身を汚されたレイザーとツェズゲラさんが戻ってくるとコートの移動が行われた。
ちょうど良い間が出来たので、私はそれを利用してこれからの行動を味方に告げておいた。
「ってことで二人共よろしく。」
「おう、任せとけ。」
「先程のようなのはゴメンだぞ?」
現在、内野に残ってるのはお互いに二人ずつである。
コチラはバショウとツェズゲラさん。全力を出し尽くして真っ白になったアニキと、役割が終わったシン子はリタイアさせた。残っていても味方の邪魔になるだけだからね。
「ドエムノアニキ……。」
「大往生でおじゃ。」
今の所、MVPはアニキのドM砲かな? アニキは味方に引きずられ、壁に寄りかかって燃え尽きている。
対して向こうの内野はNo.6とレイザーだ。
更に消滅したNo.7と10は再具現化されていない。それはオーラの消耗を避けるためか、あるいは何らかの制約があるのか。どちらにしろ外野がNo.5だけでは原作のような高速パスは出来ないだろう。コチラとしては願ったりだ。
「……。」
そんな中、レイザーは仏頂面でボールを持ったまま立ち尽くしていた。
こちらは正々堂々とボールを打ち出したのに一体何が不満なのか。オチンポキャノンはお気に召さなかったのかな?
その様子は会社の忘年会で一人酒するコミュ障みたいだ。キレてるにしてもちょっと沸点低すぎない?
『レイザーチームの内野ボールで試合を再開します。』
試合が再開されるとレイザーはそのまま黙ってボールにオーラを込め始める。
怒ってるんだぜ? と言わんばかりの荒々しいオーラが彼の体から溢れ出し、それが万力で締め付けられるように無理やりボールに集約されていく。その光景たるや、余りの量と質にボールの色が霞んで見えてしまうほど。
更に念が込められた物体は重量が増す。恐らく今のボールは、ボウリングの球以上の重さになっているだろう。
そしてそのボールを持つレイザーの視線は――まっすぐバショウに向けられていた。
「ほう、俺サマ狙いか。NPCの癖に見る目あんじゃねーか。」
「当たり前だろう。貴様が余計なモノまで飛ばしたせいだぞ。」
軽口を叩くバショウにツェズゲラさんが苦言を弄する。
確かに私が当てるように頼んだのはボールだけだったからね。流石に顔射プレイは注文してないよ!!
「ならココは任せろ。『俺サマが 触れたボールは みな止まる』……こいやぁ!!」
しかしバショウも黙って待ち受けたりはしない。
レイザーに対して堂々と色紙をさらし書いた俳句を読む。
元々バショウの能力は汎用性が高い。けど代わりに準備時間が必要で、おまけに距離が短くて接近されると弱かった。
しかしこの試合はエリアが区切られていて常に一定距離が取れ、投げる前に句を書けるから欠点が問題にならない。
「ふむ、それが実現できるならある意味無敵だが……本当に大丈夫なのかね?」
「ああ、もちろんだぜ。」
ツェズゲラさんは不安そうだが、逆にバショウは自信満々に答えた。
「……いいだろう、行くぞッ!!」
それを見たレイザーが投球モーションに入る。
投げ方はオーソドックスなオーバースローだ。右手でボールを握りしめ、オーラで筋肉を強化し、全身を使って体重を乗せ、集約させた力を上から叩きつけるように腕を振る。
