シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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第07話 そして幼女は解き放たれた

 ――翌日。

 

 カーテンの隙間から差し込む暖かな日差しで目を覚ます。

 

「ふぁ~~~。」

 

 腕を伸ばしながら欠伸を一つ。次に布団から出てそのまま部屋の中央へ目を向ける。

 そこには飛び散ったコップの破片と、ビチャビチャのティッシュだけが残っていた。まるで変態プレイのあと、片付けせずに寝たカップルの部屋みたいだ。おまけにティッシュには、誰かが踏んだ様な後が残っている。

 

(寝る前に気づかず踏んじゃってたか。後で片付けなきゃ。)

 

 昨日のことは出来れば夢であってほしかった。せっかくの特質系なのに、能力が魚面召喚なんて最悪だ。

 しかしもはや取り消すことはできない。とするとどうにかして実用出来るようにしなくては。

 

「お腹すいたな。」

 

 キュルルルと可愛らしくお腹が鳴った。

 壁に掛かった時計を見れば時刻はもう正午過ぎ。どうやら今日はお母さんが起こしてくれなかったようだ。

 

「いやでも、この部屋を見られたらまずいか。」

 

 両親も昨日は二人で盛り上がった(意味深い)だろう。

 ならここは部屋の惨状を見られなかったのを良しとすべきだ。今が寝起きというのも有るが、ちょっと言い訳が思いつかない。

 

「まずはご飯食べよ。」

 

 片付けは腹ごしらえの後で。下に行けばきっとお母さんがお昼を用意してくれているはず。

 私はもたもたとした動作で部屋を出る。それから廊下を進んで階段を降り、1階のキッチンへ。

 

「あれぇー?」

 

 たどり着いたら引き戸を開け掛かっていた暖簾をくぐって中に入る。

 しかしその先のテーブルの上には何も無かった。おかしい、いつもなら出かけるときだって、ちゃんとご飯は用意してくれていたのに。

 

「お母さーん?」

 

 私はお母さんへ呼びかける、だがどこからも返事は無かった。

 

「もしかしてまだ寝てるのかな?」

 

 ……ありえる。きっと昨日のプレイが激しすぎたのだろう。

 

「全くしょうがないにゃぁ。」

 

 私はキッチンを出てると、廊下を歩いて両親の寝室へ向かう。

 【絶】を使って気配を消し、音を立てないように気を払う。ダンジョンに入り込んだ斥候のような静かな移動。両親が今も雌しべと雄しべしている可能性を考え、邪魔になるのを避ける為だ。

 

「あれ?」

 

 しかし予想に反して、こっそり覗いた寝室には誰も居なかった。

 不思議に思った私は【円】(もどき)を展開して家の中を探しだす。修行不足で1メートルちょいしか広げられないが使わないよりはマシだろう。

 

 最初に向かったのは玄関だ。

 靴箱を開けて中を確認すると、そこには両親の靴が残っていた。

 

「ということは、これで家にいることは確定と。」

 

 別の部屋を探しに行く。

 

 一応、もう一度キッチンを見てみる。

 冷蔵庫を開けて中を見れば、不思議なことに中には何も入っていなかった。流しの方も、まるで今日は使っていないかのようにキレイに片付いている。

 

「んんん?」

 

 それからダイニング。

 こちらにも両親は居なかった。テーブルの上も綺麗に片付いており、昨日のパーティなんて無かったかのよう。

 

「……」

 

 お風呂、トイレ、物置部屋。

 居ない。居ない。居ない。隠れられそうな棚やタンスの中まで探したが、どこにも両親の姿は見当たらない。

 

「………」

 

 そして最後に庭。

 小さいながらも綺麗に花が並べられたそこにも両親はいなかった。

 

「…………」

 

 それから1時間、家の中を駆け回り、屋根裏へと上り、隠れられそうな場所を探し尽くして。

 しかしどれだけ探しても両親は見つからなかった。

 

「…………」

 

 私はリビングで立ち尽くす。

 すると脳裏に一つの疑問が浮かんできた。

 

「…………」

 

 昨日の夜、あの時に私はコップ毎テーブルを叩き壊して()()()()()()()()

 ならたとえ酔っていたとしても、両親が見に来ないはずがないのではないか?

 

「…………」

 

 どうして気づかなったのだろう。

 あのティッシュに付いた足跡、あれは一体誰のものだろう?

 

 もしあれが両親のものだとすれば、いったいどこに行ったのか。

 もしかしてあの時の水と黒い塊はまだ……、そして両親が代わりに……

 

 ――ぎょっぎょっぎょっぎょ

 

 私の頭を最悪の想像がよぎる。

 どこからからともなく、不気味な笑い声が聞こえた気がした。

 

「ははは、そんな……嘘だ」

 

 一人ぼっちの家の中に、乾いた笑いが響く。

 体から力が抜け、そのまま両膝が崩れる。私は重力に抵抗せず、無様に床に座りこんだ。

 

 ――この日、私の前から優しかった両親が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シズクちゃんヘ。

 

 これを読んでいるということは、きっと私達は貴方の前から消えているでしょう。

 でもこれはしょうがないこと。

 

 だって私達の本業は海賊(ガチ)。

 これから行く暗黒大陸一周の旅(アイもパプもいるよ!)に貴方は連れていけません。

 

 本来は流星街の知り合いのクロロ君に預ける予定でしたが、

 まぁ貴方はその年でミドルスクールの勉強まで終わらせちゃうほどだし?

