女神転生RTA 「東京崩壊防止チャート」   作:マテチャ

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ムービー

 20XX年、葛の葉の里にて

 

 

 周囲に山々が生い茂り、生命が存在するとは思えないほど静寂とした場所。

 それもそのはず、そこはごく一部の人間にしか知られていない所謂霊地と呼ばれるところであり

 極少の限られた人数のみが生活している。

 

 

 護国のため、厳格な戒律のもと厳しい修行に明け暮れるもののみが存在するのその場所で

 黒袴姿の彼は一人夜空の月を眺めていた。

 

 

 年は小児を超えるかどうか、髪質は傷んだ黒、背中まで掛かろうかという長髪は雑にまとめ

 特に自身の容姿に頓着はしていないことがわかる。

 全体的に温和な顔立ちではあるが、狐目ともいうべき細目のせいで

 年齢の割には若干の胡散臭さが漂っているのは愛嬌というものだろう。

 

 

 

「星斗兄様、こんなところにいたんですか」

 

 

 

 ふっと彼の名を呼ぶ方に目を向ける。

 そこには血のつながりなどない自身を兄として慕ってくれている妹のような存在がいた。

 

 

 その容姿はまさに市松人形を現実に取り出してきたようなもの

 その髪は漆黒といっていいほど深く、目は程よく垂れており

 肌は色白で”彼とは違い”傷一つ付いていない。

 

 

 里の中でも頭抜きにでは容姿と年齢にそぐわぬ実力を持つ彼女に

 彼はいくらかの羨望と嫉妬、そして諦観の念を抱きつつも言葉を返す。

 

 

「陽乃、こんな夜更けにどうしたんだい?」

 

 

 彼は少女の名を呼ぶ。

 

 

「兄様こそ、こんな夜更けに一人で何しているんですか」

 

 

 陽乃と呼ばれた童女は心配半分呆れ半分といった口調で彼へと問いかける。

 

 

「……中々寝付けなくてね」

 

 

 はぐらかす様に答える。

 嘘ではない。ただ、本音の部分ではもっと別の何かを含んでいるような。

 だが、まだ若くそういった機微に疎い陽乃は特に疑問を抱くことなく会話を続ける。

 

 

「寝付けないとしても体だけでも横にならないと、明日以降の修練が差し支えます」

「それは、分かっているけど」

 

 

 不躾でありながらも、もっともな正論をぶつけられ若干言い淀む

 

 

「ただでさえ兄様は他の人と比べて修練が遅れています。

 無駄なことに時間を費やす暇はないのではないですか?」

「ははっ……、耳が痛いね」

 

 

 同時に胸が痛む。心に淀みが生まれる。

 陽乃の発言は間違っていないし悪気がないことも頭では理解していた。

 だが、彼の本能がそれを受け付けない。

 

 

 いっそ頭ごなしに怒鳴り散らかせば……

 そんな感情に支配される前に星斗は話を逸らした。

 

 

「ところで、何か用があったんじゃないか?」

「そうでした、ご当主様がお呼びです」

「ちち……ご当主様が?」

 

 

 ご当主とは、この里の顔役のような存在で一切合切を取り仕切っており

 そのすべてを管理している存在だ。

 そして彼と血のつながりを持つ唯一の存在でもある。

 

 

 こんな夜更けにいったいどのような用だろうとは考えを巡らす。

 ここ最近の自分の不出来を考えば、到底良い事とは思えなかった。

 

 

「わかった、すぐに向かおう」

 

 

 星斗はそう言葉を発するが、当主の屋敷へ向かう実際の足取りは重く。

 それが訓練の疲れによるものなのか、陰鬱な心持ちから来るものかあるいはその両方か。

 その答えは自分自身でも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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「星斗、参りました」

「うむ、入れ」

 

 

 屋敷の奥底、星斗も数えるほどしか入ったことのない当主の間にて

 自身の実父と対峙していた。

 

 

 歴戦というべき体つきに、自身とは似つかぬ大きく丸い目からは圧倒的なオーラを感じる。

 眼光炯炯とした瞳の奥に一体どのような考えがあるのか、星斗には及びもつかなかった。

 

 

 その圧倒的な佇まいに反し、当主の部屋の中は非常に簡素なものとなっていた。

 里の為だけに人生を尽くしてきた男の性根を表す、そんな質素な様式だ。

 

 

 そのような感想を星斗が抱いているのも束の間

 開口一番に当主は星斗へと言葉を投げかける。

 

 

「お前を里から出すことに決めた」

「……っ、父上それは」

 

 

 それは里からの追放を意味することであること、星斗はすぐに理解した。

 ありえない……、と考えるには思い当たる節が多々ありすぎることを理性では理解していた。

 

 

「はっきりと言おう、お前には戦う才能がない」

 

 

 当主の言う通り短い人生の大半を費やし、体に生傷が絶えないほど過酷な修練をしても

 星斗のそれは里の平均を下回るものであることを、周囲のみならず星斗自身も

 強く感じ取っていることだった。

 

 

 それでも護国のため、ひいては父の期待に応えるため

 "圧倒的な才能"を前にしても、心折れずに何とかやってきたつもりだった。

 

 

「それでも私は護国のため、身を」

「お前がどのような心持ちであろうと、決定は覆らん」

 

 

 必死に食い下がろうとする星斗だが

 何一つ反論は許されない、そんな意志が読み取れる口調で当主は言い放つ。

 

 

「それに、次期葛葉の名を受け継ぐものはすでに決まっているようようなものだ」

「陽乃ですか」

「そうだ」

「……っ」

 

