※1話のバトルオリンピアで優勝伝々を9歳から8歳に変更しました。
「お兄さんどこ狙ってるの? そんなんじゃ当たらないよ??」
「てめえええええええ!!!」
相手が繰り出した右手の振り下ろし、それを外側にすり抜けるように躱す。
そうして相手の後ろを取ると、私はその場でくるっと一回転。
振り返った相手にニッコリと笑いながら、立てた右手の人差指をクイクイと動かして挑発。
すると相手は顔を真っ赤に染め、私に向かって突撃して来た。
1階で戦ってから更に4日が経過した。
現在の私は100階行きをかけて戦闘中。
念を使える私にとって、これまでの相手は雑魚でしかなかった。
その点は今回の相手も同じだ。だがすぐ倒しては訓練にならない。
「ざ~こ♪ ざ~こ♪ ほらほら、ココでしゅよー?」
「ああああああああ!!!」
『おおーと、シズク選手、避ける避ける避ける! 見事な回避です!!』
特質系の私は強化系がとても苦手だ。
そのため素手での殴り合いは向いていない。
その為『避ける』技術を重点的に身につけることにした。
なので開始10分間は攻撃しない。
ほどほどに念を使い、眼と足にオーラを集めて避け続ける。
そして……
「はい、10分経過と。――ていっ!」
「はうわっ!!」
『出たぁー! シズク選手の伝家の宝刀、玉砕きだぁー!!!』
時間が過ぎれば、1階の時のようにタマタマへ一発入れて勝負を決める。
補足しておくが、別に私はタマを割るのが好きという訳ではない。
だが今の私の体はピチピチの幼女。肉体能力が全く足りていないのだ。
なので有効打を入れようとすれば、必然として攻撃は急所を狙うことになる。
そして体格差でちょうど良い位置に有るのが、相手の股間という訳だ。
(だから狙うのはしょうがないよね! それに弱点突くのは戦いの基本だし)
基本的に【纏】で殴っても精孔が開くことはない。
ズシがキルア戦で【纏】のまま戦っていたように。
【練】で殴られなければ念に目覚めることはないので大丈夫だ。
まぁもしかしたら精孔が開いちゃうかもしれないが、この階程度の人に【纏】が出来るとは思えない。きっと運営が不幸な事故として処理してくれるだろう。
『決まったぁ―! シズク選手、ついに100階へ到達です!!』
そうして私は勝ち続けた。
中には両手で股間を押さえながら戦った人もいた。だがその場合は【硬】で遠慮なく手ごと股間を粉砕した。
(うわぁ、破壊力やばい!!)
原作ではビスケがゆっくり小突いただけで、ゴンを何メートルも吹き飛ばしただけある。
えっ、流石にそれは酷いって? だって前フリだと思ったから。
熱湯風呂の縁に立って、押すなよ? 押すなよ? という言うやつだ。
(そこまでやられたら、こちらも割らぬのは無作法というもの……)
まぁそんな勝ち方をしていたせいか、私はいつの間にか周りから『玉砕姫』なんて呼ばれるようになっていた(シンジ調べ)。……最初に言い出したやつは絶対に許さない。
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90階で勝った翌日。
私はまだ最初に泊まったホテルの部屋に居た。
天空闘技場は100階に到達すると、場内に個室を用意してもらえる。
しかしかなり狭かったので、このホテルに居座ることにしたのだ。
もちろん宿泊費はシンジ持ちである。
「で、それ本当なのシンジ?」
「ほ、ほんとうだって!」
目の前には何時ものように呼び出したシンジ。
私はちゃんとお茶を出して上げたが、なぜか全く手を付けようとしない。
しかもたまに別のテーブルの方を見てガクガク震えてるし。
まさか毒でも入ってると思ってるんだろうか?
ゾルディック家じゃあるまいし、そんな事をするはずがないのに。
それとも出したマロ茶が嫌いだったのか。
「もうちょっと詳しく説明してくれる?」
さて、私がココにきた目的は『修行』と『お金稼ぎ』。
修行は上記の通りに順調だが、問題はお金のほうである。なんせグリード・アイランドの発売まであと3年しかない。それまでに58億が必要なのだ。計画を立ててしっかりと稼ぐ必要があるだろう。
なので100階以降のファイトマネーをシンジに調べさせたのだが……
「だから2回目以降のファイトマネーは1/10以下になるらしいんだよ!」
「な、なんだってー!?」
その結果がこれである。
どういうことなの? 原作でそういう描写全くなかったんですけど? ていうか家にいた時に電脳ネットで調べても、そんなの載ってなかったよ??
