シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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またちょっと長くなってしまいました。


第20話 明るく燃える3次試験

「それで次の試験官はなんと?」

 

「こっちは間に合ってるから、先に()()()()()()()に行け、ですって。」

 

 2次試験のスタート地点だった倉庫、そのすぐ外でツェズゲラとルビィは話をしていた。

 内容はもちろん試験についてだ。歴戦のハンターであるツェズゲラから見ても、今期はなかなか面白そうな輩が多い。最後に誰が合格するか、とても楽しみにしていた。

 

「大丈夫なのかね? オアシスには飛行船が着いてるとは言え、協会側の念能力者は試験官だけだろう。少々不用心だと思うが。」

 

「まぁ大丈夫でしょう。アレでも私のライバルですことよ? それにしても、全くこっちは最低の試験でしたわ。」

 

「……なんというか、お疲れ様だな。」

 

 ルビィが忌々しそうに呟いたのを聞き、ツェズゲラは苦笑いを浮かべた。

 恐らく次の試験官も2次試験の惨状を知ったのだろう。匂いが染み付いてそうなので先に行けという事だ。ツェズゲラもこっそり鼻栓をしているので、気持ちはよく分かった。

 

 

 

 2次試験の開始から5時間後。ついに砂漠へ入ったルビィ達を待っていたのは、腹を抑えて倒れ伏す大勢の受験生達だった。

 

「ルビィ様ダメです、こちらも同じ症状です。これではもう……」

 

「そんな、もう飛行船のトイレは一杯でしてよ!?」

 

 受験生たちのあまりの有様に、ルビィと鬼役の従僕3人は悲鳴を上げた。

 

 試験官とは委員会より選ばれたハンターが無償で就くものだ。

 協会に加入させるべき人材、いわば将来の同僚を選別する権利を与えられた、と考えれば名誉な仕事だと言えるだろう。

 だがハンターには癖の強い者が多く、特に実力主義者は簡単に受験生を見殺しにする。

 

 そんなキワモノ揃いのハンターたちの中で、ルビィはかなり善良な部類に入る。

 試験自体は砂漠の横断というきつい内容であるものの、出発前に方位磁石と地図を配ったり、リタイアした受験生の保護を考えたりと、出来る限り死人が出ないように準備していた。

 

 さらに捕まった受験生を収監する為の飛行船だって自前の物である。

 内部には十分な水を用意してあったし、医療室から医者まで備えていた。

 しかし流石にこの状況は想定外すぎた。

 

「どうして誰も彼も漏らしていますの!!?」

 

 倒れていた受験生達は、全員が脱水症状を起こしていた。

 始めは砂漠の熱によるものだと思ったが、近づくとどうやら違うことが分かった。

 

「うぅぅ、臭いですわ。ちょっと貴方たち、巫山戯てますの?」

 

 付近にはものすごい悪臭が漂っていたのだ。

 そう、受験生たちはみんな大きい方を漏らしていた。

 ニュースでたまにある集団食中毒とか、砂漠中がそんな感じだった。

 

「ルビィさま、これでは……」

 

「いいからとっとと仕事をなさい!」

 

 それでも我慢してなんとか飛行船に収監したが、その後も状況は悪化し続けた。

 受験生にはすぐに水を与えたが、しかし与えた端から漏らしてしまうのだ。

 おかげでトイレは溢れ、飛行船の中は悪臭で一杯になった。

 

「それで何か分かりまして?」

 

「今の所はなにも。みんな意識が朦朧としているので、もう少し時間がかかるかと。」

 

 また捕まえた受験生から事情を聞こうにも、極度の脱水症により意識が有るものはほとんど居なかった。

 なんとか口が聞けた者も『水』『子供』『二人』『きっとトンパの仕業』等と呟くだけで、詳しい事情は不明のままだ。

 

「許せませんわ。私の試験をこんなにして……」

 

