シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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楽しい海賊狩りRTAはっじまっるよー!!!


第30話 海賊たちの厄日(前)

 ――1988年6月1日。

 

 ハロー、みなさんこんにちは。

 一人だけ別ゲーやってると噂のシズクちゃんです。

 

 《一坪の密林》を取ってから約7カ月が経過した。

 私達はあの後も順調にカードを集め続け、ランクS以上の残りは《支配者の祝福》《大天使の息吹》《一坪の海岸線》の3枚のみとなった。ついにクリアが見えてきたね。

 

 なので次はいよいよ《一坪の海岸線》にチャレンジする。

 待っているのは幻影旅団の面子をして『強ェなコイツ』と言わしめたこのゲーム最強のゲームマスター、レイザーさんとのガチ対決だ。

 

 ただしこのカードの取得イベントを開始するには()()人のプレイヤーが必要である。

 当然、私とミルキの二人だけでは全く足りない。しかしその辺の雑魚を引き入れても戦力にならない。

 

 ということで今回はゲーム外から助っ人を呼んできたよ!!

 

「久しぶりじゃの。また会えて嬉しいでおじゃるぞ。」

 

「よう、面白そうだから来てやったぜ。」

 

 私達が待っていたスタート地点の"シソの木"、まず降りてきたのはマロさんとバショウだ。

 ハンター試験の同期であり、私も含めて3人共が同じ国の出身。言わばジャポントリオだね。ちょうど暇していたらしく、声をかけたら二つ返事で手伝いを引き受けてくれた。

 

「マロは覚えた念を丁度試してみたかった所でおじゃる。ここでは遠慮なく使って良いのでおじゃろう?」

 

「俺さまも似たようなもんだな。」

 

 なるほど、二人は腕試しか。

 見ればマロさんは念を習得しバショウはオーラが力強さを増してと、二人は以前より格段に強くなっていた。一緒に受かったハンター試験からはもう2年と数ヶ月が経つがその間に鍛え直したのだろう。この分ならマロさんは【発】も作ってるだろうね。どんな能力を見せてくれるのか今から楽しみだ。

 

 それから少し待つと次の人が降りてきた。

 

「今日は君が我々の雇い主だ。(金額に見合う範囲で)遠慮せず使いたまえ。出来ればお手柔らかにな。」

 

「もちろん(払った金の分はこき使うつもり)ですよ。」

 

 来てくれたのは仮面夫婦ならぬ仮面師匠であるツェズゲラさんと仲間たちだ。

 この人達は1日だけという契約で金を払って雇った。もちろん引き受けてくれたのには、仮とは言え弟子がクリア1号になれば自分の評判も上がるという算段もあるはずだ。

 

 クリアしたらハンター協会に申請して盛大にアピールしなくちゃね。流石にこれだけでシングルはもらえないだろうけど、評価の足しにはなるはず。それに仲間も併せて4人で来てくれたので人数的にも大助かりである。

 

 そして最後の一人。

 

「ちょっと来るの遅くない?」

 

「いや時間通りのはずだろ!?」

 

 建物から階段を降りてきたのは、グネグネした青いワカメのような天パのチンピラだった。

 

 軽薄な笑みを受けながら髪をかきあげる男――その名はシンジ。

 今までさんざん無様を晒していたこの男が、念を覚えてまさかのエントリー(強制)である。

 

「まさかこっそり念を練習してたなんてね。」

 

 気づけなかった、このシズクの目を以ってしても!!

 

 4月に戻った闘技場で【纏】を習得してるのを見た時はびっくりしたよ。

 思わず敵の念人形かと思ってぶん殴っちゃった。

 

「まっ、僕が来たからには大船に乗ったつもりでいるといいさ。」

 

 フッっと笑いながらシンジが自信有りげに軽口を叩く。しかしこの男は本当に分かっているのだろうか?

