シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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酒は飲んでも飲まれるなっ!!


第36話 自重とは投げ捨てるもの

 ――学園生活二日目の朝。

 

「おはようメンチちゃん。今日もすごくかわいいね!!」

 

「か、かわっ!? ……お、おはよう。」

 

 教室に入るとすでにメンチちゃんが居たので挨拶しながら席に向かう。

 ちょっと褒めただけで下を向いてモジモジしちゃう彼女はやはりチョロインだ(確信)

 

「今日は何もされてないみたいだね。」

 

「う、うん。あっ、でも……」

 

 今日の彼女は半袖のシャツに短めのスカートでしかも色は上下ともに白だ。もしこのまま水を掛けられれば全身がスケスケになってしまうだろう。どうして今日に限っていじめっ子は自重してるのかな?

 

 ……まぁ代わりに私の机からは立派な花瓶が生えてるんですけどね。

 

 何なのコレ? やることが違うでしょ。私じゃなくてメンチちゃんに絡めよ。まったくこのクラスは空気読めねぇな。

 

「いつ頃からあった?」

 

「えっと、私が来た時にはすでに。」

 

 その花瓶は球体から上半分を切り取ったような形をしていた。直径は50センチ程もあり、深さも10センチ程度ある。更にその材質は見るからに陶器で出来ていて縁が分厚く頑丈そう。オマケに熱が伝わらなさそうな取っ手まで着いていた。

 

 ……花瓶じゃなくて土鍋じゃねーか!!!

 

「こんなの何処から持ってきたんだろ……」

 

「た、たぶん家庭科室じゃないかな? 前に同じのを見たことがあるよ。」

 

 なるほど。昨日私が帰った後に取りに行ったのかな? それとも今日の朝か。どちらにしろ無駄な努力だ。その行動力をもっとマシな事に使えよ。

 

「邪魔だから片付けよう。」

 

 試しに軽く持ち上げてみると机ごと持ち上がった。どうやらこれも机にくっついているようだ。

 境目を見れば固まったゼリーみたいな物が付着していて、引いた椅子の上には使い終わったボンドと書かれた容器が置いてあった。

 

 ……昨日は簡単に剥がされたから、今日は接地面を広くして接着剤もたっぷり付けましたってか?

 うーん、この小学生的発想。あっ、こいつら小学生だったわ。横目で見ればクラスメイト達はまたコソコソとコチラを伺ってるし。

 

「全くやれやれだぜ(無理やり絞り出した低音」

 

 まぁ私には通用しないんですけどね。

 鉄の溶接さえネジ切れるパワーの前に市販の接着剤など無駄無駄無駄ぁ!! こうなったら見せてやろう、何もかも打ち破る真のパワーというものをな!!

 

「危ないからちょっと離れて。」

 

 私は片手で机を押さえ、もう片方の手で土鍋の取手も持ってゆっくりと力を込めていく。

 

「えっ、えっ、えっ……。」

 

「うそでしょ!?」

 

「なぁにこれぇ。」

 

 周囲のクラスメイト達、その中でも主犯であろうワンコ3人組が唖然とする教室にベリベリという音が響き、まるでガムテープを無理やり引っ張ったかのように土鍋が剥がれていった。

 

「よっし! 意外ときれいに剥げたね!」

 

「どこが?」

 

 そうして残ったのは表面の大部分が無くなった机だ。

 もはや授業では使いものにならないだろう。だがそもそもここで勉強する気など最初から無いので問題ない。学園物の最適解は学力を上げる暇があったらヒロインにひたすら構うことだってはっきり分かんだよね。

 

 それよりも問題は貼り付けられていた土鍋である。

 虐めのためとはいえ、()()()()()の前に鍋を置くという意味をコイツラは分かっているのだろうか? ……たぶん分かってないんだろうね。

 

 うん、家庭科室があるのは先程のメンチちゃんの発言で確定したし、ちょうど隣には料理人もいる。ならばやるしかないだろう。そう言えば最近はご無沙汰だったし丁度いい。

 

 私は周囲をぐるっと見渡し、そして宣言した。

 

「――今日のお昼はすき焼きにするッ!!」

 

 せっかくしっかりとした土鍋があるのだ。ならば作らねばなるまい。

 