 ルビィは誓った。必ず犯人を見つけ出して報いを受けさせると。

 ツェズゲラはとっととココから離れたいと思った。鼻栓がバレないかドキドキしながら。

 

 ルビィが自身に匂いが移っている事に気づき、そのことを黙っていたツェズゲラが責められるのは30分後のことである。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 トンパさんにジュースを飲ませてから数時間後。

 私達はゴール地点であるオアシス"パフパフ"にたどり着いた。

 

「お疲れさまでした。3次試験は明日の朝9時に開始となります。」

 

 この日は先回りしていたビーンズさんに2次試験の合格を告げられて解散となった。

 受験生たちは停まっていた協会の飛行船にゾロゾロと乗り込んでいく。

 

 私は余裕があったのでオアシスを見て回った。

 ココは有名なリゾート地のようで、ホテルから商店、ボウリング場まで備えた村があった。

 店員さんに聞けば、今は協会の貸し切りとのこと。だが50人程度の住人は残っているらしい。

 あと探してもエッチな衣装のお姉さんはいなかった。楽しみにしてたのに残念である。

 

 一通り見て回った後は、私もハンター協会の飛行船に乗り込む。

 もちろんテントや濾過器を始め、キャンプ用具は一式用意してあった。

 だがやはり砂漠で寝袋に入るよりは、ちゃんとした部屋のほうが良い。

 

 飛行船内では全員が個室をもらえた。合格した人数が少なかったせいだ。

 2次試験の合格者、オアシスまで走りきったのは何と28人だけ。

 スタートは124人も受験生が居たと考えると、恐ろしい脱落率である。

 えっ、落ちた半分は私のせいだって? 何のことですかね(すっとぼけ

 

「まぁ私は楽勝だったけど。ねー、デメちゃん。」

 

『ぎょーぎょっぎょ。』

 

 個室なので堂々とデメちゃんを具現化して撫でる。

 普通に走って合格した人たちは、足の裏の皮が酷いと言っていたっけ。

 通路に座りこんで手当している人がいたが、皮がベロベロに剥がれていて痛そうだった。

 

「念が使える3人は多分平気だろうね。ダメでもイルミは針で治せそう。」

 

 顔を別人にすることすら出来るのだ。刺した部分の治療を促進できても不思議じゃない。バショウも能力を使えば同じことが出来るだろう。キャシャリン軍曹だけはちょっと分からない。走ってる間も全く喋ってくれなかったし、かなり不気味な存在である。

 

「それにしても今日は疲れた。でも楽しかったなぁ。」

 

 ゲートを何度も使ったため、オーラは割とかつかつだ。

 私はご飯を食べてシャワーを済ませ、ベッドで横になって1日を振り返る。

 1次試験はイライラしたが、2次試験は楽しかった。

 

 特に最後のトンパさん。ジュースを飲まされ、お腹から音が鳴った時の顔。

 私を選んだのを心底後悔したような表情は最高だった。

 やはりトンパさんは最高のエンターテイナーだ。別にリスペクトはしないけど。

 

 私はワクワクした気持ちを思い出しながら、次の試験に備えて眠りについた。

 

 

 

 翌日、時間になると船内放送があった。

 受験生たちは案内により飛行船を降りる。私も再びフル装備だ。

 降りた先では砂の上にパラソルが立っていて、その下には涼し気な顔をした女性がいた。

 

「よく集まったわね。私は試験官のリン=イシュガールよ。よく覚えておきなさい。」

 

 3次試験の試験官は推定30越えのアラサーの女性。

 黒い髪をツインテールにし、上は白で下が黒の三角ビキニを着ている。

 

(いや、いくら砂漠だからって、その格好はマズイよね? てか年を考えようよ。)

 

 特に下の方は角度がやばい。エグイV字で見えちゃいけない所まで見えそう。

 もしかしたら後ろは半ケツになってるのかも。……これは痴女ですわ。

 でも私が望んでいたエッチなお姉さんとはちょっと違う。バショウはまたネットリした視線を向けてるけど。

 