 

「ちなみに貴方が今やってる【纏】は念の基礎中の基礎で、そこから【絶】【練】【発】って難しくなるからね? ここのモンスターは無限湧きの雑魚でも応用技の【凝】とか使ってくるから調子こいてると死ぬよ?」

 

「えっ……」

 

 シンジが目と口を見開いて硬直した。

 ……この驚き様、さてはこいつ【纏】しか修めてないな。ヨークシン編のレオリオかな? いやここに入れてるから一応は【練】も出来るのか。でもしょっぱそうだね。

 

「おいおいおい……でおじゃ。」

 

「死ぬぜアイツ。」

 

 マロさんとバショウが楽しそうに煽る。

 だが言ってることは間違っていない。今のシンジだとたぶん原作のモタリケ君とどっこいぐらいじゃないかな。街から出たら30分ぐらいで死にそう。

 

 しかもどうやって学んだのか聞けば、銀お姉さんに付きっきりで教えてもらったと来たもんだ。

 なんでもマゾラーにボコられたときに半分ぐらい目覚めていたらしい。そこから【纏】まで2年半掛かるとか遅すぎて草生える。

 

 その上、それを縁に銀お姉さんと付き合い出したとか。これはもう許せないよ!!

 男なんて選り取り見取りのはずなのに、銀お姉さんはどうしてこんな男を選んだんだろ? 意外とダメンズ好きだったのかな……

 

「きっとベッドの上で習ってたに違いない。美人のお姉さんに手取り足取り念授業なんて良いご身分だよね。……これから行くのは私が増援を呼ぶぐらいの最強ボスが居る所だから、期待してるね?」

 

「お、おい。いきなり中傷は止めろよ!! てかそんなの聞いてねぇぞ!!?」

 

 他のメンバーが『ああそういうキャラなのね』という視線をシンジに向ける。

 これでどういう扱いをすればいいか分かってもらえたかな。まぁ実力的には最初からカースト最下位だったけど。

 

 シンジは自身がLV1でこれから連れて行かれるのがラストダンジョンだって事をやっと理解したのか、顔色がどんどん青くなっていった。でも今更逃したりはしない。

 

「それからこっちの子はミルキ。」

 

「ミルキです。……みんなあんまり強く無さそうだけど大丈夫なの?」

 

 全員が揃ったので最後にミルキを紹介……したんだけど、お前なんでいきなり喧嘩売ってんの?

 そりゃ弱そうな人もいるけどさ、でも恐らく今のミルキじゃほとんどの人に勝てないと思うよ。

 

 もちろん私達だってカードを集める合間に修行もしていた。

 ミルキは念の応用を一通り覚え、ぎこちないが【流】も行えるようになった。血筋に恵まれているとは言え、1年未満でこれはかなり優秀なペースだろう。

 

 ただし【発】はまだ作っていないので念能力者としては中途半端だ。

 年齢的に経験も知識も不足しているし、ゾルディック家としての都合もあるだろう。なので水見式で操作系だと分かった時点で止めている。

 

 あとはこのゲームが終わってからのお楽しみだ。ゼノさん達に相談しながら考えれば、欠陥品の【発】を作ってしまうことはないだろう。

 

 まぁ最近は暇さえあれば爆弾をいじってるから、恐らくそれを操る能力になりそうだけどね。どうも動物村を吹き飛ばしたのがお気に召したらしい。順調に育てば原作の爆弾魔に成り代われるね。私としてもオーラを込めた爆弾は喉から手が出るほど欲しいから頑張ってほしい。

 

「ではみなさん、今日は一日よろしくお願いします。」

 

 という訳でこの9人がレイザーに挑む主力メンバーだ。

 ちょっと不安なのが2人いるが、策は()()()()()()()用意したので勝算はある。逆にこれでダメならもうゾルディック家を雇うしか無いだろう。ちなみに策を説明した時にミルキはドン引きしていた。

 

「それで一応聞くが……()()はそこに転がっているアレらかね?」

 

