女神転生RTA 「東京崩壊防止チャート」   作:マテチャ

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Part 01 イベント後編

 20XX年、メシア教会系列孤児院より 2年目

 

 

 相も変わらず、星斗は本日も自身の日課をこなしていく。

 それは彼女へ食事を運ぶという、孤児院に来てから一年間毎日行ってきたものだ。

 

 

 この孤児院にいる限り、おそらくはずっと続けていくであろうそれについて

 星斗自身、特に不満などは感じていなかった。

 

 

 それが大切なことあると十二分に理解していたし

 他の誰かから頼られるという状況に、存外の充実感を覚えていた。

 

 

 

 

 そして、そんな日々の中でも確かに変わるものはある。

 

 

「ほー君、……どうか……した?」

「なんでもないよ、ルナ」

 

 

 夕食を頬張りながら、不思議そうにこちらを見つめる彼女に星斗は答える。

 

 

 一緒に月を見たあの日から、星斗と"ルナ"との関係は著しく変化していた。

 

 

 一つ目は、お互いを名前で呼びあう仲となったこと。

 これは、ルナが提案し星斗が快く受け入れたものだ。

 ルナからの歩み寄りがあったことにひどく感動したことを今でも覚えている。

 

 

 そして二つ目は、その距離感

 

 

「ほらルナ、食べ残りが口の周りについてるよ」

「……んっ」

 

 

 その言葉に応じるようにルナは口を星斗の方へと向ける。

 "膝の受けに座っているルナ"に対して、星斗はハンカチでやさしくその口元を拭う。

 

 

 あの日から、物理的な距離が異様に近くなった。

 星斗がルナにその理由を聞いた際、ただ一言「あったかいから」と言い放つ。

 

 

 星斗にはルナが言った言葉の意図が上手く伝わらなかったが

 おそらくは、対人経験少なさにより他人との距離感が掴めていないのだろうと自己解釈を行う。

 

 

 事実ルナの言葉遣いにはたどたどしいと感じる部分が多々あり

 星斗にはそれが何かに苦慮しながら声を発しているように見えていた。

 

 

 だがそれでいい。ルナが心を開いてくれたことが大事であり

 "普通の人付き合い"についてはこれから学んで行けばいいと星斗は考えていた。

 時間ならまだ十分にあるのだからと。

 

 

 

 

 幾許かの時が過ぎ、星斗はおもむろに立ち上がる。

 

 

「もう……じかん?」

「うん、そろそろ戻らないと」

 

 

 ルナは名残惜しそうに星斗を見つめる。

 その感情を読み取ってか、フォローするように星斗は言葉を放つ。

 

 

「また、明日の朝に来るから」

「うん……」

 

 

 どこか残念そうなルナの言葉を聞き、最初の頃に比べると

 随分仲良くなったものだ、と嬉しい気持ちになりながら星斗は部屋を出ていく。

 

 

 そして星斗がいなくなった部屋で、ルナは星斗のいた場所に体を埋める。

 そのぬくもりが、体から、心から消えてしまわない様にと。

 

 

 

 

 

 

 

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「調子の方はよさそうですね、星斗君」

 

 

 星斗が彼女の部屋から出た際、ふいに院長から声を掛けられる。

 その顔には、いつも通り好々爺然とした優しげな笑みが浮かべられていた。

 

 

「ええ、ルナも大分心を開いてくれているようです」

 

 

 院長の言葉に、星斗は嬉しそうに言葉を返す。

 それには自身の行動がようやく身を結んだ事に対する喜びがにじみ出ていた。

 

 

「大変喜ばしいことです。主もお喜びでしょう」

 

 

 星斗の言葉を聞き、院長は顔を綻ばせる。

 しかし次の瞬間には真剣な表情になり、星斗に質問を投げかける。

 

 

「時に星斗君。一応の確認ですが、私との約束は違えていませんね?」

 

 

 約束とは星斗が最初に院長に言われたこと。

 勝手の外出、そして"ルナと直接目を合わせないこと"を指している。

 

 

 星斗の一瞬顔が強張る。目を合わせていないことは間違いない。

 だがあの日、ルナの目に掛かる布を取り外した際の記憶が脳裏をよぎる。

 

 

 そして星斗が何かを言い掛ける前、割り込むように院長が言葉を放つ。

 

 

「いえ、あなたの様子から問題ないことは重々承知しています」

 

 

 当然その通りであると言わんばかりの言葉遣いに星斗は黙りこむ。

 そして、さらに追い打ちを掛けるように院長は言葉を続ける。

 

 

「ですが、改めての忠告です。

 決して私との約束を努々忘れない様に」

 

 

 その言葉に星斗は黙って頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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 日々の日課について二年が過ぎ、もうすぐ三年目に差し掛かろうかという時

 星斗は一つの重大な懸念を抱いていた。

 

 

「……ほー君、ほー君」

「なんだい、ルナ?」

「よんでみた……だけ……フヒ」

 

 

 ルナの言動について、最初は単なるコミュニケーション不足によるものかと考えていたが

 もしかしたら元々その性質が陰気によっているような気がすると。

 誤解を畏れずに言えば、性根が根暗であるという事である。

 

 

「ほー君……あったかい……っん」

 

 

 そのくせ、物理的な距離感の詰め方が尋常ではない。

 少し前まで膝の上に座るのが精々だったが、それに追加して

 今では対面で向かい合うような形をとることが多くなった。

 

