シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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シリアスにしようとして頑張った。でも売り切れてた。そんな37話です。
誤字脱字報告ありがとうございます。特に何度も報告してくれた方々。大変助かっております。


第37話 これは実質合意ですね

『――私頑張る! いつかすごい料理を作って、パパ達をびっくりさせてやるんだから!!』

 

 鍋を食べてる最中に意識を失った私――メンチ=カートレットは夢を見ていた。それは今よりもっと小さかった時の記憶。パパが料理を振るい、ママが私を抱き上げ、店に来た人達が笑顔で料理を食べていた頃の思い出だ。

 

『ああきっと出来るさ。なんせこのパパ――"別大陸帰りの男"モテテマスと。』

 

『"コロコロ回る味のスパイ"と呼ばれたママ、レアコの子ですからね。』

 

 あの頃は朝も夜も勉強ばかりだった。だけど料理を習うのはすごく楽しくて、上手く出来たときに褒めてもらえるのが嬉しくて頑張り続けた。料理大会で優勝する度に『よくやった!』と頭を撫でてくれる両親が好きだった。……そんな日々がずっと続いていくと思っていた。

 

『いいかメンチ、このパパが頑張るのはハーレムのためだ。でも責任は取りたくないんだ。お前なら分かってくれるだろう?』

 

『もちろん分かるよ!!』

 

 全然分からなかったのでママに聞いたら翌日パパは吊るされてた。

 

 私の家――"カートレット家"は代々続く料理人の一族だ。ママがしてくれた話によれば一番古い記録は200年前にも遡る。

 元々はヨルビアン大陸辺境の雇われコックだったらしいご先祖様が、ヨークシン街の開拓に参加したことで自分の店を持ったのが始まりらしい。

 

『いーいメンチ。ママ達のご先祖様は頑張って偉い人にわいろ……じゃなかった心付けを送って店を大きくしていったのよ。』

 

『ご先祖様すごい!!』

 

 それから先祖は何度も起こった街の変革を料理の腕と培った人脈によってくぐり抜け、100年も経つ頃には街の一等地へ店を構えていた。お客も市長を始めとしたお偉方が続々と訪れるようになった。たゆまぬ向上心と歴史の積み重ねにより、街の人々から信頼を得ていったのだ。

 

『でもわいろってなーに?』

 

『利権の保証書……じゃなかった店が繁栄するお守りみたいなものね。めちゃくちゃ高いけど効果は抜群だったわ。』

 

 しかしそんな幸せな夢は徐々に曇っていった。私は先なんて見たくないと思った。しかし無意識の深層からはあざ笑うかのように思い出(トラウマ)が溢れ出した。

 

 

 ――何時からだろう、常連さん達の顔を見なくなったのは。

 

『何故だ。私はただ昔からの夢(ハーレム)を叶えようとしていただけなのに……。それもこれもあの市長のせいだっ!!』

 

『まぁまぁ、モテテマスさんなら簡単に取り返せますって。それよりどうです、また今日も例の店でパイパイしましょうよ。』

 

 パパが言うには今度当選した新しい市長はマフィアという悪い人たちの言いなりで、きょうそうのびょうどう? とかで昔からある店を潰そうとしてるらしい。パパが行ってる怪しいお店も潰してくれればいいのに。

 

 

 ――何時からだろう、両親が喧嘩ばかりするようになったのは。

 

「入婿の癖になにしてくれとんじゃワレェ!!!」

 

「ぐわぁあああああ!! タップ! タップだレアコ――――!!」

 

 前は夜のプロレスごっこでもママが鳴いてばかりだったのに、今は必殺のスリーパーホールドでパパが悲鳴を上げてばっかり。ママはこのままパパと別れて店を取り戻そうとしてるみたいだけど、でもそんな簡単に戻ってくるのかな?

 

 

 ――何時からだろう、私が料理を作るのが楽しくなくなったのは。

 

『おおーと、審査の前に物言いが入りました! なんとメンチ選手の料理に違法な薬物が……それも媚薬が入っていたようです!! これは明らかな反則行為!! いやまさか審査員を発情させるつもりだったのかー!? 何か弁明はありますかメンチ選手?』

 

『びやくってなに? 美味しいの??』

 

『それはねオジサンのお稲荷さんだよ』『はぅう~お持ち帰りぃ~。』『中々のトラップですわね。』『やっぱ幼女にエロアイテムは最高だな!!』『この料理は後でみんなのお口に突っ込むのです。』

 

 半年前にでた料理大会。私は反則で失格になっちゃった。用意された物しか使ってないのにどうしてだろう?

