シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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第17話 狂気が渦巻く試験場

「や、やっと着いた。」

 

 本館の来客受付に行くと、そこから校内をたらい回しにされた。

 校舎を3つか4つぐらい移動しただろうか。まるでゲームのお使いイベントのようだった。

 

「まさか本当に配管の修理をやらされるなんてね……」

 

 途中の家庭科室では『どうぞお好きな配管をお直し下さい』なんて言われた。

 部屋の中にあった蛇口は100個以上だ。一体どんだけ壊れているのか。

 

 そうして最後に辿り着いたのが、目の前にある大講堂である。

 それは亀を模した様なデザインで、手足の部分が入り口になっており、緑の甲羅からは鉛色のトゲトゲが飛び出ている。

 おまけに45度の角度で伸びている首がすごく卑猥だ。水揚げされる前のク○パかな?

 

「ようこそいらっしゃいました。」

 

 左前足の入り口から中に入ると、そこには豆のような人が立っていた。

 

(おお、会長秘書のビーンズさんだ! あれっ、マーメンだっけ?)

 

 確かマンガがビーンズで、アニメの方はマーメンだったはずだ。

 私の格好とバイクを見ても一切の動揺がないのは流石である。

 

「こちらが番号札になります。」

 

 丁寧に差し出された札を受け取る。番号を確認すると999番だった。

 

(999番、むりやりゴロにすれば"苦苦苦"かな? ……不吉だなぁ。)

 

 出来ればあと一人通ってから来るべきだっただろうか。

 まぁ覚えやすいから、これはこれでヨシとしておこう。

 

「試験は時間になり次第始まります。奥のメインホールでお待ち下さい。」

 

(番号札を配ってるってことは、試験はこの場所でって事だよね。)

 

 ということは1次試験は室内で行われる物になる。

 キルアが受けた2回目の試験みたいに、プレートを求めて殴り合うのだろうか?

 手榴弾の全種投擲、からのサブマシンガン斉射でどれぐらい片付けられるか……

 

 私は番号札を胸に付け、バイクを引きながら講堂の奥へと進む。

 通路を抜け、大講堂のメインホールに入ると、そこには巨大な空間が広がっていた。

 奥に目を向ければ中央に舞台があり、そこから半円形に座席が広がっている。

 天上を見上げればゆうに3階分以上の高さが有った。

 

(……広い。)

 

 今の私では全力で垂直跳びをしても届くかどうか。

 途中で読んだ案内板によれば、最大で5000人を収容できるらしい。

 ここまで大きいと、もう小さめのスタジアムと呼ぶべきだろう。

 

(ここが1次試験の会場か。)

 

 中にいる人達も多種多様だ。

 巨大なアフロのおじさんに、額からアンテナが伸びている学生、頭から黒い布を被っている集団もいれば、動物の着包みを着た人達もいる。逆に股間に葉っぱ一枚だけの人もいた。

 

(わあぉ、流石ハンター試験。一筋縄じゃいかなさそうな人達ばっかりだ!!)

 

 こういう正気と狂気の境目を歩いていそうな人たちを見ると、ここがあのハンター試験の場なのだということが実感できる。オラわくわくしてきたぞ!!

 

「よぉ、君新人だろう?」

 

 私が入り口で立ち止まっていると、胸に108番の札を付けた、四角い鼻をしたおっさんが話かけてきた。

 横にしたカロリーメイトを2本貼り付けたような鼻だ。骨とかどうなってるんだろう?

 というか、この人はもしかして……

 

「俺はトンパだ。よろしくな!」

 

(で、でたぁ! ハンター試験における影の主役! 新人つぶしのトンパさんだぁ!!)

 

 原作キャラとの会合により更にテンションが上がる。

 トンパさんは原作で44歳。ということは今は31歳だ。間違いなく肉体的に全盛期だろう。

 その体からは"新人はみんな俺様の玩具だぜグヘヘヘヘ"というゲスい雰囲気が溢れているッ!

 壁により掛かり、顔を斜めに傾けながらニヤリと笑う様はまさに試験のベテランッ!

