シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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第12話 ゲート(仮)

 地上から700m以上離れた闘技場245階。

 スペシャルゲストとして呼ばれた試合の終了後。

 自室に帰ったマゾラーは椅子に腰掛け、優雅に酒を飲んでいた。

 テーブルの上には酒のボトルとおつまみ。対面にはサドエラ。

 しかしよく見れば、どこか落ちつきが無いのが分かっただろう。

 理由は言わずもがな、先程あった試合のせいである。

 

「なんだあのオーラ量は? あれで6歳だと? ……ありえん。」

 

 マゾラーはこの階に居る、数少ない古参闘士の一人だ。

 12年前にこの闘技場を訪れ、6年前にフロアマスターへ。

 以来、あらゆる手段を使ってこの地位を守ってきた。

 そんなマゾラーだからこそ分かる。

 

「あのガキは何かおかしい。」

 

 グラスを傾けながら今日あった試合を思い出す。

 子供らしからぬ立ち振舞と物言い。それに戦い方。

 だが一番おかしかったのはその身に纏うオーラだ。

 その量は明らかにマゾラーの全力を越えていた。

 いやもしかしたら、フロアマスターの誰よりも上かもしれない。

 しかもそれが6歳のガキなのだ。意味が分からなかった。

 

「お前はどう思った?」

 

 マゾラーは自身の参謀であるサドエラに意見を求める。

 問われたサドエラは考えこむように顎を数度撫で、次にマゾラーの酒棚から(勝手に)持ってきたボトルを1本飲み干す。

 それからようやく口を開いた。

 

「なんの話ですか?」

 

「おい。」

 

 マゾラーは憤怒した。それお気に入りのやつだったのに! と。

 だが今は喧嘩している場合ではないので、我慢して先を促した。

 2本目を取りに席を立とうとしたサドエラをその場に押し留めながら。

 

「今日戦っていたガキのことだ。」

 

「ああ、……まぁ確かにあのオーラ量は驚異ですな。ですが恐れる事はないでしょう。」

 

「ほう、その心は?」

 

「所詮はガキですからな。いくらリングの上で強くても、他にやり方はあるかと。」

 

「……リング外での脅迫。言うことを聞かなければ複数で袋にする、か。」

 

 200階からは戦ってもファイトマネーが出ず、報酬は名誉のみという事になっている。

 だがそれは表向き。実際はフロアマスターになれば講演・アドバイザー等、美味しい仕事が山程入ってくるのだ。

 それにこの地位を活かして談合を仲介すれば、手数料だけでもいい小遣い稼ぎになる。

 初戦で心が折れた選手に優しく声をかけ、別の選手に勝ち星を売らせるのである。

 これが190階以下であれば運営から警告がくるが、ここでは運営は何も言ってこない。

 恐らく4回負けるまで地上に落ちない所為だろう。

 

 なので結局は金を目的に戦っている者がほとんどである。

 そのため上位の選手間では、自然と協定が結ばれるようになった。

 将来邪魔になりそうだと思われる者は、裏で袋にされ潰されるのだ。

 このままいけば、恐らくあのガキもそうなるだろう。

 

「ええ、それこそいつものように。

 それにどうやら恨みも相当買っているようですからな。

 声をかければ結構な数が集まるでしょう。」

 

「玉を砕かれた男どもか……」

 

 今日の戦いであのガキの勝ち方、容赦の無さはここの選手全員に知れ渡っただろう。

 どうやら下の階でも同じ勝ち方だったようだし、フロアマスターの自分が声をかければ、報復したいと思うものは沢山集まるはずだ。

 

「それに戦いになっても、マゾラー殿なら勝てるでしょう?」

 

「ふん、もしもの時は我が『マゾラゴン』で消し炭にしてくれるわ。」

 

 マゾラーはそう言いながらグラスを傾ける。

 でも砕かれたら嫌だから、出来れば他の奴と当たりますように、と願いながら。

 なおサドエラはいつの間にか5本目を開けていた。

 

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「いやぁ昨日の戦いは楽しかったね、デメちゃん。」

 

「ぎょっぎょっぎょ!」

 

 ぜんぜん楽しくねぇよ、お前ふざけんな。

 そんな事を言いたそうに首を左右に振るデメちゃん。

 その頭を鷲掴みにして抱えつつ、寝室のベッドに腰掛ける。

 

 さて、これでガワの用意は出来た。

 

「だから今日はついに特質系の発の実験だよ!」

 

「ぎょぎょ?」

 

 デメちゃんが不思議そうにこちらを見る。

 どうせ失敗したら口の中から破裂したりするんでしょ? 知ってるのよ?

