シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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第28話 珍入者と一坪の密林

 暖かな日差しを受けながらアントキバ(懸賞の街)を歩く。

 季節は夏を過ぎ秋に入ったが、ゲーム内の様子に変わったところは見当たらない。せいぜい呪文カードを使うプレイヤーが増えてきたぐらいだろうか。

 

 原作では12月を過ぎても雪が降る描画はなかったし、もしかしたらゲームの舞台であるこの島は1年中同じ気候なのかもしれない。

 

「私達プレイヤーにとっては有り難いね。」

 

 今日は9月15日、この街で指定ポケットカードを商品とした月齢大会が行われる日だ。

 ただし参加しに来た訳じゃない。商品のカードはランクBなのでここで取る必要はない。

 

 私の目的は最後に取るカード《支配者の祝福》の取得イベント――指定ポケットカード100種の詳細を問うクイズ大会、に備えての情報収集。なので大会の内容だけ知れれば良いのだ。

 

「うーん、大会まであと30分。何して時間潰そうかな……」

 

「おい待て!! そこのガキ!!」

 

 そんな訳で街をブラブラ歩いていると、急に路地裏から男が飛び出してきた。

 ボサボサの髪に痩けた頬と怪我の跡。死ぬ思いをしてマサドラまで行ってきました、と言わんばかりの格好である。

 

「〈窃盗(シーフ)使用(オン)!! プーリンを攻……ぎゃああああ!!!」

 

 男はバインダー()を開いて呪文(スペル)カードを掲げ、使用するための文言を口にしようとする。

 

 だが呪文が発動することはなかった。その前に手を撃ち抜かれカードを落としてしまったからだ。見れば掌の中央には綺麗に穴が空いている。これでは片手はしばらく使い物にならないだろう。

 

「よーしっ、綺麗に撃てたっ!!」

 

 抜き打ちした大型リボルバー(M460)を手の中でクルクルと回す。グリードアイランド用に新調した銃だ。9mmパラに比べて弾速が2倍なのでかなり当てやすい。威力もアサルトライフルの7割増しなのでその辺の念能力者を撃ち抜くには十分だ。

 リロードだけがネックだが、それも段々と楽しくなってきたから不思議だ。そのうち『銃に命を吹き込んでいるようだ』なんて思えてくるのかな?

 

「……で、お兄さんは何の用?」

 

「ひ、ひぃいいい。」

 

 もしかして的になりに来てくれたのだろうか。

 そのまま銃を突きつけてちょっと脅してみれば、尻餅をついて泣いていた男は必死に頭を地面に擦り付けてペコペコしだした。……なんだか天空闘技場(むかし)を思い出す光景だ。

 

(あー、最初にシンジに会った時もこんな感じだったっけ……。)

 

 そういえば、あいつは今何やってるんだろ?

 最後に見たのはハンター試験に出発した時だ。マゾラーにやられた怪我の治りが遅くてまだベッドの上だった。その後はゾルディック家に連れ込まれたせいで今まで完全に忘れていた。

 

 本人は銀お姉さんに師事して鍛え直したいって言ってたけどどうなっているやら。師事が叶ってもたぶん有料だろうから、きっとケツの毛まで毟られてそうだなぁ。

 

「でもゲームだからっていきなり人に攻撃したらダメなんだよ? 反省した?」

 

「はっ、はい、反省しました!!」

 

 男がおっ、このまま逃してくれるのかな? という期待に満ちた目で私を見上げてくる。

 私としても何時までもこんな雑魚に構ってるつもりはない。反省して二度と私にちょっかいを掛けないなら命まで奪う必要はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――じゃあピョンピョンしよっか。」

 

「えっ」

 

 でも金目の物は置いていってもらうけどね!!

