シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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一坪の密林の攻略回です。


第29話 GMをハメ殺そう

 《一坪の密林》の取得イベントに失敗した私達はマサドラに帰還した。

 すぐに食事を摂り宿屋の部屋に入る、するとミルキはそのまま寝てしまった。ゾルディック家の次男とはいえまだ5歳だ。肉体もそうだが精神的な疲労も溜まっていたのだろう。

 

 私も日課の修行をこなしたらシャワーを浴びてベッドで横になった。

 格好はTシャツとパンツだけ。バストアップ体操は毎日欠かさず行なっているがまだ胸に膨みはなく、ツルペタロリボディなので色気なんて欠片もない。もちろん下の毛も生えておらずツルツルである。

 

 ちなみにこんな所で眠って良いの? と思うかも知れないが、その辺はすでに検証済みだ。

 呪文カードによる攻撃は発動時にカードが光の玉になって飛び、相手に命中することで効果を発揮する。だが何らかの方法で当たらなければ不発扱いになるのだ。

 

 本来は自動追尾のため回避不可能であるが、物理的な壁は超えられなかった。

 つまり閉め切った部屋の中を外から呪文カードで攻撃する事は不可能という事である。

 隣の部屋から呪文連打とか無理ってことだね。きっと出来たら隠れて呪文撃つだけのクソゲーになっちゃうから禁止にしたんだろう。

 

 翌日、起きたら攻略の準備を始める。

 朝はご飯を食べて軽く訓練をしたら、まず貯金を下ろして呪文カードを買いに行く。

 

 必要なのは〈複製(クローン)〉8枚。これでイベントの発生に必要な動物カード4種を各()()ずつ増やす。

 イベント1回分多いのは失敗前提で情報収集をする為である。逃げ方や逃走経路を把握しなければ罠が仕掛けられないからね。

 

 それからグリードアイランドを譲って(強制)くれた、親切なおじさん2人が路肩に座っていたので〈離脱(リーブ)〉を渡してゲームから出してあげた。

 

 彼らは泣きながら感謝の言葉を述べてログアウトしていった。やっぱり人に感謝されるのは気持ちいいね。きっと彼らは外に出ても泣き続けただろう(ここどこ? 的な意味で)。

 

「なんであんなのにカードあげちゃったの? 〈離脱(リーブ)〉ってレアだよ?」

 

 ところがミルキは私の行動が不思議だったようだ。

 確かに譲渡書の下りを知らないと意味不明だよね。だが説明が面倒なのでココは適当な事をいって誤魔化しておく。

 

「フフフ、それはね。私が困っている人を見たら助けずにはいられない、とっても優しいお姉さんだからだよ。……アライメント(属性)で言えば極善的な?」

 

「嘘だっ!!」

 

 ミルキは目を見開いて大声で叫んだ。

 どうして全力で拒否するのかな? もう2ヶ月以上も世話してやってるのだから少しぐらい同意しなさいよ。

 

「今日から修行は3割増ね。ミルキは才能が有りすぎるから。」

 

「……嘘だっ!!!」

 

 今度は泣きそうになりながら叫ぶミルキ。

 ……信じてもらえないって悲しいね。

 

 あとせっかくなので〈離脱(リーブ)〉を渡す時に《コネクッション》で別の実験もしてみた。試してみたのは『私のことを忘れて』と頼む事による記憶の忘却だ。

 

 当たり前だが効果は無かった。このアイテムは座った人の能力を超えてのお願いは無理だからだ。座った人が"記憶を自由に出来る【発】"を持っていれば可能だろうけどね。

 

 しかも無理なお願いをしたせいか、クッションは壊れて消滅してしまった。

 実は最初の時も何回か使うと壊れてたので、どうやらこのゲームのアイテムにはカードに書かれている以外にも隠された仕様があるようだ。

 

 《コネクッション》はクリア時に持ち出す候補だったんだけど、この分だとちょっと選ぶ気にならないね。下手したら最初のお願いで消滅する可能性だってあるから。

 

 それから最後にバインダーで出会ったプレイヤーリストを確認してみれば、初期に譲渡書を書いてくれた40人で残ってるのはもう数人しか居なかった。

 ちょっと死に過ぎだと思うが、まぁ私的には死んでくれたほうが後腐れがなくて良い。

 

 

 

 

 その後、私達は再び"ワクワク☆動物村"に出向き、長老に動物を預けてイベントを起こした。

 