そうして放たれたボールはレーザービームもかくやという勢いでコートを駆け――
「『我が陣に 入りし球は 破裂する』」
――る直前に、バショウが更に能力を発動させた。
それによりバショウの2メートル前でボールは粉々に破裂。風船が割れるような音が炸裂し、バラバラになったボールの破片が周囲に散った。
『念能力によるボール破壊によりバショウ選手アウト、外野へ移動です。』
「ヒューッ!! おお怖い怖い、まともに受けてたら死んでたかもしれねーな。」
「――おいっ。」
バショウの軽口に対してレイザーが再びドスの利いた声を出す。
真っ向勝負だと思ったら直前でスカされてしまったのだ。その形相にははっきりと不満が現れており、コメカミのピクピクもちょっと増えていた。それはまるでやり場のない怒りがドロドロのマグマとなって詰まっているかのよう。
だがこれも作戦の内である。
最初の俳句はただのフェイクだ。だってバショウの能力は俳句の出来によって強弱が変わるから、本当に止まるか分からないからね。
だから本命の俳句の最後も"停止する"にはしなかった。
もしコートの境界線近くで止まった場合、レイザーならキャッチしてそのまま連投も可能だろうから。
でも破裂させればボール交換で試合は必ず止まる。
そして破裂地点がコチラ側のコートならボールも奪えるという訳である。
「審判1つ質問。敵の外野にパスするのはあり? その時にキャッチしようとしてボールを壊しちゃった場合は?」
『敵へのパスはルール上は可能です。そして壊した場合はただの取りこぼし扱いですので、その場合は外野ボールで再スタートになります。』
もちろんレイザーがやりそうな行動は先んじて潰す。
これで後は距離を取って気をつけておけば、ゴレイヌさんの二の舞にはならないだろう。
「オッケー。バショウ聞いた?」
「ああ、ボールをぶつけられねぇように気をつけろってことだろ。」
「……ちっ。」
やろうとした事を私に当てられたせいか、レイザーは舌打ちをすると再び黙った。
『では挑戦者チームの内野ボールで試合再開です。』
しかしこのレイザー、急に言葉が少なくなったな。
イベントNPC(の振り)をしてるんだから会話しないとダメなんじゃね? シーズン終盤に連敗して優勝レースから脱落したスポーツチームの監督じゃないんだからさぁ。まぁ私は《一坪の海岸線》が欲しいだけで真剣勝負とか興味ないからどうでもいいけどね。
「さて、あまり投げるのは得意じゃないんだがな……っと。」
『No.6アウト、外野へ移動です。』
その後はツェズゲラさんがボールを投げ残っていた念獣を討ち取った。これで後はレイザーのみだ。
「「……バック。」」
当然、レイザーはすぐにバックを使う。
内野の最後の一人がアウトと同時に使うのは禁止だからね。
私も同じタイミングで使い内野に戻った。
レイザーもNo.6を内野に戻すが……
「おおっと、手が滑ったー(棒!!」
所がそこへツェズゲラさんが全力で念弾を発射。
「――はっ?」
『ツェズゲラ選手反則によりアウト、外野へ移動です。』
棒読みセリフと共に放たれた念弾が直撃したNo.6は粉々になって消えてしまった。
よしっ! これで内野の念獣が消えたぞ!!