「3次試験は宝探しよ!! この砂漠からダイアモンドを見つけてきなさい!!」

 

「あたま」

 

「おか」

 

「しー」

 

 上から順に試験官、私、バショウ、イルミの言葉である。

 

 うん、どう考えても頭おかしいわ。酷いのは格好だけじゃなかったんだね。

 確かにそういう例えはあるよ? でもそれはあくまで例えであって、実際にやれって言われても無理だと思うんだ。

 

「なによ、もしかして文句あるの?」

 

 しかし悲しいかな、試験内容は試験官に一任されるのがハンター試験である。

 それがどれだけ酷い内容だろうと、私達は黙って従うしか無いのだ。

 だが流石にこの試験は無理だ。ならば、もう次善の策に切り替えるしかない。

 

「ねえ二人共、どうせ失格になるなら、試験官に稽古を付けてもらうのも一興だと思わない? プロの実力を知れるよ。」

 

「ほう」

 

「……ありかな。」

 

 そう、どうせ落ちるなら、もういっそ喧嘩を売ってもいいよね。

 プロハンターは果たしてどれぐらい強いのか? 私、興味あります!!

 

「んじゃ誰から行く?」

 

 私達は完全に開き直り、相談して挑む順番を決めようとする。

 すると私達が念能力者だと気づいたのか、試験官が急に慌てだした。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! そこの3人、何物騒な事いってるのよ!?」

 

 そんな事言われても、だって私には原作知識がある。

 例え試験官を半殺しにしても、また来年受けられることを知っている。

 

 なら遠慮する必要はない。できるだけ元を取って帰らなければ。

 その点、試験官と戦うというのは、戦闘経験を増やせて丁度良い。

 現在選べる手段としては、きっと一番良い選択のはずだ。

 

「あ、お構いなく。喧嘩売る順番を決めているだけなので。」

 

 バショウとイルミ、そしていつの間にか加わっていた他の受験生でジャンケンを行う。

 みんなノリノリである。やっぱりプロと手合わせ出来る機会は見逃せないよね!!

 

「だから待てって言ってるでしょ! 3次試験は遺跡探検よ!! 砂漠は比喩だから!!」

 

「あっ、そうなんだ。」

 

 リン試験官が顔芸を披露しつつ叫ぶ。

 なーんだ、そういう事か。でもそれなら始めにそう言ってほしかった。

 ちょっと早とちりしちゃったな。稽古を付けてもらうのは試験の後にしよ。

 

 

 

 試験官の案内に従って移動する。オアシスを挟んで反対側へ。

 10分ほど歩くと、キノコを模したような造形の建造物が在った。

 私達は入り口から中へ入り、続いて地下への階段を下る。

 

 その先にあったのは岩で作られた広い空間だ。10本の通路が扇上に伸びている。

 ローマの水道かな? あれ、あっちは11本だっけ?

 

「あなた達にはチームを組んで、この遺跡を攻略してもらうわ。」

 

 そう言いながらリン試験官が箱を取り出す。

 屋台のクジ引でよく見る四角い箱だ。箱の上半分は白で塗られ、下は黒で塗られている。

 恐らく試験官のイメージカラーなのだろう。えっ、もしかして何時もその格好なの?

 

「中の札に書かれている数字がチームの、そして進む道の番号よ。」

 

 改めて通路をよく見れば、上部には1~10の番号札が貼られてあった。

 チームでダンジョン探索……実にゲームっぽい。

 私は地球でドハマリしたダ○ジョンキーパーを思い出した。

 

(自軍のLV上げが面倒だったから、トラップで高LVの敵を倒して、拷問で寝返らせて使い潰してたっけ。またやりたいな。)

 

 ゲームでは通路に罠を敷き詰めるのが好きだったが、この先はどうなっているんだろうか。

 もしかして原作のトリックタワーみたいな感じなのかな?

