シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

18 / 39
感想欄読んだらカンニング一択で草。楽しんで頂けると幸いです。


第18話 積み上がる1次試験

「嘘でしょ、いきなり筆記試験なんて……」

 

 私はあまりのショックにサブマシンガンを肩から落とした。

 周囲の他の受験生も唖然としている人が多い。

 まさか会場が大学だからって、1次試験が筆記だとは思わなかったのだろう。

 

 しかし試験官のツェズゲラさんは、そんな私達を無視して話を進めていく。 

 

「私はこの世に嫌いなものが2つ有る。

 1つ目は何も学ばず、無知で仲間を窮地に陥らせる"馬鹿"。

 そして2つ目が自ら動かず、口ばかり一人前の"ウジ虫"だ。」

 

 辛辣な発言だが、言い返す者はいなかった。

 受験生の大半は自身の用紙に釘付けでそれどころではない。

 それは念能力者とて例外ではなく、もちろん私もその一人だった。

 

「この試験では、諸君らにどちらでも無いことを証明してもらう。

 まずは5分与える。自分が引いた用紙の"番号"と"問題"を確認したまえ。」

 

 ツェズゲラさんはそう言いながら、リモコンのような物を操作する。

 すると舞台の上から大きなモニターが降りてきて、5分のカウントが表示された。

 

(いきなり筆記とか嫌がらせ? いや待て、落ち着け、クールになるんだ。)

 

 私は心の中で必死に自分に言い聞かせる。

 さっきツェズゲラさんは、今年の受験生は1818人もいると言った。

 とすれば手動で一人ずつ採点するのは、時間と労力が掛かりすぎる。

 ならば採点は機械で行われる可能性が高いのではなかろうか?

 

(それならきっと回答は選択方式のはず! まだワンチャン残ってる!!)

 

 諦めるのはまだ早い!!

 心のゲージを回復させた私は急いで問題に目を通した。

 

『 問題No.0003

 Q.500年前に起こったピタゴラ王国の32回目の崩壊。

   その原因だと思われる事柄を4つ選び、番号を合計した数を答えなさい。

 

   1.ドミノ川の氾濫   2.シーソーブリッジの崩落

   3.フライパン城の炎上 4.スイッチ姫の乱交パーティ

   ~~

   100.ビーダマ砲の暴走                     』

 

 ………

 ……

 …

 

 私は用紙を睨みつけるように見つめる。

 

 全 然 分 か ら な い !!

 

 なんとか理解できたのは、この王国が崩壊し過ぎという事だけだ。

 もう誰か新王朝築けよ。あと乱交姫は自重しろ。

 

(こうなったら勘で選ぶしか。100個の中から4つを選ぶ組合わせは幾つだっけ……)

 

 確か組み合わせの計算はrCnだから100C4で……392万1225通り!

 

 ……無理じゃね? いくら何でも多すぎる。

 こんなのを勘で当てれるのは原作キャラのマチちゃんぐらいだろう。

 少なくとも私には不可能だ。

 

 私は最後の悪あがきとして携帯を取り出してみるが、画面には『圏外』と表示されていた。

 おそらくこの建物全体が電波妨害されているのだろう。

 

 私は頭を抱えて、その場にうずくまった。

 

 

 

 ――そして5分後。

 

「各自、問題の確認は終わったな? ではこれより改めて試験内容を伝える。

 用紙の裏を見てくれ。問題番号と解答を記入する欄が()()()()()()()()あるな?

 ……この1次試験は5問以上の正解で合格とする。」

 

 ん、どういうことだ? 用紙の表に問題は()()しか書かれていない。

 

「残りの4問はどうするんだよ?」

 

「印刷ミスか? ってことはやり直し?」

 

「ペーパー試験とか……止めてくれめんす……」

 

 気づいた周りの受験生が騒ぎ出した。これはもしかして……

 

 

「慌てるな、問題数が足りないと思ったな?