 私はクラスメイトの『なんでアレが剥がせるのよ!?』『机がボロボロですわ』『アイエェェ、スキで焼き!? なんで!!?』などという言葉を聞きながら土鍋を持って廊下へ出た。もちろんメンチちゃんも引き連れて。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 教室から出た私は近くのスーパーに宅配の電話をかけ、届いた材料を校門で受け取ってから家庭科室へ向かった。……授業? そんなものは(必要)ない。

 

 ドアには鍵がかかっていたが念を込めたナイフを振り下ろすと簡単に開いた。……どうやら壊れていたみたいだね。まぁほっとけば学校側が直すだろう。今は鍵穴に棒でも突っ込んで固定しておこう。

 

「さてじゃあ早速作ってみようか。」

 

「本当に作るの?」

 

 私の発言にメンチちゃんが驚く。だが料理人の性か未知の料理には興味津々と言った感じで目を輝かせているのは隠せていない。

 正式に弟子になってくれたら世界中を食べ歩きするのもいいかもね。もちろんジャポンにも連れて行こう。最高級の大トロで舌をトロットロにしなきゃ(使命感

 

「いーい? ジャポンには鍋奉行または鍋将軍という言葉があってね、目の前に鍋を置くことは戦争を意味するんだよ。」

 

「そ、そうなの? すごい過激な人たちなんだね……。」

 

 そうすごく過激な人たちなんだ。場合によっては首置いてけとか腹切れとか言って、何でも片っ端から鍋で煮込んで食べちゃう。必要なら乗ってきた馬だってバラすんだぞ。

 

「私は鍋の準備をするから切る方をお願いね。」

 

「えっ、私も?」

 

 そうだよ、だってちゃんとした料理人がいるなら手伝ってもらわない手はないし。もしかして見てるだけのつもりだったのかな? だが食べるなら労働は当たり前のことだろう。

 

「適当に一口サイズにしてくれれば良いから。」

 

「う、うん。分かった。」

 

 私はメンチちゃんに包丁と食材を渡し、代わりに鍋を洗ってコンロにセット。それから割り下を作り始めた。

 

 使うのは醤油・味醂・砂糖・水だ。最初の3つを1:1:1の割合で混ぜ、そこに砂糖を放り込めばOK。個人的に甘目が好きなので砂糖は心持ち多く入れる。家庭によっては料理酒や昆布だしも使うんだろうけど、面倒なので今回はこれでいいだろう。

 

「どれぐらい切り終わった?」

 

「えーと、こんな感じで良かったかな?」

 

 言われたままにテーブルの上を見れば、そこには綺麗に切り揃えられた材料があった。

 

 今回私が用意した食材は牛肉、長ねぎ、玉ねぎ、椎茸、しめじ、焼き豆腐、糸こんにゃく、絹さや、しらたき、春菊、白菜。すき焼きに入れそうな物は全部注文したんだけど、それらが()()切り分けられ、食べやすいサイズにされて並べられている。

 

「えっ、今の間(液体3つと砂糖混ぜただけ)にこれ全部切ったの?」

 

「だ、駄目だった?」

 

 まじかよ切るの早すぎて草。それも種ごとに最適な斬り方をしたって感じだし。特に長さと幅がミリ単位で揃ってるのがビビる。オドオドしてるくせにこの子パネェ……。やっぱ料理の腕は本物なんだなって。

 

「全然駄目じゃないよ! メンチちゃんはすごいね!!」

 

「そ、そうかな……えへへ。」

 

 それでも褒めれる所はきっちり褒める。好感度上げのチャンスは逃してはならない。

 そしてここまでくれば残りは簡単だ。牛脂を溶かしてネギ類を焼き、牛肉を焼き、両面に色が着いたら割り下と残りの材料を投入してグツグツ煮込む。

 

 台所の下にあったガスの元栓にはご丁寧に鍵が付いていたけど、ちょっと力を込めて回したら簡単に開けることが出来た。こっちも壊れてたみたいですねぇ。

 

 後はこのままアクを取りつつしばらく待てば完成である。ちなみにアク取りはメンチちゃんが自発的にやってくれた。この子いい奥さんになりそうだわ。原作の性格だと絶対に結婚できないと思うけど。

 

 さてそうして30分後、ついにすき焼きが完成。私達は小鉢を持ちいざ実食しようとしたのだが……

 

 ――ドンドンドン!!