 

 ここには28人いるので、2チームだけは二人組になる。

 足手まといは少ない方が良いから、出来れば二人組を希望。まともな人と組めるといいんだけど。

 

「それじゃあ2次試験の合格順に札を引きなさい。」

 

 1位のキャシャリン軍曹から順に、箱の中に手を突っ込んで札を取る。

 私が引いた札には10と書かれていた。そして組む相手は……

 

「よろしく頼むでおじゃ。」

 

「こちらこそ宜しくお願いします。」

 

 マロ=オジャルンルンさん。

 相変わらず顔におしろいを塗っている貴族風の人だ。

 他に居ないことから、二人チームに当たった模様。幸先いいぞぉ~。

 

「全員引いたわね? さて試験内容だけど、指定の通路から遺跡に入って、隠してあるダイアモンドを見つけてきてもらうわ。制限時間は24時間。」

 

 ふむふむ、今回はオーソドックスな宝探しか。

 途中で道が合流してたりもするのかな? 奪い合いにもなりそうな予感。

 

「それと注意点が3つあるわ。

 1つ。一個のダイアで合格出来るのは1人だけ。

 2つ。全員がダイアを持って、2人以上の人数で私の元に来ること。

 3つ。出入りに使えるのは引いた番号の通路だけ。」

 

 と思ったらぜんぜんただの宝探しじゃなかった。

 これむしろ少人数のバトルロイヤルじゃね?

 

(なんて意地が悪い……この試験官とはいい酒が飲めそう。)

 

 これではせっかく見つけても、まず誰が持つかで荒れるだろう。

 一度に人数分が見つかれば良い。だが問題は一個だけだった時だ。

 

 だって自分の分さえ確保できれば、それでこの試験は突破できるのだ。

 そのまま来た道を帰ればいい。人数の問題も、この広場かオアシスの村で待っていて、別のチームに混ぜて貰えば解決だ。

 

 当然、所持しない人間はそんな事を許すはずがない。

 ではそれを防ぐには、どうすればいいのか?

 

(うーん、私なら先頭を歩ませるかな。逃げられないように。)

 

 だが遺跡に罠があったりする場合、先頭はもっとも危険なポジションになる。

 しかも8チームは3人組だ。ダイアを持っても、後ろから2人に狙われる可能性を考えればみんな嫌がるだろう。

 

 更に二個目のダイアが見つかると、3人チームはもっと状況が逼迫する。

 誰が持つかで一個目以上に荒れるはずだ。

 

 きっと所持できなかった一人は気が気でなくなるだろう。

 なんせダイアを確保した2人は、協力して残りの一人をボコれば合格が確定する。

 でも相討ちになる可能性もゼロじゃない。それに残りの一人がどちらに向かうかは分からない。確率的には50%。倒せても足を怪我したら戻れなくなるから、なかなか行動に踏み切れないと思う。

 

 つまりこの試験は、いつ裏切り裏切られるかの、ドキドキ裏切りゲームだ。

 なかなか酷い試験である。私も他人が裏切るor裏切られる様をみたーい!!!

 

(まぁ私を裏切った奴は殺すけどね。)

 

 絶対に許さないよ!!

 

 私はチラっと横目でマロさんを見る。彼は試験官の説明を聞きながら、腰に下げていた刀と銃を再確認していた。間違いない、この試験が裏切りゲーだと気づいている。さて、どういう形で進むことになるのか。

 

「それから明かりとしてランタンを用意したわ。各自で持っていきなさい。

 それじゃあスタートよ。私は飛行船で待っているから、せいぜい頑張りなさいね。」

 

 リン試験官は説明を終えると、そのまま階段から外に出ていった。

 やはり後ろは半ケツになっていて、安産型のお尻が左右にプリプリ揺れる。

 受験生たちはランタンを手に取り、指定された通路へ進みだした。

 