 だがこの会場には全部で1818個の問題が用意されている。

 そう、諸君に配った用紙の問題は1枚1枚()()()()。問題の難易度もな。

 足りない4問は他の受験生から入手しろ。」

 

 なるほど。つまり受験生同士で用紙を奪い合うわけね。

 

「入手方法は一切問わない。

 必要なのは用紙の表に書かれている"問題番号"と"解答"の2つ。

 ただし、正解が出た問題は以後無効となる。正解として数えられるのは一度だけだ。

 また採点できるのは一人一度、用紙1枚分。が、用紙自体は()()()()()()。」

 

(よかった。純粋なペーパーテストじゃなくて本当によかった!!)

 

 まとめるとこうだ。

 ・1枚の用紙には表に1つだけ問題が書かれている

 ・問題と難易度は用紙毎に違う

 ・合格に必要なのは5問の正解

 ・採点できるのは一度だけ(最大10問まで)

 ・誰かが正解した問題は無効

 

 ここにいる受験生は1818人。

 一人5問でクリアしたとしても、受かるのは最大363人。

 だが解答欄は10箇所もある。ならばみんな全て埋めようとするはずだ。

 そうすると合格者は1/10以下になるだろう。

 

「採点は私が入ってきた扉を抜けた先の部屋で行う。

 だが一度入ればもうこのホールには戻ってこれない。

 そして最後に、試験時間は2時間だ。」

 

 さてどうしたものだろう。暴力有りで気は楽になったが、これでは銃が使いづらい。

 血で用紙が汚れる、あるいは穴が開いて問題が読めなくなったら台無しだからだ。

 となれば方法は素手かデバフ武器しかない。だが幸いなことにどれぐらいの力で殴ればいいかは、天空闘技場のおかげで身についているし、まとめて周囲を昏倒させる武器も有る。

 

(つまりボコリまくればOKね! なーんだ、簡単じゃん。焦って損したぁ。)

 

 私の心のゲージがもりもり回復していく。

 面接で履歴書を忘れたと思ったら、別の用紙に挟まっているのに気づいた時のような気分だ。

 

「以上、質問はないな? では10秒後にスタートする。準備しろ!」

 

 舞台上の巨大モニターにカウントダウンが表示される。

 それを見て受験生たちがみんな武器を取り出した。

 私も床に落ちたサブマシンガンを拾ってバイクに置き、代わりにバッグを開ける。

 

 中から取り出したのは――2つの()()手榴弾。

 

 それぞれ閃光・催涙手榴弾()()を一括にし、同時に破裂するようにしたものだ。

 これならある程度の人数を纏めて無力化できる。

 

(フフフフフ、いきなりこれを使えるなんてね。)

 

 私はアリの巣に溶けた鉛をブッパする寸前のような、そんなウキウキする心を抑えて、時間を計算しながらピンを抜くタイミングを図った。

 

 そして……

 

「――始め!」

 

 試験官の開始の合図とともに、私は近くにいた受験生の集まりに向かって収束手榴弾を放り投げた。

 

 

 

 

 ――試験開始から1時間後

 

「さっさと用紙をよこすでおじゃぁ!!!」

 

「お前の頭にボールをシューッ!! 超エキサイティングッ!!!」

 

「Zzzzzz……」

 

 ホール内は阿鼻叫喚の地獄のような有様となり、みんなが血眼になって用紙を奪い合っていた。

 白粉を塗った貴族風の男が銃と刀をもって暴れまわり、サッカー選手がボールで他の受験生を吹き飛ばし、プロニートっぽい人はまだ寝続けている。

 

 そんな中、私はホールの一角に陣取り、手に入れた問題に悪戦苦闘していた。

 

『Q.アイジエン大陸において、総面積中に湖が占める割合(%)を答えよ。』

 

 だめ。そもそもアイジエン大陸の湖なんて1つも知らない。

 これ大学で地理学とか学んでないと無理じゃね?

 

『Q.カキン帝国が成立してから今日までの、年間経済成長率の平均値(%)を答えなさい。』

 

 ぱす。経済学者でもないと無理でしょこれ。

 もっと難易度が低い問題プリーズ!

 

『Q.ネテロ会長の最近のお気に入りの朝ごはんは? 下記から4つ選び……』

 

 んなもん知るか! 茶漬けでも食わせてろ!!