「お前ら…………」
レイザーが一瞬だけポカンとし、それからすぐ苦虫を噛み潰したような表情でコメカミに青筋を浮かべだした。
私はその様子にガチメタされたRPGのボスキャラを思い浮かべた。
炎とイオ系呪文を対策した上でラリホーを連打されるバラモスだ。それをリアルで見たら多分こんな感じなんじゃないかな。
正面から戦えば負けないのに戦わせてもらえない。そんな遣る瀬ない怒りが心の中で渦巻いているかのよう。
「すまんな。だがこれもリーダーの指示でね。」
「まっそういう事だね。……そろそろ私達の戦略が理解できた?」
さてここまで来ればもうレイザーも気づいただろう。
そう私達は最初から
ちょっと卑怯だと思うが、正面から投げ合うとか不可能だからしょうがない。
無理に取ろうとしても間違いなく怪我をするし、挙げ句にリバウンドを取られでもしたら最悪だ。それなら最初からアウト前提の反則で道連れにした方がマシだろう。
元よりこのドッジボールは放出系のレイザーに有利なスポーツだ。
対してコチラの放出系はアニキだけで、残りはみんな見事に具現化系や操作系ばかり。放出系どころか強化系すら居ない。
ならば正面からボールを投げあうなど愚の骨頂だろう。
たとえ勝負するスポーツを決められたとしても、戦い方まで相手に合わせる必要はないのである。
という訳で私達がやるべきは正面突破ではなくハメ殺し。
気づかれないようにギリギリまで相手の長所を削り続け、最後の一瞬にコチラの長所を押し付けて勝つ。まぁ私のいつもの戦い方だね。
「じゃあみんな、あとは私がやるから。」
そしてその削りはだいたい終わった。
レイザーは念獣を再具現化しようとしない。恐らく"具現化は試合開始時の一度のみ"とかの制約があると思われる。ならば後は1アウトでコチラの勝ち。なので助っ人の力を借りるのもココまでだ。
みんなにその事を告げ、一箇所に集まってもらう。もちろん無理やり連れてきた6人も一緒にだ。残られると邪魔になるんだよね。
彼らは未だに縛られたままギャグボール越しにモガモガ言ってるが、たぶん誰かが何とかしてくれるだろう。
「おう、一発ぶちかましてやれ。」
「勝て。私がこんな目にあったのだから絶対にな。」
「あ~、何するか知らないけど、まぁ後は頑張れよ。」
「
渡しておいた呪文をマロさんが使い、私以外の全員が光になって飛んでいく。
私はそれを見送り、改めてレイザーと対峙する。
「途中で人数が減っても続行。そうだったよね?」
残ったのは私一人。だがこれはちゃんと試合前に確認したから問題ないはずだ。
「ああ、だがまさか一人で勝つつもりか?」
何を当たり前のことを言っているのか。でなければこんな所まで来ない。
私は元々ソロクリアをするつもりで、その為にレイザーをタイマンで倒すつもりだったのだ。家出同然で乗り込んできたミルキや、アニキを中心とした合体技なんて偶然のオマケにすぎない。
それに彼らが残っていると
彼らのことは信用も信頼もしているが、それでも見せたくない物はある。この世界には口を割らせる能力なんて幾らでもあるから、本当の切り札は誰にも教えないものなのだ。だがら私にとってはここからが本番だ。
「当然。私は勝つためにココに来た。」
レイザーをまっすぐ見つめながらオーラを練り上げ、何時ものようにデメちゃんを具現化する。
サイズは全長1.5メートル。余裕を持ってボールが口に入る程度の大きさだ。私の左側に並ぶようにデメちゃんを浮かばせ、そのままレイザーの正面に立つ。
「行くぞレイザー――――、オーラの貯蔵は十分かっ。」
「……面白い。どうやら俺は君を誤解していたようだな。」
対してレイザーはこの試合が始まってから初めて嬉しそうな顔をしていた。
それはやっとまともに投げ合える事に対する歓喜か、それとも今まで溜め込んだ怒りを吐き出す為の仮面か……。どちらにしろまだ私のことを誤解していると言わざるを得ないだろう。
「行くぞッ!!」
レイザーは持ったボールに、振り絞った渾身のオーラを込め――
――ガゴンッ!!!
「おぼんっ!!?」
天から降ってきた、めちゃくちゃ重そうな
デデーン!! レイザー、アウトー!!!
