女神転生RTA 「東京崩壊防止チャート」   作:マテチャ

15 / 42
Part 06 イベント後編

 

 

 星斗が見た光景、それは東京にミサイルが打ち込まれることで

 そのことごとくが破壊され、長きにわたり荒廃を強いられる様であった。

 

 

 荒廃したその世界では、悪魔が縦横無尽に闊歩し、力なき者に価値はなく。

 人々はその存在に日々怯え、神に祈り、在りもしない救世主の出現を待つ。

 

 

 地獄がこの世にそのまま顕現したような……

 まさに混沌と形容するに相応しい内容であった。

 

 

 以前に自身が星辰の動きを観察することで、朧気なら読み取っていた未来。

 その詳細が、今見ているそれだと星斗は直感的に感じていた。

 

 

 

 

 

 

「夢に醒めた所かな?」

 

 

 ふと、近くで知らない誰かの声が聞こえる。

 星斗はその声に反応して周りを見渡す。

 

 

 いつの間にか星斗が座っていたベンチ、その反対側に彼はいた。

 

 

 その姿は、そこそこの年を重ねた成人男性といった様子で

 最近ではあまり見ないタイプの、古いビジネススーツを着こんでいる。

 

 

「あなたは……」

 

 

 状況に頭が追いついていない。

 現状を確認しようと、初めて見るその男性に星斗は声を掛けた。

 

 

「ふむ、意識はハッキリとしているようだ。

 ならば大事な事を一つだけ、()()()()()()()()()()()?」

 

 

 星斗の問いに応えるように、男性は質問を投げかける。

 その言葉には、若干の心配の念が込められているように感じ取れた。

 

 

「……忘れてる?」

 

 

 ()()()()()ではなく、()()()()()である。

 男性の不可解な問いに困惑する星斗だが、一先ずここに来た経緯を思い出す。

 

 

 そう、今自分は星の智慧派の依頼により、『夢の国』を調査しているはず。

 依頼内容については何かの隠語かと思い、詳細は依頼者に確認するはずだった。

 

 

 しかしながら、何かの薬でも飲まされたのか、意識が徐々に遠のいていき……。

 

 

「そう、普段の君ならば、まず引っかからない、そんな手だ」

 

 

 心の中が読めているかのように、男性は星斗が考えていることに答える。

 

 

 それも当然、星斗はこのような不運が起きないよう依頼を受ける際は

 衰日と吉日の調整を行い、物事が上手くいくように心がけている。

 

 

 しかしながら、今回に限ってはそれも意味が無かったのか……

 そもそも依頼人の顔ですらハッキリと思い出せないほど記憶が曖昧である。

 

 

「意識が遠のいた後、何があったか覚えているかな?」

 

 

 男性がさらに問いかける。

 

 

 星斗は意識がなくなった後の記憶など、あるはずがないと一瞬考えたが

 男性の言葉を聞き、改めて思い返そうとする。

 

 

 そして、()()()()()()()という事実に、星斗は気が動転しかける。

 

 

 そう、星斗は意識を失った後、比喩ではなく確かに夢の中へと旅立っていた。

 そこは現実では考えられないような、幻想的な世界。

 

 

 天上のトランペットとシンバルが永遠に打ち鳴らされる壮麗際立つ都。

 美と神秘が偏在する、瞠目すべき驚異に通じる妖精の国の門。

 焔の柱を擁する洞窟神殿、顎髭の神官が生贄を捧げ祈祷する。

 焔の洞窟、その先七百段をくだった先、〈深き眠りの門〉。

 

 

「そう、君は確かに『ドリームランド』、その入口に至っていた」

 

 

 そして、その門に手を掛けようとした時。

 

 

 聞こえる。

 忌むべき太鼓とフルートの響き。

 覗きこむ。

 地獄めいた踊りに興じる混沌。

 

 

 星斗は、自分が触れてはいけない

 そんな深淵の前に立たされていることを、ギリギリの所で認識する。

 

 

 その時、星斗は一つの術を発動する。

 自身の身を守るため咄嗟に出たそれは、所謂五芒星の形をかたどっていた。

 陰陽道おいては晴明桔梗印とも呼ばれるそれは、"セーマン"と呼ばれる呪術である。

 

 

 

 

 

 

 その後のことは、何も記憶にない。

 気付けば今いるこの場所で、ベンチの上に座り込んでいた。

 

 

「よかった、もし君があの盲啞にして暗愚の鬱々たる蕃神どもの

 その一部でも覚えていたら、それは非常に危ういことだった」

 