 おう、全部出すんだよ。はやくしろよ。ていうかもうパンツ以外全部置いていけ。

 

 私は男にバインダーを出させその中身を没収する。

 

「うーん、見事にゴミカードしかない。……もう行っていいよ、次は無いからね?」

 

「す、すみませんでしたぁあああ!!」

 

 そうして全部を奪い取ると、パンツ1枚になった男は泣きながら走り出した。

 私はその背を見ながら大分手に馴染んできたリボルバーに弾を込め直し、クルクル回しながら腰のホルスターに戻す。

 

 まったく、どうしてこんな様でこのゲームに参加したのだろう。原作でもそうだが弱いやつほど呪文に頼ろうとするから困る。

 

「弾と時間の無駄だったね。せめてランクBのカードぐらい持ってればなぁ。」

 

 ランクAのカードを持っているせいか、最近はこうして呪文カードで襲われる事が増えてきた。

 別に防がなくても《聖騎士の首飾り》で無効化されるのだが、しかしだからといって無条件に受けるのは駄目だ。油断大敵、回避出来る攻撃はしっかり回避しないとね。

 

「もしかしたら呪文カードはブラフで、こっそり念能力を掛けようとしてる可能性だって有るからね。」

 

 ちなみに殺さないのは慈悲じゃない。

 このゲームはプレイヤーが死ぬと自動でログオフされ、別の人が入れるようになってしまう。つまり殺しても次が来るだけのイタチごっこなのだ。なので出来るだけ心を折って放置したほうが長期的に見ると楽なのである。

 

「まっ、雑魚は置いといて久しぶりにパスタでも食べに行こう。せっかくアントキバに来たんだからね。」

 

 私はそのまま街を歩き、前と同じ黒猫の看板を出しているカフェに入る。

 ドアを開け、暖簾を潜って猫人のような店長に注文を告げようとして……

 

「あっ、シズク姉ちゃん!!」

 

 ――美味しそうに大盛りのパスタを頬張っている、姉の次男(ミルキ)を見つけた。

 

 な に し て ん だ お 前 !!!!

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 

「ミルキはどうしてココにいるの? どうやってログインしたのかな?」

 

 見つけてしまったものはしょうが無いので、同じテーブルに付いてコーヒーを飲みながら事情を聞く。

 

 もしかしてゼノさんに買ってもらったのだろうか? あの人って何だかんだで子煩悩っていうか、孫に甘いからなぁ。次点でキキョウ姉さん辺り? シルバさんは買ってくれないイメージだ。

 

「姉ちゃんがうちに置いていった奴。」

 

 私のゲームじゃねーか!! 何勝手に使ってんだコイツ。

 

「あんなに沢山あるんだから一つぐらいいいでしょ?」

 

 全然よくない。その一つだけで幾らすると思ってるの?

 ……いや待て、預けたときにこのゲームの危険性はちゃんと伝えた。プレイヤーを中に引きずり込むって。なのにこうしてプレイできてるのはオカシイんじゃない?

 

「誰に許可をもらったの? キキョウ姉さんはなんて?」

 

「駄目って言われたからこっそりプレイした。……言われた通り頑張ったよ!!」

 

 おぃいい!! それ一番駄目なやつぅううう!!

 つーか(不正を)頑張れなんて言ってねぇぞ!!!

 

「そっかー、頑張ったのかぁ。」

 

「うん! 使用人に爺ちゃんの名前で命令して出させたんだ!!」

 

 5歳の癖に悪知恵働かせすぎぃ!! てかその使用人もう処分されてるんじゃね?

 ミルキはめっちゃ嬉しそうだけど、やってることはかなり残酷だな。使用人を道具としてしか見ていない原作ゾルディック家の片鱗が伺える。

 

 あれっ? 勝手に使ったってことは、急にミルキが消えたと思われてるのでは?

 

 ……まずい。早く電話で弁明しないとキキョウ姉さんが。下手をしたら子供大好きな姉さんは怒り狂ってゲーム自体を壊そうとしてるかもしれない!!

 

「……ちょっと急ぎの用事が出来たからココで待ってて。いい? 絶対にココから動かないのよ?」

 

「分かった!!」

 

 店長に1万ジェニー札のカードを押し付け、パスタを食べながら元気に返事をするミルキを店に置いて外に出る。私は人の居ない場所に移動すると、すぐにデメちゃんを具現化。

 

 そしてゲーム外に繋げたゲートを使い、携帯電話でゾルディック家に連絡を取った。島の中では不思議な力で携帯が不通になるが、ゲートから外に出してしまえば使うことが可能だ。

 

 ただし体が出てしまうとGMに目をつけられそうなので、あくまで出すのは携帯だけ。そして電話に出た執事さんに頼んでゼノさんに繋げてもらう。焦るな私、まだ大丈夫だ。きっと平気……たぶん。