■□■□■□■□■□■□
一方その頃、一足先にマサドラへ飛んだミルキは近くの森の中に居た。
ミルキは言われていた通りシンジ達が飛んでくるのを待ち、合流するとすぐにその両手で骨のような杖を天に掲げ、とある人物の名前を繰り返し叫び続けた。
「レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!!」
この杖は事前に用意しておいたランクAのアイテム《天罰のつえ》である。
効果は罰を与えたい人の名前を唱えながらこの杖を天にかざすことで、使用者か相手の今までより多くの悪行をなした方に強い災いを振りかけるというもの。
本来なら自分に降りかかる可能性を考え、使うのを躊躇してしまうアイテムだが、今回の相手に限ってその心配は皆無だった。
「レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!!」
なんせ名前を唱えられている男は元死刑囚だ。
今はジンに雇われこの島でゲームマスターとしての役割を負っているが、だからといって過去が消えてなくなる訳ではない。
暗殺一家の生まれとはいえ幼くてまだ仕事に関わっていないミルキが使えば、天罰が与えられるのは100%相手である。
「レイザー!! レイザー!! レイザー!! ……あっ、もう無い。次の取って。」
「おう、次はこれだな。」
呪文カードで合流したバショウは、地面に置かれている袋から新しい杖を取ってミルキに渡す。
杖はミルキがその名前を叫ぶ度に天へ光を昇らせるが、その度に砕けて消滅してしまっていた。一本の杖で起こせる天罰は一回だけということだ。
「レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!!」
「しかしよくこんなに集めたでおじゃ。」
「ああ、聞いてはいたが全く周到な奴だぜ。」
しかし一回しか使えないのであれば、代わりに
そのため何度も取得イベントを周回し、シズクは今回の作戦の為に大量の杖を用意した。その数は全部で
「レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!! レイザー!!」
普通に考えればたった一度のイベントの為に、ここまでやるのは頭がおかしいと言わざるを得ないだろう。だがシズクはレイザーこそがこのゲームの実質的なラスボスだと知っていた。
しかし正面からは勝てないので遠距離攻撃でダメージを与え、体力とオーラを出来る限り削ることにしたのだ。
その為に選んだのがこの《天罰のつえ》である。もちろんゲームマスターにアイテムの効果があるのは、事前にサクサクさんで実証済みだ。
「レイザー!! レイザー!! ……あっ、もう全部無くなった。」
「おっ、終わったか。じゃあ後はアイツ次第だな。」
全てはレイザーに勝つために。
どんな手段を使っても《一坪の海岸線》を手に入れるというゲームクリアへの執念。その為にはシズクは手段など一切選ばないのだった。
■□■□■□■□■□■□
――ガゴンッ!! ガゴンッ!! ガゴンッ!! ガゴンッ!!
タライ、雷、植木鉢、SM用蝋燭……。
室内にも関わらず降り注ぐ天罰の雨を受けながら、レイザーの心はある感情に支配されていた。
――それは目の前の敵への際限なき"怒り"
実は試合が始まって最初の一投を受けた時、すでにレイザーは半分キレていた。
なんたって挑戦者が使ってきたのは股間にオーラを集めてぶっ放す【発】である。
作る方もおかしいが、それを試合で使おうなんて考えるのはもっとおかしい。
見せられたときには相手の頭を疑った。
いくら勝負に勝つためとは言え、大の大人が丸出しの股間を女性(?)に踏まれて喘いでいるのは最低の絵面だった。
だがもっと最低なのはその後に訪れた。
なんと挑戦者はオーラだけではなく男の白いアレまで飛ばしてきたのだ。しかもそれは別の男の念能力によりホーミングされ、レイザーの顔にベットリと張り付いた。
最低どころではない。最悪だった。まさに悪夢だ。
レイザーは元死刑囚であるが、ここまでコケにされた経験は初めてだった。この時にキレなかったのは奇跡と言っても良い。もしジンに捕まる前のレイザーだったら、間違いなくプッツンして襲いかかっていただろう。
