シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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第03話 蛸と魚と不思議な渦

(あの金魚殺す。あの金魚殺す。あの金魚殺……あれっ?)

 

 金魚によって窒息死した後。

 次に意識が戻った時、私は不思議な空間にいた。

 横幅は5mぐらいだろうか。

 そこは薄暗い通路のような場所だった。

 

(三途の川の待合所かな?)

 

 軽く周囲を見渡せば、周りには半透明の人たちが沢山いた。

 試しに数えてみると、その数は私も含めてちょうど100人。

 どうやらこの人達は曲がりくねりながらも、一列になって並んでいるようだ。

 その様は某即売会で大手サークル列にならぶ廃人達のよう。

 

(何この人達……って私もじゃん。)

 

 遅れて自身に目を向けると、そこには半透明になった体があった。

 残念なことに完全に透明ではないので、きっとお風呂を覗けば捕まってしまうだろう。

 

 なにがどうなっているのか分からない。

 だがあの時に私は確実に死んだと思うので、これは魂だけの状態ということだろうか。

 でも一般的にイメージされる霊魂とは違い、しっかり手足がある。

 

(とすると、これはもしかして『お約束のアレ』なのかも?)

 

 私の頭の中に『神様転生』という言葉がよぎる。

 移動中の飛行機の中で散々読みまくった分野だ。

 最強チート、3つの転生特典、サービスで肉体スペックも爆上げ、質問もオッケー……

 

 その先にあるのは異世界で無双する英雄としての姿。

 オセロを売り、マヨネーズを作り、ドラゴンを倒し、王様をおっさん呼ばわり。

 そして最後は広場で斬首され――からのアンデッドとして返り咲いて渾身のザマァ。

 そんな素敵な人生だ。

 

 しかしそんなワクワク異世界ライフは、ふと通路の先を見たことであっさりと霧散した。

 

 最奥にあったのは、まるでココの主のように台座する、巨大なタコのような生物の巨像。

 顔はエイリアンの様な不気味さで、各所から触手が飛び出している様は、まさに邪神!

 

 更に巨像の真下には、二足歩行する魚面の生物がウジャウジャいた。

 そいつらは鉤のような爪と鱗の生えた指を持ち、足の指の間にはヒレまであった。

 そして手にはフォークのような三叉の銛。

 ギョッ! ギョッ! ギョッ! と鳴きながら踊っている様は、まさに邪神の使徒!!

 

 私は即座に理解した。

 

 生 贄 の 儀 式 だ こ れ !!

 

 しかもよりにもよって邪神系!!!

 

(ってことは私を襲ったトラックと金魚も、もしかしてコイツラのせいなのでは? ……やばい! 早く逃げ道を探さなきゃ)

 

 驚愕の事実を前にして、急速に思考が切り替わる。

 私は魚面共に気付かれないよう、こっそりと周囲を見渡す。

 しかし残念なことに前も後ろも壁しかない。

 他の方向を見ても先に有ったのは壁、壁、壁……そして行き止まり。

 つまりここは通路ではなく、前後に長い部屋だったということだ。

 もしくは私が扉の発見判定に失敗したか。

 

(GMさんもう一度! もう一度だけ判定振り直しをお願いします!!)

 

 私は心の中でGMさんに必死に願う。しかし無情にも判定が覆ることはなかった。

 さらにそんなことをしている間に、魚面共の踊りが終わってしまった。

 

『ぎょーっぎょっぎょっぎょ!』

 

 奴らは無駄にキレのある動作で軍隊のようにキビキビと整列する。

 すると次にどこからともなく怪しげな箱を持ってきた。

 

(なんだあれ?)

 

 それは濁った緑色をしたシャチホコ。

 口は大きく開かれ吐出口のようで、眼の部分には横にまわすタイプのレバーが有った。

 さらに胴体は半透明で、中にはたくさんのカプセルが詰まっているのが見て取れる。

 

 ――まごうことなきガチャポンである。

 

(まさかここは異世界のコミケ会場だった?)