 ツェズゲラさんが右手でクイッと階段の裏を指差す。

 そこにはプレイヤーが6人居た。みんなロープでグルグル巻きで、目隠しと耳栓、口にはギャグボールを噛まされ、完全に拘束された状態で転がされている。

 

 何時ものように女性に股間を踏んでもらうために階段の下に潜んでいた"ドエムノアニキ"、そんな彼を迎えに来て捕まった"ペロンダンシャク"と"オニンニンジャ"の変態3人組だ。そして街から数合わせに連れてきた3人の計6人である。

 

「そうです。これから取りに行くカード(一坪の海岸線)の取得イベントの開始条件は、〈同行(アカンパニー)〉を使って()()()以上でソウフラビへ飛ぶことなので。」

 

 しかしここで重要なのはあくまで()()であり、それが()()である必要はない。なのでこうして事前に数合わせ要員を確保しておいたのである。

 

「なるほどの。足りない分は強制的に連れて行く訳でおじゃるな。」

 

 ホホホ、お主は全く変わっておらんの。なんて言いつつマロさんが笑った。

 それでも止める素振りが無い辺り、向こうも全く変わってないね。他の人達も苦笑してるだけだし、ここで辺に正義感を出さないのがこの面子の良い所だ。

 

 これは元々グリードアイランドに入る前に考えていた作戦だ。

 このイベントをソロでクリアするにはどうしても人数がネックになる為、本来は人が多く集まっている場所、マサドラの呪文ショップ前辺りで〈同行(アカンパニー)〉を使い、14人以上を無差別に連れて行く予定だった。

 

 まぁなのでソレに比べれば被害者はかなり減ったと言えよう。

 それに変態組とは別の3人は私達を襲ってきたクズ共なので遠慮や気遣いは無用である。

 

 ちなみに銀お姉さんには現実でゲーム機を見張ってもらっている。

 今回は私以外をログインさせる関係上、ゲームは闘技場の私の部屋に設置せざるを得なかった。助っ人さん達はそこから銀お姉さんの案内に従ってログインし、私とミルキはゲーム内で数合わせプレイヤーの確保など、イベントに備えて準備を進めていたのである。

 

「では時間も惜しいので早速行きますね。〈同行(アカンパニー)使用(オン)、ソウフラビ!!」

 

 私は高々とカードを掲げ呪文の使用を宣言する。

 私達はすぐに光に覆われ、一組の矢となってソウフラビへ飛んだ。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 

「《一坪の海岸線》について、教えてくーださい。」

 

「あんた達になら…話してもいいかもしれないわね。」

 

 ソウフラビに着いたらキーキャラのNPCへ直行してイベントを進める。

 沢山の張り紙がされている壁の横で野菜や魚を売っている路上の店、そこでヘッドバンドを付けて店番をしているお姉さんだ。場所も容姿も特徴的で覚えていたので、街に配置した妖精さん達の活躍により事前に位置は把握済みである。

 

「海賊が仕切っているのよこの街は。レイザーと14人の悪魔…! もし追い払ってくれたら教えてあげてもいいわよ。一坪の海岸線の場所…!!」

 

 よしこれでフラグは建てた。あとは海賊を追い払うだけだ。

 早速、私達は教えられた海賊の居場所、街の一角にある酒場に向かう。

 

「たのもー!!」

 

 勢いよく扉を開けると、中には3人の海賊たちが居た。

 

 一人はカウンターの奥でシェイカーを振っていた。長年続けたような様になった姿だ。

 二人目はカウンター席でバーボンをロックで呷っていた。瓶に付いているラベルが正しければ結構良い値段の酒のはずだ。

 そして3人目はテーブルで高そうなチキンのソテーを食べていた。胸元にはしっかりとハンカチを付け、まるで高級レストランで食事をする上流階級のような所作で肉を口に運んでいた。

 

 ……なにこれ? 海賊さんも店内もめっちゃ綺麗なんですけど。原作の荒れ果てた酒場はどこにいったのかな? ていうかコイツら犯罪者の癖にいい生活しすぎだろ。ちょっとは自重しろ。