 

「おい開けろ!! 貴様ら何をやっておるか!!!」

 

 しかしそんな私達に水を差す存在が現れた。やってきた担任がガンガンとドアを叩いてきたのだ。はぁ~(クソデカため息)、このクラス本当に空気読めねぇな(2回目

 

「はいはいはい、今あけまーす! ……よっとっ。」

 

 しょうがないのでタイミングを合わせて一瞬だけドアを開け、空振った担任の手を掴んで中に引きずり込んだ。

 

「きさまぱぷぁ!?」

 

 そしてそのまま首に衝撃を与えて意識を失わせる。本気で撃てば首くらいわけなく落とす手刀だ、他の人が居たとしても何が起こったか分からなかっただろう。

 

「さっ、それじゃあ()()()()()()()()()()()()()食べようか。」

 

 気絶した担任を奥に転がしつつ私達は改めて食事を始める。グツグツ煮える鍋からただよってくる甘い香りが鼻腔をくすぐり、煮込まれた食材から溢れる汁が食欲を唆る。……間違いない、これは絶対に美味しい――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――食べ始めてから30分後。

 

「ちょっとシズク、聞いてるの!? ……ヒック。」

 

「はいはい聞いてますよー。はい、あ~んっ。」

 

 愚痴を聞きながら肉を取ってメンチちゃんの口に運ぶ。注文したスーパーで一番高い牛肉だ。自国産の高級肉らしく柔らかく、牛汁と染み込んだ割り下が合わさってとっても美味。メンチちゃんも気に入ったのかバクバク食べている。

 

「全く何なのよあいつ等!! 前は私が大会で優勝する度にすごいすごい言ってたのに!! ……ヒック。」

 

「分かる分かる。急に手のひら返す人っているよねー。本当にどうしようもない奴らだよ。」

 

 そんな彼女は現在進行形で愚痴を吐き出し続けていた。やっぱりストレス溜まってたんやなって。

 

「まぁまぁメンチちゃん、私でよければ幾らでも話を聞くから。さぁ飲んで飲んで。」

 

「もっと注いで! それがパパが借金したからって急にあんな態度になって!! 」

 

 私はそんなメンチちゃんに相槌を打ちつつオチョコに熱燗を注ぐ。すき焼きを煮込んでいる間にレンジで温めておいたものである。やっぱり鍋にはジャポン(日本)酒だよね!

 

 これぞジャポンに伝わる由緒正しい人身掌握術――飲みニケーションだ。

 主に会社の上司によって使われるこの技は、酔わせて本音を吐き出させ、さらに酔い潰して弱みを握ることで新人社員を従わせやすくする為に使われる。フフフ、私もこのままメンチちゃんの心を握ってやるぜ!!

 

「一体私が何をしたっていうのよ! つまんないことばっかりしてきて! もうこんな学校大嫌い!!」

 

「そうそう、メンチちゃんは何も変わってないのにねー。」

 

 うーん、メンチちゃんは今の方が素なのかな? だんだん喋り方が原作そっくりになってきた。話をまとめると今の立場は家が没落してコミュからハジかれたって感じのよう。あの3人も元はただのよいしょ係みたいだ。……メンチちゃんは追放系主人公だった?

 

 まぁそれはそれとして料理もしっかり堪能するけどね。やっぱ久々のすき焼きは最高やね。特にシメジの三角傘から続く美しくも禍々しい流線!! 白滝の…!! 肉汁と割り下を孕んだ隆起!! どちらも独自の食感と共に溢れ出す煮汁がうめぇ……。

 

「てかそんなに嫌なら来なくていいじゃない? 今は通信制の学校だってあるんだし。家でお父さんに料理習っとけば?」

 

「最近のパパは嫌い!! ずっと『お前がこの店を継ぐんだぞ』って言ってたのに、ちょっとお金借りたからってお店を捨てちゃって!! ……ヒック!」

 

 確かに闇カジノにドハマリしちゃう人には習いたくないよね。っていうか関わりたくないわ。どんなに料理が上手くても人としてダメなのはちょっとね。……ああ~、力強い春菊白菜と牛肉群のハーモニー!! 最高すぎて箸が止まらないッ!!