 

 男性が安心したように星斗に語りかける。

 

 

 実際の所その姿を見ずとも、あの音を聞いただけで常人ならば発狂を起こすほどのものだった。

 それを星斗は超人に覚醒していることと、自身の持つ精神耐性により事なきを得ていた。

 

 

「あなたが、……助けてくれたんですか?」

 

 

 何かを察したように、星斗が男性に確認する。

 今回自身の身に起きたのは、その記憶を失ってしまうほどの出来事である。

 そんな状況から一人で助かったと思えるほど、星斗は楽観的ではない。

 

 

「君が使用した、"セーマン"という呪術」

 

 

 男性がジャスチャーするように、一筆書きで宙に五芒星を描く。

 

 

「これは我々の印と非常に酷似していてね」

 

 

 さらに追加で、五芒星の真ん中に瞳を加える。

 

 

「名をエルダーサインと呼ぶ。

 その印に応じ、私が君をこの世界へと連れ込んだわけだ」

 

 

 

 

 

 

 

...................★...........★..............................................................

.......................................................................................★........

........★.........................★...............★...............★.......................

 

 

 

 

 

 

 

 

「この場所はいったい……?」

「ここは狭間の世界、現実とドリームランドとの間にある場所だよ」

 

 

 星斗の問いに、なんとなしに答える男性。その全貌は見えず。

 しかしながら、この聞いたこともない世界を、自由に行き来できるのは確かの様だ。

 

 

 もし仮に、男性がこの狭間の世界の管理者のような存在だとすれば

 その力は想像の埒外をいくものだろうと星斗は考えていた。

 

 

「あなたの事は何とお呼びすれば?」

 

 

 ただ、すでに自身を助けてくれたという実績がある。

 おそらくこの男性は人間に対して友好的な存在であるとの予想の元

 星斗は引き続き会話を試みてみる。

 

 

「うーん、トニー、いやリチャードなんてのはどうだい?」

「リチャードですか?」

「うん、ダメかな?」

 

 

 明らかに偽名だ。一度言い直しているし。何をもってダメなのかも分からない。

 ただ、本人としては気に入っているようだと星斗は感じた。

 

 

「私は良いと思います」

「ではリチャードにしよう」

 

 

 満足そうに頷くリチャード。

 十分な対話が可能そうな雰囲気が、リチャードとの間に出来ていると星斗は感じた。

 そのため星斗は、この場所に来てから一番気になっていることを確認する。

 

 

「私が見たあの光景は……」

 

 

 醒めた直後に見た東京が崩壊する光景。

 その話を出した瞬間、リチャードの顔が引きしまる。

 

 

「現実じゃない、ただし近い将来起こりうる可能性の一つだ」

 

 

 リチャードが答えた内容は、星斗が予想していたそれとほぼ同様であった。

 おそらくは彼が持つ権能の一つなのだろう。

 

 

 あのような詳細な未来予測を行える存在が目の前にいるという事実に

 星斗は驚き半分、畏れ半分といった様子だった。

 

 

 そしてそれとは別に、ある種の疑問が生まれる。

 

 

「そんなものを見せて、私に何をさせたいのですか?」

 

 

 あのような光景を見せるということは、自身にやって貰いたいことがある。

 そういう意味合いがあっての行動である、と予想しての星斗の言葉だった。

 

 

 しかしながら、リチャードから返ってきた言葉は思いも寄らぬものだった。

 

 

「逆に聞こう、君はどうしたい?」

「…………」

 

 

 自分がどうしたいか、というリチャードからの問いに、星斗は思わず口をつぐむ。

 それは先日ハルパスに言われた事と、ほぼ同種のそれであり

 星斗自身がまだ答えを出せていないものだったからである。

 

 

「……勿論、このような未来になることは止めたいです」

 

 

 星斗が発した言葉に嘘はない、真実である。

 僅かに残っている魂の核となる部分が、自身にそう訴えかけてくる。

 

 

「何故?」

 

 

 リチャードが更に尋ねてくる。

 

 

「それは、そんな世界が訪れれば不幸な人が大勢生まれる……」

 

 

 嘘である。

 

 

「至極全うな考えだ。

 だが、それは本当に君が、"()()()()"が考えていることかな?」

 

 

 賀茂星斗にそのような考えはない。

 

 

「……どういう意味ですか」

 

 

 奥底に秘めた部分が、露わになっていく感覚を覚える。

 

 

