ライドウにとって、自身の幼少期時代の記憶は希薄であった。
それは変化の乏しい葛葉の里の中で、生活のほとんどを過ごしたせいもあるが
そも彼女にとって、思い入れが出来るほど何かに打ち込むことがなかったからである。
いや、打ち込むことが出来なかった、と言い換えてもいい。
常人なら確固たる意志が無ければとても耐えられぬような
そんな過酷な修行の日々も、彼女にとっては何の苦にもなりえない。
一事を聞いて十事を知る。十事を知れば、百事に至る。
天資英邁。
その才は歴代最強として名高い十四代目に比肩するほどとも周囲からは騒がれ
事実その期待に応えるように、予定調和の如く当代ライドウの名を襲名するに至る。
傍から見ればなんの障害もなく、その地位をにたどり着いた彼女だったが
そんな彼女にも明確に失敗したと思える出来事が一つだけあった。
そう、兄様と呼び慕っていた者への、最後に発した言葉である。
希薄な記憶、その中でも大部分を占めていた彼へ
それどのように伝わったのかを理解したのは、彼がいなくなって随分経ってからの事だった。
最初は何故彼が突然いなくなったのか、その理由が自身である故に分からなかった。
しかしながら、少しずつ成長するにつれ、理解することとなる。
そして理解したと同時に、あの時の記憶が強烈に想起される。
幼かった彼の心に、その言葉がどれほど深く、鋭く突き刺さったか想像もつかず。
謝りたいと思った時には、すでにその身の行方は知れず。
里を追放された経緯を鑑み、二度と会うことはないだろうと考えていた。
ならばせめて、あの時の言葉に違わぬよう、"葛葉ライドウ"として護国のために最善を尽くす。
それこそが、"陽乃"として何処へ行ったか分らぬ兄様を護ることに繋がる、そう信じて。
あの時の出来事が、和氏の璧ともいえる彼女の在り方に
本人でも気付かない程度の一つの傷を付けることとなる。
それは外からは確認できない程に小さくはあるが
深く、芯まで達するような、そんな類のものであった。
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ライドウとして活動を初めて早数年の月日が流れていたそんな時
二度と会えぬと思っていた星斗との再開は、偶然訪れることとなる。
既にライドウの名に相応しいだけの実力と実績を
積み重ねていた彼女の元には、日々様々な情報がもたらされていた。
そしてその中の一つに、神霊を使役するサマナーについてのものがあり
その名は"賀茂星斗"、彼女が兄様として慕っていた人物と同じ名前だった。
最初彼女はその情報を聞いた際、星斗の状況に憂いを抱くこととなる。
神霊とは悪魔のカテゴリの中でも最上位の存在にして、例外中の例外。
それを使役できる者など、この東京でも自身も含め、片手で数えられる程度であろう。
そしてそんなものを使役するにたる実力など、あの兄様が持ち合わせているとは考えにくく。
仮に誰かに利用されているのなら、それは彼女にとって絶対に許せないことである。
あの日に交わした約束は、守らねばならない。
しかしながら、最初の接触ではその詳細は分からなかった。
その容姿に確かな面影を感じた。受け答えからは洗脳等を受けている様子もない。
だがそれ以前の所で一つの問題があった。
何かしらの不可解な点があれば、それを持って異常な状態であると判断するのは難しくない。
しかしながら、何をもって正常とするか、ライドウは判断する材料を持ち合わせていなかった。
そもそも、里を抜ける際、そこであった記憶は葛葉により封印されているはずである。
事実星斗がライドウと会話する際も、何の感慨もなく初対面である旨を伝えられており
その様子から忌々しくもその封印は今でも有効であることが分かってしまっていた。
目立った異常もなく、共有できる記憶もない。
何をもって目の前の彼を"賀茂星斗"とするのかは、彼女自身分からなくなっていた。
目の前の存在をどう扱えばいいか分からず、ライドウは思わず黙り込んでしまう。
そんな彼女を見かねてから、星斗は色々と話題を振ってくれる。
そしての容姿を褒められた所で、自身の羞恥と高揚が入り混じった感情をどうにも出来ず
その場をただ立ち去る事しかできなかった。
そして少しした後、ライドウは幼いころの記憶を振り返っていた。
記憶の中の兄様も、色々と話をしてくれたし、自身の容姿をよく褒めてくれていたと。
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エコービルの異界について、元々は協力を目的として探索に加わっていたライドウだが
