20XX年、メシア教会系列孤児院より 3年目
星斗が孤児院という名の隔離施設に来てから、おおよそ三年の月日が経過していた。
少年時代の三年といえば人生の何割かを占めるため、本人にとっては長く感じるものだ。
しかしながら、断続的に続く治療という名の"洗脳"と無意識下による"邪視"の影響により
星斗の認知能力は常人のそれを大きく下回る状態となってしまっていた。
今の星斗には孤児院で過ごす日々が、本の頁を読み飛ばす様な
もしくはゲームの会話をスキップする様な感覚で足早に過ぎ去っていた。
現実と虚構の狭間、混濁した意識の中で、それでも最後の一線を保てていたのは
奇しくもそうなった原因の一つである、ルナとの日々のやり取りのおかげであった。
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隔離施設のさらに秘奥、内外からの干渉を拒絶するそこで二人は向かい合うように
絡み合うように、そしてルナが一方的に跪く様な形で星斗は椅子に座していた。
衣服は必要最低限で、互いの肌が露わとなっている。
ルナの口腔は星斗の胸先へ、未成熟の双丘は鼠径部へと
意図せず強引に押し付けるような体勢となっていた。
傍から見れば劣情を煽り立てるそれは、実体として捕食に近い行為である。
「ほー……くん……ンチュッ」
血か汗か涙か、もしくは別の何かか。
極限の状況下の中、異常な精神的/肉体的負荷により星斗から滴り落ちる
自身の体液と混ざりあったそれを、ルナは一心不乱に舐め取っていた。
ルナにとってのそれは、どんな食事よりも甘美的で
同時に自身の胎を熱く火照させる不思議な行為であった。
ルナの瞳を見たあの時から、星斗は体の自由がきかない状態に陥っていた。
それ以前では、星斗がルナの面倒を見ることが日課であったが
今ではその立場が逆転し、ルナのなすがままに世話をされるのが星斗の日常となっていた。
そこに星斗の意志は存在せず、ただ人形や偶像のような扱いであり
その日々から抜け出すのに、半年以上の月日を要した。
「ルナ……、そろそろ止めて……くれ」
半年を過ぎたある日から、ルナによる支配が徐々に緩くなっていく感覚を星斗は覚える。
その時は状況が状況であったため、その理由など気にも留めなかったが
後々に長時間の負荷により、ある程度の精神耐性を後天的に身に付けたことがわかった。
相変わらず体の自由はきかないが、一言二言程度なら
言葉を発することが出来る様になったのは、星斗にとって極めて僥倖なことだった。
「んっ……」
星斗の言葉にルナは素直に従う。
今の今まで、ルナは星斗の要求を一度として拒否することはなかった。
星斗にはその理由が分らなかったが、自身の自由意志を行使できるという
その一点を希望として抱き続けることで、何とか自己を保つことに成功していた。
しかしながら、現状ルナが何をしでかすか分からない以上不用意な行動は取れない
と星斗は考えており、彼女への要求は慎重に行うこととする。
何が彼女の琴線に触れるか分からない恐怖の中、星斗がようやく
この部屋からでる自由を手に入れたのは、さらに半年近くが経過した後だった。
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結論から言えば、それは非常にあっさりしたもので
ルナに一言"外に出たい"というだけで、それの願いは叶った。
ルナを連れ出したあの日と同じように、中庭からみえる満月を眺めながら
星斗はなぜこんな簡単なことに、あんな時間を費やしたのかと思っていた。
しかしながら、今はそんなこと思考に時間を割いている余裕はなく。
一刻も早く、この孤児院から離れ安全な場所へ逃げ出すことだけを星斗は考える。
外からは内がうかがい知れず、内からは外へと逃げ出すことができない。
まさに監獄のようなこの場所に居続けては、自分という存在がいつ壊れてもおかしくない。
まともに動かない体を叱咤して、星斗は駆け出していく。
ただ、本能に従い生きることを優先するため。
しかしながら、なんの力も準備もない行動に結果が伴うわけもなく。
当然の権利かの如く、星斗の目の前には一体の悪魔が立ちはだかった。
