「それでは、手筈通りに」
目的地近くに到着した後、その様に一言だけを言い残し、その場から消えるライドウ。
勿論、文字通りその存在が消失したというわけではなく
正しくはその気配を消した、といった所だろうか。
ライドウのその行為を確認し、星斗は目的地である、とある神社へ向かうため歩みを始める。
ライドウが星斗とともに目的地へと向かわず
わざわざこの様に回りくどい真似をするには一つ理由があった。
それは、今回神器の修復を依頼する相手に由来する事である
その存在の名は、金屋子神(かなやごかみ)と呼ばれ
鍛冶屋に信仰される神として、一般的には女性の神格を持つ事が知られている。
神器修復のため、ヒヒイロカネを用いる必要があることは、すでに知る所ではあったが
それを行うには人の身では分不相応であり、それこそ神の手を借りねば達成できず。
そのため、今回は依頼元である神祇官がその伝手で、直接金屋子神へと働きかけを行ってた。
勿論金屋子神の手腕に疑念など抱く余地は無い、しかしながら問題が無いわけではなく。
その一つに、かの神が持ちわせている特徴が挙げられる。
それは女性に対して嫉妬心があり、その存在を異常に嫌うという点。
そしてこれがライドウではなく、星斗が直接依頼を行う一番の理由である。
いくら彼女であっても、その性別による問題まではどうしようもなく。
であれば、ライドウ自身が一番信頼できる男性に、その役割を託すのは当然の帰結であろう。
その中に、彼女の個人的な感情が含まれることは、否定できないが。
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目的地である神社の、その境内へと入る星斗。
コウリュウを用いての移動は想像通りに迅速で、時間は未だ真夜中。
しかしながら、神社の中には最低限の光源があるのみで、辺りは薄暗く
下手すれば本殿へと進むための参道すら見失うほどである。
不幸中の幸いだったのは、月明かりが星斗を照らしいた事。
その光の存在により、星斗は問題なく境内を一歩、また一歩と前へと進む事が出来た。
そして、ようやく本殿に到着しようか、という矢先の出来事である。
星斗は直立不動の、その存在に気付くことになる。
特徴的なのはその姿見で、成人男性を大きく超えるそれは、巨躯といって差し支えなく。
しかしながら顔立ちは美麗で、眉間から鼻先にかけては筋が通り
口元には小さく慎ましい唇が見える。
また、その左目は眼帯で覆われ、残った右目も月明りですら明るく感じるのか、薄目。
鍛冶の神としての要素に、女神としての美しさを混在させたような、その姿。
金屋子神(かなやごかみ)、事前にライドウより確認していた通りの存在がそこにいた。
「金屋子神、お待たせしてしまい、申し訳ございません!」
金屋子神を確認した後、星斗は焦りつつもすぐさま謝罪の意を伝える。
このような真夜中に、神様を屋外で待たせるなど、不敬だと思われても仕方のない。
しかしながら、金屋子神は気にした様子もせず、気軽な感じで星斗へ返事を行う。
「大丈夫、気付いたから、出てきただけ」
星斗達の存在を把握しての行動である、という事を示唆する金屋子神。
「目は悪いけど、鼻がいい」
目が悪いとは、おそらくは眼帯の事を指しているのだと星斗は考えた。
目の前の金屋子神に限らず、天目一箇神、ダイダラボッチやキュクロープスなど
鍛冶に関連する存在は片目や単眼として伝えられる事も多い。
その理由は所説あるが、その中に一つに鍛冶を行うことによる
職業病により片目を失明してしまうことが由来だとか。
そして、目の前の存在もその例に漏れず、片目を眼帯でふさいではいる。
しかしながら、その代わりに、他の五感、特に嗅覚が鋭くなっている事が
その言動から見て取ることが出来た。
「女の匂い」
その金屋子神の言葉に、若干焦る星斗。
先ほどまで一緒にいたライドウの事を言っているのだろうか、と考える。
神社に入る前に別れたため、その存在自体が認識することはないだろう。
しかしながらコウリュウでの移動の弊害か、つい先ほどまでほぼ密着といっていいほどの
距離だったため、自分では分からないライドウの匂いが付いているのかと。
「…………」
何かを確認するように、無言で星斗に顔を近づける金屋子神。
あるいは、その機嫌をそこねてしまったかとも考える星斗であったが
意外にも、想定していた反応とは逆の結果となる。
「いい匂い。
穢れ、纏わりついている」
そう満足そうに金屋子神は呟く。
そして星斗が持つ荷物を受け取り、神社の本殿の方へと向かい歩いて行った。
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時間にすれば、どれほどだろうか。
空に浮かんでいた月が沈み、代わりに日の光が差し込もうとしている
そんなタイミングで、金屋子神が本殿前へと戻ってくる
「んっ」