 

「もしもし、ゼノさんですか? シズクですけど。」

 

「んっ、おおシズクか。悪いが今ちょっと『私のミルキちゃんがぁあああああ!!!』取り込んでおってのぉ。」

 

 あっ、これもう駄目だわ。すでに激おこぷんぷん丸だわ。

 

 私の頬を汗が滑り落ちる。全身から冷や汗が吹き出し、脳裏に鬼の顔になって暴れまわるキキョウ姉さんの姿が浮かんだ。

 

「えーと、ゲーム内でミルキを保護したんですけど。」

 

 それでも一縷の望みをかけてゼノおじいちゃんにミルキを見つけたことを告げる。……頼む間に合ってくれ! 頼む!!

 

「おおそうか、それは有り難いの。……しかしこのゲームはすごいのぉ。どれだけ殴っても全く壊れそうにないわい。」

 

「……はっ?」

 

 言われて耳を澄ましてみれば、電話の向こうからは ドゴォオオ!! と巨大な何かを叩きつけるような音が聞こえてきた。しかも連続でだ。

 

「あの後ろから聞こえてくる音って。」

 

「キキョウがゲームを殴っておる音じゃ。【硬】でな。……もう1時間になるかの。」

 

 止めて止めて止めて!! 私のグリードアイランドちゃんがぁあああああ!!!

 

「ごめんなさい、ゲームを壊さないように伝えてもらえませんか? ミルキが出るときに困るので。」

 

「分かったすぐに伝えよう。」

 

 私は努めて冷静に執り成しを頼む。こうなったらゼノおじいちゃんだけが頼りだ。

 シルバさんは何だかんだでキキョウ姉さんにダダ甘だから、こういう時は頼りにならない。

 

「それでその代わりと言ってはなんじゃが、しばらくミルキを頼めんか?」

 

 どういうことなの? すぐに帰さないとキキョウ姉さんがやばくない?

 

「シルバ達はどうにもミルキを甘やかしてばかりでの。前からどうにかしたいと思っとったんじゃが丁度いい機会じゃ。適当に鍛えてやってくれい。」

 

 えー、自分たちで出来ないからって、外部に丸投げするのは違うんじゃない?

 それは育児放棄ですよおじいちゃん!!

 

「ちなみにミルキって念を覚えてどれぐらいですか?」

 

「だいたい3ヶ月ぐらいじゃな。」

 

 ……雑魚じゃん。下手したら他のプレイヤーにすら勝てないんじゃね?

 

「えーと、残念なことに今とても忙しくてですね。ぶっちゃけ足手まといはいらな……」

 

「ならば残りのゲームもワシが保護しておく、という条件でどうじゃ?」

 

 うーん、それなら有りかな? 流石にゼノさんの部屋にあれば誰も持ち出せないだろう。

 ただしミルキを預かると移動にゲートを使えなくなる。まぁこれは移動用の呪文カードを買い込んでおけばリカバリーは可能だが。うーん、めんどうが増えるな。

 

「分かりました。でもダメそうならすぐ帰しますからね?」

 

 ……ちょっと迷ったけど、結局私は受け入れる事に決めた。

 

「では頼んだぞ。」

 

 だってよく考えれば、これは元々が私のミスっぽいからね。

 預けた時に見せびらかして頑張れって煽りすぎた。ゲーム好きの子供にそんな事をすれば、我慢出来ずにプレイしちゃうのは当然のこと。ならば受け入れるしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――でもそれはそれとして、私のグリードアイランドを勝手に使ったのは許さないよ!!

