シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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大変助かっております。


第10話 良くも私を殺したな

「いやぁ、あの同士討ちは最高でしたね。」

 

 200階でおバカな新人狩りを華麗にスルーした翌日。

 部屋に備え付けのテレビで、そいつらがガチ試合やってるのを見て爆笑した後。

 

 私はベッドの上で横になり自身の【発】について考えていた。

 200階闘士の戦闘ビデオの入手はシンジに任せた(強制)から問題ない。

 1本100万で買うと言ったので、きっと今頃は必死に駆け回っていることだろう。

 

「さて、今の内に私は私の問題を片付けなきゃね。」

 

 ベッドから起き上がり座禅を組み、目を閉じて思考に集中する。

 頭に浮かべる光景は初めて水見式を行った時のこと。

 考えるべきはコップに手を添え【練】を行った後、水の中に出現したあの『黒い塊』だ。

 

(結局、あれは一体なんだったんだろう?)

 

 あの時は焦っていたので、つい国語辞典で叩き潰してしまった。

 だがこうして思い出すと色々と疑問が湧いてくる。

 

 まずあの時に出てきた指。

 あれが転生する前の、邪神の祭壇(仮)にいた魚面のものだと仮定しよう。

 するとあの黒い塊は『異世界に繋がっていた』ということになる。

 

(でも瞬間移動って感じじゃ無さそうだった。)

 

 原作でも瞬間移動の描写と説明はいくつか有った。使えるのは主に放出系と具現化系。

 簡単に言えば放出系は『空間ごと移動』し、具現化系は『念空間を経由して移動』する。いわばロケットとワープ装置だ。ドラ○エで言えば放出系が『ルーラ』で、具現化系が『旅の扉』。

 

 対して私の場合は恐らくどちらでも無い。

 強いて言えばワームホールだろうか? だってあの時に出てきた指は『黒い塊』を双方向に出入りしていたから。

 

 ドラ○エで言えば『マップをバグらせた』ようなものだと思う。

 アリアハン城の城門の先がゾーマの城になった、とかそんな感じ。アリアハン? 滅ぶんじゃないかな。

 

(でもそんな事が可能なのかな?)

 

 原作でクラピカの師匠は『人間の能力を超えたものは具現化出来ない』と言っていた。

 それはつまり念能力でも『人間の力の限界を超えたことは出来ない』ということだ。それを考慮すると『異世界に繋がる穴を開く』なんて絶対に無理なはずである。

 

(でもすでに起こった結果が有るし、それ以外に考えようがないんだよなぁ。)

 

 ならばどれだけ不可解な事例でも受け入れるしか無い。

 これが特質系のもっとも嫌な部分だ。

 

(能力が()()()()()()()から、本人ですら能力の詳細が分からない……。)

 

 原作で描画があったのはカキンの某王子のときだ。

 念の特訓中にいきなり能力が発現し、その後に一つずつ検証していた。あれは頭のいい王子だったからすぐ把握出来ていたが、普通は無理だと思う。もしかしたらクロロやパクノダも、初めはこんな感じだったのかもしれない。

 

 ではソレらを踏まえて、これを使い物にするためには?

 

(まずやるべきは、どうにかして出現場所を離すこと。)

 

 今のままでは危険すぎて検証することさえ出来ない。

 水見式の時のようにすぐ側に出現させるのは危なすぎる。あの時は出てきたのが指だけだからよかった。だがあれがもし腕だったら私は掴まれ、きっと向こうに引き込まれてしまっただろう。

 

(それから強制解除する方法も必要。)

 

 『黒い塊』はコップを叩き割ることで消えた。

 ならガワを付けることが出来れば、いざという時に壊して止められるのではなかろうか。出来ればそのガワは私から離すことが出来て、自由に向きを変えられると良い。

 

(とすると、何かを具現化して操作するのが良いかな。)

 