 これはできる男の顔(キチガイ)ですわッ!!

 

「まずはお近づきの印だ。まぁ飲みなよ。」

 

 私が感動に身を震わせていると、トンパさんは自然な動作で缶ジュースを差し出してきた。

 その動きはあまりに滑らかで、まるで何千回も繰り返したような流麗さだ。

 一体どれほどの受験者を貶めればこれほどの域に達する事が出来るのか……

 

(おお、これが噂のトンパ汁!!)

 

 もちろん貰わないという選択肢はない。

 原作と同じなら3日も下痢が止まらなくなるという、素晴らしい嫌がらせアイテムだ。

 後で他の受験生に飲ませてあげなきゃ(使命感

 

「ありがとうございます。でも今飲むと()()()()()()()なので、後で(他人が)頂きますね。」

 

「……ほう。」

 

 遠回しに"お前のジュースは知ってんぞ"と告げると、トンパさんは一瞬だけ真顔になり、少しだけ雰囲気が変化した。

 オンゲで初心者を見つけたので狩ろうとしたら、知り合いのセカンドキャラだった事に気づいた、そんな微妙な変化である。まぁオンゲだと結局狩るんだけどね、ネタになるから。

 

「ところで()()()()()()()()()()、良ければ面白そうな人を教えてもらえませんか?」

 

「……良いだろう。ただしそっちも顔を見せてくれないか?」

 

 更に黙っているから他人の情報プリーズ! と暗に告げてみれば、トンパさんはあっさりと了解してくれた。

 他人を売るのに躊躇なさすぎて草が生える。しかもちゃっかり元を取ろうとしてくる辺りが流石である。

 

「これで良いですか?」

 

 私はガスマスクを外して素顔を晒す。

 天空闘技場で何度も戦っている私にとって、今さら顔を隠す意味はあまり無い。

 他の受験生の情報と引き換えなら安いものだろう。

 トンパさんは私が女の子であることに多少は驚いたようだが、すぐに気を取り直して話を始めた。

 

「良いだろう。では特に注目の人物を4人ほど教えてやろう。

 まずは舞台横に座っている210番。

 自宅警備のプロである"ネオ=ニートキング"だ。

 室内戦闘の達人で、敵対した相手は今まで誰一人逃したことがないらしい。」

 

 あのボロジャージにボロマント羽織ってる人かな?

 その人、鼻提灯を膨らませてガン寝してますけど。

 逃したことがないって、それ今まで誰も部屋に来た事がないだけじゃね?

 

「それからホール奥でリフティングしているのが721番、コジロウ=ガッヒュー。

 サッカーのジャポン代表エースストライカーだ。

 その電獣シュートはゴールネットを軽々とブチ破るとか。」

 

 なんでスポーツ選手がいるのかな? 大人しくサッカーしてろよ。

 契約チームとスポンサーがガチ切れすんぞ。

 

「あとは舞台前で優雅にお茶を飲んでいる461番。

 ジャポン貴族の末裔を名乗っている、マロ=オジャルンルンだ。

 あれでも武芸百般の達人らしい。」

 

 ほえー、ジャポンに貴族とかいたんだ。

 見れば頭に烏帽子を乗せ、顔に白粉を塗っている。試験中に溶けたりしないのかな?

 その出で立ちは地球の教科書で見た平安貴族といった感じだった。

 

「最後は君と同じ新人。奥の壁際に立っている291番、キャシャリン=ドナルド軍曹。

 元ワカメ王国の特殊部隊―ザ・セクシー―の出身だ。

 なんで知ってるのかって? 所属してた部隊が有名だったからさ。

 ミリタリーの雑誌にも乗ってたしな。」

 

「ふーん、元軍人さんかぁ。」

 

 トンパさんに言われた場所を見る。

 そこには腕を組んで立つ、ムキムキの筋肉……の肉襦袢を着たガリガリの男がいた。

 筋肉に憧れる中学生かな? 下にはピッチリとした黒いタイツを履いている。

 

「んんんん?」

 

 服装はとても酷い。しかしよく見れば、彼はしっかりと纏を行っていた。

 しかもそれは淀みなく力強い、深い海を思わせるような纏だ。

 もしかしたら私よりも上の念能力者かもしれない。

 

(ていうか念能力者いるじゃないですかヤダー!!)