しかしゲームマスターとしての職務と責任がその怒りをギリギリで押し留めた。
怒りはそのままそっと蓋をされ、表面上は何事もないように振る舞った(本人基準)。
どうせ敵は逃げないのだ。ならば怒りはボールに込めて晴らせばいいと思うことで、何とか自分を保つことに成功した。
だがその怒りを込めたボールは途中で爆破された。
おまけにバックで内野に戻した念獣は念弾で粉々にされ、さらにそれだけ好き勝手やった連中は〈
振り上げた拳は叩きつける先を失い、全くこれっぽっちも解消されないまま更に怒りが溜まっていく。
そして最後に《天罰のつえ》が使われた時、レイザーの心は完全に
心の蓋が内側から吹き飛び、さんざん溜め込まれた怒りが中から湧き出る。もはや手加減やゲームマスターとしての役割など余計な考えは頭から吹き飛んだ。
レイザーの心境は完全に犯罪者時代まで戻っていた。
「ククククク、そうか、そんなに……死にたいのか。」
壮絶な笑みを浮かべながらレイザーは立ち上がる。
さらに右手をズボンの後ろポケットに回し、そこから一枚のカードを取り出した。
それは本来であれば使ってはいけないはずのカード。
だがレイザーにとっては幸いなことに、そして
『なぁレイザー、未来を予知する能力ってあると思うか?』
ある時、ジンが前置きなくそんな事を言い出した。
曰く、購入応募ハガキの一枚に『開発総責任者のジン=フリークス様へ』と書かれたものが有ったと。しかもその裏には念字で『レイザーによろしく!』とまで書かれていたと。
『おもしれぇだろ? もし本当に未来予知ならコイツは俺らに対する挑戦状だぜ。』
何を以ってジンが未来予知という結論を出したのかは分からない。
だがあのジンがそう言うのなら恐らく本当にそうなのだろう。
それに挑戦に関しては確かにそうかも知れないと思った。
本当に未来が分かるなら、それを自分からバラす必要などないのだ。直接買わなくてもゲームに入る事なんて簡単なはずだ。
『だからよ、もし来たら全力で相手してやれよ。
その時にジンから告げられた名前、図らずもそれは先程〈
■□■□■□■□■□■□
目の前で倒れ伏すレイザーを観察する。
オーラは大分消耗させられたようだ。
修行直後を狙ったため最初からMAXでなく、そこから念獣と投球で更に消費。おまけにアウトにした念獣は消滅させたので、自身に戻してオーラ化出来るのは一匹しか残っていない。
さらに身体も傷だらけだ。
《天罰のつえ》によって降ってきた様々な物による傷である。重量物による殴打に、蝋燭による火傷、右足には包丁まで刺さっている。
どこを見てもボロボロ。
MPが尽き、HPが一桁に入ったラスボスといった感じだろうか。そこにはある種の哀愁が漂っていて、海賊の手下の中には目をそらしている者までいた。
もはや死にかけ。
あとは私が最後のトドメを刺すだけだ。ただし殺すとこのゲームにどんな影響が出るか分からないので、気絶させるぐらいにしといた方が良いだろう。
「ククククク、そうか、そんなに……死にたいのか。」
しかしそれでもレイザーはゆっくりと立ち上がった。
今までの策によってオーラも体力も消耗しているはずの男は、しかし不気味な笑みを浮かべていた。まるで全てを吹っ切ったと言わんばかりだ。なんて諦めの悪い男なんだろう。
「……このレイザーはいわゆる元死刑囚だ。」
……おや!? レイザーのようすが……!
「今まで何人も殺しているし、ここから出ればすぐに捕まってそのまま処刑台に送られるだろう。」
えっ、ちょっとそれバラしていいの? 私まだNPCだと思ってる振りしてるよ??
「だがこんな俺にも仲間が託してくれた役割がある。誰にも譲れない思いがある。……そして貴様がそれを冒涜しようとしているのは分かる!!」
なにそれ!? そもそも思いとか知らねーよ!! てか私ってこのゲームの最初からずっとこんな感じだったじゃん! 今更グチグチ言うのやめろォ!!
「許さねぇ!! お前は!! 俺達の心を裏切った!! ……つーかもうぶっ殺す!!!」
お前最後が本音ェェ!!!!!
そうして急に叫びだしたレイザーは、左手のカードを私に見せつけるように前に掲げた。
「外法には外法を。ゲームマスターだけが使える特別スペル――《
「超……天……使……?」
なんだそれは。そんなカード知らない。えっ、待って。そんなの原作に無かったよ??