黒いフード付きのコートの様なものを羽織り、その中身は暗く
背後には自身の身長大の車輪が、その軸の先には炎を灯されるように浮かんでいた。
「座天使 ソロネ」 天使のヒエラルキー第三位に数えられる上級天使の一体である。
「おやおや、こんな夜更けにお客とは珍しい」
態度は紳士的、しかしその声色には強く問いただすような意志を感じる。
星斗はどうやってこの場を切り抜けようかと必死で考えを巡らすが
しかしそれと同時に、ソロネは星斗の顔見つめ何かに気が付く。
「あなたは、ルナ様の……」
ソロネから問いただすような意志は消え、代わりに別の感情が生まれる。
そこには若干の憐れみと侮蔑が存在していた。
「はやく元の場所にお戻りなさい、あのお方もそれをお望みでしょう」
その態度とは裏腹に、ソロネが優し気に言葉放つ。
そこには星斗が今の今まで受けてきた、それに近しい力があることを感じ取った。
「くっ……!!」
朦朧とした意識の中で、星斗は歯を食いしばりギリギリのところでその言葉に抗う。
それを可能としたは、それ以上の力を受けてきた苦い経験と
生きようとする意志の力によるものだった。
星斗のその立ち振る舞いに、ソロネは驚愕と憤懣の念を抱く。
「おやおや、私の洗脳から抗うとは……
腐ってもあのお方の餌に選ばれるだけの事はあるということでしょうか」
その丁寧な言葉遣いの端々に、ソロネの怒りが染み出てているのを星斗は感じとっていた。
非常に不味い。その感情を思い浮かべた時にはすでに遅く。
「ですが、穏便にすませようとした私の心遣いを無下にするとは
たかが餌には過ぎたる行為です」
星斗の周りに炎の柱が上がる。退路は塞がれ、為す術もなく。
「少々痛い目をみて貰いましょうか」
ただ、目の前の暴力を受け入れることしか星斗には出来なかった。
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「ふむ、思いのほか時間がかかりましたね」
ソロネがそういって見下ろす先には、倒れ込んだ星斗がいた。
まさに気息奄々といった様子で、その体には多数の裂傷と熱傷が多々見られ
必要以上に責められた跡が垣間見れた。
その点について、ソロネ自身は大事な餌をここまで傷つけるつもりはなかったが
ただの人間にしては思った以上に動きがよく、結果加減を見誤った形となってしまう。
さて、意識はあるようだが後処理はどうするかを考えていた最中
一つの影が月に照らし出されるのにソロネは気が付いた。
そこにはその光景をみて呆然とした表情のルナが立ち尽くしていた。
「おまえが……、やったの?」
震え声で、泣きそうな声でルナは問いただす。
そこには怒りやら後悔やら様々な感情が入り混じっていることが見て取れた。
そんな感情の機微に気付く事もなく
ソロネはルナの言葉に当然のことかのように言い返す。
「えぇ、どうやら逃げ出そうとしていたので
死なない程度に痛めつけておきました」
瞬間、ルナの体から魔力が溢れだし、周りの木々がなぎ倒される。
感情の激しい起伏により、一種のトランス状態に陥ったルナは
幸か不幸かその身に宿る潜在的な力の一端を開放することに成功していた。
「ゆる……さ……ないっ!」
つまりは"聖人"としての己が身に宿る"死を司る"守護天使の力をである。
本来なら後十数年の時を経て完成するはずのねじれた器が
奇しくも星斗という餌を得たことで急激に成長し、齢十を過ぎる程度で
そのあふれ出る力を受け容れるに足る受け皿へと変容していた。
その様子にソロネは言葉を失い、ただ立ち尽くすのみ。
しかしそれとは対照的に、その傷だらけの身のどこにあったかは不明だが
自身が持つ最後の力をふり絞り、星斗はルナを制止する。
そこの言葉の意図は、自分でも測りかねてながらも。
「ルナ、止めるんだ……!」
確かに言葉はルナの耳に届いた。
しかし、魔術の源たる満天の月の光に照らされ、膨張した魔力は止まらず。
指向性を持ったそれをソロネへと放つ
──────メ ギ ド ラ──────
瞬間、高純度の魔術的防壁である外壁の一部と共に
座天使 ソロネは跡形もなく消え去った。
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星斗が最後にふり絞った言葉は意味がなく。