「"ヒマ長老"どぇーす。よろピク☆」

 

 設定された挨拶なんだろうけどすごくイラつく。

 長老は相変わらずソファーに寝そべってダラダラしていた。イベント失敗によりリセットされたのか、どうやら私達のことも覚えていないようだ。山賊の癖に……今に見てろよてめぇ。

 

「メイドパンダよ、やれ。」

 

 しかし今はまだ手出し出来ない。なので代わりに私はメイドパンダに合図を送る。

 するとメイドパンダは前回と同じ様に長老へマッサージを始めた。……ただし今回は力任せの整骨マッサージである。

 

「痛い痛い痛い……ちょっ、やめっ!!」

 

 ぐえぇー、という叫び声とともに長老の体中からパキパキと嫌な音が鳴り響く。

 骨が外れたのかな? もう盗まれる事は分かっているからね。前回の恨みも兼ねて辛口対応だよ!!

 

「死ななきゃ大丈夫だから()()()()揉んであげてね。」

 

「(・ω・)おk」

 

 働き者のメイドパンダにそのままご奉仕を続けるよう指示すると、私は村を出て山神の祠に移動する。ミルキには村から少し離れた場所に残ってもらい、村の様子を監視してもらうことにした。

 

 私は祠に入ると〈交信(コンタクト)〉でミルキに連絡を入れる。

 そして逃げる準備が始まった事を聞いてから急いで村に引き返した。

 

「さて、どんな感じかな。」

 

 そのままミルキを回収し浮いたデメちゃんに乗って眼下を伺う。

 森の中では木が邪魔で把握が難しいが、上からなら何をしているのかよく分かる。

 

 ココまでの移動もそうだけど、やっぱり飛べるってすごいアドバンテージだ。まぁデメちゃんはどんどん巨大化が進んでいるから【陰】で隠さないとめちゃくちゃ目立つけどね。

 

 見れば村人たちはテキパキと逃げる準備を進めていた。家代わりに使っていた天幕を折りたたみ、木材の骨組みは手荒に崩して放置だ。特に燃やしたりはしていないので、このままココに置いていくのだろう。

 

 そして準備が終わると村人に偽装していた山賊共は一団となりそそくさと逃げ出した。

 私達はそれを隠れながら追いかける。するとしばらく進んだ所で山賊達は完全に()()()しまった。

 

 恐らくそこがこのイベントの境界線。つまり失敗ラインって事だろう。

 超える前にどうにかしろってことだね。

 

 また動物たちを持っていかれてしまったが、おかげでこのイベントの流れは把握できた。

 

 箇条書きにするとこんな感じである。

 1.動物4種を集めて長老に預ける

 2.山神の祠に向かう

 3.祠に着くと村人(山賊)達が逃げる準備を始める

 4.準備開始から10分経つと逃走がスタート

 5.祠と真逆の方向に10キロほど進まれるとイベント失敗

 

 中々面倒なイベントだが、ここまで分かれば後は容易い。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 敵の動きを把握した私達は次の準備を始める。

 

 第1目標は預けた動物たちを取り返すことだ。これが出来ればたとえ山賊共に逃げられたとしても、またすぐにイベントを起こすことが出来る。

 

 なのでまずは救助用の穴を掘る。場所は長老の家の真下まで。イベントが始まった時にすぐ乗り込めるようにだね。

 

「ミルキは今どれぐらい【練】を続けられる?」

 

「うーん、たぶん30分ぐらい……」

 

 おっ、結構伸びたな。この2ヶ月間はずっと【練】の訓練に費やしたとはいえかなり優秀だ。

 ていうか私が5歳だったときより長いんですけど? とすると幼少時はオーラが増えづらいという考察は間違いだったのかもしれない。それとも個人差があるのか。

 

 ……いや、考えてみれば私のオーラが増えるようになったのはゲートを制御する【発】を作ってからだ。

 

 ってことは、もしかしたら魚面共が関係しているのかも。こっそりオーラが吸われてたとか? ……ちょっと気になるけど私だけでは調べようがないか。

 まぁすでにアルカは生まれているので、あと数年経って言葉が分かるようになったらナニカにお願いして教えてもらおう。という訳で今はこのイベントに集中だ。

 

「はいこれ持って。こんな風に物にオーラを纏わせるのが【周】だよ。」

 

 ミルキにマサドラで買ってきたスコップを渡し、目の前で【周】を実演してみせる。

 これさえ出来れば地面なんて熱したバターと変わらない。

 

 ロープ付きの大きなバケツで掘った土を排出し、二人で交代しながら数十分も掘り続けると、直径1メートルで深さ5メートルほどの穴ができた。

 

「ここからは村に向かって掘っていくよ。それから……ゲイン。掘った土はここに放り込むように。」

 

 私は穴の中で村と反対側の壁に向き《バーチャルレストラン》のカード化を解除する。

 すると土の壁にドアが出現、開けて入ると中は豪華なレストランになっていた。

 

 これなら土を上まで一々持っていく必要はなくなる。えっ、レストランを土置き場にするはどうだって?