「……具体的には?」
これは死活問題だ、出来る限り詳しく知る必要がある。
「つまり初回のファイトマネーは
例えば初めて150階に昇って勝った時は1000万。
でもその後に160階で負けて、落ちた150階で再び勝った場合は違う。
せいぜい100万もらえればいい方だって事。」
まじかよ。それが本当なら、今後の予定がボロボロだぞ。
「ああ、あと150階より上でわざと負けると運営から警告がくるらしいぜ。
なんでも八百長やって稼ごうとするのを防ぐための措置なんだと。
しかもどれだけ演技が上手くても、なぜか"不思議と"バレるんだって。」
不思議と? それただの念能力じゃね?
……おもいっくそ、私みたいなヤツ対策じゃねーか!!
だが考えてみれば、まぁそりゃそうだ。
1試合で毎回何億も払ってたら、まともに経営なんて出来るわけがない。オマケにタイマンの試合なんて八百長は簡単だ。これがサッカーのような何十人もプレイヤーがいる競技なら難しくなるんだろうけど。しかしタイマンならどっちかを買収すればいいだけ。
それにここは念能力を肯定するどころか、見世物にしている場所。
いざという時を考えれば運営側だって能力者を雇う。そして高層階の判定には遠慮なく能力を使うだろう。私だって運営者だったらそうする、誰だってそうする。
問題はそれが私の計画には致命的なことだ。
(私の190階で負けて楽々お金儲け計画がぁ! これじゃ58億とか無理!!)
180階のファイトマネーが1億だとして、58回勝ち負け繰り返せば楽勝じゃん!
とか思ってた自分が恥ずかしい。ちなみに200階以上ではファイトマネーは1ジェニーも出ない。
(やっぱしっかり下調べしてから計画を立てないとダメだな……ぐぬぬぬぬ。)
こうなると、私が取れる手は2つ。
1つ目は200階まで行って登録せず、別名で1階からやり直すルート。
ストレートに200階まで昇った場合、ファイトマネーは約4億。1度だけなら再登録が出来るので、繰り返せば8億程度は稼げる。
だがこれをやると、間違いなく運営に目をつけられるだろう。あと短期間での再登録はファイトマネーをまともにもらえるか怪しい。
2つ目はこのまま200階まで行くルート。
そして2年に1度行われるこの闘技場最大の大会『バトルオリンピア』での優勝を目指す。
(たしか優勝すれば、貴重な財宝が幾つももらえるとか言ってたよね。)
ならば2つ目のルートの方がいいのではなかろうか。問題はバトルオリンピアがいつ行われるかだが。
「次のバトルオリンピアっていつか知ってる?」
「……今年の4月末。」
「もうすぐじゃん!!」
現在は1月の半ば。
バトルオリンピアの参加資格はフロアマスターであること。
そのフロアマスターへの挑戦権は200階で10勝。後3ヶ月ちょいで200階まで行って10勝して、さらにフロアマスターに勝てるか?
(おそらく無理。せめてあと1ヶ月早く来てれば……)
それに200階以上の試合は、3ヶ月の戦闘準備期間があったはず。
これがフロアマスターにも適用されるなら、そもそも戦ってすらもらえない。2年に1度の貴重な大会の参加券だ、誰だって手放さないだろう。
「つまりどっちにしろ無理じゃねーか!!」
「ひっ……。」
テーブルに思い切り両手を振り下ろす。
――バンッ! という音が響き、シンジがビクンと震え上がった。
58億への道筋は、曇りまくって全く見えなくなった。
しかし私は他に稼ぎ方を知らない。結局、ストレートに200階まで行ってみる事にした。
「あっ、自分の勝ちに賞金全部突っ込んだら何とかなるかな?」
「……ちなみに賭け金にも上限あるみたいだぜ。」
これはもう無理かも分からんね。
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「200階でございまーす。」
「降りまーす。」
それから10日後、勝ち続けた私はついに200階に到達した。
100階以降もほぼ雑魚ばっかりで、特に注目した選手は無し。問題は1試合の掛け金が最大100万ジェニーまでだったことだ。私は子供ということでオッズが高かったのにあまり儲からなかった。
(でもここからは対戦相手も念能力者だ。)
この階層以上の選手はみんな念能力者だ。
恐らく今までのように楽勝とはいかないだろう。それに危険もずっと高くなる。だがその分だけ優遇もされる。
(特に広い個室をもらえるのはありがたいね。)
ホテルの延長を言いつけた時の、シンジの青くなった顔が見られないのはちょっと残念だが。
それから私はエレベーターガールのお姉さんにお礼を言って、200階に踏み込んだ。
すると入り口を抜けた先のロビーで、こちらを伺っているのが何人か居た。
しかしめんどうなので、全無視して受け付けカウンターへ。そこでこの階の説明を聞いていると、ふと後ろから声がかかった。
「おいおい、ガキじゃねーか。」
振り返れば少し離れた場所に、おかしな髪型の3人組が居た。
一人目は先が刺さりそうほど尖ってるリーゼント男。
二人目は頭にライオンのような入れ墨があるスキンヘッド男。
そして三人目は1メートル以上あるめっちゃ長いモヒカン男。
……みんな頭が個性的すぎる。芸人さんの集まりかな?