 そんな事を言いそうな瞳だ。でも間違ってない。

 けど上手くやれば大丈夫。きっと眼から触手が生えるぐらいで済むはずだ。

 

 さて、今回使うのは、念における『制約』と『誓約』である。

 この2つを厳しくするほど、念は爆発的に性能が上がる。

 

 うん? 漢字だけだと分かりづらいって?

 私も最初読んだ時はそう思った。でも慣れるとけっこう簡単。

 一言で言えば制約が『ルール設定』、誓約が『リスク設定』だ。

 

 これを原作の能力に当てはめると、例えばクラピカの中指の鎖。

 この鎖には『旅団以外には使わない』という制約(ルール)と、『破った場合は死ぬ』という誓約(リスク)が付けられている。

 これによりこの鎖は性能が大幅に上昇、念を覚えて半年足らずのクラピカでも、強化系をほぼ極めきったウヴォーギンを拘束できるほどの強度となっていた。

 どう考えてもパワーアップし過ぎだが、念とはそういうものなのだ。

 なのでこれらを上手く付けられるか否かが、そのまま能力の強さに直結すると言えよう。

 

「でも誓約は怖いから止めとこ。今のところは無しで。」

 

 クラピカは念を覚えて半年で旅団とバトルだった。

 だが私にはゆっくり鍛える時間が有る。

 ならば無駄にリスクを背負う必要はない。

 という訳で今回は制約のみを設定する。

 

「まずは1つ目の制約、"ゲートは一度行ったことの有る場所にしか繋がらない"」

 

 瞬間移動系ではお馴染みの制約だ。

 事故防止にもなるので、大体の人が付けてると思われる。

 "石の中に居る"なんて、誰だってごめんだからね。

 

 ちなみに"ゲート"とはあの黒い塊(穴)の暫定名だ。

 そのままだと分かりづらいので、今後はこの名称で呼ぶことにする。

 

「じゃあ一度使ってみよう。」

 

 私は膝の上でビチビチと跳ねていたデメちゃんを掴み、ベッドから立ち上がる。

 それから隣の部屋に向かい、備え付けの大きな姿見の鏡の前へ。

 両手でデメちゃんを後ろから抱え、腕を伸ばして床と水平に。

 それからデメちゃんのお顔を鏡に向け、口を大きく開かせる。

 

 これならどこに繋がったか鏡ごしに確認が可能。

 それに何かあれば、すぐにデメちゃんを壊して止めることも出来る。

 

「では、ベッド、ベッド、ベッド、…………"ゲート"オープン!」

 

 頭の中に寝室のベッドの上を思い浮かべる。

 それから空間に穴が開くイメージでオーラを練る。

 するとデメちゃんの口の中に波紋のようなものが広がり……

 

 

 

 

 

 

『ぎょぎょっ!?』

 

 ゲートが繋がったその先では、魚面が驚いた顔でこっちを見ていた。

 

「知ってた。」

 

 すぐにゲートを解除する。

 

 正直、予想はしていた。

 どう考えても人の力ではありえないこの能力。

 ならばこれは私のではなく、あの邪神の神殿(仮)で得た力では無いかと。

 

「だから少しでも隙があれば、あの空間に繋がってしまうんだろうね。」

 

 恐らく選択肢に邪神の神殿(仮)がある場合、強制的に選ばれる。

 元々がそういう力なので、どうしてもそっちに力が向いてしまうのだろう。

 

「もしかしたら地球に行けるかも、なんてちょっと期待してたんだけどな。」

 

 どうやらこの分では無理そうだ。

 では次になぜ態々こんな力を与えているのか? という疑問が湧いてくるが。

 

「そんなの決まってる。たぶん、新しい生贄を捕まえる為、かな?」

 

 つまり私が引いたC賞(仮)は()()()だった訳だ。

 恐らく私以外にC賞(仮)を引いた9人にも、転生先で同じ様な事が起こっているのだろう。

 

 とすると、制約ももっと厳しくしないとダメだろう。

 別の世界に繋げようとすれば、恐らく先ほどと同じことになるだけだ。

 少なくとも、もっとこの世界に限定されるようなものでないと。

 

 もちろんその場合は、元の地球へ帰る可能性は完全に捨てることになる。

 だが問題ない。なぜなら元々帰る気なんて無いから!

 

「だってこっちのほうが、絶対にスリリングで楽しいし!」

 

 地球側の漫画やアニメが見れないのが少しだけ悲しいが、そこは諦めるしかない。

 

 

 

 それから私はうんうん唸りながら考え続けた。

 そして最終的にはこんな感じになった。

 

〈制約〉

 ゲートは以下の方法で作った"接続ポイント"にしか繋げられない。

 ①現地に赴き周囲を記憶する

 ②地面もしくは床に念で金魚の絵を書く

 ③描いた絵の上で練を30分続ける

 

 参考にしたのは同じ特質系であるクロロの能力。

 やはり0からよりも、実例を参考にしたほうが考えやすかった。

 

 それから③の『練30分』がちょっとめんどうだが、これはこれで2つの利点がある。

 

 まず一つ目は『無茶振りを避ける』ため。

 仮にもしこの③が『10秒間絶で居る』だったらどうだろうか?