 

 

 

「んああああ、全然解けない!! お前らもっと簡単な問題引いとけよぉおおお!!」

 

「ひっ、そんな事言われても……へぶしッ!!」

 

 今しがた答案を奪った三人を殴って気絶させる。

 私は更に解けなかった問題をビリビリと破り、余りの引きの悪さに叫び声を上げた。

 

(ふー、落ち着け。まだ時間はある……早く次を探さないと。)

 

 この試験は予想以上にめんどうな試験だった。

 最初は用紙を奪って解くだけの試験だと思った、だがネックになったのは問題の難易度である。

 奪っても奪っても、なかなか解ける問題が手に入らなかったのだ。

 

(てか、大半が大学院とかで出されそうなレベルの問題ってどういうことなの? これ解かせる気ないよね?)

 

 いくら私が早熟とは言え、学習したのはミドルスクールの分までだ。

 その後は時間のほとんどを念と肉体の修行に費やしてきた。

 なので私はこちらの世界の知識が足りてないし、それを抜きにしても解けない問題が多すぎる。

 すでに手に入れた用紙は30枚を越えたが、しかし解けたのはたった5枚だけ。

 

(ゲート経由で携帯使ってシンジに解かせるか? いやこの難易度だとたぶん無理。それに解けるとしても、時間内に間に合うとは限らないし……正解すると以後無効なのが面倒だなぁ。)

 

 また会場の誰かに解かせる、あるいは他人の解答を覗くという方法も取れない。

 採点する以外に答えが正解である保証が無いからである。

 しかし採点してしまえば、その問題は無効になってしまう。

 なので基本的に他人の力は当てに出来ない。

 

(さて今気絶させた3人を積んで、っと。起きてる人は……うん、まだいないね。)

 

 そして一番めんどうなのが、用紙を奪うと同時に、()()()()()()()()必要がある事だ。

 だって例え用紙を奪われても、問題番号と解答さえ覚えていればまだチャンスがある。

 他人から用紙を奪えば、それで採点に進むことが出来るから。

 また気絶してる受験生を放置すると、起こして問題を聞き出されてしまう。

 そうして先に正解されてしまうと、せっかく手に入れた解ける問題が台無しだ。

 

(わざわざ最初に5分の確認時間を与えたのは、問題番号を記憶させる為か……)

 

 封筒を開く前に試験が始まれば、見る前に気絶させて身柄を無視できたのに。

 おかげで私の後ろには気を失った受験者が30人以上積み上がっている。

 本来なら解けた問題を持ってた者だけ抑えれば良いのだが、初めにまとめて気絶させたせいで、誰がどの問題を持ってたか分からない。

 

 

(もうちょっと自重するべきだったかな? いや無理だな。)

 

 この人混みに手榴弾を投げ込めるチャンスとか、先を知ってても我慢できる自信はない。

 オンラインゲームをした経験がある人なら、きっと分かってくれるだろう。

 満員電車に乗った時、思わず大規模魔法をブッパしたくなってしまう、そんな気分だ。

 

(さーて、どうするかなぁ。いちおう解決方法はあるんだけど……)

 

 この場合、一番手っ取り早いのは、奪った相手を殺していくことだろう。

 だがそんな事をすれば、試験官の印象が最悪になるのは間違いない。

 原作の試験でも印象値で最終試験の難易度が変わった。

 ならば出来るだけ良い印象を与える為にも、殺すという方法は取れない。

 

 つまりこの試験は用紙を奪う武力、簡単な問題を引き当てる運、答えを導く知力に、それらの時間配分。そして更に目的のためならどこまでやるか? というハンターとしての倫理も問われている訳である。

 

 ……まだ1次試験なのに、初っ端から厳しすぎますよツェズゲラさん!!

 

(ああもう、色々詰め込み過ぎだよ。どうせなら原作みたいにただ走るだけの試験がよかった。)

 

 これではせっかく持ってきたバイクが台無しである。

 むしろ守らなければいけない分、逆にお荷物になってしまっている。

 

(他の人はどうしてるんだろ?)

