20XX年、メシア教会系列孤児院より
記憶のない少年、「賀茂 星斗(かもの ほしと)」が孤児院の院長より
お願いされていたのは次の二つだった
一つ目は、孤児院から外出する際は必ず自身と共に行動すること。
二つ目に、同期の女の子と積極的に交流して欲しいが、”直接目を合わせない”こと。
これらは、星斗自身がその身を守るための最低限のルールであると院長は語っていた。
右も左も分かっていないであろう星斗に、どのようなルールよりも優先すべきものであると。
丸眼鏡に無精ひげを生やし、真紅の衣の内側からも感じ取れるすこしふっくらした体形で
どこか抜けているような印象の院長だが、好々爺然とした態度で自分に優してくれる彼のことを
星斗は不思議と好ましく感じていた。
そんな彼のいう事ならば、と可能な限り遵守することを心の中で誓う。
仮にルールを破る時がくるなら、それ以上に大切な何かが出来た時だろう。
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この孤児院には不思議に思うことがいくつかあると、星斗は常々考えていた。
一つ目にその規模
都度来訪者はいるようだが、定住しているのは自身を含めてわずか3人。
だがその居住可能な規模は、ゆうに100名を超えるだろうと。
資金面の問題かとも考えたが、長く暮らしていれば何となくだがわかる。
”この孤児院はかなり裕福である”ということ、仮に居住可能な人数が
限界ぎりぎりまでいたとしても、おそらくは問題なくやっていけるであろう。
どことなく院長に孤児院の現状をたずねた際は、
「このような施設に人がいないことは、喜ばしいことなのですよ」と言われた。
何も間違ったことは言っていないし、実際その通りなのだろう。
だが、真意は別の所にあると星斗は何となく感じていた。
星斗自身は覚えていないが、この感覚は物事の本質を捉える「見鬼の才」と呼ばれる
彼が生来生まれ持ったもので、記憶喪失前は自身が”最も忌嫌っていた”ものだった。
二つ目にその構造
孤児院に来た当初は、漠然と複雑な構造の建物だと思っていた。
だが、少しの間の暮らしでその印象が変わる。
"複雑"というよりは"堅固"という言葉がしっくりくると。
孤児院周辺は外界からの干渉を防ぐためか、重厚かつ神秘的な外壁により守られており
物理、魔法両方に対して十二分な対策が施されていることが見て取れた。
さらに孤児院内部では、それを上回る高純度の魔術的防壁が張り巡らされており
それを突破するにはダース単位の術者が年単位で攻略に当たる必要があるように思われた。
星斗は、自身が持つ身に覚えのない知識(おそらくは自身が記憶を失う前に得たもの)から
総合してそのような判断を下すことになる。
最後に
自分とは別の、もう一人の女の子のちぐはぐな扱いについて
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重厚かつ神秘的な外壁に守られ、高純度の魔術的防壁が施される孤児院内部の
"さらに"その奥、許可なくば誰も立ち入れないその場所で、禁固されるように彼女はいた。
その扱いは、さながら仏教における秘神 大聖歓喜自在天 を祀り上げるがごとく。
おそらく、彼女をそこに閉じ込めた者には敬いと畏れ、その両方が混在していたのだろう。
そんな場所に星斗は朝昼晩の三回、毎日食事を届けることを日課としていた。
「ブレイズさん、入るよ」
「…………」
星斗は少女に声をかけるが、"いつも通り"返事はない。
もはや慣れ親しんだ行動に、少しのため息をつきながら部屋へと入っていく。
そこにいたのはいつもの見慣れた修道服を身にまとった少女。
名前を「Luna Blaze(ルナ・ブレイズ)」という。
ウィンプルと呼ばれる白い頭巾からは、少しだけトウヘッドの髪が
修道服からわずかに覗かせる白陶器のような肌が
そして、両目には”その全体を覆うように”布が巻きつけれらており
それは彼女に対する拘束具のように見えた。
「晩御飯、ここに置いておくね」
「…………」
相も変わらず返事はない。
孤児院に来てからすでに半年近く彼女との会話を試みているが、糸口は掴めない。
自身の言葉が聞こえていないのかも、と考えたことも合ったが
一度声をかけずに部屋に入った際、前回の食事で使用した皿を投げつけられたので
おそらくはこちらの言葉をちゃんと認識しているのだろうと星斗は考えていた。
何かしらの特殊な事情があることは察していた。
このような場所に監禁される少女が普通であるはずがないと。
もしかしたら、自身は人の形をした別の何かの相手をさせられているのではないか
と考えたこともあった。
だが、それと同時にそれでもいいかなと考えていた。
元より院長よりお願いされていることであるし、星斗自身も特に苦だとは感じていない。
そしてなにより、その態度と裏腹に彼女自身がそう求めているように見えていたからだ。
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星斗が彼女の部屋から出た時、院長から声を掛けられる。
「調子はどうかな、星斗君」
何がとは言わないが、何を聞きたいかは分かっていた。
星斗は無言で首を横に振る。
「なるほど、相も変わらずといったところでしょうか……」
院長はどうしたものかと言った具合に髭を撫でる。
その仕草には星斗を責めるような意図は感じられず。
ただただ、純粋に彼女の扱いに困っている様子が伺えた。
「院長先生は、彼女とどのようなお話をされているのでしょうか?」
どんなことでもいいので会話の糸口になるようなことは無いかと星斗は尋ねるが
今度は院長が首を横に振る。
「私が彼女にしているのは、説経を少々。それ以外はあなたと変わらないでしょう」
そして院長は続ける。
「私とあなたの立場が異なるのと同様に、私と彼女との立場も異なります。
……そして悲しいことに、私はそれにより彼女の真の理解者となることは難しいのです」
そう語る院長の表情は非常に複雑な感情が入り混じるようで
星斗には何を考えてのものか断片的にしか読み解くことができなかった。
しかし、次の瞬間にその表情が変化する。
「ただ、あなたと彼女なら或いは……、と私は考えています」
「私と彼女がですか?」
真剣な表情で話す院長に星斗は首を傾げる。
「はい、あなたは非常に勤勉で聡明、何より人の心を慮ることに非常に長けています」