 

 良いんだよ。だってこのレストランはどんな料理でも出してくれるが、食事をしても食べた気になっているだけで何も腹に入っていない、というゴミみたいな場所だから。

 オマケに最後に栄養剤を渡して帳尻を合わせようとする酷い店である。……ゴミ置き場にされてもしょうがないね。

 

 ちなみにこのカードはランクBなので予備も含めてあと数枚買ってきている。

 いちいちマサドラまで帰るのは面倒なので、私達が寝る仮宿にするためだ。そして終わったあとは入口を土で埋めてみて、消えないようなら【接続ポイント】を作って私の物置として利用する予定である。

 

「じゃあ方向と距離に気をつけながら掘っていこう。」

 

 穴は子供一人が通れる幅でいい。あんまり広く掘ると崩れちゃうからね。いちおう一定間隔ごとに木材で補強もしておくが。

 

 一番問題なのは方向と距離だったが、これは《スケルトンメガネ》を使うことで解決した。

 このメガネは物を透かして見る事が可能で、メモリで強弱の加減が出来るのだが、メモリを最大にすると地面まで透かせたのだ。

 

 おかげで地面の下からでも村の場所を把握することが出来る。

 持ち出して下水道の中で使えば、歩いている人のスカートの中身を下から覗きまくれるね。

 

 欠点としては私とミルキもお互いにスッポンポンに見えてしまうことだが、しかし二人共まだ子供なので考える必要はないだろう。ミルキがすごく気に入ってるのがちょっと不安だが。

 

 半日かけて長老の真下まで到達すると、次は沈下しない程度に地上に向かって掘る。これでイベントが始まったらこっそりと(長老にはバレるだろうが)動物たちを救助出来るだろう。

 それから村の中にも坑道を広げ、何時でもプラスチック爆弾(C4)を設置出来るようにすれば完了だ。

 

 私達は最初に掘った縦穴まで戻ると、土を放り込んでいたのとは違う《バーチャルレストラン》をゲインする。そしてその中にベッドや風呂を設置すると、掘っている最中についた土を洗い流してから睡眠をとった。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 シンジに連絡を入れてから3日後、天空闘技場の最上階。

 バトルオリンピアの優勝者だけが使えるペントハウスに移動すると、そこには沢山の物が置いてあった。

 

 主にC4を始めとした爆発物だ。新旧の地雷から起爆用の信管、果ては怪しげな液体が詰まった大きな瓶などパッと見では良くわからない物まで、ある程度の間隔を取って種類ごとに綺麗に整列されている。

 

 わざわざ距離を空けているのは事故ると大変だからだろう。だが仮に一つでも爆発すれば残りも全部誘爆するだろうから、せいぜい心持ち気が休まる程度の意味しかない。

 

「でも足りない? ……足りなくない?」

 

 10トン注文したはずのC4が3トンしかない。

 他のも注文した量の1/3~1/5程度だ。ちょっと努力が足りないんじゃないですかね。

 

「無茶言うなよ。これでも頑張ったんだぞ。」

 

「ほんとぉ?」

 

 まぁこれは多分本当だろう。見ればシンジは目の下に隈を作って、今にも死にそうなほど疲れているようだった。恐らくこの3日間一睡もしてないんじゃないかな?