 

 私は慌てて凝をしながら、時間を掛けて会場の人間をチェックしていく。

 すると念能力者だと思われる人物はもう()()もいた。

 

 一人目は壁際に黒い大型バイクを停め、その上に腰掛ける男。

 ちょっと短いリーゼントに、ぶっとい眉。それから鼻下の髭がモミアゲと繋がっている。

 ……この顔は覚えがある。恐らく、いやほぼ確実に原作のバショウだろう。

 

(バショウってこの期だったのね。ていうか試験受かる前から念使えてたんだ。)

 

 たぶん俳句読んでたら覚醒したとかそんなんだろう。

 贋作を作ってた人も作品にオーラ込めてたし、芸術分野は覚醒しやすいのかもしれない。

 

 そしてもう一人。入り口そばの壁際に立ち、ジト目でこちらを窺っている男。

 腰まで伸びる長い黒髪に、感情が無さそうな大きな眼。

 そして胸と手足に刺さっている針のようなもの……

 

 どうみてもイルミです、本当に有難うございました。

 

(どうしてここにイルミがいるの? なんで?? 試験受けるの13年ほど早いよ??)

 

 イルミ=ゾルディック。

 ハンター屈指の超絶ブラコンな、弟のキルア大好きマン。

 キルアに殺されて心の中で永遠に生き続ける……!! とかやろうとするガチの狂人である。

 ただし困ったことに念使いとしての実力は抜きん出ており、今の私では勝ち筋が見えない。

 しかも胸に163番の札を付けているので、正式に試験に参加しているようだ。

 

「ん、なんだ気になるやつでも居たか?」

 

「……い、いえ大丈夫です。ではお互い頑張りましょう。必要なら手伝いますので。」

 

「おう、そっちも頑張れよ。」

 

 最後に少しだけ不思議な顔をしたトンパさんと別れ、急いでホールの奥へと移動する。

 もちろんイルミから逃げる為だ。姉の子供とは言え、正直あまり関わりたくはない。

 

 私はねっとりと纏わりつく視線を無視してホールの中ほどまで移動すると、壁際にスクーターを停めその上に座った。

 そして何も気づかなかった振りをしながら試験の開始を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、君がシズクでしょ? なんで無視するの?」

 

「ぎょわあああああ!!」

 

 しかし気づいたら横にイルミが居た。私は思わず悲鳴を上げる。

 恐らく"絶"+無音歩行のコンボだ。全く気づけないとか余りにも反則すぎる。

 

「ひ、人違いです。」

 

 それでも私はなんとか誤魔化そうと試みた、しかしそれは無駄な努力だった。

 

「いや合ってるよ。ほらこれ、うちの執事が撮ってきた写真。」

 

 イルミは胸ポケットから1枚の写真を取り出した。

 そこに写っていたのは、初のフロアマスター戦でリングに上がった時の私の写真だ。

 どうやらガスマスクを取ったのは高くついた模様。

 

「母さん泣いてたよ? 『どうしてシズクちゃんは会いに来てくれないの!?』 ってさ。」

 

「えっ、いやだってまだ1の門も開けれないし(ていうか行ったら帰れなさそうだし)」

 

 適度に相槌を入れながら私はイルミを観察する。

 近くで見るとイルミは原作のような不気味さが少なく、代わりに少年らしい無邪気さが残ってるように感じた。まぁまだ10歳だし、キルアも生まれていないからだろう。

 パっと見はクール系のイケメンショタの為、そっち系のお店に出ればお姉さん達に大人気になりそうだ。……できればこのまま育ってほしい(色々な意味で)。

 

「それで母さんから、様子見てきてくれって頼まれたんだ。」

 

「ふ、ふーん、そうなんだ。」

 

 しかし油断してはいけない。イルミはゾルディック家の長男だ。

 恐らくは幼少期から拷問のような訓練を受けてきたであろうスーパーサラブレッド。

 一般家庭や闘技場でヌルゲーやってた私ではちょっと太刀打ち出来そうにない。

 

(でも念だけは互角ぐらいかな? うーん、逃げられるか?)

