シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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第16話 会場への道は危険が一杯

『お客様にご連絡いたします。当飛行船はあと5分でドーレ港に到着いたします。

 お降りの際はお忘れ物が無い様、ご注意ください。繰り返します……』

 

 備え付けの船内スピーカーからアナウンスが流れる。

 飛行船前方の展望エリアで読書していた私は、それを聞いて視線を地上へ向けた。

 進行方向の先には、遠くに賑わってそうな港町が見えた。

 

(フフフ……)

 

 自然と口元が吊り上がる。

 現在は1986年の12月1日、ハンター試験の約1ヶ月前。

 私はちょっと早めに闘技場を出て、長距離用の飛行船に乗りこんだ。

 今回は密航ではない。ジャポンから出たときと違い、シンジの名前を使うことで客としての乗船である。ただし入国ビザは取ってないので、このまま降りると空港で捕まる。

 

(ようやく着いた……!!)

 

 読んでいた本――"古代スミ族の入墨集"を閉じて腰のポシェットに仕舞い、側に置いていたリュックに手をのばす。リュックは子供が背負うには不釣り合いなほど大きく、また片側には崖登りで使われる頑丈なロープが束ねて取り付けられていた。

 

 私はリュックを背負って歩きだす。

 この飛行船は長距離用だけあって大きく、施設も充実している。

 展望エリアから客室エリアへ、さらにその先の娯楽エリアを通って飛行船の後部へ。

 そのまま乗るときに使った後部乗降口へたどり着くと、ちょうど奥の方からアテンダントさんがやってきた。恐らく着陸に備えての見回りだろう。

 

「お客様? もうすぐ着陸致しますので、お席にお戻りください。」

 

 アテンダントさんはやんわりと注意を促した。

 やはりそうだ。地球の飛行機と同じで、飛行船も離着陸時に立っているととても危ない。

 だが残念ながら私にその注意は意味がない。

 

「あっ、お構いなく。私は()()で降りますから。」

 

「はっ?」

 

 アテンダントさんの笑顔が、何いってんだコイツ? という顔に変わった。

 私は構わずリュックから防風ゴーグルを取り出すと、ズレないようにしっかりと頭に装着する。

 それから筋肉で無理やり乗降口のドアを開けた。

 

「おお……!!」

 

 外には突き抜けるような青空が広がっていた。

 飛行を補助するプロペラの音と共に、冬の冷たい風が吹き込んでくる。

 

「ちょっ、ちょっと!?」

 

 アテンダントさんが慌てて私を止めようと手を伸ばした。

 しかしそれよりも私の行動の方が早い。

 

「お仕事頑張ってくださーい!」

 

 私はアテンダントさんにお別れを告げると、()()()()()()()()()()()()

 そして吹き飛ばされないよう外壁に掴まりながら、きちんと出たドアを締める。

 最後に巻き込まれないようにプロペラの位置を確認すると、手を離して大空に身を投げ出した。

 

「ん~、気持ちいぃ~!!」

 

 手足を伸ばし風を全身に受けて空を舞う。

 いくら今日が快晴とはいえ、やはり上空は風が強い。

 もちろんこのままだと地上へ落下してしまうが、焦る必要はない。

 

 私は素早く能力を発動させ、一匹の出目金を具現化する。

 さらにその上にしがみつくと、その出目金はゆっくりと高度を下げながら、そのまま前へと進みだした。

 

「よろしくね、デメちゃん。目標はあの一本杉だよ!」

 

「ぎょぎょぎょ!!」

 

 初めてデメちゃんを具現化してから約2年。

 日々訓練に励んだかいがあり、現在のデメちゃんは全長1mまで巨大化。

 更にこうして私を乗せて飛ぶことも可能になった。

 

「まぁ高度は10mが限界。速度も時速20キロ程度しか出ないけどね。」

 

 緩やかになったとはいえ、落下していくのは変わらない。

 それに速度もまだまだ遅くてとても戦闘では使えない。だが移動手段としては十分だ。

 そして当たり前のことだが、()()()()()()()()()()()()()

 