 

 確かに今回は急だったし、私のハンターセイランスを使った訳じゃないからね。まぁこれだけあれば小さな村を吹き飛ばすには十分だろう。

 

 私はゲートで郊外の倉庫へこれらを運び、再びグリードアイランドの中へ戻った。

 

 

 

 

 

 

「"ヒマ長老"どぇー「《一坪の密林》って知ってる?」……」

 

「確か南にそんな名前の祠が「動物たちを預かっとけ。」……あっ、はい。」

 

 村の地下に爆弾を仕掛け終わったら、早速《一坪の密林》イベントをスタートさせる。

 もう3回目なので会話はスキップだ。祠の場所を聞き、動物たちを預け、デメちゃんに乗って祠に飛ぶ。

 

「ミルキ、そっちはどう?」

 

 ミルキとの連絡はトランシーバーで行う。爆発物のついでに注文しておいた長距離用の物だ。祠までは10キロないのでこれで十分連絡を取ることが出来る。

 〈交信(コンタクト)〉は時間制限もあるしバインダーを出さないと使えないから面倒なんだよね。

 

「村人が逃げる準備を始めたよ。」

 

「おっけー。〈同行(アカンパニー)使用(オン)、ミルキ。」

 

 イベントがしっかり始まったことを確認したらすぐに呪文カードでミルキの場所に飛ぶ。

 そこから掘っておいた穴を通って長老の家の下へ。出来るだけ静かに穴を貫通させて地上に出ると、長老は未だにソファーでだらけていた。

 

「!!?」

 

 地下から出てきた私達に驚いた長老の口を即座に塞ぎ、猿ぐつわを噛ませてロープで縛る。

 終わったら部屋の壁にC4を設置していく。長老の家は村の中央に有るので、いい感じに爆発を撒き散らしてくれるだろう。

 

「そっちはどう、ミルキ?」

 

「ちょっと待って。」

 

 それが終わってふと見れば、なんとミルキは余ったC4を()()に設置していた。

 顔と背中、そして()()()()にまで、まるで親の仇と言わんばかりにペタペタと貼り付けている。

 

「ん”ん”ん”ん”~~~!!!」

 

 長老はこの世の終わりのような顔でイヤイヤと体をくねらせてる。

 だがそれを見ても全く可愛そうだとは思わない。むしろこの後に爆発で吹き飛ぶ事を考えると心がスッとする。……汚い花火になりそうだな。

 

「終わったら行くよ。」

 

 私達は設置を終えると動物たちと共にデメちゃんに乗り、長老宅の天井を突き破って飛び出した。よし、これで最低限の目標はクリアだ。失敗してもまた動物を集めてくる必要はない。

 

「ってことでミルキ、もう人質は居ないからやっていいよ。」

 

「はーい!! ……ポチっとな。」

 

 村から飛び出したら爆発に巻き込まれないように十分な距離をとる。

 そして爆破の許可を出すと、ミルキは遠慮なく手に持っていたスイッチを押した。

 

 瞬間、眼下の村から雷が落ちたような凄まじい轟音が響き、熱を持った風が押し寄せ頬を叩いた。地下に仕掛けたC4が一斉に起爆し、村を丸ごと吹き飛ばしたのだ。

 

 土砂が何十メートルも巻き上げられ、死亡判定を受けてカードに変わった村人がヒラヒラと宙を舞った。数えてみると20人の内13人が死んだようだ。

 長老宅以外は地下からの爆発だった為、運良く生き残った人もいたのだろう。

 

「残りを狩るよ。」

 

「はーい。」

 

 だがそれも想定済み。上空に待機していた私達は対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)を取り出し、スコープ越しに生き残りを一人ずつ仕留めていく。

 更にそれも回避して周囲の森に逃げ込んだ人も居たが、予め仕掛けておいた地雷で吹き飛んだ。

 

 こうしてイベント開始から数分後、村人に偽装していた山賊達はあっさりと全滅した。

 本来であれば樹海で生き残りの確認など難しいところだが、こちらは空を飛べる上にスケルトンメガネで樹木を透かすことが出来るので確実だ。

 

 全員死んだことを確信した私は残った地雷を処理し、改めて山神の祠へ向かった。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 祠の近くに降り立つと、その入口には2つの人影が有った。

 

「おいおい、よくもやってくれたじゃねーかよ。なぁ"ドロリ"?」

 

 一人はくたびれた中年の男性。

 赤い帽子を被って丸メガネをかけ、工場の作業員のような上着とズボンを身に着けていた。

 ……まるで何十年も生命の創造を行なってきたような風格だ。

 

「まったく、困っちゃうよねー。ねぇ、"サクサクさん"?」

 

 そしてもう一人は着ぐるみのような黒い熊だ。

 二本足で立ち言葉を喋ってる所からかなり高度な念獣だと思われる。胸の部分に5と書かれた横縞のシャツを着て、下には赤いズボン。そして瞳にはすごく野心を秘めていそうな輝きが宿っていた。

 

 先程の二人の会話から赤帽子の中年が"サクサクさん"、そして熊の方は"ドロリ"という名前だと分かる。

 

 サクサクさんの方は纏っているオーラがかなり強いから、恐らくゲームマスターの一人だろう。念獣を連れている所を考えると、ゲームでの担当はたぶんモンスターの具現化かな?