 原作のノヴさんみたいに

 『ワシより強そうな相手の円をくぐり抜けて侵入口を作ってこい。ハゲてもやれ。』

 なんて事をやらされかねない。いや、ノヴさんは自発的だったのだろうけども。

 

 でも私は他人のお膳立てのために、身を危険に晒すのはゴメンである。

 ハゲになりそうな仕事は絶対にNO!!

 

 その点、こうして初めから潜入に不利な条件を組み込んでおけば、そういう仕事は回されないはずだ。たぶん。

 

「ていうかそもそも私、侵入するより爆破する派だしね。」

 

 某運命ゼロでのキリ○グさんは最高でした。

 私もなぁ、高層ホテル爆破したり、飛行機にスティンガー撃ち込んだりしてぇなぁ。

 おっと、少し思考がおかしくなった。

 

 えー、そしてもう一つは修行ついでにやれることだ。

 練の修行は一生続ける物なので、これなら同時に接続ポイントが作れる。

 

「つまり、潜入任務お断り&修行ついでに接続ポイントの作成! これなら一石二鳥だよ!」

 

 また上記とは別に

 ・ゲートを開く(延長時も)にはオーラの先払いが必要(10秒分)

 

 という制約も付けた。まぁこっちは単に管理をしやすくするためだ。

 1秒単位で開閉とかめんどうだし、開きっぱなしでオーラが枯渇するのも困る。

 ちなみに時間は延長可能。ただし途中でゲートを閉じても、使ったオーラは戻ってこない。

 

 それから私は早速、寝室のベッドの上に接続ポイントを作った。

 その後、別の部屋から再びゲートを使ってみるも、今度はちゃんとベッドの上に繋がった。

 

「…………」

 

 そのまましばらく待ってみるも、魚面が出てくる事は無かった。

 次にそのままデメちゃんの口に手をつっこみ、ベッドの上に置いてあるお菓子を掴む。

 そしてそれを持ったまま手を引き戻す。すると私の手にはお菓子が握られたまま。

 次に逆を試してみるも、こちらも問題なくお菓子を置いてこれた。

 

「キタ――――――(゚∀゚)――――――!! っしゃぁ!!!」

   

 成功だ。これでようやく私の力が全て使える目処が経った。

 今後は徐々に接続ポイントを増やしていけば、長距離の移動から物資の補給まで、割と何でも出来る便利な能力になるだろう。

 

「くっくっく、この力はせいぜい有効活用してやるぜ!!」

 

 私はこの力の使い道を考えてほくそ笑む。

 ついに勝利の女神(魚面)がチラつかせていたパンツを、この手に取ることに成功したのだ。

 あとはこの力を使いこなせば、輝かしい将来が約束されたも同然だ。

 

 

 

 なおこの日以降、毎日夢の中で右手を血まみれにした魚面が襲ってくるようになった。

 もちろんそんな誓約を付けた覚えはない。

 もしかしてゲートを制御された腹いせだろうか?

 

 だがまぁ大したことではない。なんせ私とデメちゃんのコンビは無敵だ。

 二人のマッスル・ドッキングで頭を砕けば、その日はもう魚顔は夢に出てこなくなる。

 むしろ今まで試せなかった打撃・関節技の練習台として大いに役立っているぐらいだ。

 ついでに二足歩行生物の殺害予行練習としても。

 




・黒い穴
邪神の祭壇(仮)で人に転生した場合に付与されるチート。
元々は生贄として周囲の人間を攫うための侵入口。
主人公は念能力でむりやり制御している。

・ゲート(仮)
デメちゃんに付加された、別の地点に空間を繋げる能力。名称は暫定。

〈制約〉
 ・ゲートは以下の方法で作った"接続ポイント"にしか繋げられない。
  ①周囲を記憶 ②念で金魚の絵を描く ③絵の上で練を30分続ける
 ・ゲートを開く(延長時も)にはオーラの先払いが必要(10秒分)

 なお誓約とは違うが、使った日は夢の中で魚面が襲ってくる。
 殺されると邪神の祭壇(仮)に連れて行かれるが、逆に殺すとその日は出てこなくなる。
 普通に命がけだが、侵入口が開けれなくなった魚面たちが、やけくそでやってるだけなので誓約にはならない。
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