 

「なんだテメェら?」

 

「あっ、うん……えっと、この街から出ていって?」

 

 私が入口であまりのギャップに驚いていると、カウンター席で酒を飲んでいた一人が口を開いた。2メートルを超す巨体に突っ張った腹のデブ、原作でキルアに絡みまくっていた"ボポボ"だ。

 実はコイツラは念で作られたNPCではなく、雇われて海賊の役をこなしている人間(犯罪者)である。

 

「くくく、なるほどもう来やがったのか。俺としては今すぐペシャンコにしてやりてぇが……全ての決定権は船長(ボス)にある。」

 

 それってつまり"ボクは下っ端なんで権限無いんですごめんなさい"ってことだよね。カッコつけて言ってるけどただの雑魚じゃん。はー、つっかえ。

 

「……どうしたらそのボスに会えるの?」

 

 ぶっちゃけどこに居るかは知っているが、それでもイベントの為には聞くしか無い。

 するとボポボは円を描くように酒を床に撒き、火を付けて即席の土俵を作った。

 

「オレをこの土俵から外に出せたらボスに会わせてやるぜ?」

 

「なるほど、相撲で勝負か。それで誰がやるかね?」

 

 ツェズゲラさんが全員に問いかける。

 何人か戦ってみたそうにしているが、ここはただの前座なので私が片付けることにする。

 

「はーい! もちろん私がやります。」

 

「ガハハハハ、お前みたいなガキがやる気かよ!!!」

 

「おいおい、潰れすぎないように手加減してやれよボポボ!!」

 

「ヒヒヒ、漏らさないように気をつけろよお嬢ちゃん!!」

 

 私が名乗りを上げると海賊3人が笑いだした。

 なんて失礼な奴らなんだろう。まぁせいぜい今のうちに笑っておけばいいさ。私としても手加減するつもりは無いからね。

 それに時間的にも()()()()()だ。さっきスイッチを入れたから、きっと今頃は()()()()()楽しいことになっているだろう。

 

「それで念と道具は使っていいの? 怖いなら無しにしてあげるけど?」

 

「くくくく、構わねえぜお嬢ちゃん。念でも何でも使っていいからかかって来いや。」

 

 軽く煽ってみれば、向こうはコチラを舐めているのかあっさりと許可をくれた。

 

「おっ、おい馬鹿、コイツに何でも有りでOK出すとか……」

 

「シンジうるさい。」

 

 脇腹を軽く殴ってシンジの口を止める。どうして敵を心配しようとしているのかな?

 まぁいいや、とりあえず何でも使って良いという言質は取った。ならば見せてやろう、この私の戦い方をな!! そして後悔するがいい!!!

 

「ブック!!」

 

 私はすぐにバインダーを出現させ、土俵の中に踏み込みながらカードを取り出す。

 

 使うのはこの時のために用意した《小悪魔のウインク》だ。

 このアイテムはサキュバスのような小悪魔を呼び出し、ウインクを受けた者にこの世のものとは思えないほどの絶頂感を与えること。

 

「ゲイン。ゲイン。ゲイン。ゲイン。ゲイン。ゲイン。ゲイン。」

 

「おっ、おい!?」

 

 私はそれを()()まとめて取り出して、即座に全てをボポボへと使用する。

 つまり感度3000倍(比喩表現)並の超絶頂感の7重撃ちだ!!