 私はまず背中のリュックに付いているロープを伸ばし、デメちゃんの体に巻き付けて固定する。

 それからさらにリュックの中から飛び出ていた紐を引っ張ると、リュックが()()され人工的に作られた翼が飛び出した。

 翼は正三角形の形をしており、発生する揚力によってデメちゃんの飛行を安定させる。

 

 つまりこのリュックは折りたたみ式のハンググライダーだ。

 私の実力不足で未だに上手く飛べないデメちゃんを補助する為に作ってもらった特注品。

 いわばマ○ンガーにおけるパイルダーみたいなものである。

 

「デメちゃん、GO!!」

 

 ハンググライダーと合体し、飛行モードとなったデメちゃんが空を行く。

 目指すのは原作で主人公組が寄っていた一本杉。

 標的は根本に住んでいる魔獣さん一家である。

 

 この一家は原作でナビゲーターという仕事を請け負っていた人たちだ。

 試験の会場は毎回変わるが、その会場へ見込み有りと思われる受験生を案内する役目を持つ。

 いわば、会場への直通券のようなもの。

 

「引き受けてくれるといいなぁ。」

 

 ハンターの知り合いなど居ない私にとって、試験会場までの道はこの原作知識だけが頼りだ。

 まぁまだナビゲーターになってない、というパターンも考えられるが。

 その場合は改めて試験会場を目指す事になるだろう。時間的にそのぐらいの余裕はある。

 

 しばらく進むと眼下にゴーストタウンのような建物が見えてきた。

 

(おお、あれがドキドキ2択クイズをやってたところか。)

 

 ハンターファンとしては是非訪れてみたいポイントだ。

 色々有って天空闘技場は感動してる暇がなかったが、やはりこうして原作に出てくる場所を見ると、心にこみ上げてくる物がある。

 上手く交渉がまとまって時間が出来たら、一度遊びに行ってみてもいいだろう。

 あといらっしぇーいの定食屋も。

 

「ちゃんと"古代スミ族の入墨"についても学習済みだからね!」

 

 原作で魔獣の娘さんが腕に彫り、クラピカが解読して褒められていた物だ。

 やはり共通の話題が有ったほうが会話は弾む。

 学習に使った本では分からない部分もあったので、個人的にも色々と聞いてみたい。

 

「楽しみだなぁ。」

 

 私は久しぶりにワクワクとした気持ちになりながら、そのまま空を飛び続けた。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

「ここが今回の試験会場です。」

 

 世界地図の南東大陸を代表する国、"オチマ連邦"。

 そしてその国土の西側に広がる砂漠、その入り口に立てられた街、"六四市"。

 その中にある巨大な大学の正門前に、シズクとナビゲーターのキリコ夫婦は居た。

 

「門横の警備員に"配管の修理に来た"と言えば通じます。あとは案内に従って下さい。」

 

「はーい、ありがとうございました!」

 

 大学の前でここまで連れてきた子供――シズク、に後向きのまま片手を振り、キリコ夫婦は来た道を戻りだした。

 そうしてしばらく油断せず歩き続け、角を曲がった所でようやく肩の力を抜いた。

 キリコはその場で足を止めて壁に寄りかかると、ポケットからタバコを取り出して火を点け、ゆっくりと煙を吸い込んだ。

 

「……ふぅ~。やれやれ、なんとか死なずに済んだな。」

 

 吐き出された紫煙は、倦怠が混じったかのような灰色だった。

 一ヶ月にも及ぶ緊張から解放され、体にどっと疲労の波が押し寄せてきた。

 

「あなた……」

 

「ああ、もう大丈夫だ。」

 

 キリコは一緒に来た妻と抱き合い、幸せを噛みしめる。

 

 あの日、今から丁度1ヶ月前。

 ハンター試験のナビゲーター役の仕事に受かった事を祝い、妻と二人で慎ましいパーティを開いていた時のこと。

 

 シズクと名乗った少女は金魚に乗り、空から窓をぶち破ってやってきた。

 

『あー、いたいた! すみませんハンター試験の会場まで案内をお願いします。』

 

 そして一言目がこれである。当たり前だが、キリコ達の家はタクシーの待合所ではない。

 夫婦はしばらく空いた口が塞がらず、ようやく言葉を発せたのは5分も経ってからだった。

 

「ハンターを目指す者の中には、たまに可笑しな輩が混じっているとは聞いていたがな。」

 

