シズク=ムラサキは愉悦したい   作:さろんぱす。

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闘技場編
第08話 罠と闘技場と消える音


「お願いしますレロレロ……何でもするからペロペロ……助けてレロレロレロレロ……」

 

「うわっ、はずかしい~~。そんな必死になって、お兄さんプライドとか無いの?」

 

 薄暗い路地の奥で、大人の男が私の靴を舐めている。

 

 ペロペロペロペロレロレロレロレロ……

 

 男は必死になって舌を動かす。その顔は恐怖で真っ青になっていた。

 まぁ当然だろう。金目当てに私を襲ったのが10人。

 その内、彼以外の9人は大事な玉を潰され、泡を吹いて気絶してしまったのだから。

 

(念能力ってすごい! でも出来れば靴は舐めないでほしかった……)

 

 もちろんこんな事をしているのには理由がある。

 私はあの後、天空闘技場行きの飛行船に乗った。当たり前だが身分証が無いので正規チケットも入国ビザも取れない。

 なので飛行船の係員に金を握らせての密航である。

 

 幸いにして、ジャポンから天空闘技場まではそれほど遠くない。

 時間的には3日、距離はおおよそジャポン1つ分。地球なら沖縄の南の端から、北海道の北の端までぐらいの距離だ。

 

 ただ荷物扱いだったので、飛行船の中はきつかった。

 まぁトイレなんかは勝手に使わせてもらったが。【絶】を使えば気配を薄めることが出来るので、こういう時にはとても便利である。

 

 そうして私は天空闘技場へたどり着いた。

 しかし残念ながら、子供の私ではホテルで部屋が取れなかったのだ。

 

 なので優しい協力者を探すため、こうして路地裏に入ったという訳である。もちろん両手で大事そうに()()()()()()()

 

(フフフ、思った以上に簡単に釣れたね!)

 

 天空闘技場は格闘好きのメッカ。

 原作によればここを訪れる人はなんと一日約4000人だ。しかしそのうちの半分は初戦で負けてしまうわけで。

 

 じゃあ負けた人がみんな大人しく帰るか? というと、もちろんそんな訳がない。

 大抵はいままで暴力でブイブイ言わせていただろう人たちだ。納得出来ずに路上でストリートファイトしたり、宿を借りて改めて鍛え直したり。

 そして中にはこうして裏路地でチンピラ化する馬鹿もいるはず、と考えた訳である。

 

 あとは適当に念を使い、無双した結果が今の現状だ。

 私は靴を舐めていた男の頭を掴み、目を合わせながら要望を告げる。

 

「許して欲しかったら、駅前にある○○ホテルで部屋を取ってきて。

 とりあえず10泊分、もちろん料金は前払いで。

 で、それが終わったら闘技場の受付列に並んでて。」

 

「は、はい。分かりました。」

 

 自分でも割と無茶いってるなー、と思うが男は一切反論せずに頷いた。

 逆らったらタマタマがパキパキしちゃからね、しょうがないね。

 

「分かってると思うけど逃げても無駄だよ? 貴方の個人情報は全部バレてるから。」

 

 手に入れたばかりの携帯を手の中でクルクル回す。

 これは周りで倒れてる人が、サイフの中身と共に善意で譲ってくれた物だ。もちろんすぐに付属のカメラで全員を撮影した。個人情報が乗ってるカードと一緒に。

 

「ご飯食べ終わったら貴方の携帯に掛けるから。」

 

 ここに来る前に闘技場の受付を軽く見てきたが、流石に長蛇の列が出来ていた。

 なのでゆっくりとご飯食べて、3時間したら受付に行くぐらいがちょうどいいだろう。その後は闘技場で戦い、今日の試合が終わったらホテルへ行く。そうすれば()()()()()この男は晴れて解放だ。

 

「じゃあよろしくね。えーと、シンジ=マートゥさん?」

 

 そう言いながら【凝】でオーラを右足に集め、男の側を踏みつける。

 

