大変助かっております。
「いやぁ、あの同士討ちは最高でしたね。」
200階でおバカな新人狩りを華麗にスルーした翌日。
部屋に備え付けのテレビで、そいつらがガチ試合やってるのを見て爆笑した後。
私はベッドの上で横になり自身の【発】について考えていた。
200階闘士の戦闘ビデオの入手はシンジに任せた(強制)から問題ない。
1本100万で買うと言ったので、きっと今頃は必死に駆け回っていることだろう。
「さて、今の内に私は私の問題を片付けなきゃね。」
ベッドから起き上がり座禅を組み、目を閉じて思考に集中する。
頭に浮かべる光景は初めて水見式を行った時のこと。
考えるべきはコップに手を添え【練】を行った後、水の中に出現したあの『黒い塊』だ。
(結局、あれは一体なんだったんだろう?)
あの時は焦っていたので、つい国語辞典で叩き潰してしまった。
だがこうして思い出すと色々と疑問が湧いてくる。
まずあの時に出てきた指。
あれが転生する前の、邪神の祭壇(仮)にいた魚面のものだと仮定しよう。
するとあの黒い塊は『異世界に繋がっていた』ということになる。
(でも瞬間移動って感じじゃ無さそうだった。)
原作でも瞬間移動の描写と説明はいくつか有った。使えるのは主に放出系と具現化系。
簡単に言えば放出系は『空間ごと移動』し、具現化系は『念空間を経由して移動』する。いわばロケットとワープ装置だ。ドラ○エで言えば放出系が『ルーラ』で、具現化系が『旅の扉』。
対して私の場合は恐らくどちらでも無い。
強いて言えばワームホールだろうか? だってあの時に出てきた指は『黒い塊』を双方向に出入りしていたから。
ドラ○エで言えば『マップをバグらせた』ようなものだと思う。
アリアハン城の城門の先がゾーマの城になった、とかそんな感じ。アリアハン? 滅ぶんじゃないかな。
(でもそんな事が可能なのかな?)
原作でクラピカの師匠は『人間の能力を超えたものは具現化出来ない』と言っていた。
それはつまり念能力でも『人間の力の限界を超えたことは出来ない』ということだ。それを考慮すると『異世界に繋がる穴を開く』なんて絶対に無理なはずである。
(でもすでに起こった結果が有るし、それ以外に考えようがないんだよなぁ。)
ならばどれだけ不可解な事例でも受け入れるしか無い。
これが特質系のもっとも嫌な部分だ。
(能力が
原作で描画があったのはカキンの某王子のときだ。
念の特訓中にいきなり能力が発現し、その後に一つずつ検証していた。あれは頭のいい王子だったからすぐ把握出来ていたが、普通は無理だと思う。もしかしたらクロロやパクノダも、初めはこんな感じだったのかもしれない。
ではソレらを踏まえて、これを使い物にするためには?
(まずやるべきは、どうにかして出現場所を離すこと。)
今のままでは危険すぎて検証することさえ出来ない。
水見式の時のようにすぐ側に出現させるのは危なすぎる。あの時は出てきたのが指だけだからよかった。だがあれがもし腕だったら私は掴まれ、きっと向こうに引き込まれてしまっただろう。
(それから強制解除する方法も必要。)
『黒い塊』はコップを叩き割ることで消えた。
ならガワを付けることが出来れば、いざという時に壊して止められるのではなかろうか。出来ればそのガワは私から離すことが出来て、自由に向きを変えられると良い。
(とすると、何かを具現化して操作するのが良いかな。)
どこぞのココウケンさんと違い、特質系の私はどちらの系統も覚えやすい。
そしてそこに、この特質系の発を組み合わせる。そうすれば特質・具現化・操作の3系統複合能力として昇華できるだろう。
念は心や思いが能力に影響を及ぼす。
操作系は愛用の道具を持ち歩くが、これは思い入れが強いほどオーラを込めやすくなる為だ。
ならば系統ごとに能力を作るより、纏めた1つの能力の方が強くなるはず。
複数の道具を使うより、1つの道具を使い込んだ方が思い入れは強くなるからだ。
(で具現化する物だけど……やっぱりアレかなぁ)
具現化系はイメージ修行が大変だ。
だから今まで縁が無かったものより、すでに現時点でイメージしやすい物が良い。
……とくれば、やはり
私が転生するハメになった元凶。
それでいて原作のシズクにも関わりがある生物。
――そう、つまり
これなら今でもハッキリ思い出せるし、その姿はある意味トラウマとして脳裏に刻み込まれている。だから別のものを一から具現化するよりも、それほど時間かからないだろう。