 

「ごめんなさぃぃいいいいいい!!!」

 

 電話を終えた私は携帯をしまい、再び黒猫のカフェへ戻った。

 しかしミルキは当たり前のように居なくなっていて、私は捜索に街を走り回ったせいで月例大会を見れなかった。……まったく移動用の呪文カードが無い時に面倒を起こしやがって。

 

「ねえミルキ、私の言ったこと聞いてなかったの? それとも聞く必要ないって思ってるの?」

 

 だから空に浮くデメちゃんからロープで逆さ巻きにしたミルキを吊るす。

 場所はアントキバ北部の岩山ゾーン。そこに生息する1つ目巨人の前だ。

 

「GYAAAAAAAA!!!!」

 

「ひいいいいぃぃ!!!」

 

 巨人が振り回す棍棒がミルキの鼻先をかすめる。

 5mを超える巨体が持つ武器だけあって山ごと砕けそうな威力だ。その度にミルキは悲鳴を上げ、涙と鼻水が顔をグチャグチャに濡らしていった。

 

 つーか待ってろって言ったのに、勝手に出歩いて買い食い(NPCから強奪)してるとか何なの? いきなり強盗プレイとかどんだけ甘やかされてたんだよ。

 

「謝ってるのにぃいいいい!!」

 

「だから何? あのねミルキ、そもそも謝って許される程度の事じゃ人はわざわざ怒ったりしないの。」

 

 逆に言えば怒らせたときにはもう手遅れ、そして世の中には謝っても許されない事が沢山ある。

 

 今回は一つ数十億のゲームが壊されそうになったのだ。地球で例えれば勝手にブラックロー○ス(数千万のカード)を持ち出して対戦(デュエル)してたようなもの。……誰だって切れる、私だって切れる。

 

「あなたが理解出来るまで何時までも続けるから。……きっちり()()()あげる。」

 

 これからしばらく一緒に行動するなら、上下関係は最初に叩き込んでおかないとね。

 大丈夫だよ、例え手足が潰れて使い物にならなくなったって、このゲームには綺麗に治せるカードが存在するんだから。

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!!」

 

 それからしばらく岩山ゾーンにミルキの悲鳴が響き続けた。

 時々他のプレイヤーさん達が通り過ぎていったが、彼らはみんなドン引きしていた。

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 ミルキを預かることになった翌日。

 マサドラで呪文カードを補充した私達は《一坪の密林》を求め、島の北東にある山林の奥へ足を運んでいた。

 

 ミルキの躾はあれから半日ほど続けた。

 最後には『ごめんなさい』を繰り返す壊れたロボットみたいになったので、恐らくもう逆らったりはしないだろう。上下関係はきっちり体に叩き込んだ。

 

 まぁそれでも時間が経てばまたやらかしそうではあるけどね。

 呪文カードなんかはリストを一度見せただけで全て覚えてしまったのに、どうも興味のないことはどうでも良くなってしまう質のようだ。好きなことだけやる趣味人の片鱗が伺えるね。ミルキは生粋のオタク体質なのかもしれない。

 

 それからモンスターとは試しに私も戦ってみたが、倒し方を知ってるせいか割とサクサク倒せてしまった。

 きっとここは事前情報無しの方がよかったと思う。その方がもっと成長に繋がったはずだ。ゲーム的に言えば初見ボーナスが無くなった感じ。

 

「まさか知識があるせいで経験値が低下するなんてね。」

 

 なのであまり修行にはならなかったが、楽しかったのでストレスの発散にはなった。ミルキ関係でイライラしていたので丁度よかったと言えよう。

 特にメラニントカゲの体中にプラスチック爆弾(C4)を貼り付けて爆破するのは面白かった。このトカゲは全身に大小様々なホクロがあり、その内の一つが弱点なので気分は逆黒ひげ危機一発だ。

 

「シズク姉ちゃん、これどこに向かってるの?」

 

「レア度が高いカードがあるとこよ。」

 

 カードは取り方がはっきりしていないものから集めていくことにした。

 順番としてはランクSSの《一坪の密林》→《ブループラネット》を取り、他のランクSカードを取ってから《一坪の海岸線》→《大天使の息吹》→《支配者の祝福》を予定している。

 すぐ取れるカードは持ってても襲われる可能性が増えるだけでメリットがないからね。

 

 私は夏休みの宿題を初日に全部終わらせるタイプなのだ。

 そして夏休み中は『え~、宿題なんて何時でも出来るでしょ~』なんて言って遊びまくる。そうすれば何人かは真に受けて宿題を放ったらかしにするからね。2学期の始業日に徹夜明けで出てきた子を眺めるのは密かな楽しみだったなぁ。

 

「シズク姉ちゃん、あそこに村っぽいのが有るよ。」

 

「おっ、ミルキナイスー。」

 