驚く私の前で、レイザーはカードの効果をツラツラと説明する。
「このカードは瀕死の重傷、不治の病なんでも一息で治し、ついでに
「……はっ?」
ふ ざ け ん な !!
なんだそのチートは!! 大天使の息吹の上位交換じゃねーか!!!!
「おいちょっと待て!!」
「ゲイン。」
私は急いで止めようとしたが、レイザーは一切の躊躇なく手に持ったカードを使用した。
カードが光と成って消えていき、その代わり目の前に漆黒の翼を持つ天使が出現する。
大天使の息吹はワンピースを着たお姉さんだったはずだけど、こっちは際どい三角ビキニだ。イメージはDxDのレイ◯ーレ。……これ天使じゃなくて痴女い堕天使じゃねーか!!!
『この私に何のご用かしら?』
「……俺を治してくれ。」
『お安いご用よ。』
レイザーは即座に自身の体を治すよう天使に依頼する。
吹きかけられる
あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!
あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!
あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!あ”!
ど” ぼ” じ” で” え” え” え” え” え” え” え” ! ! ! ! ! ! ! !
調査に、アイテム集めに、指定ポケットカードを揃えながら何ヶ月も掛けて準備したココまでの行動が全部無駄にいぃいいいいいいいいい!!!!
何なのコイツ? これがゲームマスターで大人のやることか!?
「可愛い子供のイタズラにマジギレしてゲームマスター権限を行使だなんて、そんなの大人のやることじゃないよッ!!!!」
「煩い黙れ。このレイザー、もはや容赦せんっ!!」
私の心の底からの
この野郎……!! オンゲで最終ボスが倒されそうになった時、気に食わないからって管理者コードでボス全回復+強化するクソ管理者みたいなムーブしやがって!!!
つーか私の行動は全部このゲームで許されてた行為だよ?
少なくても禁止にしなかった
それなのに急に仙豆+3倍界王拳って。どう考えてもおかしいでしょ!!
「ムカついた。お前まじふざけんなよ。もう容赦しないぞちくしょぉおおお!!!」
殺したらまずいから弱らせて気絶で済ませようと思ってたのに!!
もう激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム(死語)だぞ。
「来いよレイザー! 念獣なんて捨てて掛かってこい!! お前の尻にぶっといの打ち込んでアヒアヒ言わせてやんよ!!」
「奇遇だな、俺も丁度同じことを思っていた所だ。……行くぞっ!!」
ブチ切れた私達はお互いに相手をにらみながら対峙する。
その周りでは降ってきたタライや植木鉢を手下の海賊さん達が必死に片付けていた。長かったこのイベントにもついに終止符が打たれる時が来た……!!