「では我々も行くでおじゃ。」

 

 一応この広場で待って、戻ってきたものを狩るという方法もある。

 なので少しだけ待ってみたが、今の所は残る者は居ないようだった。

 

 私はすぐにランタンを持って、急いで10番の通路へ駆け出した。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 最初に居た広場は明かりがあったが、指定の通路の先は完全に真っ暗だった。

 すぐ用意されていたランタンを点けたが、あまり明るくならない。

 電気式の癖にパワーがしょぼいのだ。まぁ恐らくワザとだろう。

 これでは逃げたり、隠れたりと、余計に裏切りやすそうだ。勉強になるなぁ。

 

「マロさん、ちょっと待って。」

 

 私はランタンをその場に投げ捨て、代わりにバッグから軍用ライトを2本取り出す。

 1本は自分のヘルメットに装着し、もう1本をマロさんに渡す。

 お値段5桁もする超強力な奴だ。その明かりはランタンとは比べ物にならない。

 

「準備が良いでおじゃるな。」

 

 そうして通路を20mほど進んだ先にあったのは、吹き抜けの螺旋階段だった。

 下の方を照らしてみると、ものすごく長い事が分かった。

 

 上から軽く見ただけでも、余裕で30m以上は降りる事になりそう。

 階段はボロボロなので結構危ない。一体何時の遺跡なんだろうか。

 

「どう思いますか?」

 

「もしかすると通路ごとに探検する階層が違うのかもしれぬの。」

 

 3mで1階層下がるとすれば最低でも10階分になる。

 ここが作られたのが何時かは分からないが、昔はエレベーターなんて無かった。

 ならこうして階層毎に直通路を作っていても不思議じゃない。かなり無駄だと思うけど。

 

「まっ、進んでみれば分かる。」

 

「そうですね。」

 

 マロさんは私の前に出ると、そのまま階段を下り始めた。

 あれ、どうして前を行くんだろう? トラップを考えれば前は危険なのに。

 

(まぁいっか。自主的なカナリア役だ。私に損はないからね。階段崩れたら乙。)

 

 特に文句も無いので、何も言わずに後をついていく。

 落ちないように気をつけながら、ぐるぐると回りながら階段を下る。

 そうして降りた先の扉を開けると、中は5m四方の小部屋になっていた。

 

 更にライトで部屋を照らしてみると、早速1つ目のダイアが見つかった。

 中央の盛り上がった台座のような場所、その上にポツンと置かれていた。

 

「「……」」

 

 何ということだ。これには私達もびっくりである。

 もしどの通路も同じ作りだとすれば、すでに殺し合いになっている部屋もあるのではなかろうか? 今すぐ戻って、別の通路を覗きたい。

 

「えっと、どうしますか? 私にくれるなら先を歩きますけど。」

 

 どうするか迷った私は、とりあえずマロさんに聞いてみる事にした。

 この回答によってこの人の考えがある程度分かる。

 自身が持つならリターンの確保を優先。私に押し付けるならリスク回避を優先だ。

 さぁ、マロさんの選択はどっちかな?

 

「……ソナタが持つとよかろう。ああ、先頭はこのままマロが歩くでおじゃ。」

 

 あれー、どういう事だ? どっちでも無いなんて、得が無さそうなんだけど……

 考えられるのは、先にトラップを見つけて私をハメようとしてるとか?

 

「なんでですか? それじゃあマロさんにメリットが無いと思いますけど。」

 

「これはおかしな事を言う。童を守るのは大人の務めでおじゃろう。」

 

「えっ」

 

 なん……だと……。まさかこの人、単純にいい人なのか?