 そんな訳で調べた取得場所に向かってデメちゃんで飛び、そろそろ2時間が経過した頃。

 飛行中のデメちゃんから見下ろす大地に広がる樹海、その中に紛れるように存在する小さな集落を見つけた。

 

「デメちゃんあそこに降りて。」

 

『んぎょっぎょ。』

 

 私達はその集落の入口にゆっくりと降り立つ。

 入場用っぽいアーチには『わくわく☆動物村』と書かれた看板があった。

 

 

 

 村に入ったら中をザッと一通り見て回る。

 人口は20人ぐらいだろうか。やたらとマッチョで傷の多い男しか居なかった。周囲のモンスターと戦ってる設定なのかな? オマケにみんな犯罪者のような目つきで、私達を興味深そうにジロジロと見てきて不気味だった。

 

 家として使われているのは白いテントのような物で、木で作った格子状の骨組みに分厚い布を被せたものだ。

 その見た目はモンゴルのゲルにそっくり。移動を前提にした作りのように思えるので、もしかしたらこの村は定期的に場所を移しているのかもしれない。何のためかは今の所わからないが。

 

 村の中には他に目を引くものは無かったので、最後に村人に案内してもらい長老の家を訪ねた。

 

「失礼しまーす。」

 

「おっ、お客さん? ……えっ、まじで??」

 

 中に入るとそこには一人の中年の男性がいた。

 ボサボサの髪にサングラスを掛け浴衣のような服を着ていて、柔らかそうなソファーに寝そべって煎餅をボリボリたべている。まるでダメな男(マダオ)の見本のようだ。

 

「こちらの方がこの村の長である、"ヒマ長老"でございます。」

 

「"ヒマ長老"どぇーす。よろピク☆」

 

 案内してくれた村人が目の前の男を紹介する。

 紹介されたダメ長老は左手の人差指と小指だけを立てながら挨拶してきた。もちろんソファーに寝そべったままだ。

 

 長老っていうか、これただのニートじゃねーか!!

 

「姉ちゃんコイツムカつく。」

 

「ミルキはどうしたい?」

 

「殺したい。」

 

「待って、君らいきなり何言ってるの?」

 

 長老が焦ったようにコチラに問いかける。

 奇遇だな、私も同じ意見だ。でもちょっと待とうか。コイツには()()生きててもらわないと困るから。

 

「《一坪の密林》について知りませんか?」

 

「《一坪の密林》? 一坪どころかこの辺は全部密林よ? ……もしかして俺に仕事しろっつーの? ……っかー、つれーわー。仕事したくても動物が居ないからつれーわー。あーあ、動物がいれば仕事するんだけどなぁー。」

 

 ウズウズし出したミルキを抑えてダメ元で訪ねてみれば、帰ってきたのは何とも言えなくなるようなセリフだった。話題の転換がちょっとオカシすぎない?

 

「姉ちゃんコイツすごいダメそう!!」

 

 将来の引きこもりが言いおる。

 でも全くやる気が感じられないのは同意。普通ならこのセリフがヒントだなんて誰も思わないだろうね。どう考えてもダメな大人の戯言、サボるための口実だ。

 

 だが私はこのマダオ(ヒマ長老)が重大なヒントをくれるキャラだと知っている。ならばこのセリフにもちゃんと意味があるはずだ。

 

 《一坪の密林》のカードテキストが

 

 『「山神の庭」と呼ばれる巨大な森への入り口。

  この森にしかいない固有種のみが数多く生息する。

  どの動物も人によくなつく。』

 

 であることを踏まえて考えると、大事なのは恐らく"動物"というワード。

 

「どう思うミルキ?」

 

「1発だけ撃っていい?」

 

「1発なら誤射ね。」

 

「ちょっ。」

 

 ――パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 ミルキが大型自動拳銃(デザートイーグル)を連射する。ここに来る前に渡しておいた私のお下がりだ。

 

「姉ちゃん弾切れた。」

 

 ……一発って言ったのに聞いてなかったのかな? ダメオの全身から血が流れてるじゃねーか!!

 まぁそれでも平気そうだから念人形っぽいし、教えた通りしっかり構えて撃ててる。お姉ちゃんはうれしいから今回は不問にしよう。

 

「はいマガジン。ちゃんとリロードしなさい。」

 

「分かった。」

 

 しかしどうしたもんだろう。このダメオの言葉をそのまま受け取れば、動物を連れて来いってことだよね?