これが純粋な具現化だったらなぁ。作りたいものは色々あったんだけど……。エクスカリバーとかゲイボルグとか主に宝具系を。しかし駄目な物はしょうがない。
「よし、そうと決まれば……すみませんもしもし。」
私は携帯を手に取ると、近くのホームセンターへ電話を掛ける。
注文したのは出目金の剥製。
えっ、生きてる状態でペロペロしろ? 流石に生の金魚は勘弁してほしい。
そんな舐めたら生臭くて間違いなく嘔吐する。部屋がゲロ処理場になってしまうのは流石に嫌だ。
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それから1週間後、私の手元にはデブデブと太った出目金の剥製があった。
全長は30cm。他の部分も細かく注文をつけた、死んだ時の金魚を出来る限り再現してもらった物である。
「よし、じゃあ始めるか。」
それから私は一旦他の念修行を止め、しばらく具現化系のイメージ修行のみに集中した。
最初は出目金を一日中いじくった。
目をつぶって触感を確認したり、何百何千枚と写生したり。それから眺めたり、音を立てたり、嗅いだり、舐めたり、かじったり……
「剥製とはいえ、舐めるとなんか気持ち悪い。……思い出して吐きそう。」
そうして10日後も経つと、今度は毎晩、出目金の夢を見るようになった。
『ぎょっぎょっぎょ』と鳴きながら空中を優雅に泳ぐ出目金。
そいつは楽しそうに私の周りを飛び回ると、最後は決まって口の中に飛び込む。
そして私は吐き気を覚えて目を覚ますのだ。おかげで最近はとても寝起きが悪い。
「そういえば、クラピカも旧アニメで鎖に締められる夢を見てたっけ。」
ひょっとしたら被緊縛趣味になってたり?
私は気を紛らわす為に不埒な事を考える。頭に浮かんだのはクラピカが鎖で亀甲縛りされ、シャチホコのように仰け反っている映像だ。
ただし途中から全身が赤くなりだし、顔が金魚に変わりだしたので考えるのを止めた。
「クラピカファンに殴られそう。」
さらに10日後。
起きてる間も視界の中に出目金の幻覚が映るようになった。視界内をチョロチョロ飛ぶ金魚が大変うざい。
しかも手を伸ばして追い払おうとすれば、リアルな感触と重さがある気がした。というか今更だが、どうして剥製で修行してるのに出目金が動いているのか?
「多分、死んだ時の印象が強すぎたんだ。」
そのせいで 出目金=飛ぶ イメージになってるのだろう。オマケにトラウマが強すぎて勝手に動く生物になっている。
一瞬だけ別のものにすればよかったかな? という思いが頭をよぎる。
だがここまでやったのだ、いまさら具現化物を変えるなんて、また金魚に負けるみたいで嫌だ。
「だけど……」
代わりに、私の体調は酷い状態だ。
夢でも日常でも出目金がうざすぎて、まともに休憩が出来ないせいだ。
鏡で見れば目の下には濃い隈が出来ていて、髪の毛もボサボサ。肌は荒れ、ベッドの上と部屋の中はぐちゃぐちゃだった。
「具現化出来るのが先か、私が倒れるのが先か。」
どうして私は出目金(空想)とデスマッチなんてやってるんだろう。
どこぞのグラップラーさんの妄想だって、ココまでは追い込んでなかったよ?
――そして更に10日。イメージ修行からちょうど1ヶ月後。
『ぎょっぎょっぎょっぎょ!』
ベッドの縁に腰掛けていた私の膝の上。
そこにはいつの間にか自然と具現化された出目金が乗っていた。
「出来た……出来たぁああああ!!!」
辛い修行を乗り越えた私は、部屋の中央で歓喜を上げた。
私は具現化された出目金を見つめる。眼からは涙が止まらない。
「デメちゃん……」
『ぎょっぎょっぎょ……』
会うのは実に6年ぶりだろうか。
軽いトラウマになっていたのか、忘れたくても忘れられなかった。
まさかこうして再会するハメになるとは思わなかった。
「デメちゃん……!」
『ぎょっぎょっぎょ!』
脳裏にあの時の光景がフラッシュバックする。
ボーナスが記載された通帳、迫るトラック、最低の運ちゃん……
塀の上に居た猫コスプレのお姉さん……そして弾ける金魚の群れ……
「デメちゃーーーん…………!!」
『ぎょっぎょっぎょーーー!!』
ギョロギョロと飛び出した両の目に、ブクブクに太った真っ赤な躰。
それは私が転生するきっかけになった出目金そのもの!