 うっそだろおい。ここハンター試験だよ? 本当なら天然記念物だこれ。

 

「というのは、まぁ建前でおじゃる。本音はソナタと敵対したくないだけでおじゃ。どうやっても勝てそうにないからの。」

 

 そう言いながらマロさんは両手を上げた。武器からは完全に手を離している。

 

 ああ、そういうことか。私はやっと理解した。

 つまりこの人は戦闘力で敵わないとみて、最初から白旗を上げていたのだ。

 

(そう言えば、私って今までの試験では結構どんぱちやってたね。)

 

 それらを見ていたのなら、勝てないと思っても不思議じゃない。

 普通の人から見れば、念使いなんてみんな化け物だ。

 やっぱり暴力って最強のコミュニケーションツールだわ。

 何も言わなくても相手が勝手に下手に出てくれる。

 

「でもよくそんなすぐ決断できますね。私ってただの子供ですよ?」

 

「ほほほっ、これでも高貴な生まれ故な。人の扱いには慣れておるでおじゃ。」

 

 さりげない生まれ自慢うぜぇ。いい笑顔で言いやがって。

 でもこの人、なんか憎めないな。

 

「ソナタこそ良いのか? ここでマロを倒してしまえば、3次試験は突破したも同然でおじゃるぞ。」

 

 まぁ確かにそうなんだけどね。

 念能力という破格のアドバンテージにプラスして、持ってる武装にも差がある。

 マロさんは小口径のハンドガンだが、私はロングマガジンのサブマシンガンだ。しかも弾薬は幾らでも補充可能。この小さい部屋なら、適当に流し打ちするだけで倒せるだろう。

 

(でも不思議とやる気にならないな。)

 

 たぶん全面的に降伏するスタイルだからだろう。

 不安そうにこちらを見てる視線とか、まるで白い大型犬が様子を窺っているようだ。

 うん、ちょっとこれは撃てないわ。

 

「じゃあダイアは有り難くもらっておきます。それと帰り時間を考慮して、12時間までは探検を続けましょう。」

 

「良いのでおじゃるか?」

 

「私は別にバトルジャンキーじゃありませんから。それに今は余裕がありますし。」

 

 私がそう告げると、マロさんはようやく緊張を解いた。

 12時間前に帰るのはちょっと早いと思うが、ルールを考えればしょうがない。

 合格に必要なのが2人以上というのがミソだ。仮に1~9の通路から一人ずつダイアを持ち帰ったらどうなるか。

 

 最初の広場で合流するとしても、みんな二人組になったらさっさと外に出るはずなので、最後の一人は誰とも合流できなくなる。つまり余裕ぶっこいていると、ダイアを持ってても合格はできない事態に陥るのだ。

 

「ところで、時間になっても二個目が見つからなかったら? どうするでおじゃるか?」

 

 まぁそれもあるよね。だってこの先に()()()()()()()()()()()

 

「その時はもちろん、マロさんを気絶させて一人で戻ります。」

 

「……その年でその判断が出来るとは大したものよ。普通は甘さがでるんじゃがの。」

 

 他人に情をかけるのは余裕がある時だけだ。基本的に私は私を最優先で行動する。

 もし原作知識なしで多数決の道の"最後の分かれ道"に辿り着いてしまったら、私は迷わず2人を手錠に繋ぐだろう。そして遠慮なく"短い道"を行く。あっ、でもキルアなら余裕で手錠の鎖を引きちぎりそう。あれ、壁壊すより早いんじゃね?

 

「では話も付いた所で、先に進むとするでおじゃる。」

 

 そう言ってマロさんは歩き始めた。

 私は急いでマロさんに追いつくと、そのまま()()()()()通路を進んだ。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 一個目のダイアを手に入れてから6時間後。

 私達は順調に遺跡を攻略していった。

 

 予想通り、道中には悪趣味なトラップが沢山仕掛けてあった。

 壁から飛んでくる矢、振ってくるギロチンとタライ、落とし穴にベアトラップ。

 あと変わったものでは、床が抜けて三角木馬や便器がせり上がってきたりもした。

 協力者に影の王女でもいるのだろうか。一体どんなプレイをお望みなのか。

 