 だがまさかナビゲーターを引き受けた最初の年に、こんなのが来るとは思わなかった。

 それでも何とか役目を果たそうと"実力を見せてほしい"と頼んでみれば、その子供はどこかから取り出した大型の拳銃を遠慮なくぶっぱなし、凄まじい威圧を発しながら『もっと見ますか?』だ。心臓が止まるかと思ったほどの恐怖だった。

 

「本来なら案内したくなかったんだがなぁ……」

 

 ナビゲーターの役目には、ハンターに相応しくない人物を事前に除く事も求められる。

 だが『そう言えば息子と娘さんがいるんですよね? 古代スミ族の入墨について話が聞きたいんですけど』なんて言われてはどうしようもない。

 

 家族構成まで完全に把握され、大学に通う娘の専攻までバレているなんて完全に詰みだ。

 もはや黙って従うしか選択肢は残されていなかった。

 せめて自分たちの情報の入手元だけは聞いておきたかったが、彼女が漏らしたのは"ヒミツです♪"の一言だけで、結局は有耶無耶のままだ。

 

 そんな感じでこの一ヶ月、キリコたちは胃を痛める日々を送ってきたのだった。

 

「オババも大変そうでしたね。」

 

「そうだな。お土産でも買っていこう。」

 

 彼女の被害にあったのはキリコたちだけではない。

 山の中腹に住む老婆、通称ドキドキクイズオババ――キリコと同じく事前に受験者を振るいに掛ける役割を持つ、も同じような目にあったらしい。

 

 なんでもクイズの不正解者を案内する通路に入られ、その先の獣が殺されたとかなんとか。

 おまけに失格にするぞ、と脅せば『別にいいですよ? だってまだ申し込んでませんから。』だったそうだ。

 

 当たり前だが、()()()()()()()()()()()人間を不合格にする事はできない。

 

 ハンター協会は試験において、必要なのは実力のみと公言している。

 試験への申込みはネットで簡単に出来、それも自己申告の名前を入力して受験番号を受け取るだけのお手軽さだ。そこに戸籍や経歴などは一切問われない。

 それはつまり殺人鬼だろうが暗殺者だろうが、申し込み前に何をやらかしていても受験は可能だということ。

 

 また、仮にキリコ達の報告で不合格になっても、それは今年だけで来年はまた受験することが出来る。

 ではそうなった場合、彼女はどうするか? 間違いなく()()()()()だろう。

 そうなっては最悪である。なので結局は素直に案内することにしたのだ。

 

「出来れば受かってくれよ……」

 

 キリコ夫婦は彼女の合格を願った。もう二度と会いませんように、という意味で。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「ふーん、九八亜姫大学か。配管工にクッパと姫……マ○オかな?」

 

 私は堂々とそびえ立つ正門を見上げる。

 そのデザインは開いたアワビを模した、ちょっとキモい形をしていた。

 ここまで案内してくれたキリコさんの話では、街の周囲が砂漠ばかりなので"いつか海みたく沢山の水に囲まれるように"という願いを込めてこのデザインが採用されたらしい。

 

(作った奴も採用した奴も正気じゃない。)

 

 一本杉の根本に住む魔獣、キリコさんはいい人だった。

 最初はこちらを警戒していたが、外を飛んでいた鳥を銃でぶち抜き、全力の練を行いながらお話をすると快くナビゲーターを引き受けてくれた。

 着地をミスってぶち破ってしまったガラスも、後でちゃんと弁償したら笑って許してくれたし。

 

 まぁどうやってキリコさんを知ったのかを問われた時は焦ったが。

 流石に"原作知識です"なんて言えないので、秘密ということでごまかした。

 

「ドキドキ2択クイズの場所も楽しかったな。」

 

 不合格の道は迷路のように折れ曲がり、ちょっとしたアスレチックのようになっていた。

 途中では何匹も獣が襲ってきたが、銃の威力を確かめるにはちょうどよかった。

 確か人を襲った獣は処分してOKだったので、殺しても文句は言われない。

 

 ザバン市では定食屋がまだオープンしてなくてがっかりだったが、代わりに街を観光して回ったのでいい気晴らしになった。

 