あえて自身は動かず、星斗におおよその行動を任せていたのには理由があった。
それは、星斗の実力を確認するため。
既にいくつかの情報筋から、その実力は上位サマナーに類するものと予想されていた。
しかしながら、過去の星斗を知る身として、その情報をそのまま鵜吞みにする事はできず。
自身の目で確かめることで、その真偽を確認する事としたのだった。
もし仮に星斗が対応できない状況に陥ったとしても、自身が待機しておけばどうとでもなる。
また危ない所から星斗を助ければ、そのはずみで何か思い出すかもしれない
という思惑も多少はあった。
探索を通じて発揮された星斗のデビルサマナーとしての実力に
ライドウの頭の中で様々な考えが巡っていた。
一つにその覚醒度合いについて
低位の異界、その中で出現する悪魔は確かにそれほどの強さではない。
それでも、その身一つでそれらを圧倒し傷一つ付かないその姿は
過去の彼を知る身としては驚きの一言。
この空白の数年が、星斗にとってどれほどのものだったかが
ライドウには察せられた。
二つにその身のこなしについて
星斗が用いる技術は正に一流、それも頭に超がついて然るべき程に。
エコービル内で発生した異界にて、その淀みなく進む足取りは経験豊富な探索者と変わらず。
周囲の地形を確認するマッパー、悪魔との遭遇率を低下させるエストマ。
何が起こるかが分からない異界探索において必須となる魔法のそれを
魔に頼らない技によって行う。
転生体として覚醒しているとの情報は耳にしていたが
その様子からさぞ高名な存在であったであることも察せられた。
最後に使役する仲魔について
異質といっても過言ではないその存在に、ある種の懸念を頂くこととなる。
星斗が使役している悪魔は現状で2体。
この数字は一般的なデビルサマナーとしては多くもなく、少なくもないといったラインだ。
もともと悪魔召喚は高度な技術と悪魔を扱う上での大きな危険性を伴うものであり
当然使役する悪魔の数が増えれば、その危険性も増す。
昨今では悪魔召喚プログラムなるものが市中に出回り
誰でも手軽に悪魔を仲魔にし、使役することが出来るようになり始めているが
星斗が使用しているのはそうでない、従来の召喚術に類するもの。
そう考えれば、現状の2体という数は適当といって差し支えないだろう。
しかしながら、その肝心の仲魔が問題である。
神霊泰山府君、旧神ヒュプノス。この悪魔たちは星斗が使役するには強力すぎる。
いや、他の誰であっても、御しきれるとは到底思えない。
その在り方が、他の悪魔たちと一線を画している感じるほどに異様。
おそらくは両者とも本体に近しい、超高位の分霊体であること疑いようはなく。
本来ならば、仲魔として使役できる位階を超えているようにライドウは思えた。
これならば、誰かに利用されていたという方がまだ納得できる。
それほどに星斗のデビルサマナーとしての在り方は、歪と言わざるを得なかった。
もしもの時は、その身を挺して星斗を守らねばならない。
そう"陽乃"は考えてしまっていた。
葛葉ライドウという玉は、その傷を埋めるかのように変容する。
しかしながら、深く、芯に達するそれにより、その形はただただ歪へと向かっていく。
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2021/07/24
誤字・脱字修正、ご指摘ありがとうございました!
読者兄貴姉貴たちの女神転生シリーズプレイ状況について
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ほぼすべてプレイ済
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いくつかのナンバリングだけプレイ済
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ペルソナだけプレイ済
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上記以外の派生作品だけプレイ済
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二次創作による知識だけ
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前提知識なし、未プレイ
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その他