 

「アヘ顔晒して死ね、ボポボ!!!」

 

「お前それははんそ……ん”ほ”ほ”お”お”お”お”お”お”!!!!」

 

 現れた紫髪の小悪魔達が一斉にウィンクを飛ばす。

 するとそれを受けたボポボは、まるで公衆トイレでいい男に尻を刺されてしまったかのような汚い声を上げて気絶した。

 白目を向きビクンビクンと何度も痙攣している体は、至る所から体液を吹き出してグチョグチョ。それからちょっと遅れて部屋にイカ臭い匂いが広がった。

 

「はっ、たあいなか。」

 

 私はそんなボポボを某妖怪首置いてけのマネをしながら土俵から蹴り出す。

 これでこの勝負は私の勝ち。ついでに近くの別の海賊にもアイテムの効果を発動させる。

 

「小悪魔さん、やっておしまいなさい。」

 

「なんで俺まで……ん”ほ”ほ”お”お”お”お”お”お”!!!!」

 

 このアイテムの良いところは使い切りではなく、何度でも使用する事ができる点だ。

 現れた小悪魔による7重絶頂ウィンクを食らい、2人目の海賊もボポボと同じ様に汚い声を上げながら倒れた。

 

「くくくく、見事な交渉だ。……だがもうちょっとマシな倒し方は無かったのかね?」

 

「コイツラは敵でもあるので。能力を温存して倒すならこれが一番てっとり早いんです。」

 

 振り返ればツェズゲラさんたちは微妙に引いていた。ミルキとシンジだけはあー、やっぱりね。という顔だ。こっちの手の内は全く見せずに倒したのに酷くね?

 まぁこれでこの二人はしばらく使い物にならないだろう。最低でもこのイベント中に復帰することは無いはず。

 

 コイツらをこのまま船長に合流させると敵の戦力が増えちゃうからね。それを知っていればココで人数を減らしておくのは当たり前のこと。案内役は一人で十分。

 

「じゃあ私の勝ちだから、とっとと船長のところに連れて行ってくれる?」

 

 それともお前も同じ目に遭いたいか? と暗に告げると、残った最後の1人は非常に丁寧な態度で外へのドアを開けた。私達は彼の後に続いて、本番の対決が待つ灯台へと移動した。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 グリードアイランドのゲームマスターの一人であるレイザー。

 彼は《一坪の海岸線》取得イベントにて、海賊の船長としてプレイヤーたちの前に立ちはだかる、このゲームにおけるラスボスのような存在だ。

 

 しかしそれはあくまで役割(ロール)としてであり、実際のあり方は海賊とは真逆のものだった。

 

 まず見た目が海賊らしくない。

 髪型は邪魔にならないよう綺麗に切りそろえられた短髪、身につけているのは動きやすさを重視したTシャツと短パン、その下にあるのは鍛え上げられた山のような筋肉だ。

 仮に『この人の職業は何だと思いますか?』なんてアンケートを取れば、殆どの人がスポーツ選手だと回答するだろう。

 

 さらにその見た目のイメージ通り生活はとても規則正しい。

 彼は何時も同じ時間に起き、同じ時間に食事と休憩を取り、同じ時間に眠る。ゲームが始まってからこの生活が乱れたことは一度もない。

 

 もちろんこれには理由があった。

 レイザーがこんな生活を送るのは、自分を初めて仲間だと呼んでくれた(ジン)から託された役割を完璧に果たす為だ。いずれくる彼の息子に失望されないためにも、レイザーは油断なく自身を鍛え続けているのだった。

 

 ……しかし規則正しいということは、逆に言えば()()()()()()()()()という事。

 レイザーにとっては残念なことに、今グリードアイランドのトップを爆走しているプレイヤー(シズク)から見れば付け入る隙そのものであった。

 

「おい、これはどういう事だ?」

 

「そ、それが俺達が来たときにはもうこの有様で……」

 

 挑戦者が現れたと聞き自身の部屋から駆けつけたレイザー。

 食事後の念訓練を終え睡眠を取ろうとした所を呼び出された彼は、イベント用の大広間に入った時、その惨状に困惑を隠せなかった。

 

 ――手下の海賊たちがみんな床に倒れていたのである。

 

 その場で倒れている者、壁に寄りかかっている者、中には口から泡を吐いている者までいる。共通しているのは意識を失っていること、これでは治療を施しても時間をおかなければ戦うことなど出来ないだろう。