 

 動物、あるいは獣って説明があったカードは……

 

 《No.022 トラエモン A-22》

 《No.035 カメレオンキャット S-06》

 《No.098 シルバードッグ S-08》

 《No.099 メイドパンダ S-06》

 

 この4枚。試しに取ってくるにしてもS3枚にA1枚って地味に大変。

 

「どうするの? もう殺っちゃっていい?」

 

 どうするって、こうなったら一枚ずつ取ってくるしかないだろう。

 しかもこれはゲイン(カード化解除)する必要が有るパターンだね。何度も取り直すのは手間だから、増やすために〈複製(クローン)〉も必要だな。

 

「……流石にランクSSだけあって面倒だね。」

 

 それでもまだヒントをくれるキャラを知ってるだけ私達はマシな方なのだろう。

 原作知識がなければココでキレて終わりだっただろうから。

 

「いったん帰るよ。〈同行(アカンパニー)〉だして。」

 

「使ってみて良い?」

 

「飛ぶのはミルキが行ったことない街だからダメ。」

 

 私達は動物村を一旦後にし、必要だと思われる4枚のカードを取りに向かった。

 

 

 

 

 ――そして2ヶ月後。

 

「"ヒマ長老"どぇーす。よろピク☆」

 

 4種の動物を揃えて訪れた長老宅、そこでは相変わらずダメオがダラダラしていた。

 

 だが今回は無策だった前回とは違う。

 

「フフフ、残念だけどニートライフは今日でお終いだよ。」

 

 揃えてきた4種の動物を長老の前に並べる。

 私のお気に入りはシルバードッグだ。見た目は銀毛のレトリバー。手に入れてまだ2週間だが、人懐っこくてすごく可愛い。

 

「くぅーん……。」

 

 そんなシルバードックが床で仰向けになり、お目々をウルウルさせながら鳴き声を上げる。更にそのお腹の上でカメレオンキャットも子犬バージョンに変身。仕草と鳴き声を真似始めたではないか。

 

「なん……だと…………。」

 

 それはまさに可愛いと可愛いのハーモーニー。人生に疲れた大人ほどイチコロなアニマルセラピーである。マダオもじっと見入ってるよ!!

 

 しかしまだだ! まだ私のターンは終わっていない!!

 

 追加でダメ押しのメイドパンダの効果を発動!!

 きれい好きで料理が趣味の便利パンダさんである。私が合図を送るとメイドパンダは優雅な仕草で一礼、マダオの後ろに回りその柔らかな肉球でマッサージを開始した。

 

「あっあっあっ……。」

 

 プニプニとした肉球で指圧される度にマダオの全身から力が抜け眼がトロンとしていく。

 心が動物たちを受け入れ始めたのだ。くっくっくっ、たとえダメな長老でもこの圧倒的な癒やし攻撃には耐えられまい!!

 

 えっ、トラエモン? ……アイツなら隅っこで静かにしてるよ。だって袋が本体だからね。出来ることは何もなかった。これがランク格差だ。

 

「ところで《一坪の密林》について知りませんか?」

 

 プニュプニュと肉球による刺激で脳を破壊しつつ尋問を始める。

 すでに全身を解きほぐされてしまったマダオは、口から涎を垂らしながら意識が朦朧としていた。もはや抵抗する力など残っていないのは一目瞭然だ。

 

「あっあっあっ、確か北にそんな名前の祠がっ。あっ……でもその入口を……あっ、サクサク山賊団が、あっ、根城に……おふぅ……。」

 

 ふんふん、にゃるほどにゃるほど。北の祠で山賊を倒せばいいのね。

 なんだ楽勝そうじゃん。これはもう密林取っちゃったかな?

