シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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幼女編
第04話 ハッピーバースデー


 暖かな何かを感じ、再び意識が浮上する。

 私は徐々に思考を取り戻し、ゆっくりと目を開いた。

 

『おお、目を開けたぞ!!』

 

 私の目の前には魚面……じゃない普通の男性の顔があった。

 じっと男性の顔をみれば、そこには喜びこそあれ負の感情は感じられない。

 さらに視線の高さと位置から考えると、私は何かに寝せられていると思われた。

 

(どうなったんだろう……)

 

 そこはあの暗い空間でなかった。

 ずいぶんと重たい眼を周囲に向ければ、どこにもタコのような邪神像は見当たらない。

 それどころか窓からは優しい日差しが差し込み、天井にもしっかりと照明が付いていた。

 

 ということはつまり……ここは普通の部屋!!

 

「おぎゃあ! おぎゃおぎゃおぎゃぁーーー!!!!(っしゃあ!! 逃げ切ったぞおおおお!!!)」

 

『おおっ、元気な泣き声だ!!』

 

 あまりの喜びに私は叫ぶ。

 おそらく今までの人生で一番叫んでいるのではなかろうか。

 それぐらい嬉しかったのだ。

 

『あなた……』

 

『よく頑張ったな! 聞いての通り元気な女の子だぞ!!』

 

「おっぎゃぁあああーーー!!!!(ひゃっほぉおおおおおー!!!!)」

 

 私は魚面どもから逃げ切った喜びに身を震わせる。

 そうしてそのまま叫び続け、5分ほど立ってからやっと落ち着いた。

 するとようやく、今の自分の体がおかしい事に気づいた。

 

「おぎゃ、おぎゃぎゃ?(あれ、なんか体が動かないよ?)」

 

 一体どういうことだろうか、しかしこの問題を解く鍵はすぐそこにあった。

 

 最初に聞いた『目を開けた』という言葉。

 初めて見る男の満面の笑顔。

 そして、どれだけ力をいれてもほとんど動かない体。

 

 これはもしかして……転生しちゃった!!?

 

『貴方、この子の名前を……』

 

『ああ、この子の名前はシズク。シズク=ムラサキだ!』

 

「お、おぎゃぎゃーーー!?(な、なんだってー!?)」

 

 こうして私は赤子として生を受けた。

 なんかどこかで聞いたことのあるキャラの名前で。

 私の頭の中は、しばらく嫌な予感でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 生まれてから数日が経過した。

 私はその間、必死に現状の把握に努めた。

 ロクに体は動かないが、それでも耳を澄まして話を聞くことぐらいはできる。

 

(会話が日本語で助かった……)

 

 どうやら今いる所の言葉は、ほとんど転生前の日本と同じようだ。

 おかげで生まれたばかりの私でも、会話の中身を理解することが出来た。

 

『ほーら、シズク。カワイイ人形でござるぞぉ~。』

 

「ばぶぶぶぶうー! (エロフィギュアじゃねーか!)」

 

 まず父親の名前はエドワード=ムラサキ。

 特徴的なのはモジャモジャ生えてる黒ひげ。

 黒髪の大柄な男性で、体は筋肉質でガッチリしてる。

 なんとなく海賊船の上とかが似合いそうなイメージだ。

 

 ただし、たまにオタグッズを眺めてデュフフフ、って笑ってるところは若干きもい。

 あと隠れオタなのか、フィギュアやDVDは飾らず、毎回タンスの奥に仕舞っている。

 

『はいシズクちゃん、おっぱいの時間よー。』

 

「ンあぁーーい(うまぁーーい)」

 

 次に母親の名前はグダコ=ムラサキ。

 オレンジの髪をサイドポニーにしている小柄な女性。

 美人だけど父親に比べると、かなり普通の人っぽい印象を受ける。

 だが父親は会話の中で『人類が絶滅しても一人だけ生き残る』等と言っていた。

 もしかして異能生存体かな?