 どこぞのココウケンさんと違い、特質系の私はどちらの系統も覚えやすい。

 そしてそこに、この特質系の発を組み合わせる。そうすれば特質・具現化・操作の3系統複合能力として昇華できるだろう。

 

 念は心や思いが能力に影響を及ぼす。

 操作系は愛用の道具を持ち歩くが、これは思い入れが強いほどオーラを込めやすくなる為だ。

 

 ならば系統ごとに能力を作るより、纏めた1つの能力の方が強くなるはず。

 複数の道具を使うより、1つの道具を使い込んだ方が思い入れは強くなるからだ。

 

(で具現化する物だけど……やっぱりアレかなぁ)

 

 具現化系はイメージ修行が大変だ。

 だから今まで縁が無かったものより、すでに現時点でイメージしやすい物が良い。

 

 ……とくれば、やはり()()しかないだろう。

 

 私が転生するハメになった元凶。

 それでいて原作のシズクにも関わりがある生物。

 

 ――そう、つまり()()()である。

 

 これなら今でもハッキリ思い出せるし、その姿はある意味トラウマとして脳裏に刻み込まれている。だから別のものを一から具現化するよりも、それほど時間かからないだろう。

 

 これが純粋な具現化だったらなぁ。作りたいものは色々あったんだけど……。エクスカリバーとかゲイボルグとか主に宝具系を。しかし駄目な物はしょうがない。

 

「よし、そうと決まれば……すみませんもしもし。」

 

 私は携帯を手に取ると、近くのホームセンターへ電話を掛ける。

 注文したのは出目金の剥製。

 

 えっ、生きてる状態でペロペロしろ? 流石に生の金魚は勘弁してほしい。

 そんな舐めたら生臭くて間違いなく嘔吐する。部屋がゲロ処理場になってしまうのは流石に嫌だ。

 

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 それから1週間後、私の手元にはデブデブと太った出目金の剥製があった。

 全長は30cm。他の部分も細かく注文をつけた、死んだ時の金魚を出来る限り再現してもらった物である。

 

「よし、じゃあ始めるか。」

 

 それから私は一旦他の念修行を止め、しばらく具現化系のイメージ修行のみに集中した。

 

 最初は出目金を一日中いじくった。

 目をつぶって触感を確認したり、何百何千枚と写生したり。それから眺めたり、音を立てたり、嗅いだり、舐めたり、かじったり……

 

「剥製とはいえ、舐めるとなんか気持ち悪い。……思い出して吐きそう。」

 

 そうして10日後も経つと、今度は毎晩、出目金の夢を見るようになった。

 『ぎょっぎょっぎょ』と鳴きながら空中を優雅に泳ぐ出目金。

 

 そいつは楽しそうに私の周りを飛び回ると、最後は決まって口の中に飛び込む。

 そして私は吐き気を覚えて目を覚ますのだ。おかげで最近はとても寝起きが悪い。

 

「そういえば、クラピカも旧アニメで鎖に締められる夢を見てたっけ。」

 

 ひょっとしたら被緊縛趣味になってたり?

 私は気を紛らわす為に不埒な事を考える。頭に浮かんだのはクラピカが鎖で亀甲縛りされ、シャチホコのように仰け反っている映像だ。

 ただし途中から全身が赤くなりだし、顔が金魚に変わりだしたので考えるのを止めた。

 

「クラピカファンに殴られそう。」

 

 さらに10日後。

 起きてる間も視界の中に出目金の幻覚が映るようになった。視界内をチョロチョロ飛ぶ金魚が大変うざい。

 しかも手を伸ばして追い払おうとすれば、リアルな感触と重さがある気がした。というか今更だが、どうして剥製で修行してるのに出目金が動いているのか?