■□■□■□■□■□■□
レイザーは外野のNO.5を解除し、身に纏っていたオーラをボールに込め始めた。
正真正銘、これを最後の一投にするつもりだろう。
その量は今までの比ではない。まるで周囲の空間が丸ごとボールに凝縮されて行くような、極小のブラックホールが発生したかと見紛うほどの重々しさだ。
対抗して私も限界までオーラを練り上げる。
許さない許さない許さない。私なりにこのゲームのルールは守っているつもりだったのに。ここまで来てちゃぶ台返しされるなんて思わなかった。
もはや引く事など出来ない。残りの策は後
私は自身の操作系能力【
頭の中で何かがハジけ、意識のチャンネルが切り替わる。思考が研ぎ澄まされ、視界を通じてレイザーの動きの一つ一つがつぶさによく見える。しかしこれでは
私は両手をズボンにポケットに突っ込み、呼吸を整えながらその時を待った。
「……勝負だ。」
ゆっくりとした世界の中で、ついにオーラを込め終わったレイザーがボールを頭上に放り上げる。原作でも最後に使っていたレイザーの必殺技、バレーの空中スパイクだ。
それを見た私も負けじとポケットから両手を引き抜き、握っていた全ての
片手に10個ずつ、計20個のダイスが床の上を一斉にカラカラと転がり、ついでベルトの中からパキパキと
ダイスを投げ終わった私は続いてこの時の為に作った能力――【
効果はすぐに現れた。
まず音が消え、ついで匂いが消え、それから肉体の感触すら消えてしまった。恐らく味覚も消えているだろう。思考と視覚を更に高めるため、その二つに必要ない脳の一部が強制的に停止されているのだ。こうなるともはや私は指一本動かすことができなくなる。
しかしその代わりに得るのは極限の思考速度である。
自身が世界と一つになるような錯覚、その後に訪れる全能感。まるで走馬灯を見ている時のような、ネテロ会長の時間の圧縮のような、そんな状況を自分限定で引き起こすこの能力は、このような距離をとった戦いにおいて圧倒的なアドバンテージを与えてくれる。
「おおおおおおお!!!!!」
落ちてくるボールのタイミングを見図り、レイザーが叫び声を上げながら空中に飛び出す。
ボールを打ち出される前に、私はそっと二匹目のデメちゃん(B)を具現化した。
【陰】を施した状態で呼び出されたデメちゃん(B)は即座に移動、飛び上がったレイザーの真下にスタンバらせる。
これで事前にやれることは全てやった。あとはもう自分を信じてレイザーを仕留めることだけだ。私の準備と執念が勝つか、レイザーの誇りと怒りが勝つか、結果は比べてみなければ分からない。
そして直後、ついにレイザーによりボールが打ち出された。
超天使により限界すら超越したオーラは【硬】によって全てが一箇所に集約される。それによって強化された腕は、まるで死神の鎌のように振り下ろされ、私の首を落とさんと大砲のような轟音を発しながらボールを発射した。
もし能力で思考を高速化していなければ、その圧倒的な速度により一瞬で距離を詰められ、私は気づくまもなく吹き飛ばされてしまっていただろう。
だが今の私はそのボールが認識出来ていた。進んでくる軌道も回転もはっきりと
レイザーが撃ち出したボールは少しだけホップアップしていた。
具現化系は具現化した物や生物に特殊な力を付与することが多い。それを知っているレイザーは抜け目なくデメちゃんを警戒し、着弾地点をずらし、あわよくば胴狙いと見せかけて私の頭をふっとばそうとしたのだろう。
熱くなっているのに流石だ。流石はジンが選んだゲームマスター!! ……だが残念ながら無意味だ。
私はゆっくりと感じられる時間の中で、焦ることなくボールと自身の間に一匹目のデメちゃん(A)を割り込ませる。全ての能力を全解放した今の私の前では多少の小細工など問題にならない。
ボールの進行方向が口に対して垂直になるように、掛かっている回転も計算に入れ角度がずれないように慎重に注意を払いながらデメちゃんを動かす。
続けてボールが口に入る寸前、二匹のデメちゃんに、二つのゲートを同時に発動させた。
レイザーの撃った殺人ボールが一匹目のデメちゃん(A)の口の中に飛び込み、その勢いをそのままに、二匹目のデメちゃん(B)の口から飛び出していった。
もちろんその先に居るのは球を撃ち出したレイザー本人だ。