 

『みんな来たわよ! エロエロ料理のメンチよ!!』

 

『大会で審査員にエロジュースを飲ませたんですって?』

 

『エロジュース学園生がエロジュースを使うとはこれ如何に。……ちょっと飲んでみたいかも。』『えっ』『えっ』

 

 しかもその事がいつの間にか学校のみんなに知られていて、気づいたら私は苛められるようになっていた。もう何も楽しくない。なんでこうなったんだろう。

 

 

 ……でも最近、そんな日常に少しだけ変化があった。

 

『シズク=パープルトンです。本日よりこのZクラスに編入になりました。よろしくね。』

 

 原因はこんな時期にやってきた転校生だ。シズクと名乗った彼女は、教室に入ってきた時から妙に迫力があった。他の人は気づいてないようだけど、店や大会で食べる人を観察し続けた私には分かった。

 

 ――それはまるで稚魚達の生簀の中に、脂の乗った肉食魚が放流されたみたいだった。

 

 彼女は先生もクラスメイトも全く()()()()()()()()。まるでお腹が減ったら何時でも食べれるからと小魚を放置してるような……前にどこかで見たピラニアという魚みたいだと思った。

 

『これからよろしくね、メンチちゃん!!』

 

 そんな彼女はやっぱりめちゃくちゃだった。先生に言うことは何も聞かない。勝手に机を移動させて私の隣になっちゃうし、クラスメイト達が置いた花瓶(土鍋)もあっさり剥がして逆に料理に使っちゃった。

 

『おはようメンチちゃん。今日もすごくかわいいね!!』

 

 でも何故か私には優しい。盛んに話しかけてくれるし貼り付けられた花瓶も取ってくれた。

 おまけに私の知らない料理を知っているし、家庭科室では担任をあっさり気絶させちゃった。……一体シズクは何なんだろう?

 

 そうしている内に私はシズクから眼を離せなくなっていた。

 最初は怖かったし頭のネジが外れた子だと思ったけど、一緒に作ったお鍋は美味しくて、料理が楽しくて笑えたのは本当に久しぶりで、気づけばシズクのことばかり考えてしまう。

 

「シズク、私はどうしたらいいのかな?」

 

 私は朦朧とした意識の中で、薄っすらと浮かんだシズクの背中に手を伸ばそうとして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッモーニンッ、メンチちゃん! いい朝だね!! ……おっとこの()は修行のせいだから気にしないで欲しい。」

 

 目を覚ました先で()()()()で倒れているシズクをみつけた。

 部屋中に蔓延する血の匂い。びしょびしょの血の池の中に俯せになり顔と右手だけを上げている彼女、それはホラー映画に出てきそうなスプレッターな光景だ。

 

 私は数秒掛けてそれが現実だということを理解して……

 

「きゃあああああああああああああ!!!」

 

「待って今叫ばれるとホテルの人きちゃう!! あああああ待ってぇええええ!!!」

 

 自分でもびっくりするほどの悲鳴を上げ再び意識を失った。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「はい、はい。今の叫び声はただのホラー映画なんで。ええ、何も問題ありません。」

 

 ではお構いなく。そう言いながら電話を切る。

 

 メンチちゃんと飲み明かしてから数時間後、私は部屋で血まみれになっていた。

 ゲートを制御する修行をしていたらいつの間にか出血が始まり、気づいたら全身から血が流れていたのだ。メタリカされたディアボロかな?

 

「あの邪神の使徒(魚面)達は暗殺チームのメンバーだった?」

 

 人を捕まえて生贄にするのが仕事だとすればそんなに違わない気がする。

 現在は制御訓練を止めて【絶】で回復に努めたおかげで血は止まっているが、しかし出血した分が戻ったわけではない。おかげで全身が酷い倦怠感に覆われている。

 

「うーん、この典型的な貧血症状……まじで血が足りないね。」

 

 一応造血剤は飲んだし輸血パックも付けたからしばらく待てば良くなると思うが、もしダメだったら病院に行くしか無いだろう。まぁ大丈夫だと思うけどね。

 