 

「私の話聞いてる?」

 

「聞いてる聞いてる(頭に入っているとは言っていない)。じゃあお母さんに習ったらいいんじゃないかな?」

 

「ママもやだ!! 最近は『しっかりしろ』しか言わないし! 自分こそダメダメのくせに!! 何が『しっかりしなさい』よ、自分がしっかりしろってーの!! ……ヒック!」

 

 これは酷い。まぁ結果だけみれば駄目な男を選んだあげく、手綱を締めきれずに店を失ってるからね。子供から見てもまずお前がしっかりしろって言いたくなるわな。ふむ、これは今の家にも良い感情持ってなさそうだね。……甘い鍋に辛口の酒はあうなぁ。

 

「メンチちゃん家ではどうなの? 両親と一緒なのは好き?」

 

「今の家は嫌い。前はもっと広かったのに。パパとママもずっとイライラしてるし。」

 

 ふむふむ、これは家でも上手く行ってないと見た。どこにも居場所がないって感じだね。このまましばらく味方して土壇場で裏切ったらすごい良い顔を見せてくれそう。……まぁ流石にやらないけどね。やったらここに来た意味が無くなるし。

 

 でもこれは予想以上にチャンスっぽいね。ならもういっそ勧誘しちゃっていいんじゃないかな? 褒める度に照れてるし、好感度も十分に溜まってるに違いない。……よしっ!!

 

「ふーん、それならもういっそ私のコックにならない?」

 

「えっ、シズクの? で、でもそれは……」

 

 顔を赤らめたまま両手の人差し指を合わせてツンツンしちゃうメンチちゃん。

 ……くっ、私がロリコンなら逆に落ちてるほどの可愛さだ。だがこの反応はもうフラグ立ってるだろう。ならば後は押し込むだけだ。わずか二日でココまで進めた自分の才能が怖いっ!!

 

 私はゴニョゴニョと言いよどむメンチちゃんに人差し指を突きつけ、目の前でクルクルと回す。

 

「私のコックにな~る。コックにな~る……

 

 コックになろう。コックになった!!

 

 よーし、これから私のコックね?」

 

 ファイナルなファンタジーの8作目で魔女が主人公を落とした由緒正しい呪い方である。無口なクールボーイだって意識せずにはいられなくなった。これならきっとイチコロじゃて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、ご、ごめんなさい。」

 

 なん……だと……。

 

 しかし予想に反してメンチちゃんは落ちなかった。

 

 おかしいな。これぐらいの年齢ならノリでゴリ押しすれば断れないはずなのに。もしかしてメンチちゃんて精神年齢高かったりするのかな? どうみてもチョロインなのに??

 

「お母さんがそういう約束はしちゃ駄目だって。」

 

 ……どうやら母親の方はまだまともみたいだね。だがまだだ! まだ諦める時間じゃない!! なんたってまだこの学園にきて二日目だからね。メンチちゃんが余りにも無防備だからちょっと焦っちゃったけど、むしろ勝負はこれから。

 

「じゃあコックは保留ってことで。今日はもう行けるところまで行こう! ……さぁ飲んで飲んで!!」

 

 私はメンチちゃんのオチョコに熱燗を継ぎ足す。とりあえず酔わせて介抱すれば更に好感度上がるでしょ。……たぶん。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「……もっと早く。もっと小さく。もっと鋭く。」

 

 帰ってきたホテルの部屋でゲートを開く。

 具現化したデメちゃんは最小の30センチ。だが開かれたゲートはデメちゃんの口よりも小さかった。それも一瞬だけ開きすぐに閉じる。それを集中してただ繰り返し行う。

 

「くっ、やってみたら予想以上に難しい。それにオーラも割増で消費しちゃうね。」

 

 すき焼きを食べ終わった私は泊まっているホテルに帰ってきた。

 もちろんメンチちゃんも一緒に連れてきて今はベッドで寝ている……全裸で。

 

 他意は無い。飲酒してるので学校には置いとけなかったし、そのままだと服が皺になる、もしくは寝ゲロしちゃうと汚れてしまうからである……本当だよ? 振られたからってヤケになった訳ではない。

 

 まぁ服は全部脱がして汗は拭いたし、せっかくだからついでに巨乳マッサージもしておいたけどね!! もちろんココにはゲート経由で直接来たのでメンチちゃんを連れ込んだ事は誰にもバレていない。私は一度出て玄関からチェックインし直したけど。

 

 家庭科室の方も担任に酒をたらふく(無理やり)飲ませてきたので、きっと今頃はアレが自分の責任にならないように走り回って何もなかったことにしているはずだ。ただでさえ邪魔なのでこういう時は利用しないとね!