 

「えーと、あなた達もサクサク山賊団の人って事でいいんだよね。」

 

「その通り、サクサク山賊団は私の団だ。だからこそ君たちを許すわけには行かない。」

 

 やっぱりそうか。名前の時点でほぼそうだと思ってたよ。

 そしてということは倒してもOKだ。早速、対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)を構えて狙いをつける。

 

「……一坪の密林の中の動物たちは私たちの物だ。残念だけど、君たちはココから先には進めないね。」

 

 しかし私が撃つ前にサクサクさんはポケットから携帯用の平らなケースを取り出した。

 更にそれを開いて呪文を唱えだすと、合わせてドロリがクルクルと回りだしたではないか。

 

「ムーンプリズムてくまくま……メイクアップ!!」

 

 呪文の途中に変なの混ざってなかった? クマだからかな??

 私は今のうちに頭を撃ち抜きたくなったが、イベントが中止になると困るのでしょうがなく黙って見守る。

 

 ケースから七色の光が飛び出して周囲が満たされ、その光が消えたときには……ドロリは巨大なクマへと姿を変えていた。その姿は某狩りゲーに出てくる青熊獣にそっくりだ。

 

「ここから先は行き止まりだもんねー? 祠に入りたければボクを倒してみなよ。」

 

 目の前に出現した巨大熊――ドロリが流暢にしゃべる。

 言ってることが正しければこのモンスターを倒すのがクリア条件なのだろう。

 

 だがその身には膨大なオーラを纏っており、簡単には行かないことは一目瞭然だった。

 普通なら急にこんなモンスターが出てくればビビって逃げるか、あるいは一旦引いて戦略の立て直しを考えるのではなかろうか。

 

 ……それが私でなければ。

 

「やるよミルキ。」

 

「えっ、まじで!?」

 

 事前に言ってたにも関わらずビビっているミルキに活を入れ、私はすぐにデメちゃんに乗って空へと舞い上がる。

 

 うん、まぁ()()()()()()出てくると思ってたよ。

 だって村にいた山賊共はみんなNPCっぽかったからね。誰一人強いオーラは纏っていなかった。だから言ってみればあの村はただの前座、その先に本当のボスが居ると当たりを付けるのは難しくはない。

 

 そしてだからこそ幾つか作戦も考え、――その準備はすでに終わっている。

 

「デメちゃん飛んで!!」

 

 繰り出してきたドロリの前爪を避けながらデメちゃんを上昇させ、その間に私はサクサクさんに向かって何度も引き金を引く。それは身を挺して庇ったドロリに止められてしまったが、その間に十分に距離を取る事ができた。

 

「ブック!!」

 

 次にバインダーを出し、用意しておいたカードをゲインする。

 カード化を解除されて出現したのは液体が詰まった巨大なガラス瓶だ。私はそれを合計10枚分ゲインすると、すぐにサクサクさんに向かって蹴り落とした。

 

「そんなの効かないよ~?」

 

 当たり前だがガラス瓶はドロリによって迎撃されてしまった。

 だがそれでいい。空中で破壊された事により瓶の中身が撒き散らされ、中の液体はドロリの体とその周囲にベットリと付着した。

 

 これが私が用意した作戦その1。

 そう、原作で主人公たちが対ボマー戦で使った戦法の丸パクリである。ただし準備したのはガソリンなんてチャチな物じゃない。瓶の中身は主燃焼材のナフサに増粘剤を混ぜた混合液、――一言でいえば"ナパーム弾の中身"である。

 

「ぽいっと。」

 

 最後に複数のライターを着火してまとめて下に放り投げる。

 付着していた液体が発火し祠の周囲はあっと言う間に炎に包まれ、高温によってドロリとサクサクさんが悲鳴を上げた。

 

「「アツゥーーーーーーーイ!!!!!」」

 

 しかしそれで終わりではない。私はすぐにマガジンを変え、ドロリをその場に足止めするためにサクサクさんに向かって銃弾を飛ばし続ける。

 

 そうして数分も経つと、急にサクサクさんが片膝を突いた。体中から汗を噴き出しており呼吸もかなり荒い。よく見ればドロリも存在が薄くなって消えかかっていた。

 