 一人でも十分生きていけるわよね? ってことで置いていきます。

 

 枕の中に生活費(100万ジェニー)とキキョウの名刺を入れてあります。

 あとは好きに生きなさい。

 

 PS.その家は日付が変わると自動で燃えて消滅します。

    巻き込まれて死なないように気をつけなさい。ではでは。

 

 シズクの大好きなお父さんとお母さんより。』

 

 

 

 あれから戻って部屋を片付けていると、枕の下から手紙が出てきた。

 書かれていたのは上記の通りである。

 

「って、ただ出かけただけじゃねーか!! まぎらわしぃいいいいい!!!」

 

 私はプルプル震えながらその場で叫んだ。

 そうにしても本当に紛らわしい。いやこの場合は私のタイミングが悪かったと言うべきか。

 

「ちくしょう。私のせいで生贄にされちゃった!? とか考えた私の心配を返せ!!」

 

 水見式が1日でもずれていれば、これほど驚くことはなかったのに。

 ただ両親の失踪と、魚面たちが無関係だと分かったのは安心した。もし犠牲になってたら、いつか逆に乗り込んで皆殺しにしてやるところだ。

 

「てか海賊ってマジだったんだ。」

 

 あとこの手紙、余りにも新情報が多すぎ。私の頭が理解を拒んで破裂しそう。

 個人的には今の時代の船なんて、潜水艦から魚雷一発で終わりじゃね? と思うんだが、どうなんだろうか。

 いや暗黒大陸って書いてるし、もしかしたら人類領域外の島を拠点にしてるのかも。

 

「どっちにしろ碌なもんじゃ無さそう。」

 

 それから一番気になっている、預ける予定だった知り合いの所だけど……

 

「よかった。天才キャラを選んで本当によかった。危うく旅団ルートになるとこだった。」

 

 このクロロというのは、恐らく幻影旅団の団長さんのことだろう。

 原作だと26歳だったから、今の年齢は今年で11歳のはずだ。

 

「旅団は結成してないだろうけど、出来ればまだ(・・)関わりたくないからね。」

 

 それでなくても、流星街になんて行きたくない。

 あそこは何百年にも渡ってゴミが捨てられ続けている、いわば最果てのゴミ山。生粋の住人ですら防護服が必要で、着ないと生活できないようなやばい場所だ。

 前世の記憶がある私としては、絶対に御免被りたい。やはり人間は清潔な生活が一番だと思う。

 

「あと書いてることが本当なら、家に残ってるのは要らない物ってことか。」

 

 普段遣いの靴やフィギュアが残ってたのは、家ごと燃やして隠滅するためだろう。

 逆に冷蔵庫の中身が無くなってたのは、燃えなかったら困るから事前に捨てたのだ。

 

 あと私の部屋の惨状も、どうせ燃えるから別にいいんじゃね? ってノリだったに違いない。

 とすると恐らく、本当に必要なものは全部持ち出されているはず。

 

「私もさっさと荷造りして、早く家を出ないとなぁ。一緒に燃えたくないし。」

 

 もし私が普通の6歳児だったら、きっと家が燃え出すまで泣いてた事だろう。

 急に両親がいなくなったのだから当たり前だ。

 

 だが残念ながら私は転生者である。

 この程度で泣くような情緒はとっくに卒業してしまっている。

 

 それにこのまま家が燃えるまで居ると、絶対に碌な事にならない。

 通報→保護→国民番号参照→未登録バレ のコンボで良くて孤児院行き。そこからはどういう生活になるか分からない。 だがこの100万ジェニーは間違いなく取り上げられてしまうだろう。

 

「ていうかこの世界の孤児院って、やばい所が多そうだし。」

 

 幸いなことに私は念が使えるし、しばらく暮らすだけの軍資金も有る。

 なら見ず知らずの他人の世話になるより、一人で生きた方がマシだろう。天空闘技場に行けば、金なんて幾らでも稼げるはずだ。

 

「本来なら8歳でハンター試験を受けてから行く予定だったんだけどなぁ。」

 

 だがこうなったらしょうがない。ちょっと早いがまぁなんとかなるだろう。

 ただし私は身分証がないので、ビザも飛行船のチケットも取れない。

 

「とすると移動手段は金を握らせての密航か……久しぶりだな。」

 

 予定を固めた私は両親の部屋に行き、残ってる中で一番大きなバッグを確保。

 そしてその中に必要だと思った物を詰め込んだ。数日分の着替えに、本、水筒、地図。あとは軽くて金になりそうな物。

 

「よし、こんなものかな。」

 

 準備が終わった私は玄関で靴を履き、そのままドアを開けて家を出る。

 もう帰ってくることは無いだろう。ていうか燃えるから二度とこの家を見ることはない。しかし6年も過ごしたのだ、ならばやはり締めはこの言葉がふさわしいと思う。

 

「行ってきます。」

 

 私はそのまま道に出るとタクシーを拾う。

 そして行き先を告げると、一度も振り返らず街を去った。

 




ついに幼女が解き放たれた。
ここまでオープニングでした。
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