 あとはたまに岩っぽいロボゴーレムも襲ってきた。

 私は普通にオーラを纏った拳で粉砕したが、マロさんも刀でぶった切っていた。

 流石にここまで残ってるだけに、抜刀術も一流のようだ。

 

 そうして私達は、ついに二個目のダイアがありそうな部屋に辿り着いた。

 

「マロさんあれは。」

 

「ふむ、宝箱でおじゃるな。」

 

 壁一面には大小様々な数式がこれでもかと書かれ、中央にはちょっと盛り上がった台座。

 その上にはダイヤル式の南京錠が付いた、RPGっぽい宝箱があった。

 

「きっと壁の数式の答えがダイヤルの正解番号、ということでおじゃろう。」

 

「あっ、もう答え出てるんで大丈夫です。」

 

「なぬ。」

 

 私は周で自動拳銃にオーラを纏わせ、グリップを勢いよく振り下ろす。

 部屋にガチャーン!! という音が響き、宝箱の鍵が弾け飛んだ。

 

「この手に限る。」デデーンッ!!

 

「答え(物理)とは。これは酷い脳筋でおじゃ。」

 

 やっぱそう思うかな? 私もそう思った。

 でも体当たりで補強した窓をぶち割るよりはマシだよね。

 中を覗けば、そこには二個目のダイアモンド。

 

「なんか普通に手に入っちゃいましたね。」

 

「そうでおじゃるな。開け方は普通ではおじゃらんかったが。」

 

 別にいいじゃん。ちゃんと二個目が手に入ったんだから。

 これで後は戻るだけだ。意外と簡単だったな。

 

 あっ、でも用意されたランタンの明かりはかなりショボかった。

 そうすると罠は中々見つけづらいし、距離感や方向感覚もおかしくなる。

 そう考えれば、他のチームはもっと苦労してるのかもしれない。やっぱ準備は大事だね。

 

 

「そういえば一つ聞いてもいいですか?」

 

「なんでおじゃるか?」

 

「マロさんはどうしてハンター試験に?」

 

 オアシスへの帰り道。私とはふと気になったことを聞いてみた。

 トンパさんの情報が本当なら、この人って貴族の末裔なんだよね。

 そりゃあ受かればメリットも大きいけど、死亡率とか考えたら高貴な人は中々受けないと思う。

 

「一言で言えば……趣味でおじゃる。身につけた技術を使ってみたくなっての。」

 

 しゅ……み……?

 

「やはりハンター試験は良い。これほどの緊迫感は中々ない。

 これで3回目じゃが、受ける度に身も心も若返るような気がするでおじゃるよ。」

 

 えーと、こういうのって『死中に活あり』だっけ?

 つまりこの人は、危険の側に身を置く事を楽しんでいるんだ。

 ある意味でトンパさんと似たようなタイプ。やっぱり普通の人じゃなかったわ。

 

「まぁそれでも限度はあるがの。ソナタやもう一人の子供。それと元超長期刑囚なぞは、危なすぎて近寄れんわ。」

 

 ふーん、超長期刑囚ねえ。そんなのいたんだ。一体何をやったんだか。

 でも私が知ってる一番強い刑囚ってジョネスなんだよね。キルアに心臓を取られた奴。

 殺人146人で刑期900年ぐらいだっけ? あんまり強く無さそう。

 

「ちなみにどの人なんですか?」

 

「キャシャリン・ドナルドという元軍曹でおじゃ。」

 

 ふぁ!? 今回の試験で一番強そうな人じゃん。よりにもよってコイツかい。

 

「麻薬の売買及び使用で捕まっておったが、去年の暮に恩赦で出所したでおじゃ。あとこれは噂じゃが、ハンター協会に強い恨みがあるようでおじゃるの。」

 

「ハンター協会に?」

 

 はい危険人物確定!! 今後は出来るだけ近づかないようにしとこ。

 君子危うきに近寄らず、だ。いざとなったらバショウに押し付けよう。

 