事前に作っておいた二つの【接続ポイント】、30センチしか離れていないその二つの場所へ同時にゲートを開くことにより、デメちゃん二匹の
名付けて――
もちろんレイザーは私の狙いにすぐ気づいた。
なんせ一匹目のデメちゃん(A)の口の中には、デメちゃん(B)の口の先の映像――
ギリギリまで引きつけてゲートを開いたけど、それでもバレてしまうのは防ぎようがない。
レイザーは即座にオーラを集めてガードしようとする。だがしかし甘い。
その少し前、たまたま外れた天井の換気扇がブーメランのように飛んだ。
その少し前、たまたま飛び方を間違えた鳥が窓を突き破り場内に飛び込んだ。
その少し前、たまたま片付け忘れられていた釘打機が暴発した。
その全てが今、申し合わせていたかのようにレイザーへと襲いかかった。
事前に振った20個の《リスキーダイス》――出た目に応じた吉凶を引き起こすサイコロ、により起きた3つの
私がこの戦いに用意した策は7つ。
1つ目は修行直後を狙ったオーラの消耗
2つ目は空調に仕込んだ睡眠薬による手下の損失
3つ目はアニキのハイパーオチンポキャノン
4つ目は天罰の杖30本による遠隔攻撃
5つ目は【
6つ目はデメちゃん二匹による転送攻撃
そして最後の7つ目がこの《リスキーダイス》と《闇のヒスイ》のコンボによる不幸の押しつけだ。
「何っ!!?」
予想外の攻撃によりレイザーの対応が遅れた。
これが地面の上であればそれでもレイザーはこともなげに対処してのけただろう。しかし残念ながらレイザーは飛び上がったままだった。そして空中では姿勢制御は地上の何倍も難しい。
レイザーは高速回転している換気扇の刃を防ぐ為にオーラを足だけに集中出来ず、鳥にぶつかられた事でバランスを崩し、足に釘が刺さったせいで身体が硬直した。
これらは全てほんの一瞬だけのことだ。もしほんの少しでも時間があったなら、レイザーは瞬く間に体勢を立て直したことだろう。
しかしダイスの神は有象無象の区別なく
空中にいたレイザーの尻に、真下から自身の全力ボールが突き刺さった。
「ン”ア”ア”ア”ア”ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
「っしゃー!! ストライークッ!!!!」
レイザーは叫び声を上げながら臀部と股関節をグチャグチャに破壊され、錐揉み回転しながらぶっ飛んで壁に突っ込んでいった。ボールは反動で床に付いた為、もはやアウトなのは確実だ。
私は能力を解除しながら喝采を叫ぶ。やった、ついにレイザーを討ち取ったぞ!!
用意した策の1~4は超天使とかいうチートカードのせいで台無しにされてしまったが、怒りを累積させたおかげで5~7で勝つことが出来た。煽って怒らせるって最強のデバフだわ。
私は勝利宣言を期待して審判の方に視線を向ける。
しかし勝敗を宣言する前に審判の念獣は消え、レイザーはサクサクさんと同じ様に光になって飛んで行ってしまった。
意外と致命傷だったのか、ゲームマスター用のセーフティーが発動したのだ。きっと戻ってきたときにはお尻も治療されている事だろう。
「うーん、締まらないなぁ……ケツだけに、なんちゃって。……まっこの勝負、最後に残った私の勝ちってことで。」
私はしょうがなく、自分で勝ちを宣言する。
海賊の手下はまだ残っているけど、彼らは文句なんて一切言わなかった。
こうしてこのゲームを開始して約11ヶ月。私はやっと《一坪の海岸線》を手に入れた。
それは同時にこのゲームクリアへの、最後の障害を乗り越えたことを意味する。
私はカードをバインダーに嵌め、〈
やっと一坪の海岸線イベントが終了。
ボケツはすでに掘られていたのだ(爆
気づいたら途中からレイザーが主人公っぽくなっていました。
シズクちゃんが酷いことしすぎなせいですね。でも今更変えられない。
あと元をたどれば大体ジンのせい。
ちなみにやろうとしていた主人公のソロ攻略はこんな感じです。
1.呪文ショップ前で〈同行〉。足りなければは拉致して15人揃える
2.事前に手下の海賊を全て行動不能にしておく
3.1対1でレイザーと戦い、挑発して全力ボールを投げさせる
4.デメちゃん二匹のゲートで反射して勝利
手下を全部戦えなくして行けばタイマンできるんじゃないかなって。
グリードアイランド編は次で最後になります。
読んで頂きありがとうごいました。