そのように短い言葉を発し、星斗へと返すように、荷物を前に差し出す金屋子神。
その手には、ライドウから預かった3種の神器、修復された霊剣、そして。
「……この小袋は?」
拳一つほどのサイズであろうか、小さな袋が一つ。
渡した荷物とは別で、新しく出てきたそれに困惑する星斗。
「粉、余ったヒヒイロカネ」
それは神器を修復の際に使用したヒヒイロカネ、その光粉の余り。
「加工、人でも使いやすい」
量こそ多くないが、もとはヒヒイロカネであり、秘められた力は尋常ならざるものであろう。
しかも、それを人の身でも扱えるよう加工してある状態と金屋子神は言う。
それが真実なら、その希少価値は星斗では計り知れず。
そんな扱いに困る一品を押し付けられて、どうしようかと思案している星斗に対して
更に追撃するのように金屋子神が言葉を放つ。
「報酬」
「……報酬ですか?」
そのあたりはすでに依頼主と金屋子神との間で済まされている認識であるため
報酬という言葉に疑問を覚える星斗。
「粉の」
そんな星斗の様子を察してか、追加で言葉を続ける金屋子神。
なるほど、ヒヒイロカネの光粉は別枠扱いなのか、と一端の納得を見せる星斗。
しかしながら、これほどの品に対して出せる対価など
自身は持ち合わせていないと、さらに困惑する。
「特に渡せるものなどは……」
「んっ」
星斗が言葉を言い終わる前に、金屋子神は動く。
その巨躯に相応しい長い両手を星斗の前へと広げ、持ち上げるような形で下半身に抱きつく。
目の前の神の突然の行動にあっけに取られる星斗。
どうにか振りほどこうとするも、その巨躯から生み出される力に、抗えるほどの力はなく。
「……いい匂い」
そう独り言の様に呟く金屋子神。
星斗の太ももに顔を埋めるように押し付け、匂いを嗅ぐ続ける。
突然のその行動にどう対応すればいいか分からず、星斗は固まってしまう。
特に危害を加えられているわけでもなし、仮にこの行動が金屋子神に対する報酬というなら
このままじっとしているのもまた自身の役目なのだろうか、と見当違いなこと考えてしまう。
…………
………
……
日の光が完全に差し込んでくる程度には、時間が経過しただろうか。
その間様々な考えを巡らせつつも、どうしたものかと困惑し続ける星斗であった。
しかしながら、それは思わぬ形で解決する事となる。
彼を抱きかかえる金屋子神のその横を、一本の刀が通過する。
それも目で追いきれぬ程の、すごい勢いで。
そして、星斗が刀の飛んできた方向に顔を向けると。
「離れなさい」
そこにはいつの間にか現れた、刀の主である葛葉ライドウがいた。
その表情はいつもと変わらないが、目の前の神に思うところはあるようで。
その証拠に金屋子神の横を通過した刀が、そのまま突き刺さった地面は
小さい隕石でも落ちてきたのかと思うほど、すごい抉れている。
そして金屋子神は星斗のふとももに埋めた顔を、少しだけライドウの方へと向ける。
僅かに見えるその顔からでも十分分かるほど、心底嫌そうな表情が見て取れた。
そして、ライドウに向けて一言放つ。
「嫉妬、みっともない」
「あなただけには言われたくありません」
…………
………
……
いくばくかのにらみ合い後、名残惜しそうに星斗の身体を地面へと降ろす金屋子神。
そしてその際、ライドウに聞こえないように声を放つ。
「ライドウ、女。ライドウ、匂いない」
そのように言葉を発して、不快感を露わにする金屋子神。
その物言いから、両者とも根本的な部分での相性の良くない様に星斗は感じた。
「ライドウ、怖い」
それはそうだと、星斗も同じことを思った。
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2021/08/26
誤字・脱字修正、ご指摘ありがとうございました
読者兄貴姉貴たちの女神転生シリーズプレイ状況について
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ほぼすべてプレイ済
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いくつかのナンバリングだけプレイ済
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ペルソナだけプレイ済
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上記以外の派生作品だけプレイ済
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二次創作による知識だけ
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前提知識なし、未プレイ
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その他