 そうして12月31日に試験を申し込み、改めてこの会場へ連れてきてもらったのだ。

 

「さて、ココからは気合いれて行かないとね!」

 

 楽しかった旅はここまで。ココから先は泣く子も毒を盛られるハンター試験の本選だ。

 会場に入る前に改めて装備を整える必要がある。

 

 私は一旦正門から離れ、身を隠せそうな場所に移動。

 そこでゲートで取り出しておいたバッグを下ろす。

 ジッパーを動かして中を開けば、入ってるのは試験で使うための装備類だ。

 

 私はそれらを取り出して一つずつ身につける。

 まずは防具類。シャツの上からボディアーマーを着る。

 ベスト機能がついたモジュラータイプのものだ。

 手にタクティカルグローブを嵌め、鉄板入りの軍用ブーツを履く。

 念のため肘と膝にもパッドをつけ、雨具兼用の防刃コートを羽織る。

 

 次に取り出したのは武器類。

 ベストの胸下モジュラーに破片・閃光・催涙・発煙手榴弾を1個ずつ取り付ける。

 原作では4次試験でポンズが使っていたが、やっぱりデバフ系は便利である。

 これだけあれば大抵の状況に対応できるだろう。

 

 左太腿のレッグホルスターにはサバイバルナイフを。

 ワイヤーなどの小物もポケットに仕舞う。

 

 それからサブ武器であるオートマチック。

 銀お姉さんにお勧めされた50口径の自動拳銃だ。

 スライドを引き初弾を装填、セーフティを掛けて右腰のホルダーへ。

 

 メイン武器はサブマシンガン。

 マガジンキャッチを押してマガジンを排出、弾を確認してから戻してセーフティを掛ける。

 こちらはサスペンダーを使って左肩から吊るし、予備マガジンは腰に3本挿しておく。

 

 あとは戦闘用ヘルメットを被り、()()()()のガスマスクをつければ完成だ。

 ちなみにこれらの防具はサイズを子供用に直してもらった特注品で、ガスマスクだけは銀お姉さんのお下がりである。マジであの人は何をやってたんだろう? 製薬会社でウィルスを回収してたのか、それとも3つ首の部隊で伝説になっていたのか。

 

「よしっ!」

 

 全ての装備を身に着けた私はその場でくるっと回転。

 続いて各装備に手を伸ばし、使いやすい位置に収まっていることを確認する。

 

「フフフ、もはや試験は受かったも同然っ! 矢でも鉄砲でももってこいや!!」

 

 全身に武器を身につけると気分が高揚する。

 これなら念を併用して戦闘すれば、小隊数個ぐらいは消し飛ばせるだろう。

 

 最後にデメちゃん経由で別の武器バッグとバイクを引っ張り出す。

 バイクはパッソルと呼ばれるジャポン製スクーターだ。私が地球で愛用していた機種で、銀お姉さんと二人で魔改造し、前面にはデメちゃんを模した金魚の顔を描いてもらった。

 原作みたいに長距離マラソンがあるかもしれないからね。もちろん自爆装置付きだ。

 デメちゃんが大きくなったおかげでゲートも巨大化。知恵の輪を解くように上手くやりくりすれば、バイク程度の物ならこうして取り出せるようになった。

 

 完全装備になった私は、バイクを引きながら再び大学の入り口へ。

 

「……一応お聞きしますが、どのようなご用件で? テロリストじゃありませんよね?」

 

 正門に近づくと警備員さんは緊張した様子で用件を聞いてきた。

 だが私は慌てない。落ち着いて先ほど聞いた合言葉を告げる。

 

「"配管の修理に来た"」

 

「……本館の来客受付でこのカードをお渡しください。」

 

 引き気味の警備員さんから渡されたカードを受け取る。

 私は内部がウネウネと動いているキモイ正門を通って、大学の中へ踏み込んだ。

 

 




■主人公の装備一覧
左手:Uzi Pro(ロングマガジン)
右手:デザートイーグル
左腿:サバイバルナイフ
胸下:手榴弾4種

頭:戦闘用ヘルメット
顔:ガスマスク
体:ボディアーマー
手:タクティカルグローブ
足:鉄板入り軍用ブーツ
外套:防刃コート
乗物:パッソル改(ニトロ付)
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