 

 私が混乱してアホなことを考えていると、ついに並んでいた列が動き出した。

 首から笛をかけ旗を持った魚面が、先頭の人に移動を促す。

 その姿はコミケでよく見る係員さんそっくりだ。

 

 先頭だった人はすでに諦めているだろう。

 特に暴れたりもせず、大人しく誘導に従った。

 

 そして先頭だった人が箱の前にたどり着く。

 すると箱の横にいた別の魚面が、ワイが担当やで! と言わんばかりに片手を上げた。

 更に箱の操作方法を教えるようなジェスチャーを行い――そのままレバーに手をかけグルンと回した。

 

(ってお前が回すんかーい!!)

 

 私は思わず脳内でツッコミを入れてしまう。

 どういう意味が有るのかは分からないが、どうせなら自分で回させてほしい。

 連れて行かれた人も同じことを思ったのだろう。

 おどおどしかった雰囲気はなくなり、驚きと怒りが入り混じったものに変わっていた。

 それはまるで直前で完売板を出されて買えなかった人のようだ。

 

『ぎょっぎょっぎょ!!』

 

 しかし当の魚面はその反応をガン無視。そのまま最後までレバーを回し切る。

 ガチャンッ! という聞き慣れた音が響き、箱から勢いよくカプセルが排出される。

 それをパカっと開けると、中に入っていたのはライブチケットのような紙が1枚だけ。

 

『ぎょーっぎょっぎょぎょぎょっ!!!』

 

 しかしそれは大当たりだったようだ。

 いやもしかしたら大外れという可能性もあるが、とにかく魚面が楽しそうに叫びだした。

 

(どういうことなの??)

 

 こちらには未だに一切の説明がないので、全く意味が分からない。

 その後、ガシャポン係の魚面は、出てきたチケットを前に差し出す。

 先頭だった人は戸惑いながらも、無理やりチケットを握らされた。

 その後ろ姿は、知らない芸人のチケットを無理やり買わされたような哀愁があった。

 

 さらにそのまま奥の邪神像の元へ進まされる。

 案内係とガシャポン係の2匹以外、整列していた残りの20匹の魚面が左右に割れる。

 そうして出来た道の先にある邪神像の足元。

 そこにはいつの間にか、混ぜ始めたねるねるね○ねのような渦が出現していた。

 先頭だった人は空いた道を歩き、その渦の中へと吸い込まれた。

 

『ぎょっぎょー!』

 

 魚面たちはしばらく先頭だった人が消える様を見続ける。

 そして完全に消えたのを確認すると、それからようやく次の人をガシャポンの元へ連行した。

 

(うーん、なんでガチャポンなんだろ。)

 

 私は淡々と進むよくわからない儀式を観察する。

 幸いなことに私の前に並んでいるのは90人。考察のためのサンプルとしては十分だ。

 更にガチャポンの中のカプセルを数えてみると、ちょうどココにいる100人分だった。

 そうしてしばらく見続けると、その中身は4種類に別れているのが分かった。

 

 魚面が大喜びして踊りだす『A当たり(仮』

 魚面が拍手し親指を立てる『B当たり(仮』

 魚面が嫌そうに唾を吐く 『C当たり(仮』

 そして最後が、魚面が笑いながらフォークで相手を刺し殺す『ハズレ』

 

 出現率としては5:3:1:1ぐらいである。

 チケットに書かれている文字は読めないため、どれがどの当たりなのかは分からない。

 しかしハズレの条件だけはすぐに分かった。

 

 ――ガチャン。

 

 私の1つ前の人のカプセルが排出される。

 しかしカパッっと開けられたカプセルの中には――何も無かった。

 とたん、ガシャポン係の魚面はギョーギョッギョッ!! と笑い声を上げながらフォークを振り回す。

 

 これがハズレだ。

 前の人は串刺しにされたまま巨像へと掲げられる。

 すると巨像の眼が妖しく光り、ゆっくりと口の中へ吸い込まれていく。

 恐らくは吸収された、つまりエサにでもなったのだろう。

 

(ハズレ以外ならワンチャン有りそうかな?)

 

 そうして観察を続けていると、ついに私の番が回ってきた。

 

『ぎょっぎょっぎょ。』

 

 列を取り仕切っている案内係の魚面に促され、ガチャポンの前へ移動する。

 出来ればこうなる前に逃げ出したかった。

 だが結局逃げ道は見つからなかったので、ここで逆らうという選択肢は取れない。

 

(チクショウ、こっち見てニヤニヤしやがって……)

 

 魚面はこちらを馬鹿にした様な笑みを浮かべている。

 くっそうざくて殴りたい顔だが、ここは堪えるしか無い。

 

 ガシャポン係の魚面がレバーを回す。

 ガチャン! という音と共に運命のカプセルが排出された。

 

(C当たり来ますように! C当たり来ますように! C当たり来ますように!!)