「何か用ですか?」
「いやいや、俺たちも申し込みをしようと思ってね。」
問いつつも同時にこの人達を『凝』で観察する。
時々オーラが漏れてるダメダメな纏……水で割ったように薄いオーラ……
うん、これならあんまり警戒しなくて良さそう。
(コイツら完全に雑魚じゃん。ニヤつく前に修行しなおせっての。)
とするとこれはアレだろう。おそらくこの時代の初心者狩りの人たちだ。
きっと試合日時を合わせることで、私をカモにする気なのだ。
(うーん、ガン無視でもいいけど、ソレだと面白くないなぁ……あっ、そうだ!)
良いことを思いついた私は、書類の対戦日時の希望欄をみる。
この階では3ヶ月以内ならいつ戦うかを選手側が選べるのだ。
その中から私は『いつでもオーケー』にチェックを付ける。そしてくるりと振り返って受付を背にすると、それを手に持って3人組に堂々と晒した。
「私はいつでもオーケーです。」
「へへへ、物分かりがいいじゃねーか。」
私は書類を突きつけながら、にっこり笑って彼らに告げる。
すると彼らは気分を良くしたのか、ニヤ付きながら受付に近づいてきた。
「でも怖いので1戦だけです。それで負けたらここを去ります。そちらは誰が戦いますか?」
「「「…………」」」
あえて『1戦だけ』『負けたらここを去る』の部分を強調する。
この階層では10勝すればフロアマスターに挑める。しかしその前に4敗すると下の階に落ち、今までの頑張りがすべて無駄になる。
そのために彼らはこうして初心者が上ってくるのを待っているのだ。出来る限り負ける可能性を減らして勝つために。この階での勝ちは下の階よりはるかに重い。
(でも私をカモに出来るのは一人だけだぞ☆ さぁどうする?)
私はニコニコしながら彼らを見つめる。
すると、とたんに彼らの間の空気がギスギスしだした。3人はお互いを牽制しあい、最後は誰が戦うかで揉め始めた。
(うーん、ダメだなコイツら。順番ぐらい決めとけよ。)
私はその隙に、彼らの方を向いたまま紙を後ろに回す。
更に後ろ手で『いつでも』のチェック欄に二重線を引き別の日を記入。最後は紙を斜めにし、後ろからは微妙に見えない角度で提出した。
「お願いしまーす。」
「はい、受領しま……えっ」
受付のお姉さんは中身を見て一瞬ビックリするも、そのまま黙って処理してくれた。
(やだ、このお姉さん優しい。でも顔が笑いそうになってる。バレそう。)
受付のお姉さんと二人で顔を合わせて笑いをこらえる。
もちろん指定した希望対戦日時はきっちり3ヶ月後だ。
えっ、すぐに戦う? なんでそんなハンデ負わなきゃならないんですかね??
もしこれでさっきの私の発言を素直に受け取ったピュアな人がいたら、きっと面白い事になるだろう。
とくにこの3人の中で同士討ちが起きれば最高だ。
ガチ戦闘になれば選手2人の能力が分かって良し。どちらかがわざと負ける場合でも、その後にギスギスするのは避けられなくて良し。どちらにしろ私に得は有っても損はない。
(さて、まずはここの試合ビデオを集めるか。)
情報収集は戦いの基本だ。
スペランカー先生も真っ青の、ワンミス即死ゲーの念戦闘でこれを怠るのは馬鹿だけ。
「こちらがシズク選手の部屋と鍵になります。」
「ありがとうございます。」
私はもらった鍵の部屋へ入り、荷物を置いてから食堂へ向かう。
ついでに携帯を使って何時ものようにシンジを呼び出した。
そして翌日。
そこには罵り合いながら戦っている、スキンヘッドとモヒカンの姿があった。
ざまぁwww
入れ墨 :こうなったら3日後から1日ずらしな。恨みっこなしだぞ(翌日希望っと)
モヒカン :分かってる分かってる。抜け駆けはするなよ(翌日希望にしとこ)
リーゼント:大丈夫だ、問題ない(翌日希望でおk)
受付のお姉さん:(ぷぷぷ、ダメだ。まだ笑うな……)※顔がピクピク