「あ~あ、せっかくゲートの新しい使い方を思いついたのになぁ。」

 

 当たり前だが私は念能力に"全身から出血する"なんて制約は付けちゃいない。ゲートは気軽に使えるのが利点の一つなのだ。それを台無しにするなんてナンセンスである。

 

 まぁそんな訳だからこれは当然【念】とは別の要因だ。そう、きっとあの邪神様と愉快な魚面たちの仕業だろう。

 

「ま た あ い つ ら か。」

 

 最初に水見式を行った時、私は水に色を付けるために血を使った。その血はゲートを経由し向こうへ流れてしまっている。おそらく今回の件はそれが原因だと思われる。

 

「血が共鳴でもしてるのかな?」

 

 出血が始まったのはデメちゃんを掴むために伸ばしていた手の指先――ゲートに一番近かった部位からだ。そして時間が経つとそれが胸、足、鼻と徐々に全身に広がっていった。最後は眼と耳からも血が飛び出て、ホラー映画のクリーチャーみたいな有様だった。

 

「つまりゲート能力を成長(制御力アップ)させる→邪神との繋がりが深まる→送った血が共鳴(?)→もっと血を送ってくれめんす(^^→全身から出血、って事?」

 

 まだ推測でしか無いけれど当たってたら最悪だ。私はただ気軽にぶっぱ(ブラックホールクラスター)したいだけなのに、どうしてこんな面倒なデメリットが付いてきてしまうのか。

 

「……定期的に生贄でも放り込んでみるか?」

 

 制約をいじれば可能ではある。とは言えやっても何も変わらないこともあり得る訳で。

 オマケに制約は追加は出来ても削除は出来ない。なので確実な事が分かるまではいじりたくない。しかも繫がりを完全に断ってしまうとゲート自体が使えなくなりそうなのが悩みどころだ。

 

「とするともうナニカに頼るしかないね。」

 

 不思議な力(厄災)で何でも叶えてくれるあの子に期待だ。幸いなことにアルカが生まれていることはすでに分かっている。だから後大事なのはタイミング。

 

 早すぎて言葉を理解してもらえない状態だと意味ないし、遅すぎると隔離されてしまい会えなくなる。回想でキルアがダーツを投げてたから隔離されたのは6歳前だと思うんだけど。

 

「コレについてはこまめに訪問するしかないか……。」

 

 とするとどうにかして邪神と対話したい所である。何かこう、良い感じで取引がしたい。

 年に10人ぐらいの生贄で納得してもらえないかな? 成功したらついでに制約にしてしまえばゲートもパワーアップして一石二鳥に出来るんだけどね。

 

 あっ、ちなみにココで出血した血は普通に落ちるだけだったのでそこは一安心だ。まぁ一度血を洗い流したせいで、せっかくのジェットバスが血の海だけどね!!

 

 背中側の吹き出し穴から真っ赤なお湯が飛び出てくるとかこれが本当の地獄温泉かな? 見てる分には面白いけど、チェックアウトするときには幾ら請求されることやら。

 

「だから拠点が出来たら邪神像でも作って飾っとこう。」

 

 それでもどうにもならなかったら? その時は大人しくD4Cするしかないね。つまり別の世界にいるノーダメの私に記憶を渡して入れ替わってもらうのだ。

 

 ここまで来てジョジョの能力はどうかと思ったが、だがよく考えたら型月世界でも魔導元帥や人形師が同じようなことやってるんだよね。ならギリギリセーフじゃね?

 

 なので能力については一旦保留。今はメンチちゃんの方に全力を注ごう。まぁそれも勧誘は学校では一度断られてしまったが、ならば最終手段を使うまでである。

 

 と言う訳で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これが"念能力"だよ。」

 

『ぎょっぎょっぎょ。』

 

「うわぁ、本物の金魚みたい。」

 

 メンチちゃんを【念】で釣りましょうね~♪

 

 私がプロハンターだと明かし、目の前でデメちゃんを具現化してみせるとメンチちゃんはすごい勢いで食いついた。

 本当はもっとドラマチックに正体を明かしたかったけど、全身血まみれの姿も見られちゃったからね。

 

「これで私が本当にプロハンターだって分かってくれた?」

 

「すごいすごいすごい!!」

 

 それにせっかくホテルに連れ込むことに成功したのだ、ならもう既成事実(意味深)しちゃってもいいよね。だってよく考えたら私って料理の指導とか出来ないし? もう念だけ教えて実質弟子ってことにすればよくね?