 

 あと、こちらもかなりヲタク系の人のようだ。

 チラっと見えた衣装ケースには、パイロットスーツっぽいコスプレ衣装が吊られていた。

 あの中にはきっと、他にも色々なコスプレ衣装が入っているに違いない。

 

(辛いです、両親がヲタだから。特に昨日見ちゃったコスプレックスがきつい。)

 

 まぁ私を孕んでる間はずっと我慢してただろうから、しょうがない部分もあると思うが。

 それから他に分かったのは、ここがHUNTER×HUNTERの世界で確定ということ。

 数日前に見たTVニュースに、ネテロ会長が映ってたから間違いない。

 ちなみに今いるココは、ジャポンという日本風の国だ。

 

(よりにもってハンター世界。めちゃくちゃ物騒な世界だ。)

 

 ついでに今が1978年で、私の誕生日が1月1日だと言うことも分かった。

 TVが全部正月特集だったのだ。

 まぁ年度と歳の計算がしやすいので、これはこれで便利だ。

 

 幸いなことに、原作は大好きだったので良く覚えている。

 主人公のゴン君が受けたハンター試験が1999年の1月。

 

(てことは、つまり今は原作開始の21年前か。)

 

 現状の把握はほぼ終わった。

 両親は良い人そうなので、このまま大人しくしていれば安心だろう。

 だがまだ絶対に考えなければいけないことが、後一つだけ残っている。

 

(私って『原作のシズク』と同一人物なのかな?)

 

 シズク=ムラサキ。

 HUNTER×HUNTERで私が一番好きだったキャラだ。

 原作では幻影旅団に所属する大学生ぐらいの女性。

 黒髪、童顔、黒縁メガネ、そして大きなおっぱい。

 旅団での役割は主に後始末、それと解毒など搦手の無効化。

 さらにハンター世界のエロ担当でもあり、作中では下着姿での戦闘が描かれた。

 

(あの時はエロ下着じゃなくて残念だったなぁ。絶対に黒のTバックだと思ってたのに。)

 

 念の系統ははっきり断言されていないが、恐らく具現化系。

 念能力は、念と生物以外を無限に吸い込む不思議な掃除機、通称『デメちゃん』。

 かなりレアな能力らしく、死体等の後始末にとても便利。

 その上、念を纏ってない遠隔攻撃はほぼ全て無効に出来るつよつよ能力だ。

 さらに体術も優れているらしい。作中でもけっこうな強キャラである。

 つまりカワイイ、巨乳、才能◎、とかなりの逸材だ。

 

 ただし同時に『ヒソカにぶっ殺されそうな子ランキング』ぶっちぎりのトップだった。

 作中でヒソカはクラピカに団員の能力を2人分売った。

 その時に売られたのがウヴォーギンとシズクだ。

 さらにヒソカは団長について、『仕事が終わると姿を消して手がかりすらつかめない』

 という感じの発言もしている。

 

 このことから、ヒソカ的に証拠隠滅を完璧にしているシズクが邪魔だったのだろう。

 なのでさっさと排除しようとした事が伺える。

 

(ウヴォーギンとセットで売られるとか、殺意高すぎて草生える。)

 

 おかげで掲示板では次に出てくる時は首だけなんじゃね?

 などと書き込まれていたし、私自身もあるある~なんて思っていた。

 だってもう物語での役割終わってそうだったし。

 

(でも今の私がそのシズクなのかというと、たぶん違うんじゃないかな。)

 

 原作のヨークシン編で、旅団は一度壊滅したふりをした。

 その時に使われたのがコルトピという団員の能力だ。

 旅団員のコピーを作り、死体を偽装するという方法である。

 だがその死体のDNAからは、何も情報が出てこなかった。

 

 ハンターハンターの世界は人の管理が厳しい世界だ。

 たとえ捨て子だろうと国民番号がつき、生体データの登録が義務付けられる。

 つまり『原作シズク』のDNAは、最初から登録されていなかった訳で。

 これは流星街か、あるいは同じ様な環境の出身、ということを意味している。

 

(けど恐らく『今の私の』生体データは登録されると思う。)

 

 目を閉じ外に耳を傾ければ、車の排気音や子供の遊び声が聞こえてくる。

 つまりここはどこかの山奥という訳ではない。恐らくそこそこの街だろう。

 そんなとこに妊婦がいれば目立つし、出産すればもっと目立つ。

 

(私が泣き声上げてるから、生まれたことは確実に周囲に気づかれているだろうし。)

 

 それでも両親は慌てる様子はなく、普通に生活しているのだ。

 ならばこの後に国民番号はちゃんと発行され、DNAも登録されると考えるべきだろう。

 

(ということは、私はただの同姓同名ってことか。)

 

 このあと実は登録してませんでした~、なんて事にならなければ……。

 二人とも出かける気が全く無さそうなのは、きっと役所が正月休みだからだ。

 きっとそうに違いない。

 

(さて、では私が原作のシズクでないと結論を出した上で、今後どうするべきだろう?)