「おっ、どうやら成功したね。」

 

 私が撃った銃弾は一発もサクサクさんには当たってないがそれでも十分だった。

 元より目的はダメージを与えることでなく時間稼ぎ。

 

 私が最初にばら撒いた混合液は着火により発生する高温もやっかいであるが、同時に急激な燃焼により周囲の酸素を奪い尽くすのだ。

 

 サクサクさんは酸欠、あるいは一酸化炭素中毒によって急激に体調が悪化。ドロリの具現化を維持できないほど集中力が乱れているということである。

 

 もちろん私とミルキは事前に超小型の酸素ボンベを咥えている。

 上空にいるから大丈夫だとは思うが念の為だ。ココまでやって相打ちとか笑えないからね。

 

「すごい! すごいよ姉ちゃん!!」

 

「フフフ、もっと褒めてもいいのよ?」

 

 私って天才じゃね? ……ごめん嘘。酸欠の方も原作でモラウさんがライオンのキメラアントを倒すたのに使った戦法のパクリなんだ。まぁ念獣の方はオート型で消えない可能性もあったが、今回は運が良かったね。

 

 ちなみに撒き散らした混合液は長年の戦争によって改良を加えられた物で、一度火が付けば10分以上燃える最新型だ。オマケに親油性なので落ちないし、水を掛けても火は消えない。

 

 特に今回のイベントはフィールドが森林であり、山神や山賊などのキーワードから、モンスターが出てくる場合は獣、樹木、もしくは爬虫類系の辺りだと当たりをつけていた。オマケに森が燃えてしまうことを考えれば、それらやゲームマスターが炎系の能力を使ってくる可能性は低かった。

 

 とすれば対策として逆に炎攻撃を用意するのはゲーマーとして当たり前のことだ。

 そうして持ってきたのがナパーム弾に使われている混合液である。もちろんゲームマスター対策の酸欠効果も兼ねている。

 

「でも森もすごい勢いで燃えてるけどいいの?」

 

「……大丈夫よミルキ、だってココはゲームの世界なんだから。」

 

「そっかー。」

 

 ごめん嘘、本当はココは現実なんだ。

 それでも私は村ごと爆破するし森だって丸ごと燃やすのは止めない。クリアの為だからしょうが無いね。まぁゲームだと思ってたと言えば多分許してもらえるでしょ(ゲス思考

 

 

 

 それから適当に銃を撃ちながら待つこと数分。

 ついにドロリが消え、完全に意識を失ったのかサクサクさんはその場に倒れてしまった。おっとぉ、ゲームマスターなのにちょっとダラシないんじゃないですかね?

 しかも倒れた体はすぐに光に包まれて飛んで行ってしまった。それはまるで〈同行(アカンパニー)〉を使ったときのようだ。

 

 プレイヤーが死んだ時とは様子が違うから、恐らくこれはゲームマスターに不測の事態が起こった場合に設定されていた、緊急プログラムみたいな物が発動したのだろう。

 きっと命が危険になったら、別のゲームマスターの下へ強制ワープとかそんな感じ。

 

 カード取得のイベントとはいえ念能力者と対戦するのだから、ゲームマスターだって死ぬ可能性はゼロじゃない。

 そう考えれば保険のようなシステムは有るのが当たり前だと思う。なんせプレイヤーとは違い、彼らゲームマスターには代わりが居ないのだから。

 

 私としても死んでしまうことは一番の懸念だったが、これなら心配する必要は無さそうだ。

 

「これで後は祠に入れば終わりかな?」

 

 ゲームマスターを倒した私達はそのまま山神の祠に踏み入る。

 すると正面の壁中央にあった巨大な狼の石像に穴が空き、人が通れる程度の通路が開いた。

 

 中を見ればその先には巨大な山林と湖が広がっており、私が近づくとその景色が切り取られて1枚のカードに変わった。

 

 慌ててキャッチしたカードには《No.001 一坪の密林 SS-03》と書かれていた。

 

「っしゃー!! ランクSSカードゲットォオオオ!!!」

 

「シズク姉ちゃんやったね!!」

 

 最初の挑戦から実に2ヶ月半。私達はついに《一坪の密林》を手に入れた。

 




サクサクさん:モデルはワクワクさん(作って遊ぼ)
強制ワープにより別のGMの元に運ばれ無事に回復しました。
燃やしちゃった山もどうにかしてくるはず。たぶん。
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