「つまるところ、君はそんな崇高な人間ではないということさ。

 普段は"()()()()"という大人のそれに覆い隠されている、"()()()()"という魂の根幹」

 

 

 そして核心を突く。

 星斗本人ですら気が付いていなかった、その原初の思いを。

 

 

「君は愛されたいんだ、唯人と同じように」

 

 

 

 

 

 

 星斗の心の中に巣くっていた靄が消えていく。

 

 

「何を根拠にそんなことを……」

 

 

 反論はするが、その言葉に覇気がない。

 生まれたての裸の自分を見られるというのは

 おそらくこのような気持ちなのだろう、と星斗は思っていた。

 

 

「君の仲魔である泰山府君が、あのような姿になっているのが、その証左ではないかな」

 

 

 星斗の生体マグネタイトより、無意識に生み出された"母"としての姿。

 それが愛に飢えた"星斗"の本能によるものだったと、今になって思い至る。

 

 

「それが肉愛(エロス)なのか友愛(フィリア)なのか家族愛(ストルゲー)なのか神愛(アガペー)かは、私にも分からない」

 

 

 おそらくは、まだ心が育ち切っていない。

 幼稚のそれなのであろうとリチャードは考えていた。

 

 

「そして厄介なことに、自身にそれを受ける資格がないと思い込んでいる節がある」

 

 

 それはすでに存在しない幼い頃の記憶。

 親の期待を裏切ってしまったという、本人以外にとっては些細な感傷。

 

 

 封印という蓋をされたそれは、荊棘が取り除かれる機会もなく

 さらに転生体という殻に籠ることで、歪な熟成を経る。

 

 

 すでに生半可な方法では、それ正すことは難しく。

 

 

「難儀なことに世界を救う、そんな大それた事を達成できてから

 君の心はようやくスタートラインに立てるのさ」

 

 

 生まれてきたこと自体が間違いでなかったことを証明するため。

 つまるところ、()()()()()()()に、()()()()()ということである。

 

 

 

 

 

 

 

...................★...........★..............................................................

.......................................................................................★........

........★.........................★...............★...............★.......................

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、リチャードの言葉に心底納得させられてしまう星斗。

 

 

「自分の心に折り合いが付いたみたいだね。

 これで仲魔集めもやり易くなると思うよ」

 

 

 星斗のその様子に、リチャードは満足そうな笑みを浮かべる。

 おそらくだが、"初めからそのつもりで"この場所に呼んだのだろうと星斗は思った。

 

 

 あの依頼自体、リチャードの手によるものだと考えれば

 事前に行っていた危機探知が効かなかったことにも説明が付く。

 

 

 "それが星斗にとって危険でない"と初めから決まっていたのだ。

 

 

「手始めに、目の前にいるやつなんてどうかな?」

 

 

 そして、こんな面倒くさいことをしてまでやりたかった

 リチャードの真の目的は。

 

 

「一応立場的に、人間の守護者的な存在なんでね。

 夢見るままに待ちいたり、とはいかないのさ」

 

 

 なんだ、結局こいつは自分に世界を救わせたいんじゃないか

 回りくどいことしやがって、と星斗は思ったが口にはしない。

 どうせ心の中は読まれているだろうし、それに。

 

 

「大歓迎ですよ、リチャードさん」

 

 

 彼を仲魔にしたいという気持ちも、嘘偽りないものだったから。

 そしてその言葉にリチャードは満足そうに頷く。

 

 

「では、私はリチャード……、では恰好がつかないかな」

 

 

 そして、改め人類の守護者としての、その名前を名乗る。

 

 

「旧神ヒュプノス、コンゴトモヨロシク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに全てが終わった後、泰山府君に事の経緯を伝えた際

 

 

「母親が欲しかったのですか、おっぱいでも吸ってみます?」

 

 

 とのことだった。

 流石は地蔵菩薩、慈愛の心に溢れている、と星斗は思った。

 

 




コメント頂ければ喜びます。





念のため記載します。
Author: Dave Rapp
Title: SCP-990 - ドリームマン
Source: http://www.scp-wiki.net/scp-990 / http://ja.scp-wiki.net/scp-990

このコンテンツは、クリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンス
(http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja)の元で利用可能です。

読者兄貴姉貴たちの女神転生シリーズプレイ状況について

  • ほぼすべてプレイ済
  • いくつかのナンバリングだけプレイ済
  • ペルソナだけプレイ済
  • 上記以外の派生作品だけプレイ済
  • 二次創作による知識だけ
  • 前提知識なし、未プレイ
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。