 

「うーん、メンチちゃんがどうしてもって言うなら教えて上げてもいいけどなぁ~。」

 

「もしかして私にも使えるようになるの?」

 

『んぎょんぎょんぎょぎょ。』

 

 具現化したデメちゃんが『罠だ騙されるな』と言わんばかりにメンチちゃんの肩で跳ねる。だが逆効果だ。むしろ彼女はデメちゃんが動く度に目を輝かせていた。

 

「教えるのは今だけ、本当はダメだけど、メンチちゃんは特別だよ。っか~、本当はダメなんだけどな~。」

 

「……教えて!!」

 

 このくらいの年の子が不思議な力(ガチ)を体験しちゃったのだ。それも虐められて追い詰められてる状況で倍率ドン! である。我慢なんてできようはずがない。

 

「じゃあ最初は私のぶっといの(オーラ)でメンチちゃんの慎ましい穴(精孔)を開けるから。」

 

「何をしたらいいの?」

 

 まぁ教えると言っても無理やり精孔を開くんだけどね。

 せっかく才能はあるんだからとっとと目覚めさせるに限る。私の体調も大分回復したし今ならそれほど難しくはないだろう。それにゾルディック家にいた時にコツは習ったからね。

 

「じゃあまず服を脱いで全裸になります。」

 

「……分かった!!」

 

 私はメンチちゃんを手中にした事を確信しつつ、裸になった彼女のペチャパイへ慎重にオーラを流し込み始めた。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「(レストランの)地上げも料理大会もただの賭博ぅ~?」

 

「ああ、どうもマフィアが新しい飯の種にしようとしたらしいな。」

 

 D4Cでドジャーン! する姿を想像してから、あるいはメンチちゃんを釣ってから6日後。

 

 私はホテルのロビーでスクワラさんから報告を受けていた。あれから情報は順調に集まったらしく、テーブルの上にはそれらがまとめられた資料が並べられている。

 

 払った金の分はきっちり仕事してくれたみたいだね。やっぱり囲い込みたいなぁ。この街に事務所でも作って任せたら情報収集が捗りそう。

 

「てか地上げ賭博って初めて聞いたんだけど。何をどういう形式でやってるの?」

 

「どうもクジで幾つか店を決めてどこが最初に落ちるか競ってたらしい。対象の店はそれぞれ別の組が落としに行く。んで客はその順番を賭けるって寸法だ。」

 

「ふーん、なんだかとても地味そうな賭博だね。」

 

 用意された資料を読みながら重要な部分を聞いていく。

 

 しかし地上げ賭博て。結果が出るまで時間掛かりそうだし、面白そうな要素が欠片も思いつかない。レストランなんて4ヶ月も掛かってたぽいし、ぶっちゃけ途中で飽きるんじゃないかな? 賭けたのを忘れてる客もいそう。

 

「(メンチちゃんの実家の)レストランが標的になった理由は?」

 

「それは老舗だったからだな。すぐ地上げに応じられたら賭けにならねーだろ? だから断りそうな店が対象になってた訳だ。ちなみに主導してたのは"扇組"ってマフィアだ。」

 

「そういえばこの街ってマフィアが支配してるんだったね。裏側は(ゲイ)バーぐらいしか行ってないから忘れてた。」

 

 説明しよう! ハンターの世界におけるマフィアとは雑魚の群れである。

 一言でいえばマリオにおけるクリボーだ。小さいのから大きいの、羽がついてるスペシャルまで色々いるが、出てくると大抵すぐ死んでしまう。

 

「ちなみに料理大会の方はなんて組?」

 

「そっちは"雛見会"だな。どっちも数年前からこの街で活動してるそこそこの組だよ。」

 

 だがそんなマフィアが私は嫌いではない。上下関係が厳しい彼らは、上役さえ従わせれば命令を出すだけで簡単に動かすことが出来る。使い捨てにするにはうってつけの人材なのである。念能力も取得せずにイキるって本当にすごい。

 

「ふーん、その賭けってまだやってるの?」

 

「いやもうやってないみたいだ。人の集まりが悪かったらしくてな。」

 

 残念、もう終わっちゃってるのか。同じ手段でやり返すのは無理そうだね。

 

 ……そうするとそのマフィアを襲撃するのがてっとり早いかな? とりあえず店の権利書だけは手に入れておきたい。メンチちゃんにプレゼントして好感度アップしてもいいし、両親に突きつけて雇用(奴隷)にしてもいい。

 

 いや私が色々調べているのはすでに裏で広がっているはずだ。特に隠しもせず堂々と情報屋を雇ってたからね。なので今襲撃するのはまずいかも。私が第一容疑者になってしまう。

 

 ならば片方に成りすましてもう片方を襲うか? これなら同士討ちの形になる。あとは最高のタイミングで殴りつければ良い。お相手の組にヘイトが向かえば私はスルーされるのでは?