 

「多分、死んだ時の印象が強すぎたんだ。」

 

 そのせいで 出目金=飛ぶ イメージになってるのだろう。オマケにトラウマが強すぎて勝手に動く生物になっている。

 

 一瞬だけ別のものにすればよかったかな? という思いが頭をよぎる。

 だがここまでやったのだ、いまさら具現化物を変えるなんて、また金魚に負けるみたいで嫌だ。

 

「だけど……」

 

 代わりに、私の体調は酷い状態だ。

 夢でも日常でも出目金がうざすぎて、まともに休憩が出来ないせいだ。

 

 鏡で見れば目の下には濃い隈が出来ていて、髪の毛もボサボサ。肌は荒れ、ベッドの上と部屋の中はぐちゃぐちゃだった。

 

「具現化出来るのが先か、私が倒れるのが先か。」

 

 どうして私は出目金(空想)とデスマッチなんてやってるんだろう。

 どこぞのグラップラーさんの妄想だって、ココまでは追い込んでなかったよ?

 

 

 

 ――そして更に10日。イメージ修行からちょうど1ヶ月後。

 

『ぎょっぎょっぎょっぎょ!』

 

 ベッドの縁に腰掛けていた私の膝の上。

 そこにはいつの間にか自然と具現化された出目金が乗っていた。

 

「出来た……出来たぁああああ!!!」

 

 辛い修行を乗り越えた私は、部屋の中央で歓喜を上げた。

 私は具現化された出目金を見つめる。眼からは涙が止まらない。

 

「デメちゃん……」

 

『ぎょっぎょっぎょ……』

 

 会うのは実に6年ぶりだろうか。

 軽いトラウマになっていたのか、忘れたくても忘れられなかった。

 まさかこうして再会するハメになるとは思わなかった。

 

「デメちゃん……!」

 

『ぎょっぎょっぎょ!』

 

 脳裏にあの時の光景がフラッシュバックする。

 ボーナスが記載された通帳、迫るトラック、最低の運ちゃん……

 塀の上に居た猫コスプレのお姉さん……そして弾ける金魚の群れ……

 

「デメちゃーーーん…………!!」

 

『ぎょっぎょっぎょーーー!!』

 

 ギョロギョロと飛び出した両の目に、ブクブクに太った真っ赤な躰。

 それは私が転生するきっかけになった出目金そのもの!

 

 私は恐る恐る手を伸ばし――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくも私を殺したなぁーーーッ!!!」

 

『ギョギョーーーーッ!!?』

 

 そのまま出目金を掴んで、思い切り床に叩きつけた。

 こうして初めて具現化した念魚は、あっけなく砕け散って消えた。

 

 ……すごくすっきりした。

 

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「くそっ、あのガキ。また面倒なこと言いやがって。」

 

 シズクが空想の出目金とデスマッチを行なっていた頃。

 シンジは天空闘技場1階のベンチで嘆息していた。

 

 探して持ってこいと言われた200階の試合ビデオ。

 1本100万で買うと言われたので気合を入れて探した。だがしかし、これが不思議なことに全く見つからなかった。

 

「200階も190階も変わらないと思ったのに。」

 

 190階以下の試合ビデオは幾らでも出回っていた。

 それが200階を越える物になると、不思議とどこにも売られていない。

 

 それでもなんとか持ってそうな相手にたどり着いた。

 だがシンジが200階に行ったことが無いと言うと、それ以上は相手にしてくれなかった。

 

「こんなことなら、初日に逃げておけばよかったのかな……」

 

 あの化け物みたいなガキと、路地裏で出会った日。あの日から後悔しなかった日は一日もない。

 もちろん途中で何度も逃げる事を考えた。だが今となっては、もうそんな気力は残っていない。

 

 100階に到達した後に呼び出されたホテルの部屋。

 そこで見てしまったのだ。テーブルの上に無造作に置かれた私物。その中に有った『キキョウ・ゾルディック』と書かれた名刺を。

 

 それはつまり、あのガキはゾルディック家にコネがあると言うこと。

 

「よりにもよって伝説の暗殺一家とかさぁ……。最悪すぎて笑えねぇよ。」

 

