「なんか疲れたなぁ」
私は酒盛りを続ける両親を放置し、自分の部屋に戻った。
これから始まるだろうコスプレックスを見たくなかった為だ。30過ぎで学生服はちょっとどうかと思う。でも普通に似合ってるんだよなぁ……。
部屋に入るとドアを締め、中央に置かれたテーブルの前に移動。
持ってきた透明なコップと、水の入ったペットボトルをテーブルの上へ置く。
それからお気に入りの金魚型クッションを敷き、その上に座った。
ちなみに私の部屋は2階の突き当りにあり、広さは大体6畳ほどだ。
「まさか自分が原作のシズク本人だったなんて……。」
出来ればもう少し早く知りたかった。
今まで別人だと思ってただけに余計びっくりだ。だが私は幻影旅団なんて入る気がないので、これで原作が崩壊するのは確定した。
なのでもう原作はぶっ壊してOK、と思えば悪いことばかりでもない。
「よしっ、じゃあ気を取り直して水見式だ!」
水見式、それは自分の念の系統を判別する大事な儀式。
実はこれが私にとって初めての水見式だったりする。
というのも念を覚えて最初の頃になんとなく、【練】を30分持続出来たらやろう! と決めたのだ。
「ところが持続時間は全然伸びなかったんだよね。」
別に決めた事を破ってチャレンジしても誰にも文句は言われない。
だが念は心と思いがとても重要なもの。ならば最初に決めたことは出来る限り守ったほうが良いと思ったのだ。
それから3歳で10分を越え、5歳でぎりぎり20分。
そして3日前、ようやく30分を越えたのである。なのでどうせなら6歳の誕生日にやることにした。
「まっ、それにどうせここじゃ系統別修行はし辛いからね。」
強化系は石割り、放出系はオーラ飛ばし。
どちらも家の中ではちょっと無理がある。だから代わりに基本と応用技を飽きるほどやった。
「それに今日は両親もお酒で酔ってる。」
原作の某王子みたいに、水が腐ってバレたら確実に追及される。
だが今なら何が起こっても大丈夫だ。
私はペットボトルを開け、中の水をコップに注ぐ。
水が縁ぎりぎりになるまで入れ、その上に葉っぱを浮かべる。
それからコップに両手を添えた。
(原作のシズクはたぶん具現化系。でも『この私』はどうなんだろう?)
やばい、ドキドキしてきた。
具現化系なら念空間を作れる。強化系ならすごい筋肉。
放出系なら瞬間移動で、操作系なら物に乗って空を飛ぶ。
どれになっても楽しいだろう。
ただし変化系、お前だけはNGだ。
だって強い能力の修行が辛そうすぎる。
拷問みたいな電気を何年も浴び続けるとか、どう考えても途中で死ぬ。
「ふぅー……」
私は深呼吸を一度する。
それからコップを包み込むように、一気に【練】を行った。
すると……
「はっ? なにこれ??」
水の中に
更に少しずつ
「これって具現化系? 操作系? いや、強化系の可能性も?」
水に不純物が現れるのは具現化系。
浮かべた葉っぱが動くのは操作系。
そして水の量が変わるのは強化系だ。
どういうことだろう? まさか3系統?
「実は私は最強系オリ主だった??」
私は一旦【練】を止め、コップの中の水を観察する。
見た目は特に変化も見られない透明の水。
試しに指を突っ込んで水を掬い、舌でペロッと舐めてみるも、特に味は変わっていない。
「うーん、水の色と味は変わってないから、放出系と変化系じゃないことは確定。」
しかしまさか複数の変化が同時に起こるとは。
ていうか水も動いてたし、これはもしかして特質系も?
「もう一度やってみるか。でも透明だと水の動きが分かりづらい……あっそうだ!」
私はジョ○ョ4部のジョ○フじいさんを思い出した。
すぐに部屋に置いてあったカッターナイフで指先を切る。そして血をコップの中にポチャポチャと垂らす。例の赤ん坊を助ける時にやったやつである。
「これでよしと。」
透明な水に混ざった血は、水の動きを分かりやすくしてくれる事だろう。
私は再びコップに両手を添え【練】を行う。今度は変化をもっとはっきりさせる為、さっきより強くだ。
「どうかなー?」
すると、コップの中に先程より大きな黒い塊が出現した。
さらに水の動きをよく見ると、なんと水はその黒い塊に
つまり水の減少と葉っぱの動きは練と関係無い。副次的なものだったということだ。
「これはもしかして特質系なのでは……?」
まさかの展開に口元がニヤける。
特質系は5系統で説明出来ない能力の系統。
原作では能力を盗む、記憶を読む、未来を予知する、等と強力な能力ばかりだ。
「私の時代キタ―?」
テンションが上った私は、さらに力を入れてオーラを増やす。
すると黒い塊はペットボトルの蓋程度まで大きくなり……
――その中から、
「……えっ?」
急な出来事に思わず思考が停止する。
私は視線をソレから離せなかった。そう、その天井に向かって伸びた指先のような物には覚えがあった。
鉤のように伸びた爪……指先全体を覆う魚のような細かい鱗……
――それはここに生まれ変わる前に見た、
「ほぎゃああああああああああああああああああ!!!!!」
私は叫び声を上げ即座にテーブルから遠ざかろうとする。
しかしその試みは失敗に終わった。
「な、なんで!?」
左手とコップが
手は未知の力により添えられた状態で固定されていた。コップの方も空間が固まったかのようにびくともしない。おまけに【練】も解除できずオーラが恐ろしい勢いで減っていく。
(やばい! よく分からないけど、このままだと非常にまずい気がする!!)
