異世界転生少女のゲーム攻略 作:くるるるる
「こんにちは」
瞬間だった。
一人の少女。あまりに戦場に似合わないその姿が、唐突に目の前に現れたと同時、その右手に握られた剣は瞬きすら許さない絶死の速度で振るわれた。
白銀の剣閃は騎士達を襲い――そして、終わる。
血が舞う。嵐が吹き起こる。絶叫すら許されないその死の一閃は、かたまって進行していた騎士達のほとんどを切り裂いた。
だが、紅い血飛沫の舞うその最中。倒れ伏す生命の中で、少女はおかしな物を見たように首を傾げた。
「ん……あれ?残った?んん……おかしい。ちゃんと広範囲攻撃のスキルは持ってるのに」
こてんと首を傾げ、彼女はそう呟く。荒れ果てた広野のど真ん中で、しかし少女は血に濡れて。
一人、少女に見つめられながら、どこか非現実的な感覚を捨てきれずに、その様相を最後の騎士は見た。思わず言葉が漏れる。
「君は……悪魔か?」
突拍子もなく空を舞うその言葉は、だがしかし欠片も間違っていない。
世間話でおかしな事があったかのように首を傾ける少女は、しかしあまりにその行為が似合わない空間に身を置いていたのだ。
ポタポタと体から滴る血は地面へと黒色の痕跡を残し。手に持つ剣は、どこまでも鈍い輝きを宿して。それに反して、その瞳はまるでそこらのつまらない小説を読むときかのように至極平静だった。
だが、騎士にとっては全く嬉しくない事に、その言葉の何かが琴線に触れたのだろう。パチパチと目を瞬くと、突然少女は意を得た様に語りだす。
「んんー?悪魔、悪魔……?貴方達帝国は王国にそう呼ばれている……それと……悪魔で言うなら、確かここから近い北の大地に封じられているのは広漠の悪魔、と記憶している。
もしかしてキーキャラクター?それで、レベルの高い私の攻撃を掻い潜った?なるほど、イベントはちゃんと知らなきゃ挑戦出来ない……いやでもエンディングへは遠回り?」
「……君はラータル教国の所属だろう?」
なぜわざわざ『王国』目線で話すのか。後半の支離滅裂な言葉を努めて無視して騎士は話す。
意味のない延命だろう。十人の同僚がいれば、『誇り』にかけて全員が決死の突撃を敢行するするはずだ。だが、男は生きたかった。誇りよりも、彼には命の方が重要だったのだ。
そんな男の考えを知ってか知らずか、少女はあっけらかんとした様子で口を開く。
「……そう、分かる。私のプレイは間違ってる。でもこれは、しょうがない。だって、これランダム。勝手にイベントと絡みすらしない小国にポップして、しかも立場が姫様の護衛。これ、ミステリーだとしても多分地の文にすら出ずに消えてるヤツ。私には分かる」
「…………つくづく、君のような輩は羨ましい」
支離滅裂で、孤影悄然。平々凡々等とは程遠く、こちらからすれば美しく見えるほどに楽観的で自分勝手。
どこまでも個人の世界で生き、それが許されるのは彼ら彼女らの特権で、己のような一介の騎士には到底届かない生き方だ。
「羨ましい?それは……貴方もずいぶんと大変な人生を送ってきた様子。貴方達に人生とかあるのかは知らないけど」
「これまた手厳しい」
「そう?私は私の人生をかなり劣っていると――」
――極閃が走った。まばゆい輝きが網膜を焼き、視界が一瞬で塗り潰される。
積み重なった死体が焼け消える。そして、突如現れたそれに目の前の少女は、
「――む」
ああ全く、なんて理不尽なのだろう。男は深い嘆息をつく。
振るわれた一閃に、光が裂けていた。遠目に見える我が帝国の魔術師部隊の総力と思わしきそれ。幾人もの人間を焼き殺して尚あまりある熱量を秘めた一撃は、目の前の人外には決して届かない。
『英雄』とはそう言うものだと、ふと男は理解した。
彼女に追いすがれる者が我が帝国にいるのだろうか。あってはならない疑問が鎌首をもたぐ。
皇帝陛下の直属たる三騎士に、大隊長。知りうる強者がこの場にいたとて、果たしてこの少女を打開出来たのだろうか。
そう考えたとき、閃光を切り払うのが予想以上に面倒だったのか、少女の鈴の音のような声が響き渡る。
「全く、うざったらしい」
我が帝国軍を『うざったらしい』とは何事か。ふと男は苦言を呈しそうになったが、寸前でやめた。無意味だし、不興を買って終わる未来が見えていたからだ。
打算的な己の思考……いや、そもそも敵将と会話している時点で打算的とはいえないのでは、などと考え、そして。結果それはあまり意味を成さなかった。
と言っても、男には知りようもないのだが。
「……撃破敵数、百超。起動スキル三。状況、平野での戦争、敵兵数が味方勢力の十倍以上……条件クリア」
そして相も変わらぬ奇妙な呟きが戦場を駆け抜け、
「――『
赤が、朱が、紅だけが――世界を染め。
それで男が見た最後の景色は、終わりだった。