 

 はたから見れば恋人がじゃれ合う様なその仕草に、星斗は気が気でなかった。

 

 

 精神の幼さとは異なり、肉体は少女から大人のそれに変わっていく段階にあるようで

 その肢体からは、女性特有の柔らかさと魅惑的な匂いを感じ取れた。

 

 

 さらに対面から密着されることで、確かに隆起する双丘が

 分厚い修道服の下からでも大きく主張しているのが分かる。

 

 

 流石にこれは不味いと感じた星斗はルナを引き離しにかかる。

 

 

「ルナ、すこし離れて……」

「っん……いや」

 

 

 だが、ルナは星斗を力強く抱きしめ、離さない。

 

 

「ずっと……こうして……よっ」

 

 

 ルナの顔が星斗に近づく。

 額と額が、鼻先と鼻先が、唇と唇がくっ付こうかという距離。

 

 

 そして、その距離になって初めて星斗の目が布越しにルナの目を認識する。

 決して見えぬはずのその目の奥に、星斗は確かな死を感じ取ってしまった。

 

 

 瞬間、星斗は頭の中がぐちゃぐちゃにシェイクされるよな感覚に襲われる。

 "いままで自分が培ってきた土台が崩れ落ちる"音が聞こえた。

 

 

「ほー……君?」

 

 

 ルナが星斗の異常な状況に気が付き、体を離す。

 しかし、星斗の症状は収まらない。

 

 

 このまま、ここに、"ルナの前に"いては行けないと感じた星斗は

 湧き出る嗚咽をこらえながら、その場を後にする。

 

 

 たどたどしく歩く星斗の後姿を、ルナはただ眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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 激しい頭痛に苛まれながらルナの部屋を出た星斗。

 そんな彼の前に、タイミングを見計らったかのように院長が現れる。

 

 

「おやおや、どうしましたか星斗君」

 

 

 このような状況にもかかわらず

 その顔には、いつも通り好々爺然とした優しげな笑みを浮かべられていた。

 

 

「院長……先生、……院長?」

 

 

 いつも通りの様相で声をかけられた星斗は淀んだ思考の中でふと我に返る。

 "誰だこの男は"と。

 

 

「ふむ、どうやら解けかけているようですね」

 

 

 そんな星斗の考えを読み取ってか、院長は残念そうな表情を浮かべる。

 

 

「どうやら私との約束を破ってしまったようですね。

 だがまぁ、すこし治療すれば元通りになるでしょう」

 

 

 院長が言葉を発するが、星斗は反応できない。

 

 

「大切なお役目に穴を開けてしまうことにはなりますが

 "ルナ様"には私から伝えておくので大丈夫ですよ」

 

 

 意識が遠のいていく。

 

 

「今は何も考えず、ゆっくりとお休みなさい」

 

 

 

 

 

 

 

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 院長、いや枢機卿(カーディナル)が何かを言っている。

 しかしながら、ルナには彼の言葉がほとんど耳に入ってこなかった。

 

 

 一部聞き取れたのは、星斗の治療には一ヶ月程度の時間を要すること。

 そしてその間、星斗と顔を合わせることが出来ないということ。

 

 

 それを聞いただけで、ルナは目の前が真っ暗になるような感覚に陥った。

 星斗のいない一日は、出会う前の何もなかった数年より遥かに暗澹たる思いにさせた。

 

 

 彼はルナにとっての光だった。

 何も持っていないと思っていた、自身の内側にあるものを照らしてくれた光。

 彼という指針が無ければ、前にも後ろにもを歩けない。

 

 

 その暖かさに一度触れてしまえば、前の自分には二度と戻れない。

 彼がいない人生など、もう想像も付かない。

 

 

 私は常に彼に寄り添い、彼は私に寄り添ってくれる。

 私のという人間は、彼がいて初めて輪郭を持つことができる。

 

 

 そこまで考えて、ルナはようやく思い至る。

 彼こそが私という存在をこの世に創造してくれた「神」そのものであることに。

 

 

 

 

 

 

 

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 一ヶ月の治療を経て、星斗は再び日課を再開する。

 

 

 こんなに長い間ルナと会わないのは初めてだったせいだろうか

 どこか心の中にざわついたものを感じながら、ルナの部屋へと足を運ぶ。

 

 

 そこにはいつも通り、星斗を待つルナがいた。

 いつもの修道服からはわずかに覗かせる白陶器のような肌が見える。

 ウィンプルと呼ばれる白い頭巾からは、少しだけトウヘッドの髪が出ている。

 

 

 そして、"両目の紅い瞳"が星斗をしっかりと捉えていた。

 

 

「ほー君、これからも……ずっと……いっしょだよ」

 

 

 星斗には一瞬、ルナの背中に白い翼が六枚あるように見えた。

 

 

 

 

 

 神が言われた、「光あれ」 そして光があった。

 

 

 

 

 

 




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2021/06/29
2021/08/03
誤字・脱字修正、ご指摘ありがとうございました!

読者兄貴姉貴たちの女神転生シリーズプレイ状況について

  • ほぼすべてプレイ済
  • いくつかのナンバリングだけプレイ済
  • ペルソナだけプレイ済
  • 上記以外の派生作品だけプレイ済
  • 二次創作による知識だけ
  • 前提知識なし、未プレイ
  • その他
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