私が焦っている間にも、黒い塊からは徐々に指が伸びてくる。
……第1関節が見える。
やはり見間違いじゃなかった。指には緑色の小さい鱗がびっしりと生えている。
……第2関節が見えた。
よくみれば指は血に濡れていた。恐らくアレは私の血だ。なんということだ。それはあの化け物共に私の血が渡ってしまったということ。
……そして第3関節。
指の付け根に行き着いたのか、それ以上は伸びてこない。代わりに周囲を探るように指が動き出した。
その動きは女の子の大事な場所の中をカリカリと愛撫するかのよう。血に濡れていることと相まり、まるで私の処女が破られたようでとても気持ち悪い。
(きもい! きもい! きもーーい!! ……ふぅ。)
しかしその気持ち悪い動きのおかげで、私は冷静さを取り戻した(SAN値チェック成功)。
すぐに体の動きを確かめると、左手以外は自由になることが分かった。私は右手を伸ばし、ギリギリ拾える範囲にあった国語辞典をガッシリと掴む。
あとは落ち着いてタイミングを図る……
ステンバーイ……
指がぐるぐると回る。女の子のエッチな入り口を広げるかのように。
ステンバーイ……
指がクイクイと伸縮する。まるでどこかの中を優しく刺激するかのように。
ステンバーイ……
指がヴヴヴヴヴと小刻みに震えだす。いったい何がやりたいのか。
ステンバーイ……
そうしてチャンスを伺っていると、指の動きが小さくなった。
そしてその後に、ゆっくりと指が引かれ……
「――いまだぁっ!!!」
指の第一関節が黒い塊に引っ込んだ瞬間、全力の力を込めて国語辞典を振り下ろす。
――グシャァ!!!
部屋の中にハンマーで肉を叩いたような音が響いた。
『ギョギョーー!!!?』
更に一瞬遅れて気持ち悪い悲鳴。
(どうだ?)
残りのオーラの全てを【周】でまとわせた攻撃だ。
国語辞典は指を穴の中へと押し返した。
さらにコップも粉砕し、おまけにテーブルまでも叩き割った。
私は動かせるようになった左手をコップの残骸から離す。
そのままじっと見ていると、コップの中に出現していた黒い塊が消えた。
(助かったか?)
部屋に静寂が戻り、全てを汚染するかのようだった気配が霧散する。
しばらくそのまま観察を続けるも、特に変わったことは起こらなかった。
コップが割れたことで、中の水は床にぶちまけられている。
しかしその水はボコボコ沸騰したりしていない。もちろん黒くなって中から触手が生えてきたりもしなかった。
「ふぅーー……」
私はいつの間にか止めていた息を吐き出した。
次に動くようになった左手をグーパーして問題ない事を確かめる。それからようやく全身の力を抜いた。
「…………」
アレは一体何だったのか。
何年も修行を続け、ようやく行えた水見式。結果によって念能力の方向性が決まる、とても大事な儀式だった。
「はは、その結果がこのざまとか。ワロス、ワロス……」
まったく全然笑えない。
唯一分かったことは、私が特質系であろうという事ぐらい。ただし能力は危険すぎて、このままだととても使う気になれない。……ちくしょう。
「せっかくのハンター世界なのに。【発】禁止とかベリーハードすぎるよぉ」
【発】は念の集大成、いわば個人の必殺技だ。
本来はある程度自由に作ることができる。しかし特質系だけは違う。勝手に能力が発現するのだ。つまりさっきのが私の必殺技ということ。
「どう考えてもお先真っ暗だよ……」
いちおう別の系統能力なら作れはする。だがやはりメイン系統が使えないのは痛い。
しかもこのまま放置するのもまずい気がする。だって向こうに私の血が渡っちゃってるし。これから私の周りに何が起こるか分かったものではない。
なのでなんとか制御する方法を模索する必要があるだろう。制約と誓約で上手いこと縛れればいいのだが。
「こんな事になるなら普通に具現化系がよかったなぁ。」
特質系か? と思った瞬間に興奮してしまった自分が恥ずかしい。
だがまぁそれは一旦おいておこう。錬が解除できなかったせいで、もうオーラがほとんど残っていない。ついでに体力のほうも限界だ。
「コップの破片は明日。水の処理は……もう適当でいいや。」
ティッシュ箱から中身を丸ごと取り出し、床の水へ被せるように放り投げる。
水を吸収したティッシュはビチャビチャになり見た目も汚い。だがもう片付ける気力は残っていない、なので今は勘弁してほしい。
「……疲れた。」
壁に掛かった時計を見れば、水見式を始めてからは数分しか経っていなかった。
なのに非常に疲れた。夕食の時に両親が言ってたことが頭から吹き飛ぶぐらいに。
「今日はもう寝よう。」
私はそのままフラフラとベッドへ潜り込み、毛布をかぶって眠りについた。
主人公「なぁにこれぇ!?」
魚面「逃さん、お前だけは絶対に。」
コップ&テーブル「解せぬ」