 

 チラっとホールの中を見渡せば、私以外の念能力者()()も同じような状況になっていた。

 バショウはともかく、元特殊部隊員のキャシャリン軍曹は頭が良さそうなので、これは恐らく念能力者の近くには、意図的に難しい問題が配られていた、という事だろう。

 ただしイルミだけは姿が無いので、きっと針で他の受験生を操ってクリアしたのだ。

 

(くっ、逆シードかよ。こんな手段で難易度調整してくるなんて……)

 

 その証拠に、すでにホールにはトンパさんを始めとした何人かは姿がなかった。

 きっと彼らは、もうとっくに合格しているはずだ。

 

 しかしそれが分かったとしても、今更やれることは変わらない。

 私はバッグの中にこっそりと30cmほどのデメちゃんを具現化すると、ゲート経由で追加の手榴弾を取り出した。

 

 そうしてイライラしながら、簡単な問題を求めて他の受験生を襲い続けて30分後。

 私はようやく10問全部を埋めて採点に向かった。

 

 ……後ろに積み上がっていた受験生の数は、優に50人を超えていた。

 

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「今年も始まりましたね。」

 

 ビーンズはホールの入り口に立ち、そこからこっそりと中を眺めていた。

 

 ハンター試験でプレートを配るのは、毎年ビーンズの密かな楽しみだ。

 本来であれば、会長の秘書という地位にいる者の仕事ではないのだが、これだけは誰にも譲る気は無い。

 

 差し出したプレートを受け取る時、受験生の顔には様々の感情が表れる。

 ルーキーは不安と怖れ、初めてからくる緊張と期待。

 ベテランは自信と希望、今年こそはという気負いと焦り。

 また極稀に一言では言い表せないような人外が来ることもある。

 

 そんな彼らに共通しているのは、ハンターになる為にあらゆる苦難を乗り越えようとする、強い意志を宿している事だ。

 ビーンズはそんな受験生達の生の感情に触れる瞬間がとても好きだった。

 

 ビーンズは目を閉じ、今年の受験生たちを思い出す。

 今年は例年に比べ、会場まで辿り着いた受験生が多い。いわば豊作の年ということだろう。

 その中でもっとも強く記憶に残っているのは、バイクを引いて入ってきた二人だ。

 

 ハンター試験は原則として、持ち込み自由という事になっている。

 剣でも銃でも、各々が得意とする得物を持ってきて構わないということだ。

 だが審査する側としては、乗り物は遠慮してほしいというのが本音である。

 これはできる限り素の身体能力を見せてほしいからだ。

 

 そのため試験会場にたどり着くまでは、何度も室内を移動するようになっている。

 そうすることで途中で、自然と乗り物が排除されるようになっているのだ。

 

「しかしそれが通じないマイペースな人たちがいましたね。」

 

 今年の会場へ辿り着くには、まず大学の正門から本館の来賓受付へ。

 次に校内を通って3階の家庭科室に向かい、更に階段で屋上に上る。

 そこから屋上伝いに4つ先の別館へ移動し、エレベーターで1階へ降りる。

 そして最後に専用の通路を進むと、ようやくこの大講堂へたどり着く。

 ちなみに途中で来た道を戻ることは出来なくなっている。

 

 つまりバイクを持ち込んだ二人は、この間ずっとバイクを引いたままだったということだ。

 どうしてバイクじゃなくて常識の方を置いてきているのかな?

 

「確かに"校内へのバイクでのご入場はご遠慮下さい"なんてどこにも書いてませんけどね。」

 

 なぜ書いていないのか? 普通はいないからだ。そんな馬鹿は。

 ちなみにこの大学にはちゃんと来客用の駐車場もある。

 

「でも今年は2人もいた……」

 

 しかも揃って念能力者である。これで不安になるな、というのは無理な話だ。

 

「どうやら荒れそうですね……」

 

 ビーンズは無事に試験が終わることを祈った。絶対に無理だろうなと思いながら。

 ホールの中は何度も強烈な光が輝き、目を押さえて転げ回る受験生で一杯だった。

 




ツェズゲラさん「試験ガチ勢ですまんな。」

ツェズゲラさんは無能を嫌いそうなのでこんな感じに。気に触ったら申し訳有りません。
1次試験については、自分でも書いた後でちょっと色々詰め込みすぎたかな、と思ったり。
2次試験以降はもうちょっとまったりした物になる予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。