続けて語る。
「そして、彼女に今一番必要なのは人としての心の成長です。
それはあなたの様な人間と触れ合う事こそが一番善いことだと私は考えています」
出会ってまだ半年足らず自分を随分買ってくれているものだと星斗は思う。
ただ、その院長からの信頼に星斗は純粋な嬉しさを感じた。
「時間を掛けてもいい。あなたのやり方で彼女に接してあげて下さい」
それはあなたにしか出来ないことなのだからと言い残し、院長は去っていく。
星斗は院長の言葉を噛みしめるめ、心に刻む。
「心の成長……か」
その日から星斗は、食事を運ぶと同時に本を一冊彼女に読み聞かせることにした。
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あれからさらに半年、星斗が孤児院に来て約一年の月日が流れていた。
院内の生活も少しずつ変化が出てきた。
一つ目は、星斗自身について
院内であれば自由に行動してよいとの許可が院長より出たこと。
院長は多忙なせいか孤児院にいないことも多々あり
院内だけとはいえ自分だけで自由な時間を過ごせる事に喜びを感じていた。
二つ目は、彼女との関係について
相も変わらずほとんど会話はないが、少しだけ分かったことがあった。
自分が読み聞かせている本の内容に興味を抱いてくれていること。
そして、月に二度ほどのペースで彼女の良い意味で感情が揺れ動いていることに。
彼女とはじめてまとも交流できたのも、そんな感情が揺れ動いている日だった。
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その日、星斗はいつも通り晩御飯を届けた後、本の読み聞かせを行っていた。
内容はどこにでもあるような寓話群のひとつ。
だがいつもと違っていたのは、その内容が彼女の琴線に触れるようなものだったことだろう。
「月ってキレイ……なのかな?」
彼女が発した言葉に一瞬声を失う。
一年越しに聞くことができた彼女の声は、おそらく久しぶりにそれを出すせいか
たどたどしく、若干の枯れ気味だと感じた。
しかしながら、そんなことを気にする暇などないといった勢いで
星斗はとにかく会話を試みる。
「見たことない?」
「……わかんない」
少女は話を続ける。
「ここに来て……長いし、前のことも……忘れた。
それに……これじゃ……ね」
自身の目に巻きつけられている布を指さす。
ガッチリと固められたそれの前には、月どころかそれが発するわずかな光さえ
彼女の前に届くことはないでろうことを星斗は理解した。
「それは……」
「とれる……けど、とれない」
星斗が疑問を発しようとしたタイミングで彼女が割り込む。
そして続ける。
「とっちゃ……だめだって」
「めいわくに……なるからって」
そういうと少女は再び黙り込む。
自分に出来ることはこれ以上ないと言わんばかりに。
だが、そこには"悲しみ"という感情が確かにあった。
彼女の詳しい事情なんて星斗は知らない。
だが、諦めたくなかった。
今まで積み重ね、育てて来た彼女の心の芽を。
無駄にしたくなかった。
こんな中でも言葉を発してくれた、彼女の勇気を。
叶えてあげたかった。
何もできないと、諦念した心に芽生えた彼女の願いを。
そして星斗は、彼女の手を取る。
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暖かい手のぬくもりを直接感じる。
「かってに……でるの……だめ」
ねじれた器が暖かいもので満たされていく感覚を覚える。
「カーディナルに……おこられる」
今まで無かったものが、自身の内側から芽生えているのを実感する。
星斗は彼女からどのような言葉が出ても、それを無視し
それと反比例するかのように歩みは早くなっていく。
目指すは孤児院の中庭。
木々や草花が生い茂るそこは、ちょうど空がよく見える作りとなっている。
幸いなことに、本日は晴れ。満天の星が夜空を照らしてくれているはずだと星斗は考えていた。
そして、彼は気付いていなかったが"満月"の夜でもあった。
特になんの障害もなく、星斗と彼女は中庭に到着する。
空には雲一つなく、満天の星と満月が全てを光照らしている。
そんな中、唯一暗闇の中にいるであろう彼女の
その原因となるものを星斗は取り払う。
それを彼女は抵抗らしい抵抗もせず、受け入れる。
その瞬間、彼女の世界は光で包まれることとなる。
話に聞くだけだった空、それに浮かぶ月、光。
初めてみた光景なのに、どこか懐かしいような感覚を抱く。
おそらく、自身のルーツに関係しているのだろうと彼女は直感的に感じていた。
だが、そんなことよりも彼女は別のものに釘付けだった。
それは満月の光よりも、それに照らされて光り輝く星。
自身の手に届く範囲にあるそれを、彼女は自身の紅い瞳で見つめ続けていた。
彼女、ルナ・ブレイズが初めて認識する人間のそれは
みなが欲望と呼ぶものだった。
月は星光に照らされ、その身は満ち欠けゆく。
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2021/06/19
2021/06/29
2021/07/09
2021/08/03
誤字・脱字修正、ご指摘ありがとうございました!
読者兄貴姉貴たちの女神転生シリーズプレイ状況について
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ほぼすべてプレイ済
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いくつかのナンバリングだけプレイ済
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ペルソナだけプレイ済
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上記以外の派生作品だけプレイ済
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二次創作による知識だけ
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前提知識なし、未プレイ
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その他