憶と少年の語る物語を照合するかのように少女の目はぱちくりとしている。

 

「綾波、君の記憶が曖昧なのは、恐らくシンジくんが創世の際に意図したんだ。君は14年間も孤独を味わった。その辛い思い出と、世界を一度破滅に導いた男への感情。それが”製造時”にデザインされたものであるというのならなおさら消すべきだと考えたんだろう。実にシンジくんらしい優しさだよ。ただ彼の唯一の誤算は、君の気持ちの強さを見誤ったことだったんだね、綾波」

「渚くんが話したこと、半分も理解できなかった。でも、碇くんを感じた、碇くんを思い出してぽかぽかできた…」

 

少女の目が再び潤みだす。14年ぶりに軛から解き放たれ、デザインからも解放された少女の感情は跳ね馬のように跳び回り、もはや少年にも涙の原因を推測ことが難しい。

 

「少し喋りすぎたね、それに君に言葉はもう必要なさそうだ」

「ええ。碇くんともう一度逢いたい。一緒に暮らして、毎日好きと伝えたい。でも、それは碇くんの幸せではない。碇くんも私に幸せを望んでる。その形が私の望んだものと違っただけ…悲しい、碇くんの思いを感じて嬉しい…やっとわかった。恋…あれが恋だったのね。そしてこれが失恋」

 

枯れたはずの瞳から、最後の一雫を静かにこぼす少女がふと顔を上げると、不思議と自分と似た様な面持ちの少年が静かに笑い、そして涙を流していた。




少し遅れましたが、更新いたしました。
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