 

 一事を聞いて十事を知る。十事を知れば、百事に至る。

 まさに天資英邁、長い葛葉の歴史でもおそらく5本の指に入るであろう才能。

 遠くない未来、葛葉最強の名を受け継ぐのは彼女であろうと、そう誰もが予感していた。

 

 

「お前がどれだけ傷だらけで、どのような心持ちで訓練を行おうと

 アレの足元にも及ばぬことはすでに気付いているはずだ」

「……重々承知しております」

 

 

 星斗は重々しく言葉を返す。

 そのような事、"当主を含めた里の誰よりも"星斗自身が分かっていた。

 

 

「後ほど記憶の封印処理を受けてもらう」

 

 

 この里は外部に情報が漏れぬよう厳格に管理されている。

 そのため記憶の封印処理は当然の行為であり、命を取られぬだけマシというものだった。

 その言葉に、すでに自身に他の道がないことを否が応でも理解させられる。

 

 

「…………父上、今までありがとうございました」

「もう二度と会うこともあるまい」

 

 

 もう語ることもないであろうと、部屋を後にする。

 出ていくその手には、握りこぶしに収まらぬほどの血が滲み出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄様」

「……陽乃か」

 

 

 当主の部屋から出たすぐのところで、心配そうな顔をした陽乃が待っていた。

 

 

「ご当主様から何を言われたのですか?」

「もう、訓練に参加する必要はないと」

 

 

 それと同時に里から追い出される、と伝える前に

 星斗の言葉を聞き、陽乃はほっと胸をなでおろし言葉を発する。

 

 

「よかった……

 もう無駄に体を傷つける必要がなくなったという事ですね、陽乃は安心しました」

 

 

 陽菜の言葉に、星斗は自身の胸の中にあるささくれが大きくなっていくのを感じた。

 彼女がいようがいまいが、遅かれ早かれ自身が里から追放されていただろう。

 ただ、心のどこかで"彼女さえいなければ"と思う自分もいることに酷い落胆を覚える。

 

 

「……お前の目には無駄な行為に見えていたのか」

(違う、こんなことを言いたいわけではない)

 

 

 星斗は自身が意図せず発してしまった言葉に後悔する。

 何も悪くない妹分を、自身のどうしようもないちゃちな悪意で染めてしまうことを。

 しかし、陽乃そのような意図を少しも解さずに言葉を続ける。

 

 

「安心してください、護国も兄様の安全も私が成し遂げます!」

「……っ」

 

 

 純粋な善意からの言葉であることは分かっていた。

 ただ、こんな言葉を言われるぐらいなら、罵倒された方がまだましだった。

 今の星斗に陽乃の言葉は、太陽に存在する金烏を覗き見るがごとく眩しく

 思わずその視線を背かずにはいられない。

 

 

「兄様……?」

 

 

 そんな星斗の振る舞いを訝しむ陽乃。

 だが星斗は何も反応せずその場を離れる。

 本来なら最後にすべき別れの言葉をかけることもせず……、いや出来ないままに。

 

 

 

 陽光にて星は翳り、星辰は未だ正しい位置につかず。

 

 

 

 

 

 

 

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「本当によろしかったのですか?」

「何がだ?」

 

 

 星斗が去った後、侍女が当主に話しかける。

 一定の距離感がありながらも、その関係には成熟したものを感じ取れた。

 

 

「確かに戦いに関しては劣っているでしょうが、巫覡など別の道もありましたでしょうに」

 

 

 葛葉に必要なのは戦う者だけではなく、裏からサポートする者も必要となってくる。

 はっきりと言葉にはしなかったが、陽乃も星斗にパートナーとして

 その立ち位置になることを望んでいた。

 

 

「あれの才能は善からぬものを呼び込む」

 

 

 しかしながら、当主はそれを否定する。

 彼は星斗の才能が戦いとは別のところにあることを見抜いていた。

 

 

 覚者の如き生体マグネタイトの量と質。

 何度輪廻を繰り返せばあの域に到達出来るのか想像もつかない

 すくなくとも百、二百ではすまないであろうこと。

 そして、その中に"存在している何か"も朧気ながら感じ取っていた。

 

 

 だがともすれば、それは組織に、何より星斗自身に

 重荷となって降りかかることも容易に想像がついた。

 

 

「下界に伝手がある、あやつならどうにかしてくれよう」

 

 

 このまま葛葉にいては、その才を使い潰されるだろう。

 そして、里の当主としてはそれを止めることが出来ないこともわかっている。

 だから、里とは関係ない場所で信頼できる相手に託すこととした。

 

 

 そういった当主の機微を長年の付き合いから侍女は感じ取る。

 

 

「あなた様にも親心がお有りでしたのですね。

 それならそうと伝えてあげれば良かったのに」

 

 

 侍女の言葉に、当主は反応する。

 

 

「追放という形でないと里のものに示しがつかん、それに……」

「それに?」

 

「すぐに忘れよう。この里も、われの事も」

「……」

 

 

 

 侍女が初めて感じ取れる当主の感情が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 




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2021/06/27
2021/06/29
2021/07/01
2021/07/06
2021/08/03
誤字・脱字修正、ご指摘ありがとうございました!

読者兄貴姉貴たちの女神転生シリーズプレイ状況について

  • ほぼすべてプレイ済
  • いくつかのナンバリングだけプレイ済
  • ペルソナだけプレイ済
  • 上記以外の派生作品だけプレイ済
  • 二次創作による知識だけ
  • 前提知識なし、未プレイ
  • その他
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