 

 ……いやダメだな。それでもきっと私までたどり着く。二組の共通点を洗ったら一発だわ。たとえ両方潰しても上の組が私に報復に来るだろう。マフィアは面子を傷つけられると虫みたいにわらわら湧いてくるからなぁ。

 

 戦いなら何とかなると思うけど、でも口座の凍結とか経済攻撃をやられると非常にだるい。

 

 とすると一番良いのは……

 

 ――どこか別の組に雇われてからその二組を襲う。

 

 これだ!! これなら責任(ヘイト)は私を雇った組に行く。それでいて襲った組の戦利品は全部私の物にすればおk。……完璧じゃね? よし、これで行こう!! 幸いなことに使えそうな組には当てがある。

 

「ふーん、それじゃあもう一つ聞きたいんだけど。」

 

「なんだ?」

 

「"ゼンジ"って組長、この街にいる?」

 

「……ゼンジ? 確か新しく十老頭の直系になった組の頭がその名前だったような。」

 

 説明しよう!! ゼンジとはヨークシン編でクラピカが所属したノストラード組に絡みまくり、その上で最後まで生き残ったある意味伝説のマフィアだ。覚えているだけでも彼の活躍は沢山ある。

 

 例えば彼はネオンの父親――ライト・ノストラードを煽るも煽り返されて逆ギレ。それから一方的に何度もライトを殴るのだが、しかし鼻血以上の怪我は負わせられなかった。

 

 続いてクラピカも煽ったのだがこちらは逆に殴られ撃沈。その後、意地になってオークションで張り合うも27億が用意できずに敗北。

 

 オマケに帰り道でクラピカにメンチ切りバトルを挑むも、ビビッて動けなくなり更に敗北を重ねてしまう。エロゲならメス落ちの完全敗北だ。無様を晒しすぎィ!!

 

 とまぁつまり武闘派と言えるほどの武力はなく、金を稼ぐ知力もなく、人を従える胆力もないという、まさにクラピカの為に用意された踏み台キャラである。

 

 当時読んでいて抱いたイメージは”キレやすい無能中年”。しかしそんなゼンジだが一つだけ他には無い物を持っている。

 

 ――それは十老頭の直系組頭という地位。

 

 十老頭とはハンター世界において世界中のマフィアの頂点に立つ10人の組長である。

 当たり前だがその直系というのはかなりすごい。言わば裏の大統領の直属兵だ。

 

 先程言った通りマフィアの上下関係は厳しい。そこでこの地位を名乗れば相手は萎縮して大抵の行為は泣き寝入りしてくれるだろう。例えるなら水戸黄門の印籠だ。……勝手に使うのにはうってつけだね!!

 

「……いけるやん!!」

 

「はっ? いきなりどうした。」

 

 まぁそんな十老頭も某暗殺一家に電話一本掛けるだけで全滅しちゃうんだけどね。全大陸のマフィアのトップをまとめてコロコロして平気って何なん? ちょっとゾルディック家さん強すぎませんかね。

 

「なんでも無いよ。お金を積むだけで交渉のテーブルに着いてくれそうな相手(人間)は楽でいいなって。」

 

「おいおい魔獣でも飼うつもりかよ。」

 

 残念、ゲートの向こうにいるのはもっとやばい奴なんだよなぁ。あっちは単位が一魂とかになりそうだから困る。会話するだけでも厄災の力が必要だし。

 

「じゃあ次の仕事を頼みたいんだけど。女の子の護衛って幾ら? 同い年の子なんだけど。」

 

「ん~、まぁ事情によりけりだな。」

 