 

 私はホールの入口を見ながら、どうすれば逃げだせるかを考える。

 いやゾルディック家からの招待は、そのうち来ると思ってたよ?

 原作のキキョウさんの性格を考えたら、家族に執着しそうだしね?

 

 でも()来るのは予想外だ。私の予定ではライセンスを取った後、世界中に接続ポイントを作り、いつでも逃げられるように準備を整えてからゾルディック家に行くつもりだった。

 その頃にはデメちゃんももっと大きくなり、私自身がゲートを通れるようになっているはずだ。

 しかし今はまだゲートも私が通れるほど大きくはなく、天空闘技場にしか接続ポイントがない。しかも闘技場の部屋はすでに割れているだろう。

 

 つまりココで捕まると逃げ場がない!

 致命傷ッ! 余りにもひどい致命傷だッ! いわばリカバリー不可のデッドロック(行き詰まり)!!!

 

「あと試験が終わったらそのまま連れてこいってさ。……だから逃げないでね? 外に執事もいるから。」

 

(おわた……)

 

 私の人生終了のお知らせ。

 ゾルディック家が恐ろしいのはその戦闘力だけではない。

 いやそっちも十分恐ろしいが、真に怖いのはその情報収集能力だ。

 その気になれば、十老頭――マフィアの頂点たちの会合場所ですら見つけ出してしまう。

 ぶっちゃけ追われたら逃げるすべはないのだ。

 

「じゃあ俺は適当にそのへんにいるから。」

 

 そういうと、イルミは言いたいことを言い終わったのか、最初に居た場所へ戻っていった。

 私は余りにも大きな心のダメージに言葉が出せず、ただ呆然とその背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 ――ピロリロリンッ! ピロリロリンッ! ピロリロリンッ!

 

 しばらく時間が経つと、突然ホールに某ゲームの1UP音が鳴り響いた。

 まるで『これから沢山死ぬから増やしとかないとね!』と言わんばかりの音だ。

 もちろん受験生達の残機が増えたりはしない。誰か私の残機増やして。

 

「諸君、よく集まったな。」

 

 ステージの奥から試験官が姿を表す。

 オールバックの短髪に鹿の角のような白眉、そしてドラゴンの紋章のような形の髭。

 間違いない、この人は原作で大活躍だった垂直跳びおじさん……

 

「試験官のツェズゲラだ。時間になったのでこれよりハンター試験を始める。」

 

 ツェズゲラさんはステージの前に出て、ビシっとポーズを決めると説明を始めた。

 

「今年は1818人も集まったそうだ。一応聞いておくが辞退する者はいないな?」

 

 当たり前だがココまできて帰る者はいなかった。

 誰か操作系の能力で9割ぐらい帰してくれないかなぁ。

 

「結構だ。ではまずは全員、係員から封筒を受け取れ。」

 

 ツェズゲラさんがそう言うと、大勢の係員さんがホールに入ってきて茶色の封筒を配りだした。バイクを置いて受け取りに行くか迷っていると、係員さんの一人がまっすぐ私の方にやってきたので、そのまま渡された物を受け取った。

 

「全員受け取ったな? では開いて中の物を取り出せ。」

 

 空けると中には用紙が一枚と、消しゴム付のシャーペン1本が入っていた。

 更に用紙に目を向ければ、その上部にはこう書かれてあった。

 

『ハンター試験(1次)――筆記試験用紙』と。

 

 うん……うん?

 

「ひっき……しけ、ん? ふぁっ!?」

 

 私はあまりのショックに思わず用紙を2度見する。

 しかし無情なことに、描いてある内容は1文字も変わっていなかった。

 まさかの追撃(心理ダメージ)に心が悲鳴を上げ、左肩のサブマシンガンがずり落ちて床に落下した。

 

 私は目の前が真っ暗になった。

 




会場内の様子でした。
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