 

 でもこの動物たちはどうしようか。

 

「この子たちならココでっ、あっ、預かるかららっらっらっ。」

 

 首周りをマッサージされ、肉球のやんわりとした暖かさにマダオの体が跳ねる。

 そういう事ならここで預かってもらおう。マダオはこのザマだし大丈夫でしょ。

 

「くぅ~ん。」

 

「後で迎えに来るから待っててね。」

 

 長老に動物たちを預け、私達はさっそく北の祠に向かう。

 ただし山賊団は出払っているのか丁度いなかった。なのでこれ幸いにと罠を仕掛けつつ、祠の中にあった巨大な狼の石像の裏に隠れて山賊団を待った。

 

 ――そうして半日が過ぎた頃。

 

「姉ちゃん、誰も来ないね。」

 

「おかしいな……。」

 

 山賊団は一向に来る気配がなかった。

 ゲーム的に考えれば戻ってくる日数に乱数が使われているのかな? 遠くに遠征している設定なのかもしれない。

 

 だがそれから更に半日、丸一日立っても来ないので、私達はしょうがなく動物村に戻ることにした。

 

「どういうことなの?」

 

 しかし有ったはずの村は忽然と姿を消していた。始めからココには何も無かったかのように。

 

 まさか私達が居ない間に山賊団に襲われた?

 でも争ったような後は全く無いんだよね。ていうか私のシルバードッグちゃんはどこだよ。結構取るのに苦労したし愛着があったんだけど。

 

「これじゃあまるでアイツ等が山賊だったみたいだね。」

 

 !!?

 

「なん……だと……。」

 

 ミルキの言葉で私の脳に電流が走るっ!!

 

 えっ、そういうことなの? ……いや、そう考えれば辻褄があう。

 

 とするとこのイベントは、山賊団が化けた村に動物を預け、その後に祠に行き、そしてそれから()()()()()逃げようとしてる山賊団をブチのめす、のが正解だという事になる。

 もしかしたら"ヒマ長老"というのは、プレイヤーという獲物が来なくて()()してる()()って意味なのかもしれないね。

 

「ふ ざ け ん な !!!」

 

「姉ちゃん動物たちは?」

 

 恐らく戻ってこないだろう。きっとこれがこのイベントの失敗ペナルティだ。

 《一坪の海岸線》はPTの組み直しだったけど、こっちは動物の集め直しってことだね。

 

 ちくしょうー。ゲインしたのは〈複製(クローン)〉で増やしたカードだからオリジナルは残っている。とは言えそれでもまんまと盗まれてしまったのは悔しい。どうしてあんなニートを信じてしまったのか。

 

 だが良いだろう。なんせこれはランクSSカードの取得イベント。

 これぐらいの難易度は最初から想定内だ。この失敗は必要経費として受け入れよう。

 

「でもそれはそれとして、あの長老達は許さんっ!!!」

 

「どうするの?」

 

 そんなの決まっている。目には目を、歯には歯を。

 昔のなんか偉い神の子どもは言いました。右の頬を打たれたら全力でカウンターを打ち込め、と。

 

 という訳で。

 

「ハロー、シンジ。元気にしてた? ……今から言うものを大至急用意しろ。」

 

「おいちょっと待て。いきなり何を……」

 

 私はミルキから離れてゲート経由で電話をかける。

 

「まず――プラスチック爆弾(C4)()()()()。」

 

「はぁ!? 何言ってんだお前!! そんなの急に用意できるわけ……」

 

 村を丸ごと吹き飛ばすにはこれぐらいの量が必要だろう。ダイナマイトでも良い気がするが、周囲の木に貼り付けたりも出来るからこっちの方が便利だ。あとは予想される逃走経路にクレイモアやベアトラップなんかも必要だな。

 

「3日以内にやれ。他に必要な物もメールで送るから。出来なかったら……分かってるよね?」

 

「」

 

 よし、これで必要な物は揃う。流石にもうシンジの体も治ってるだろうからね。遠慮なくこき使ってオッケーだ。もしかしたらレイザーみたいにゲームマスターが出てくるかも知れないし、出来る限り念入りに準備しないとね。

 

 くくく、待ってろよ村人(山賊)ども。……全員綺麗に 皆 殺 し にしてやるぜ!!

 

 




ミルキ:まだ5才&初めての外出&ゲームの世界に大はしゃぎ。
    でもはしゃぎ過ぎてきっちり躾られた。念は覚えて3ヶ月。

ヒマ長老:ニート。見た目は銀魂のマダオ。
     念人形なので村に入りし直すと怪我は治る。対決は次回。
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