 

 今までみた魚面の対応から、一番良いと思えるものが来ることを願う。

 まぁハズレは直前に出てるし、まさか2連続で出たりはしないだろう。

 そう考えるとちょっとだけ他の人より気が楽だ。

 

『ぎょぎょぎょ。』

 

 運命のカプセルが開かれる。

 中には……何もなかった。

 

(どちくしょぉおおおおおおお!!!!)

 

 あまりのショックに目の前が霞む。

 しかしそんな間にも、ガシャポン係の魚面はこちらに近づきながらフォークを構えた。

 

 くそぅ、ここで自分はゲームオーバーなのか?

 いや、あんな邪な巨像に吸収されるなんて、どう考えても死んだほうがマシだろう。

 

 ならば諦めることはできないのでは?

 というか、どうしてこんなキモい奴ら相手に自重しなければならないのか。

 

(うおおおおおお!!)

 

『ぎょぎょっ!?』

 

 私は脳内で絶叫を上げた。

 そして刺し殺さんと繰り出されたフォークを、ギリギリで気合回避。

 まさか躱されるとは思わなかったのか、魚面が驚いている間に横をすり抜けてガチャポンへ。

 すぐさま自分の手でレバーを回し、出てきたカプセルをダイレクトにキャッチ。

 残念ながら開けている暇はない。代わりに上下に振って中身が空でないことを確認する。

 

『ぎょぎょぎょぎょぎょ!!!』

 

 振り返れば、避けられて怒ったのか、顔が真っ赤に染まった魚面がいた。

 再び繰り出されるフォーク。しかし私はまたそれを気合で回避する。

 そのまま魚面の横を通って、渦に向かい一直線にダッシュ。

 

『ぎょーぎょぎょす! ぎょーぎょぎょす! ぎょーぎょぎょす!!』

 

 するとそこには、壁となって立ちはだかる魚面たちがいた。

 その様はまるでバスケでゴール前を塞ぐ選手達のよう。

 

 しかしその程度で私は止められない。

 だって未来は自分の手で掴むものだから!

 諦めなければ叶うと、私は信じているのだ!!

 

(うぉおおおおおお!!!)

 

 近づけば私を仕留めようと、一斉にフォークが突き出された。

 しかし甘い。私は腰の高さに突き出されたそれをジャンプで躱す。

 そしてその上に着地すると、それを逆に足場として利用し駆け上がった。

 最後は一番前にいた魚面の肩を踏み台にし、前方へ向かって高く跳躍。

 更にその勢いを使い、空中で体を捻り上下に180度回転。

 これにより後ろにいた魚面たちのフォークを全て回避した。

 同時にカプセルを開け中のチケットを取り出し、そのまま頭から渦の中へと飛び込む。

 

(こんなところに居られるか! 私は逃げるぞっ!!!)

 

 渦はあっさりと私の身を飲み込んだ。

 まるでドラ○エの旅の扉のように視界が左右にぶれ、すぐに体が消えていく。

 薄れゆく意識で並ばされていた方を見れば、そこにはガチャポンに群がる残りの人達の姿があった。

 

(一人は回せないからね、しょうがないね。……すまぬ。)

 

 こうして私は見事に邪神の祭壇(仮)からの脱出を果たした。

 これからどうなるのかは分からない。

 しかし最低でもココにいるよりはマシだという確信があった。

 

 最後に、手元のチケットに目を向ければ、どこか不安になるような文字でこう書かれていた。

  

 『匚廿斤亠凵丁庁∟∃(邪神様プレゼンツ) Ц∨Ц∨庁凵丁ρ丁(チキチキ転生チケット) ∪丁了匚庁(ヒトガタ賞)

 

 と。

 




主人公の転生シーンでした。

ちなみにチケットの内訳はこんな感じ。
A当たり(仮……タコっぽい像の眷属へ転生(魚類化)
B当たり(仮……魚面で踊ってた使徒へ転生(魚人化)
C当たり(仮……人間として別の場所へ転生(人間化)
ハズレ   ……直接邪神様の元へご招待(エサ)
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