 ――ドゴン、という音と共に地面が陥没し、薄っすらとヒビが広がった。

 

 すると目の前のワカメの様な髪型をしたお兄さん――シンジは、ガクガク震えながら無言で顔を縦に振った。

 

 その様子に満足した私は路地裏を後にする。

 飛行船の中での食事はずっとカロリーバーだけだったのだ。さて、時間まで美味しいものを食べるとしよう。 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 ――路地裏から出て()時間後。

 

「天空闘技場へようこそ!」

 

 泣きそうな顔で並んでいたシンジと入れ替わり、私は闘技場の受付に付いた。

 

(流石にこの年だと何か言われるかな?)

 

 私は身構えていたが、しかし受付のお姉さんからは特に何のリアクションもない。

 そういえばキルアも6歳で登録してたし、恐らくはこの程度の事は慣れているのだろう。

 

(流石は毎日4000人も来る場所の受付嬢ってとこか。)

 

「こちらに必要事項をお書き下さい。」

 

 こういう人ばかりなら世の中ももっとシンプルで分かりやすくなりそうなのに。

 そんな事を思いつつ、私は素直にお姉さんから書類を受け取る。

 

(どれどれ……)

 

 手渡されたのは半紙1枚程度の書類。

 軽く中身をチェックすると、ほぼ原作通りだった。なのでササッと記入を済ませる。書く内容は待ってる間に考えたので問題ない。

 

 名前:シズク

 年齢:6

 出身地:ジャポン

 格闘技経験:(気持ち)20年ぐらい

 その他:お金大好き

 

(最初は将来楽しく遊ぶために別の名前にしてみよう、なんて思ったけどね。)

 

 私が未来を知っていることを仄めかしつつ、ギリギリ言い逃れできるような名前だ。

 たとえば思いついたのはこんなの。

 

 『クラピカ=クルタ族』

 『ヒソカ=偽装4番』

 『ギタラクル=イルミお兄ちゃん』

 『クロロ=ルシルフル(幻影旅団団長)』

 

 当たり前だが、どれも ドッキリでした!(テヘッ なんて冗談は通じそうにない。

 知ればみんな間違いなくブチギレて殺しにくるだろう。なので却下である。

 

 結局は私以外にトリッパーがいる可能性を考え、名字無しに『シズク』のみで登録した。

 

「書き終わりました。」

 

 書いた紙を返す。するとお姉さんはテキパキと処理を進める。

 そうして登録が終わば、1階の会場へ移動して順番を待つ。

 

『1919番、0721番の方、Eのリングへどうぞ。』

 

 そこでしばらく待っていると、10分ほどして自分の番号が呼ばれた。

 座り込んでいる多数のチンピラ共の間を抜けてリングへ向かう。

 

「おい、ガキだぜw」

「ひゃっはっは、お母さんのおっぱいはココにはないでしゅよ~ww」

「代わりにお父さんのミルクは選り取り見取りだけどなっ!www」

 

(うぜぇ……)

 

 とたんに飛んでくるシモネタ満載のヤジ。

 子供だからと舐めた視線も含めてうっとおしい。

 

 だがまぁ気持ちは分からんでもない。

 私も彼らの立場なら盛大にヤジを飛ばしただろう。ここはそういう場所なのだ。娯楽としては最高。もし地球にあったら間違いなくビール片手に通ってた。

 

『試合時間は3分。では、はじめ!!』

 

 リングに上がると、審判がスタートの合図を告げる。

 私の相手はプロレスラーのような大男。

 

「ふひひひひ、お兄さんが優しく倒してあげるからねぇ」

 

 相手はそう言うと、舐めるような視線で私を見ながら両手をモギモギ。

 更に口元を緩め、ニヤニヤしながら近寄ってくる。

 

「……おまわりさん、こいつです。」

 

「残念、ココにおまわりさんはいないよぉ。……いるのは紳士だけさ。」

 

「審判さん、こんな事言ってますけど?」

 

「うーん、ダウト。」

 

 幼女相手にこの態度。間違いない、この相手はロリコン!! 