私は恐る恐る手を伸ばし――
「よくも私を殺したなぁーーーッ!!!」
『ギョギョーーーーッ!!?』
そのまま出目金を掴んで、思い切り床に叩きつけた。
こうして初めて具現化した念魚は、あっけなく砕け散って消えた。
……すごくすっきりした。
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「くそっ、あのガキ。また面倒なこと言いやがって。」
シズクが空想の出目金とデスマッチを行なっていた頃。
シンジは天空闘技場1階のベンチで嘆息していた。
探して持ってこいと言われた200階の試合ビデオ。
1本100万で買うと言われたので気合を入れて探した。だがしかし、これが不思議なことに全く見つからなかった。
「200階も190階も変わらないと思ったのに。」
190階以下の試合ビデオは幾らでも出回っていた。
それが200階を越える物になると、不思議とどこにも売られていない。
それでもなんとか持ってそうな相手にたどり着いた。
だがシンジが200階に行ったことが無いと言うと、それ以上は相手にしてくれなかった。
「こんなことなら、初日に逃げておけばよかったのかな……」
あの化け物みたいなガキと、路地裏で出会った日。あの日から後悔しなかった日は一日もない。
もちろん途中で何度も逃げる事を考えた。だが今となっては、もうそんな気力は残っていない。
100階に到達した後に呼び出されたホテルの部屋。
そこで見てしまったのだ。テーブルの上に無造作に置かれた私物。その中に有った『キキョウ・ゾルディック』と書かれた名刺を。
それはつまり、あのガキはゾルディック家にコネがあると言うこと。
「よりにもよって伝説の暗殺一家とかさぁ……。最悪すぎて笑えねぇよ。」
しかもすでに200階に到達し、奴の所持金は推定4億以上。
金銭的にも暗殺依頼を出すのは簡単だ。
そしてあのガキは、迷いなくその依頼を出しそうな気配がある。というかどう見ても、使えなくなった物はあっさり処分するタイプだ。つまりどこにも逃げ道はない。
「どうしてあの時の僕は、あんな化け物を襲ってしまったんだろうな。」
あの時のことを思い出すと、今でも膝が震えそうになる。
シンジも元は闘技場で有名になろうと、この街へやってきた若者の一人だった。
しかしどれだけ頑張っても勝てなかった。
1年戦い続けて最高記録はたったの50階。ファイトマネーも数万ジェニーがいいとこで、これではとても生活出来ない。上がらない戦績、上がらないモチベーション、減り続ける金……心が折れるのは時間の問題だった。
そうしてしばらくすると最後は実家に帰ることを考えた。
シンジの実家は複数の会社を経営する金持ちの一族だ。
だが実にタイミングが悪かった。なんと年の離れた弟が生まれていたのだ。
おかげで実家は祝福ムード一色で、とても自分みたいなのが戻れる空気ではなかった。
そして最後はチンピラになり、路地裏のカツアゲで糊口を凌ぐ生活を送るようになった。
「弟‥…たしか名前はニコル、だったな。」
シンジはまだ見ぬ弟の将来を願う。
お前は俺みたいに落ちぶれるなよ、と。
なお、その弟君も13年後に挫折する模様(原作1次試験参照)。
それから10日後、シンジは闘技場1階の観戦席に居た。
右手には買ってきたジュース。新作の塩サイダーコンブ味。薄めてない海水に炭酸を混ぜような味だ。おまけにブヨブヨしていて、舌に生コンブのような感触が纏わりつく。はっきりいってくそまずい。
あれからシンジは何とか200階より上の事情を把握した。
なんでも、ここからは超能力のようなものが使われているらしい。なので試合を見るだけでも特別な会員になる事が必要だった。手に入れるのには他会員からの紹介と、結構な額の金を必要とした。
「くそっ、もう金が残ってねぇ。」
今のシンジは金欠だ。
会員になる為にあちこちで借金をし、口座の預金も今月の生活費しか残ってない。
「だから、どうしてもこの機会に稼いどく必要がある。」
本当に100万もくれるかは分からないが、それでも賭けるしかない。
なんせすでにあのガキは億万長者、100万なんてハシタ金だ。
それにこうして金額を提示してきたということは、金の使い方が分かっているという事。ならばポイっと投げ渡してきても不思議じゃない。
「まぁそういう子供らしくない所が、また不気味な訳だけど……」
――実は私、子供の形をした悪魔なの。
そう言われても素直に納得できそうだった。
だがもう逃げられない。ならあとに出来るのは、自分の立場を上げることだけ。このままどうにか取り入って、美味しいポジションに就くしかないのだ。
ただし最初に"玉砕姫"と呼んじゃったのはシンジなので、これだけは絶対にバレないようにしなければならない。
(はは、やってやる。やってやるさ。僕だって昔は天才って言われてたんだ。)
シンジは決意を新たに、エレベーターに向かって歩き出す。
とりあえず一度、試合を直接見てみるか、なんて言いながら。
それから10分後の200階ロビー。
そこには試合チケットが高すぎて買えず、絶望して膝を突いたシンジの姿があった。
シンジ:お願いします金貸して下さい。
直接試合見れないし、誰もタダじゃビデオダビングさせてくれないっす。
シズク:あのさぁ……(そろそろお役目御免かな?)