 私によって無理やり非処女(念能力者)にされたメンチちゃんはアレからずっとホテルの部屋にいる。つまり同棲しているという訳である。これはもう実質夫婦(弟子入り)なのでは? 作ってくれるご飯がすっごい美味しいんだ。

 

 だから念の為に護衛は付けとかないとね。聞けば今住んでるボロアパートに両親はめったに帰ってこないらしく、このままここに居ても問題ないとのこと。同じ様に育児放棄された身としては親近感湧いちゃうなぁ。

 

「てかあんたと同い年ってその子も年齢詐欺なのか?」

 

「どういう意味かな?」

 

 私はピッチピチの10歳やぞ? 見た目は子供、頭脳は大人、その名は天然美少女シズクちゃん!! ……ないわ。この街に来てからたまに思考がおかしい気がする。

 

 まぁここまで大人しくしていたおかげで情報はほぼ集まった。学園や教師の不祥事からクラスメイトの家の後ろ暗い事情まで。そしてスクワラさんのおかげで賭博に関わるマフィア関連もばっちりだ。

 

 ……という訳でそろそろ動き出す頃合いだろう。ていうか一週間も大人しくしてたんだからもう暴れてもいいよね? 我慢しすぎてもう心のチンチンはガッチガチだぞ。

 

「経費は全部こっち持ちでいいからよろしく。」

 

「OK、あんたにはこの一週間で随分と稼がせてもらったからな。分かった引き受けよう。」

 

 私はスクワラさんを連れて部屋に戻る。フフフ、メンチちゃんを泣かせたクズ野郎どもめ、今度はお前らが泣く番だっ!!

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 一方その頃、開始から一年も経たずにクリアされてしまったグリードアイランドでは、再開に当たって変更される仕様の最終確認が行われていた。

 

 そこは最後のイベント後に呼ばれる城の中の一室。

 円卓を模したテーブルにはジンを除く9人のゲームマスター達が着いていた。全員来て大丈夫か? と思うかもしれないが、現場には代わりの念人形が置かれているので問題ない。

 

「ではこれより変更点の説明を始めます。」

 

 司会はデータ管理の補佐担当のリストである。いつもどおりシャツとズボンにサスペンダーを着用している彼は、用意した資料とホワイトボードを使い、一ヶ月掛けてようやく定まった新仕様を発表していく。

 

「まずは島の入退場に関して。イータさんとエレナさんの要望通り卑猥なプレイヤー名は禁止になりました。ただし短時間での出入りへの対処は今回は保留です。」

 

「何度も同じことを言うのは地味に辛いんだけど。まぁしょうがないわね。」

 

「そうね、転移能力を持ってるプレイヤーなんて滅多に来ないでしょうからね。」

 

 リストの発言にイータとエレナ――島の出入りを管理している双子の女性が頷く。要望していた変更の片方が保留になったというのに、そこに悲壮感は全くなかった。なぜなら重要なのは名前の方だったからだ。

 

「初日にチンチン、チンチン、チンチン言わされた時は頭が爆発するかと思ったわよ。」

 

「ちょっとイータ、品がないわよ。私もチンチンは正気を疑ったけど。」

 

 彼女たちはとあるプレイヤーにより何度もセクハラにあった。特に規制していなかったプレイヤー名を悪用され、"チンチン"だの"パイパイ"だの"カモカモ"だの卑猥な名称をゲームに出入りする度に呼ばされていたのだ。

 なのでそのセクハラさえ防げれば残りは保留でも文句はなかった。

 

「次に交換ショップについて。こちらは一部カードの買取価格が下方修正されます。」

 

「まぁあんな荒稼ぎされるのはちょっとな。……クワガタ錬金術だったか? 流石にアレはダメだろ。」

 

 ドゥーン――データ管理を担当しているボサボサ髪のダラしない男性がリストに同意する。

 

 こちらはゲーム開始すぐにゲーム内マネーを荒稼ぎされた方法である。クワガタを大量に取って売る。言葉にすればそれだけだが一匹の買値を高く設定していたのが仇となった。当たり前のように悪用され結果的に何億も稼がれてしまった。

 

 オマケにその金でランクBカードの中でも凶悪な洗脳系が買い込まれ、序盤から多数のプレイヤーが支配されてしまっていた。当たり前だがそんな状況はまっとうなゲームとは言えない。

 

「それと呪文ショップについても、無制限の選択タイムは無しになりました。」

 