 

 更に困惑した原因はもう一つ。

 

「おっ、貴方がボスかな? とっとと街から出ていってくださーい。」

 

「ん”ん”ん”ん”~~~~~!!!」

 

 それは堂々と退去要請を行なった少女の後ろに転がっている6人のプレイヤー。

 彼らは全身をグルグル巻きにされ、口にはギャグボールをハメられて拘束されていた。

 

(これは酷い。確かにこのイベントは人数が必要だが、まさかこんな方法で無理やり突破する馬鹿がいるなんてな……)

 

 もとよりこのイベント開始の条件、15人という設定はプレイヤー達に仲違いを促す為。

 一番手っ取り早いのはチーム同士で組むことだが、仮にクリアしても《一坪の海岸線》のカード化限度枚数はたった3枚。誰が持つかで必ず揉める。

 

 そのため出来るプレイヤーなら数合わせを連れ、最低限の人数で勝とうとするのは予想されていた。しかし流石に縛って無理やり連れてくるのは、しかもそれがこのゲームが始まって()()の挑戦者などという事態は完全に想定外だ。

 

「しかし空調に催眠ガスを仕掛けるなどよく考えたな。」

 

「えへへへへ、だって海賊さん達って強そうでしたから。それに私達が受けたのは"街から海賊を追い払う"ことです。なら方法は何だっていいでしょう? あっ、でも殺すのはダメですよ。コイツ等は念で具現化されたNPCなんで、殺すとリポップしちゃいます。」

 

 少女が鹿角のような白眉をした顎髭の男にこうなった原因を話す。

 ちっ……。レイザーは小さく舌打ちした。この惨状が挑戦者の仕業だと分かったからだ。

 

 確かに街に配置したNPCは『海賊を追い払って』としか言わない。

 ならばその方法として先に手下を気絶させるのはそれほどおかしな事ではない。このイベントは"15対15のスポーツ対決"だが、それを説明するのは自分の役割、つまりこのプレイヤー達はまだそのことを知らないのだから。むしろ手下が殺されていないだけ御の字だろう。

 

(まいったな……)

 

 彼女たちは現状では何ら違反をしておらず、むしろ全力でこのゲームを楽しんでいると言える。

 それは自分たちがプレイヤーにこうあって欲しいと願っていた姿そのものだ。これではここで一旦帰れなどと、イベントの流れ的にオカシナ事は言い出せない。

 

 もちろんこういった怪我や体調不良に対してもしっかり備えは用意されている。

 しかし今回はタイミングが悪い。なんせその方法とはゲームマスター専用の呪文カードだ。プレイヤー達の前で軽々しく使うことは出来ない。勘のいい者ならそれだけでここが現実だと気づいてしまうから。

 

 ゲームだと思っているプレイヤーにここが現実だと教えること、それは重大なルール違反なのだ。

 

(こうなったら多少変則的になるが残った面子でやるしかないか。)

 

 レイザーは周囲を見渡してこのまま勝負を始めることを決める。

 残っている海賊は自身も含めて5人だけ。だが挑戦者がいる以上、もうこの人数でやるしかない。別の部屋に連れて行って回復させようにも、彼らはボスである自分を逃がしたりはしないだろう。

 

「クククク、俺たちに出ていけって? じゃあ早速勝負しよう。」

 

 レイザーは任された役割を演じるため、この惨状など何でも無いことのように笑う。

 それは彼の人生において、後に『思い出したくない』と語るほどの、最悪な1日の始まりだった。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

(よーし、良い感じ良い感じ。)

 

 私は油断して貰えるようにヘラヘラ笑う振りをしながらレイザーを観察する。

 その心中は仲間がやられて怒り狂っているのか、それとも冷静に役割をこなそうとしてるのか……手下に仲間意識とか少なさそうだしおそらくは後者だろう。

 

 ここまでは全て()()()()だ。

 

 私はこのイベントをクリアする為に徹底的にレイザーを調べた。

 主に活躍したのは《遊魂枕》だ。このアイテムは使って寝ると幽体離脱することができ、これにより気づかれずに相手を観察することが可能になる。ストーカーにとっては夢のようなアイテムである。

 

 これを使い私が調べたのは主に3つ。

 1.1日の活動時間はどれぐらいか?