外壁を破壊し、座天使を消滅させてなおルナのトランス状態は解除されていなかった。
このままでは、この辺一体が更地になるのも止む無し。
そういった懸念すら生まれようとする中、彼女は唐突に現れた。
「ようやく見つけたわ」
背中まで掛かる長い黒髪、全身赤のスーツを身にまとい
腰には何本か筒状のものをぶら下げた女性が星斗をみて話しかける。
「ひどい怪我……、少し我慢してね」
そういうと女性は腰にぶら下げた筒状のものを手に取り呪文を唱える。
──────ソーマ神権現──────
その瞬間、一瞬にして星斗の傷が癒えていく。
あれだけあった裂傷や熱傷を含め丸ごとである。
まさに奇跡としか言いようの光景を、さも当然かのように見つめながら
女性は言葉を発する。
「まさか、こんな強力な結界の中で隠匿されていただなんて」
自身が依頼を受けてから約三年。
ようやくありとあらゆる場所に網を仕掛け、ようやくお目当ての反応をしたのが
メシア教会が管理するこの施設だった。
ただ、この施設が魔術的に万全の状態であったならば
流石の女性でも星斗を見つけ出すことは出来なかったであろう。
「あなたが施設の一部を壊してくれたおかげかしら?」
そういって女性はルナの方へ目を向ける。
トランス状態のルナは彼女をもってして油断ならない相手だと
感じさせる凄味があった。
「この気配、七大天使クラスね。
それに、満月によってその力が増幅している……」
その力の源にだいたいの予想をつける。
おそらく自身が考えている通りなら、まず負けることはない。
しかしながら、やり合うつもりは毛頭なかった。
「ここでメシア教と本格的に事を構えるつもりはないわ」
彼女はあくまでフリーのサマナーである。
あからさまに特定勢力へ、ヘイトを向ける行為を良しとはしなかった。
「だけど元はと言えば、あなた達が私の依頼の邪魔をしてきたんだから。
すこしぐらい痛い目に合って貰いましょうか」
そういうと、彼女は別の筒を手に取る。
それをみたルナは本能から、その手を封じるかのように先ほどと同じ攻撃を行う。
しかし、遅い。
──────満月の女王──────
彼女の同質かつ、さらに強大な力によりルナが吹き飛ばされる。
手加減されたせいか、気を失う程度で済み、同時にトランス状態が解除される。
「満月で力を得るのは、あなただけの特権ではないということ覚えておくといいわ」
そういって、女性は星斗を連れて施設を後にした。
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すべてが終わり施設の中で目が覚めた際、ルナは自身の行動に動揺していた。
それは、壁を壊したことでもなくソロネを消滅させた事でもない。
確かに聞こえていた、自身が信じる神の命令を破ってしまったことに。
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2021/06/29
2021/07/01
2021/08/03
誤字・脱字修正、ご指摘ありがとうございました!
読者兄貴姉貴たちの女神転生シリーズプレイ状況について
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ほぼすべてプレイ済
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いくつかのナンバリングだけプレイ済
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ペルソナだけプレイ済
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上記以外の派生作品だけプレイ済
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二次創作による知識だけ
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前提知識なし、未プレイ
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