 

 さてそんな訳でお昼前に学校が終わったので、空いた時間は修行タイムである。

 

 約1ヶ月前に行われたネテロ会長とのパパ活。【百式観音】は見事に私の中で燻っていた靄を吹き飛ばしてくれた。行き詰まっていた思考がリセットされ視野が一段上へ引き上がったのだ。

 

 あとはその後に緊急入院させられた病院のベッドで今までを振り返りながら考え続けた。考えて考えて考えて考え抜いて……そうして一週間かけてようやく結論が出た。

 

 ――()()()()()()()()()()

 

 何ということだろう。自分ではハジケていたつもりが、会長に比べれば縮こまっているだけのガキでしかなかったのである。まさに井の中の蛙というやつだ。

 

「人の成長とは未熟な過去に打ち勝つこと、か……。」

 

 自分の【発】と会長の【百式観音】を比べてみれば違いは一目瞭然だ。受けて分かったが、あれは勝負する為の能力じゃない。ただただ勝つ事を突き詰めた果ての力だ。

 

 なんせその実態は相手に何もさせず超スピードで一方的に殴りまくるだけだからね。

 武術家だと言われておきながら相手と拳を合わせるだとか、念能力を出し合うだとか、そんな甘えはどこにも存在しなかった。瞬きするまもなくブチのめして終わりである。

 

 まさに勝負にこだわり続けたネテロ会長がたどり付いた"勝つ為"に特化した能力である。

 

「文字通り世界最強の能力だったね。」

 

 ではそれに比べて私の方はどうか。別の場所に空間を繋ぐ? でっかい念魚で飛ぶ? ハハハ、そんなの誰だって出来るじゃないか。現にどちらも原作でノヴとシュートが似たようなことをやっている。

 

「現実を見ろよシズク。お前はこれっぽっちも特別になれちゃいない。」

 

 魚面に引きずり込まれるのが怖くてデメちゃんを具現化した。邪神の祭壇が怖くてゲートはマーキングした場所にしか繋がらない制約を付けた。確かにこれらによって能力は安定したがその本質は逃げだ。なんてことはない、私は自分の能力にビビって無意識に遠慮していたのである。

 

 だが視野が広がった今なら分かる。あの時の【百式観音】の攻撃はきっと会長なりのメッセージだったのだ。

 キッズ相手に全盛期ファイアロー(中二炎鳥ポケ)で無双するようなあの一撃を、私は『遠慮して縮こまるな』というメッセージだと受け取った。

 

 なのでこれから私は(能力的な意味で)自重を捨てようと思いまーす!!

 

 自分にも周囲への影響も一切考慮せずに強くなることを目指す。実はそのための方法、これだ! という能力の使い方はすでに思いついている。

 

「日本のサブカルチャーは本当にすごいよね。どんな時でもヒントになりそうな物が転がってる。」

 

 私が今までの【発】で参考にしたのは"Fate/StayNight"というゲームである。

 古今東西の英雄でバトロワるという内容上、その作中には様々なチート武器が出てくるのだが、中でもそれはねーだろ、と言いたくなる剣が2つ存在する。……私はその剣を目指そうと思う。

 

 一つ目は"乖離剣(エア)"。ゲーム内でラスボスを務める英雄王ギルガメッシュの切り札であり、発動すると世界を丸ごと崩壊させる、ちょっと意味わからない剣だ。

 

 普通に考えれば真似するなんて無理だと思うだろう。……だがちょっとまってほしい、例えば私のゲートを()()させて、制約を無視して()()()()()()()()()に空間を繋いだらどうなるだろう?

 

 私も詳しくは知らないがブラックホールはコイン程度の大きさで地球より大きな質量を持つ。重力も地球の100京倍以上の為、出現すれば足元から何もかも吸い込まれてバラバラになるとどこかで読んだことが有る。

 

 ……これなら星ごと崩壊させることが出来るのでは? つまり擬似的な乖離剣(エア)の再現だ。

 

 もちろん私も確実に死ぬだろうが、そこは逆に考えればいい。――死後の念として発動すれば良いのだと。

 ぶっちゃけ私を殺した相手を道連れに出来るなら星なんて壊れてもいいよね。どうせ私は死んでいるんだし。

 

 そして二つ目は"宝石剣(ゼルレッチ)"。これはヒロインの一人である遠坂凛の切り札で、発動すると魔力が実質無限になる。殺し合って魔力を集めるという物語の根本を台無しにしちゃう剣である。

 

 こちらの世界風に言えばオーラの無限増殖ってとこかな? まぁ普通に考えたらこれも無理だろう。……だがちょっとまってほしい。ゲートは邪神の居る祭壇に繋がった、それはつまり()()()()()()()()()()()()()()()()()ということなのでは?