 最初は様子を見ようと思っていたが、これはそんなことしてる場合じゃない。ていうか視線がキモすぎて限界だ。審判さんもドン引きだぞ。

 

「よっと。」

 

 とっとと終わらせることにした私は、オーラを足に集めて一瞬で距離を詰める。

 そして挨拶代わりに、相手の股間を右足で思い切り蹴り上げた。

 

 ――パキンッ!!

 

「くあzfjk!!?」

 

 念に目覚められると面倒なので【練】は使わなかったが、それでもオーラで加速させた一撃だ。股間の玉はあっさりと割れ、相手は白目を剥いてリングに沈んだ。

 

「――ふっ、他愛なし。」

 

『…………』

 

 私は観客席をぐるっと見渡す。

 すると試合を見ていた男達が、一斉に自分の股間を手で隠した。

 騒がしかった闘技場から、一瞬だけ音が消えた。

 

「……1919番、キミは50階へ行きなさい。」

 

「はーい!」

 

 審判が引きつった顔で私の勝ちを宣言した。

 私はリングを降り、来たときと同じようにチンピラ共の間を抜けて移動する。

 不思議な事に、私にヤジを飛ばすものは一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「でシンジ、ホテルは?」

 

 ビクビクしながらやってきたシンジに、首尾を問いながら移動する。

 1階の奥でファイトマネーを受け取り、すぐ横の自販機でジュースを購入。 

 ドロり濃厚オレンジ……やたらと喉に絡みついてきて飲みづらい。

 

(これなら隣のマろ茶にしておいが方がよかったかな。)

 

 それでも勿体ないので全部飲んでしまう。

 元日本人の性だろうか? まぁ味自体は結構いけるから良いが。

 

「あの、俺って一応年上なんだけど……」

 

「だから? で、ホテルは??」

 

 シンジの懇願を無視して同じ問を繰り返す。

 えっ、年上だから敬称をつけろ? ハハハハ、冗談を。集団で幼女を襲った犯罪者なんて呼び捨てで十分だ。むしろゴミ扱いせず名前で呼んでるだけ慈悲深いだろう。

 

「……取ってきました。」

 

「OK、よくやった。」

 

 シンジがそう言いながら、おずおずと差し出したホテルの鍵を受け取る。

 指定したのは1泊3万ジェニーもする、そこそこ良いホテル。

 

「あっ、じゃあ僕はもうこのへんで……ここまでやったんだから助けてくれますよね?」

 

「うん、もう行っていいよ。お疲れー」

 

 私はワカメをリリースする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもまた用事が出来たら携帯で呼び出すから。すぐ出るようにね。」

 

「えっ……」

 

 訳もなく、顔を青くして固まったシンジを置いてエレベーターに乗った。

 

 やはり物事は大人が居たほうがスムーズに進む。

 それが今日一日でよく理解できた。ならばこの男は手放さないほうがいいだろう。こうして会ったのも何かの縁だし? ギリギリまで使い倒すことにする。

 

『50階でございまーす。』

 

「あっ、降りまーす。」

 

 この後は50階で同じように勝って、それからホテルへ直行。

 鍵とシンジの国民カードを係員さんに提示し、幼女スマイルで部屋を変えてもらった。

 

(あの様子なら部屋に仕掛けはしてないと思うけど、それでも用心は必要だからね。)

 

 それから部屋に入った私は、すぐにシャワーを浴びて横になった。

 3日振りのベッドはとってもフカフカで最高で、すぐに夢の世界へ旅立った。

 




Q.どうして解き放ってしまったんですか?
両親(家にいる時はいい子だったのに……)

・シンジ=マートゥ(一般人)
イメージは運命に出てくるワカメ。海産物繋がり。
たぶんこれからもっと不幸(無茶振り)が降ってくる。
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