 しかもすでに200階に到達し、奴の所持金は推定4億以上。

 

 金銭的にも暗殺依頼を出すのは簡単だ。

 そしてあのガキは、迷いなくその依頼を出しそうな気配がある。というかどう見ても、使えなくなった物はあっさり処分するタイプだ。つまりどこにも逃げ道はない。

 

「どうしてあの時の僕は、あんな化け物を襲ってしまったんだろうな。」

 

 あの時のことを思い出すと、今でも膝が震えそうになる。

 シンジも元は闘技場で有名になろうと、この街へやってきた若者の一人だった。

 

 しかしどれだけ頑張っても勝てなかった。

 1年戦い続けて最高記録はたったの50階。ファイトマネーも数万ジェニーがいいとこで、これではとても生活出来ない。上がらない戦績、上がらないモチベーション、減り続ける金……心が折れるのは時間の問題だった。

 

 そうしてしばらくすると最後は実家に帰ることを考えた。

 シンジの実家は複数の会社を経営する金持ちの一族だ。

 

 だが実にタイミングが悪かった。なんと年の離れた弟が生まれていたのだ。

 おかげで実家は祝福ムード一色で、とても自分みたいなのが戻れる空気ではなかった。

 

 そして最後はチンピラになり、路地裏のカツアゲで糊口を凌ぐ生活を送るようになった。

 

「弟‥…たしか名前はニコル、だったな。」

 

 シンジはまだ見ぬ弟の将来を願う。

 お前は俺みたいに落ちぶれるなよ、と。

 

 なお、その弟君も13年後に挫折する模様(原作1次試験参照)。

 

 

 

 

 それから10日後、シンジは闘技場1階の観戦席に居た。

 右手には買ってきたジュース。新作の塩サイダーコンブ味。薄めてない海水に炭酸を混ぜような味だ。おまけにブヨブヨしていて、舌に生コンブのような感触が纏わりつく。はっきりいってくそまずい。

 

 あれからシンジは何とか200階より上の事情を把握した。

 なんでも、ここからは超能力のようなものが使われているらしい。なので試合を見るだけでも特別な会員になる事が必要だった。手に入れるのには他会員からの紹介と、結構な額の金を必要とした。

 

「くそっ、もう金が残ってねぇ。」

 

 今のシンジは金欠だ。

 会員になる為にあちこちで借金をし、口座の預金も今月の生活費しか残ってない。

 

「だから、どうしてもこの機会に稼いどく必要がある。」

 

 本当に100万もくれるかは分からないが、それでも賭けるしかない。

 なんせすでにあのガキは億万長者、100万なんてハシタ金だ。

 

 それにこうして金額を提示してきたということは、金の使い方が分かっているという事。ならばポイっと投げ渡してきても不思議じゃない。

 

「まぁそういう子供らしくない所が、また不気味な訳だけど……」

 

 ――実は私、子供の形をした悪魔なの。

 

 そう言われても素直に納得できそうだった。

 だがもう逃げられない。ならあとに出来るのは、自分の立場を上げることだけ。このままどうにか取り入って、美味しいポジションに就くしかないのだ。

 

 ただし最初に"玉砕姫"と呼んじゃったのはシンジなので、これだけは絶対にバレないようにしなければならない。

 

(はは、やってやる。やってやるさ。僕だって昔は天才って言われてたんだ。)

 

 シンジは決意を新たに、エレベーターに向かって歩き出す。

 とりあえず一度、試合を直接見てみるか、なんて言いながら。

 

 

 

 それから10分後の200階ロビー。

 そこには試合チケットが高すぎて買えず、絶望して膝を突いたシンジの姿があった。

 




シンジ:お願いします金貸して下さい。
    直接試合見れないし、誰もタダじゃビデオダビングさせてくれないっす。
シズク:あのさぁ……(そろそろお役目御免かな?)
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