 

 ならば十分に可能性があるのではなかろうか。ゲートには"予め作った【接続ポイント】にしか繋がらない"という制約を付けてあるが、しかし平行世界ならどうだろう? 

 

 例えば私がこの場に【接続ポイント】を作る。

 終わって"すぐベッドの上に移動し(基本世界)"、そこから"作った【接続ポイント】の上に残っていた世界(並行世界)"へ繋げればどうだろう?

 

 これなら先程の制約には矛盾しない。【接続ポイント】を作った後に別れた世界だから。そしてその世界の私からオーラを分けてもらえば? もし出来るなら実質的にオーラを無限に増やせるんじゃね?

 

 問題はどうやって意思疎通をするかだけど、そこは【深淵を覗く者(アクセル・マインド)】でカバー出来そう。

 こちらは自分の脳みそしか操れないが、平行世界の住人でも自分は自分である。この能力を調整して思考をやり取り出来るようにするのだ。そう考えれば意外と行けそうな気がする。

 

 という訳でこれから私が目指すのはこの2つである。

 どちらも理論上は可能だと思うから、後はゲートの練度次第。そう、私が鍛えるべきはデメちゃんではなくゲートの方だった。

 

 まぁ考えてみれば当たり前だよね。だって私は特質系なのだから。それがずっと具現化物のデメちゃんを鍛えてましたって本末転倒も甚だしい。

 

「これってゴン君がチョキだけ鍛えてたようなもんじゃん……私って本当にバカ……ッ!!」

 

 だがどこぞの青い魔法少女さんと違って私はまだリカバリー出来る。それに大きなデメちゃんはこれはこれで便利だし役に立ったからね。

 

「まぁゲートは制御に失敗したらどんな影響が出るか分からないけど(時空間的な意味で)」

 

 下手したら魚顔どもがウジャウジャ出てきそう。6番目の厄災かな? でもまぁその程度なら構わないよね。

 私はもう自重は捨てたのだ。それに会長だって時間の圧縮とかやってるんだし? 私が同じようなことをしても文句は言うまい。 

 

「まずはゲートを小さく早く発動させる。次に徐々に大きくしていって、内側からデメちゃんを破裂させるのが目標かな……。」

 

『ぎょぎょ!?』

 

 何言ってんだお前止めろよ巫山戯んな、そんな声で鳴いたデメちゃんを無視して制御に集中する。

 オーラが無くなったら【絶】で回復しながら少しずつ。会長は感謝の正拳突きに10年も掛けたのだ、ならば私もそれぐらいのスパンでやるべきだろう。

 

 それに自分から望んだとは言え、全身をグチャグチャにされた恨みは忘れていない。つーかちょっとは手加減しろよ。人としても念能力者としても半世紀以上も修練した時間に差があるんだからさぁ。

 

 まぁだから次はきっちり会長にやり返してあげようと思う。やられっぱなしは趣味じゃないからね。

 

「――待っててね会長! 必ず不意打ってコテンパンにして上げるから!!」

 

 私はオーラを回復させながら修業を続ける。会長へのお礼参り(世界最後)の日を夢見ながら。




振られたので幼女を酔わせてお持ち帰りする幼女の回でした。
なお会長からのメッセージ伝々は主人公の妄想です。

■それから習得しようとしてる新しい念能力(使い方)
【天地乖離す終焉の星/デヌマ・エリシュ(未完成)】
 死後の念でゲートをブラックホールに繋げ世界を崩壊させる能力。
 たぶん発動するとみんな死ぬ。規模によっては暗黒大陸ごと消せそう。

【多重次元食摂現象/シズク・ゼルレッチ(未完成)】
 平行世界の自分からオーラを回収する能力。発動中はオーラが無限に回復する。
 デメちゃん(マスコット)いるしカレイドステッキの方があってるかも。
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