「それじゃあ、お仕事してくるから、ちょっと待っててね!」
空はそう言い残し、この場から離れて行く。
残された三人は、彼女の仕事が終わるまで近くのベンチにて待機することとした。
ベンチに座る星斗、それに続くように彼を挟んで左側にライドウ、右側にはルナ
その広さに対し、両者共に気持ち中央に寄っているように見える。
そんな位置取りに、妙な息苦しさを感じる星斗であったが
その事は一旦置いておき、それよりも真っ先に疑問に思った事を言葉に出す。
「……ルナ」
「んー……なに……、ほー君?」
「どうして、ここに?」
それは、ルナがこの場にいることに対しての純粋な疑問。
「……待ってるの」
星斗の前では、全てを包み隠さずに答えるルナであったが
その質問に対する彼女の返答は、要領を得たものではなく、詳細は分からずじまい。
しかしながら、星斗が引き続き質問を繰り返すことはなかった。
それは必要以上の追及を行うという行為自体を、ためらってしまったのが大きく。
小さい頃と何も変わらない、そのたどたどしい言葉遣い。
言葉を投げかければ、返事がある。視線を向ければ、見返してくれる。
ただ、これだけで事でも、ルナにとっては、精一杯の行動であるという事実。
思えば幼い事より一緒にいた院長の前ですら、最低限の感情しか見せていなかった。
それも、その場所に自分がいたおかげであったのかと、今になって星斗は思う。
もしかしたら、何気ない日常会話ですら、ルナにとっては何かを犠牲にしているのではないか
その様な事が脳裏に浮かび、星斗は彼女への扱いに関して慎重にならざるを得なかった。
しかしながらそんな星斗とは対照的に、ライドウはルナに対して特段気にした様子もなく。
「……彼女の事、どう思いますか?」
そんなライドウの様子に、思わずそんな質問をしてしまう星斗。
彼のその言葉に反応してか、彼女は少し目を閉じて考えるような仕草をする。
しかしながら、それもすぐに終わり、言葉を放つ。
「力を得るために代償を払う事は、それほど珍しくありません」
そう言いつつルナの方に目を向けるライドウ。
その言葉の中には、特別な感情はなにもなく、ただただ事実を述べるのみ。
「それを他人が、とやかく言うものではありません」
それが本人の意志によるものならば、と注釈を付けライドウは星斗へと自身の意見を伝える。
確かに彼女にとって、ルナは先ほど初めて会った赤の他人であり
星斗と違う考えを持つことが至極当然の話である。
むしろライドウのような考えこそが、この業界においては一般的であり
星斗が抱えているこの感情こそが異端であろう。
「それに……」
続いてライドウは言葉を放ちつつルナから視線を外し、今度は星斗の方に目を向ける。
そこには先ほどまでとは異なり、ある種の特別な感情が込められていた。
「私から見れば、あなたも彼女とそれほど変わりません」
「…………」
そのライドウの指摘に、思わず黙り込む星斗。
傍から見れば、彼女のその意見を肯定しているようにしか見えず。
また、そんな彼の様子などお構いなしに彼女は言葉を続ける。
「それも前より、酷い」
短く、しかしながら強い口調で言葉を発するライドウ。
実際の所、ライドウが星斗の依頼についてきた一番の理由は、それであった。
詳細こそ分からないが彼の持つ力の流れが、以前と比べより歪なものに彼女には見えた。
最初の戦闘を見たときから、ライドウはそのなりふり構わない星斗のやり方に苦言を呈しており
出来ることならその様な危ないやり方は、すぐにでも止めて欲しいという気持ちを持っていた。
しかしながら、ライドウがそれを止める事はない。
止める事ができないと言ってもいい。
「私は、あなたに戦うなとは、もう言えません」
それを聞いて、幼い星斗がどう思ったかは、今となっては誰も分からない。
しかしそれでも過去の過ちを、再度繰り返すかもしれない行為を、彼女は良しとせず。
だがしかし、星斗の意志を尊重しつつも、彼を守るために最低限の事はしてあげたい。
それが今ライドウの中で今一番強く思っている事であった。
「ただより悪い方向へ向かうようなら、私にも考えがあります」
「……考えとは?」
星斗の言葉に、冗談めかしてような様子で言葉を続けるライドウ。
「一先ず、閉じ込めて、動けないようにして……」
「いや、それ以上はいいです」
そうですか、とすぐさま言葉を止めるライドウ。
さすがに冗談が過ぎるとは思ったが、それだけ自身の身を心配してくれているのだろう
と無理やり納得する星斗。
そのように星斗が考えているとライドウは彼からその視線を外し、再度ルナの方に目を向ける。
その言葉には先ほどまでとは異なり、特別な感情が込められていた。
「あと、ちょっと苛ついてきたので、もう少し離れて下さい」
…………
………
……
少し時間が経過した後、星斗たちの元に空が戻ってくる。
そのやりきった表情から、今回の仕事も無事終了した事が伺えた。
あまり真面目に仕事をするようなタイプには見えないが
そのあたりはしっかりしているのかと感心する星斗。
そんな失礼な事を考えている彼の方を見つめ、空が言葉を発する。
「ところで、パパとお姉ちゃんたちはどんな関係なの?」
そんな空の言葉に、ライドウが小さく反応する。
平静を装ってはいるが、星斗がどのような返事をするか聞き耳を立てている状態である。
そしてその言葉に対して、濁すような回答を行う星斗。
「金髪のお姉ちゃんとは幼馴染、黒髪のお姉ちゃんとは仕事仲間ってところかな」
嘘は言っていないが、本当の事も言っていないと言った感じである。
「そうなんだ」
そんな星斗の回答に不思議そうに返事を返す空。