 

 私個人としてはせっかくだからこの世界を楽しみたい。

 ハンター世界はとても物騒だけど、その分だけワクワクする事が沢山ある。

 ハンター試験、オークション、飛行船、怪鳥、魔獣、暗黒大陸、5大厄災……

 出来れば全部体験してみたい。

 

(ふむ、とりあえず大雑把に予定を建ててみるか。)

 

 ここに生まれ変わる前、私は社会人として仕事をしていた。

 なのでしっかりと予定を立てて行動することが大事だと知っている。

 なぜなら時間は有限だからだ。

 

 目標を上げ、優先順位を設定し、過程を調べ、必要なものを用意する。

 さらに原作知識を利用すれば、将来への布石だって打てるだろう。

 そうして一つずつ積み上げていく。

 そうすれば原作開始時には、ハンターとしてある程度の地位を築けるかもしれない。

 

 ではまず何を目標にするか。

 

(ハンターハンターを読んでいて、これほしい! と思ったもの……)

 

 私は目をつぶって原作を思い出す。

 

 最初に思いついたのは『グリード・アイランド』というゲームソフトだ。

 念能力者専用ゲームで、中には『若返り薬』の夢のようなアイテムが沢山あった。

 おまけにクリアすれば持ち出して外でも使える素敵な仕様。

 ただしお値段58億ジェニー。しかも分割払いは不可。

 

 次に『ハンターライセンス』。

 一般人にも容赦なく不幸が降り注ぐハンター世界で、これほど頼りになる資格はない。

 特に表向きだけとは言え、同じハンターから狙われなくなるのは最高だ。

 ヒソカやイルミみたく殺しまくってもほぼ無罪なのも強い。

 いざとなれば売って金にできるのもグッド。

 

 そして最後に『念能力』

 ハンター世界にきて、これを覚えなくてどうするのか。

 自己防衛的な意味でも必須だろう。

 もし具現化系なら念空間とか作りたいなぁ。

 

(優先順位としては 念能力>ライセンス>グリード・アイランド かな。)

 

 原作のイベントについては、また後で改めて考えた方がいいだろう。

 自分の才能や素質が分からなければどうしようもない。

 とりあえずは上記3つを目標として、どこまでやれるか試してみるべきだ。

 

(たしかグリード・アイランドの発売年は1987年。ゴンキルの誕生年。)

 

 ってことは発売まであと9年。

 それまでに58億ジェニー貯めなければならない。

 それから出来れば発売前にハンターライセンスも取っておきたい。

 グリード・アイランドはハンター用ゲーム、しかも発売時には200倍の応募があったらしい。

 ならばライセンスが有った方が買える確率は上がるだろう。

 最悪、ゴンキルのようにバッテラさんのとこでプレイするという手もある。

 だがその場合はクリアアイテムが自分の物にならない。

 なので出来れば自力で買ってプレイしたい。

 

(とすると大まかな予定としては……)

 

 8歳でライセンス取得。

 9歳でグリード・アイランド購入。

 こんな感じがいいだろうか。

 

(ちょっと無茶なスケジュールだけど、念さえ覚えれば行けそうな気もする。)

 

 ほんとならハンター試験は9歳で受けたい。

 しかし落ちる場合を考慮すると、発売の1年前の年に受けた方がいいだろう。

 これなら失敗しても、もう一度チャンスがある。

 肉体の成長と時間を考慮すれば、これぐらいがギリギリのはずだ。

 ていうかこれ以上前は肉体的に厳しい。

 

 そしてこの2つの為に必要になってくるのが『念』だ。

 これをどれぐらい使えるかは何よりも重要。

 この世界での生きやすさが変わってくる。

 

(瞑想を始めてからオーラを感じるまでにかかる時間……

 原作だとズシ(10万人に一人の才能)が3ヶ月。

 キルゴン(1000万人に一人の才能)が1週間(ウィング予想)ぐらい。)

 

 つまりオーラを感じるまでにかかった時間で、自分の才能が分かるわけだ。

  

(うーん、私の才能はどれぐらいなんだろう? )

 

 さすがに主人公並の才能があるとは思えない。

 でも出来ればズシぐらい……いや100人に1人ぐらいの才能はあってほしい。

 

(まぁそれはいくら考えてもしょうがないか。とりあえずやってみよう。)

 

 まずはオーラを感じるところから。

 最新刊(36巻)でのクラピカの講習によれば、両手の結び方で訓練方法の傾向が分かるとのこと。

 

 さっそく私は両手に力を入れ体の前で組もうとする。

 しかし……

 

(両手を結ぶ所か、腕がほとんど動かないんですけど……)

 

 流石に生まれて数日では無理だった。

 しょうがないので、そのまま瞑想を始めた。

 




ようやくハンター世界にたどり着きました。長かった。
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