「店の中で大量買いされると簡単に全種類揃っちまうからなぁ。」

 

 呪文カード購入時の選択時間、必要なカードをじっくり選べるようにという仕様も当たり前のように悪用された。

 

 店の中では呪文カードはバインダーに入れなくても消えなかったのだ。だがそれを利用して一度に何千枚ものカードを揃えたプレイヤーがいた。

 本来であれば持ち運べる金には限度があるため不可能なのだが……瞬間移動で何千万ジェニーも持ってくるなど想定外であった。

 

「そして特に強く要望が上がっていた、イベントに関わるキャラ(GMとNPC含む)へのアイテム効果についてですが、今後は全て無効となります。」

 

「「……っしゃぁ!!」」

 

 望みがかなったことにサクサク――赤帽子にメガネをかけた中年と、レイザー――スポーツマンのようなガッチリした男、が歓声を上げた。

 

 更に二人はハイタッチした上で、拳をつくって軽くぶつけ合った。喜びに溢れたガンガンガンという音が室内に響く。

 

「おい、キャラが崩れてるぞ二人共。」

 

「まぁまぁいいじゃない。」

 

「そうそう、流石に全身こんがりローストと下半身大爆発はちょっとね。」

 

 そんな微笑ましい光景にドゥーンが突っ込み、イータとエレナも微笑しながらちゃちゃを入れる。だがそれだけだ。行動そのものを止めようとはしない。

 

 なぜならハシャいでいるこの男二人は他のゲームマスターと違い、イベントのボスとしてプレイヤーの前に立ちふさがる立場だからである。

 

 そうつまりは。

 

 ――アイテムを悪用したとあるプレイヤーに虐められた一番の被害者達だからだ。

 

「できれば最初から無効にしておいてほしかった……。」

 

「全くだね。ゴロリ共々、夜中に天罰されるのはもうごめんだよ……。」

 

 ようやく落ち着いたレイザーとサクサクが着席する。見れば目の端は薄っすらと涙の跡があった。

 彼らがやられたことはとにかく酷いの一言である。もはや筆舌に尽くし難い。ゲームマスターの保護がシステムに組み込まれていなければ何度も死んでいたほどである。だがその分だけ今回の変更は嬉しかったのだ。

 

「よしじゃあコレでようやく再開だ。なんだかんだで一ヶ月ちょい掛かっちまったな。」

 

 ドゥーンはやれやれと首を回す。彼らは念能力によって島一つをゲーム化している。当たり前だがその為の制約と誓約は沢山有り、だからこそ今回の仕様変更に多大な時間を要してしまっていた。

 

「あ、そういえばもう一つだけ報告がありました。クリア報酬ですが《支配者の祝福》が持ち出されたので、()()()()今後同じカードは選択不可になります。」

 

「それはしょうがねぇ。一万人の念人形なんて何度も具現化させられたらリソースが幾ら有っても足りねーよ。」

 

「あらそれじゃあ《大天使の息吹》と《魔女の若返り薬》もダメになるの?」

 

「ああ、カードごとに調整なんて面倒だからな。全部早いもの勝ちでいいだろ。」

 

 イータの質問にドゥーンが答える。それは最初から決めてあったことなので誰からも文句はでなかった。

 

「ふふ、クリアされたのは一ヶ月前なのに、もう何年も前の気がするわね。……そう言えばあの子は今頃何をしているのかしら。」

 

「あらイータ、案外ネテロ会長にでも挑んでいるのかもしれないわよ?」

 

「おいおいそんな訳ないだろ。あのガキがそんな玉かよ。」

 

「確かにそうだな。……どうせどこかでまた誰かを嘆かせているんだろう。」

 

 イータとエレナの軽口に答え、サクサクとレイザーは中空を見上げた。そんな二人の瞳には深い悲しみがあった。どこか別の場所で起こっているだろう悲劇を悼んで。

 

 ――だが彼らは知らない。これからやってくるプレイヤーの大部分が、その大天使と若返り薬を求めていることを。そう、悲劇はすでに起こることが確定してしまっているのだった。

 

 絶望してブチ切れたバッテラ氏が残った全財産でありったけの傭兵を雇い、とあるプロハンターの拠点へ攻め込むのはこれから十年後のことである。

 




バッテラ「絶対に許さねぇ!!」
シズク「キレやすい老人こわっ!!」


読んでくれて有難うございました。
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