「そこの金パツのお姉ちゃんは、半分パパみたいな感じだから、家族かと思ってた」
「……あー」
それは空だからこそ分かる、他者の生体マグネタイトの本質的な所を感じ取っての疑問。
何故だか羨ましさが含まれるその発言に、星斗は若干の心当たりがあった。
長い間、星斗の生体マグネタイトを糧に成長してきたルナにとって
少なくない部分が彼の影響を受けていることは想像に難くなく。
おそらくは、見る人が見ればそういった考えをしても、おかしくないのだろうと。
そんな事を星斗が考えていると、隣のライドウがおもむろに立ち上がりルナの方へと歩み寄る。
そして、言葉を返さないと分かっていながらも、彼女へと問いただす様に言葉を放つ。
「あなた、何をしたんですか?」
「……」
勿論ルナはライドウの言葉に反応することはなく。
しかしながら、そんな彼女の様子などお構いなしに彼女は言葉を続ける。
「えっちな事ですか、えっちな事なんですか!?」
他者にそのエネルギーを分け与える事自体、それほど珍しい行為ではない。
ただし、それを行うための方法はある程度絞られてくる。
メジャー所でいえば、道教における房中術など男女の交合によるものなど。
空のわずかな言葉から、一瞬でその考えに至ったのは流石と言わざるを得ないが
顔を真っ赤している姿からは、その聡明さが少しも感じとれないのが残念な所である。
そしてそんなライドウの様子を見かねて、星斗がルナの代わりに弁明するのように言葉を放つ。
「そんな事はやってません……多分」
「多分!?」
その曖昧な物言いが良くなかったのか、弁明に失敗する星斗。
彼の記憶を辿れば、ルナとの間に合ったのはせいぜい粘膜交換までとの認識だが
いかんせん、その頃は記憶が曖昧な期間が長く、事実無根であると断定することはできず。
少しの間騒いでいたライドウであったが、その答えを誰も持ち合わせていないことに
気付いたのか落ち着きを取り戻し、元の位置へと戻っていく。
しかし、その去り際に捨て台詞のようにルナに一言。
「私は
…………
………
……
「さてと、それじゃあ、はいこれ!」
ライドウとの問答が一段落ついたのを見計らい、空は星斗の目の前に小さな瓶を置く。
中には、薄茶色の液体、嫌な感じは特にしない。
「……これは?」
「サイコダイブの準備、これ飲むと入口が開きやすくなるんだって!」
確かに飲み物には、その精神性に作用することは一般的に知れ渡っていることである。
リラックスするためにハーブティ等を嗜むことは、誰しもが行う行為であり
目の前の液体もそれに準ずるものだと、星斗は考えた。
「……サイコダイブ」
その単語に、ライドウが何かを察したように反応する。
だがあえて、それを無視して目の前の液体を見つめる続ける星斗。
どうするかは、ここに来る前から決めていた。
星斗は目の前の瓶を手に取り、口元へと持っていく。
その行為を、空も、ルナも、陽乃も誰も止めない。
空は、彼の事をもっと知りたいから。
ルナは、彼の行う事は正しいと信じているから。
陽乃は、彼のやりたい事を止めるような真似が出来ないから。
そして、誰も止める者がいないまま、液体は星斗の体内へと入っていき
その意識はより高みへと至り、途絶える。
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「ここは……」
目の前には白く広い空間、そこからは数多の道が延びて、交差し、屈折している。
その全体構造を知らなければ、どこに進めばいいか、まず分からないだろう。
「やぁ、調子はどうかな?」
そんな中、ライドウの目の前にスーツを着た男性らしき人物が現れる。
そして彼女にはその姿に見覚えがあった。
「あなたは……」
「こうして話すのは初めてかな」
それは、星斗の仲間であるヒュプノスであった。
何故自身の目の前に彼の仲間がいるのか分からず困惑するライドウ。
そして何よりも、先ほどまで一緒にいた空、ルナの姿も見えない。
「他は……」
「心配することはない、それぞれの案内人と別の経路を進んでいる」
そうヒュプノスが言葉を発すると、ライドウの手を取り立ち上がらせる。
「我々は
そう言って、ヒュプノスはライドウを先導するように
淀みない足取りで目の前の道を進んでいく。
「では、一緒にマスターの辿ってきた
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2021/09/02
誤字・脱字修正、ご指摘ありがとうございました!
読者兄貴姉貴たちの女神転生シリーズプレイ状況について
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ほぼすべてプレイ済
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いくつかのナンバリングだけプレイ済
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ペルソナだけプレイ済
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上記以外の派生作品だけプレイ済
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二次創作による知識だけ
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前提知識なし、未プレイ
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その他