曼荼羅(まんだら)。
その言葉はサンスクリット語のmandalaの発音を漢字にあてはめたもので
mandaとは心髄/本質であり、そこに所有を意味するlaが付加されたものと言われている。
すなわち、『悟りをえたもの』、あるいは『悟りが成就した場所』の意味を指す。
そして曼荼羅には多くの仏が描かれており、これは智慧や力
慈悲などが様々な形を取って、世界に満ちていることを示している。
この東京において、その曼荼羅が描かれる意図は
まだ一部の者のみが知る所となっている。
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「ふ~ん、あなたが閣下のいってた」
星斗を前にして、目の前の人物がそう声を発する。
その人物は全身をコートで覆い隠し、その姿はハッキリと見えず。
「そんなに強くなさそうだけど、何が気に入ったのかな?」
一見失礼な物言いに聞こえるそれだが、特に気にする様子がない星斗。
それもそのはず、その軽く明るい声は女性と称するには、明らかに不釣り合いであり
「あっ、まだお仕事中だから、ちょっと待っててね!」
おそらくは、一般的には少女と呼ばれる年齢の、さらにその中においても
若いと分類されるものであるように見受けられたためであった。
言うなれば、子供の戯言を真に受ける大人はいないという事である。
「ふんふんふふ~ん♪」
そう鼻歌まじりで作業を行っている少女を目の前にして
星斗は若干の戸惑いを感じていた。
もともとこの依頼を受けたのは、トーナメントで出会った
あのオッドアイの男性からの依頼だったためである。
東京の未来について、と意味深な一言だけを残して去っていったあの男性。
何か重要な事を知っているのは、まず間違いないと星斗は感じていた。
そんなオッドアイの男性からの依頼である。
去り際に放った『最も会いたいと思っている人物を、紹介しよう』との一言もあり
おそらくは、東京崩壊に関わっている人物を紹介してくれるのだろう、と星斗は考えていた。
しかしながら、当の本人はこの場に現れず。
代わりにいたのは、年端もいかぬように思われる少女一人。
この時点で肩透かしを食らった様な気分になっていた星斗。
勿論この業界において、その見た目と実力とが食い違っていることは多々ある。
星斗も実際その中の一人であり、目の前の少女もそれに属するものであるかもしれない。
しかしながら、その身がまとう雰囲気は、あまりにも普通。
ある程度の実力を持つ者は、それに見合うだけの空気を纏っているものだ。
葛葉ライドウやルナ・ブレイズ然り、いわゆる強者の風格と言えばいいだろうか。
そして目の前の少女にはそれがない。
いうなれば、世の中に満ち満ちている普遍的なそれと大差なく。
このような少女がこの業界の関係者であることに大きく疑問を感じ
ましてや東京崩壊に関係しているなど、星斗には到底考えられなかった。
あるいは、あのオッドアイの男性が言っていたのは星斗をおちょくるための嘘で
目の前の少女はある種のネタ晴らし的に用意しただけのただの一般人であると
そう考えざるを得ない状況に陥っていた。
事実、目の前の少女は、仕事と称したお絵描きに邁進しており
今のところ、星斗には一切興味がないといった感じであった。
さっさと依頼を切り上げて帰ってしまおう。
そう少女を見つめならがら考えていた矢先の出来事である。
「……うん?」
星斗は、とある違和感に気が付く事となる。
いや、正確には、違和感がないことを違和感だと認識できようになった。
よくよく確認すると、少女の描くそれは、ただの無秩序なそれでなく
むしろ、一定の法則に基づき、理路整然と展開される事に気が付く。
少女は描くそれには、円と正方形を基本とし
その幾何学的な図形の中に、多くの尊像が配置されている。
そしてそれは、平面だけでなく空間にも作用する。
一つの絵の中には複数の変化・展開の過程も表され、時間的な概念も含まれる。
四次元的構造が今まさに目の前で存在しており
それが
そして何よりも異質だったのは、東京全体を覆っているという
事実に気付いてもなお、その空間を
いや、むしろそれらが描かれている今こそが、いつもと変わらぬ日常である。
そう認識させられる何かが、彼女の描くそれにはあった。
「……泰山府君、どう思う?」
この異常な状況に星斗は自身の判断が信じられなくなり
おもわず仲魔の泰山府君を召喚し、その認識の確認を行う。
「……どう思うとは?」
しかしながら、泰山府君は星斗の問いの意図が分からないと言った感じである。
つまりは泰山府君ほどの悪魔であっても、この状況を正確に把握できていないという事。
その力の強弱ではなく、もっと別のところで作用している
そんな何かの存在を認識することとなる星斗。
そしてそれと同時に、普通の少女としか認識できない目の前のそれから
何が起こるか分からない憂慮からか、目を離せなくなってしまう事となる。
星斗の認識通り、目の前の少女は普通ではなく
認識の歪みは彼女と彼女の描く曼荼羅の力の一部によるものであった。
古代インドのウパニシャッド哲学には梵我一如(ぼんがいちにょ)という思想がある。
これは、『アートマンはブラフマンである』ということを主張するものである。
アートマンとは自分自身の実体を指しており
ブラフマンとは宇宙を成り立たせている根本原理、宇宙精神の本体とされる。
そしてそれらは本質において一つのものであるということ。
そして、この場で行われているのは、言うなれば
ブラフマンとアートマンの限定的な強制合一化。
この世界の一つとして自己が存在していると
今の現実を強制的に他者へと受け入れさせる、現実改変にも等しい行為。
そして、その点において星斗が事態を認識出来たのは決して偶然ではなく。
目の前の少女が何かしらの作業を行っている、という事実の認識していたことと
星斗が後天的に覚醒していた、神経・精神耐性によるもの。
そしてなにより、星斗にとってアートマン(自己)というものが
他者と比べ異質なものだったからである。
転生体という身の上において、混じり合ったそれが周波数の合わないラジオのように
彼女の強制合一化を阻んだのは、星斗にとって幸か不幸か。
そしてその事は、目の前の少女にも当然知られることとなる。
「すいません、警察の者なんですが……」
そう少女を見つめる星斗に警官が話しかけてくる。
誰かが通報したのだろうか、確かに傍から見れば少女を見つめるその視線は
不審者であると思われても、仕方がなかったかもしれない。
しかしながら、非常に不味いと状況であると星斗は思った。
これでは社会的に死んでしまうと。
いっそヒュプノスの力で目の前の警官を眠らせ、事なきを得ようかとも考えたが
その様な力の使い方はデビルサマナーとしての信用にもかかわるため
容易に選択できるはずもなく。
「あ~、パパどうしたの?」
そんな事を星斗が考えていると
少女がにやにやしながら場違いな言葉を言いつつ駆け寄ってくる。
前述のように、多くの人々は彼女の行動に違和感を覚えることができず
自身の中で自然なものとして受け止められる事となる。
「あっ、パパさんでしたか」
星斗の外見を加味すると、到底あり得そうにない関係にもかからわず
彼女の言葉を鵜呑みにしてその場を去ってしまう警察官。
「……パパ?」
そして自身の知らぬ間に突然パパ活が始まってしまった事に
星斗はさらなる社会的焦りを感じていた。
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2021/08/07
誤字・脱字修正、ご指摘ありがとうございました!
読者兄貴姉貴たちの女神転生シリーズプレイ状況について
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ほぼすべてプレイ済
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いくつかのナンバリングだけプレイ済
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ペルソナだけプレイ済
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上記以外の派生作品だけプレイ済
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二次創作による知識だけ
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前提知識なし、未プレイ
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その他