「ほほほっ、とは言え飛行船には試験官も係員もおる。流石に試験の最中に騒ぎを起こす事はないじゃろうて。マロたちが心配する必要はないでおじゃ。」

 

「あはははは、ですよねー。」

 

 そうだよね。まさか私が参加した試験に限って、そんな何かが起こるわけがない。

 まぁ何か有っても、試験官達が対処するだろう。なんたって天下のハンター協会様だ。

 念使いの元特殊部隊員だろうが、一人ぐらい余裕余裕。きっとボコって終わり。

 それにツェズゲラさんとルビィさんも、すでに()()()()()()()だろうし。

 

「あとは飛行船でダイアを渡せばこの試験もクリア。あと2つぐらいですかね?」

 

「そうでおじゃるな。今年こそマロも合格できそうな気がするでおじゃ。終わったら寿司でも食べるかの。」

 

「良いですね、私もお寿司大好きです。パインサラダも付けましょう。」

 

 それともステーキのほうがいいかな?

 まぁどちらにしろこの試験は勝った。第3試験完だ。

 私達はワイワイと今後のことを話しながら、油断せずに来た道を戻った。

 

 

 

 そうして適当に喋りながら最初の広場まで戻ると、そこにはイルミが居た。

 周りには誰も居ないので一人のようだ。おっ、ボッチかな?

 

「よぉ、奇遇だな。」

 

 と思ったら別の通路からはバショウが一人で歩いてきた。お前もボッチかい。

 まるで広場にいたイルミが怖くて、通路の奥でずっと待機していたような登場だ。

 まぁ私も一人だったら隠れて待つけどね。ダイア奪われるかもしれないし。この試験だとイルミは怖い。

 

「バショウさん、一応聞くけどチームの人は?」

 

「死んだ。」

 

 まあそうだろうね。用意されたランタンだけだと、全く明かりが足りなかったし。

 罠か同士討ちかは分からないが、他にも結構な人数が死んでいるだろう。

 

「イルミの方は?」

 

「殺した。」

 

 そして小さくてもやはりイルミはイルミだ。容赦なさすぎて草生える。

 

「じゃあとりあえずダイア見せて。」

 

 それでも念の為、全員がダイアを持ってるかは確認する。

 ココまで来て後ろから襲われるのは馬鹿らしいからね。まぁみんな普通に持っていた。

 ちなみにダイアには刻印がされていたので、ゲートで同じサイズの物を持ってきてもダメだ。

 

 

 それから私達は一団となって地上への階段を上がった。

 すでに3次試験が始まってから10時間ちょいが経過している。

 もう太陽は地平線の先に隠れ、砂漠は暗くなっているはずだ。

 

 しかし――

 

「あれ、なんか昼間みたい?」

 

 だがなぜか外は明るいようだった。そしてその原因はすぐに分かった。

 階段を上りきり、外に出た私達は、そこで驚くべきものを見た。

 

 

 

 ――()()()()()()()()()()

 

「……はっ?」

 

 村も協会の飛行船も炎に包まれ、もはや消火は不可能と思えるほどに炎上していた。

 

 それは今回のハンター試験における、イレギュラー(緊急事態)の始まりだった。

 

 




イ ベ ン ト 発 生 の お 知 ら せ。

という訳で次はイベント戦になります。読んで頂き有難うございました。


・リン=イシュガール試験官
イメージはFGOのイシュタルです。
エロい格好と卑猥な乗物がすごい好き。


あと主人公は3次試験を"裏切りゲーム"だと思っていますが、実際は"新遺跡の調査"を模したものです。財宝を見つけても仲間を裏切らせない統率力と、すでに盗掘されてる可能性を踏まえた上で、どこまで進むか? という判断力をみる試験でした。オアシスが燃えてそれどころじゃないけど。

そろそろ"愉悦部"タグを付けても許される気がしてきました。
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