 2.修行はしているのか?

 3.手下の海賊は何人ぐらいいるのか?

 

 1と2は私達にとって最高の、レイザーにとっては()()のタイミングでイベントを起こすためだ。

 

 ここの海賊たちは全員が実在している人間で、当たり前だが飯も食えば睡眠も取る。役割を考えれば念の修行だってするだろう。

 それを上手く利用すればコチラの有利な状況で勝負を始める事が可能だ。例えば今回は修行でオーラを使ってしまった状態に合わせたので、すでにレイザーは消耗した状態だ。

 

 次に手下の数。

 このイベントの勝負方法は"15対15のスポーツ対決"だ。先に8勝したほうが勝ちだが、しかしこちらが7連勝するとレイザーが出てきて、自身+念獣7体を使った8対8のドッチボール対決で全てを台無しにしてくる酷い仕様である。

 

 ならば先に人数合わせを出して7敗すればいいのでは? と思うかもしれないが、その場合は恐らく残り1勝になるまでレイザーは出てこない。

 

 なんせドッチボールは人数調整が可能な競技だからね。

 最悪7勝7敗で迎えた最終戦で1対1でレイザーと戦うハメになるだろう。きっと海賊の手下どもはコチラの主要面子を削るために居るのだ。でなければわざわざ14人も手下を集める必要はない。

 

 ではどうすれば良いかというと、事前に手下を減らしておけば良い。

 人数が足りない状態で勝負が始まれば、途中でもレイザーが出ざるを得なくなる。

 

 そしてその状況を作り出すために、事前に空調に催眠ガスを仕込んでおいた。

 それもゾルディック家から高値で仕入れた超強力な物である。例え念を使えるような能力者でも、これならちょっと吸い込むだけでイチコロだ。こっそり忍び込むのはちょっと大変だったけど、それでもやるだけのメリットはあった。

 

(残りの海賊はレイザー含めて5人だけ。……これなら行ける。)

 

 反則のように思えるが、この行為は()()ギリギリ白のはずだ。

 だって私達が街のお姉さんから引き受けたのは『海賊を追い出す』こと。ならば見つけた海賊をまとめて無力化しようとするのは攻略方法としては普通の思考だろう。そして先に私達が部屋に付けばゲームマスター権限での回復も出来ない。原作でも言っていたが、ここが現実だとバラすような行為はタブーだから。

 

 オマケに手下は殺していないし、その理由も()()()()()()()。リポップするからってね。殺して恨まれたり予想できない動きをされるのはゴメンだからね。これならレイザーだって文句は言ってこないだろう。

 

 もちろん私はこのイベントが"スポーツ対決"だと知っている。でもそれが判明するのは船長(レイザー)が現れてからだ。なので今は知らない振りをすれば良い。無知は盾にはならないが、上手く使えば強力な鉾になるのである。

 

「それで勝負方法は?」

 

「俺達とスポーツで勝負。勝ち数の多い方が勝ちだ。」

 

 私はレイザーに続きを促す。

 なるほど、あえて~勝という言い方を避けたか。敵は5人しかいないから、人数合わせを3人出して3敗するとその時点で終わりって言われそうだね。

 

(猪口才な……でもまぁその程度は予想済みだよ。)

 

 なんたってこのイベントをクリアするために、勝つ方法を何年も前から考え続けて来たのだから。

 

 私は笑う振りをしながらこの先の展開を想像する。

 用意しておいた策はまだまだあるのだ。絶対に逃さないぞ、レイザー!!




海賊狩り前編でした。対決は次回になります。
読んで頂き有難うございました。
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