Fate/Immaculate Whiteness 作:クリサンテモ
聖杯戦争ーーーあらゆる願いを叶える「聖杯」を得るために、7人のマスターと7騎のサーヴァントが最後の1組になるまで互いに相争う。そして最後の1組だけが奇跡を手にする魔術儀式。
マキリ、アインツベルン、遠坂が作り上げたこの類を見ない大儀式は5回目の戦いを最後にして解体されるーー筈だった。
5年前の
これは正史から外れた歴史。第6次聖杯戦争の物語である。
◇
鈴蘭市。日本の地方都市の一つであり近年再開発が進む普通の都市である。
だが、魔術師ー裏の世界の人々からしてみれば、また違った一面を持った都市である。ここには日本で有数の強力な霊脈を抱えた土地である。
とはいえ所詮は極東の片田舎。協会などの組織の目もあって滅多なことは起きない。
その日も普通の日常が続いていく、その筈だった。
「さあ、これからだ。」
都心都心中心部から北にある山ーー大蔵山、その地下空洞。本来人など来ないそこに、2つの人影があった。
「すでに4騎。あとの3騎もすぐに召喚されるだろう。」
1人は喜びを隠しきれなそうな顔をしている50代半ばほどの男。
「ほう、漸く4騎か。随分と余を待たせたではないか、マスターよ。」
もう1人は山野に不釣り合いな豪奢な格好を身に纏っている男。
「私に言われても困る、ランサー。」
そう言って困ったようにマスターと呼ばれた男は面前にあるそれを見つめる。
「私としても始められるものなら早々に始めたかったが、こちらの準備も整わない内に攻められては困る。何より、あれらの調整もあったものだしな。」
「責めてはおらぬ。戦いの前準備は最も重要なもの。それを疎かにするものを、マスターなどとは認めぬ。それで、あと残っているクラスは何だ、申すがいい。」
「生憎とそこまでは。先日交戦したバーサーカー以外に2騎召喚されていることは、これの調子から分かるが、クラスまでは。尤も、町を見る限りキャスターはまだ召喚されてはいないだろうが。」
男はそう言いながら町の方を睨む。すべては長年の悲願を叶えるために。
「さあ、聖杯戦争を始めよう。」
◇
「魔力回路、よし。残魔力量、よし。結界、よし。本日も異常なし。」
都市南の海の先。程よく離れた無人島。そこにその少女はいた。日本人とは明らかに異なる小麦色の肌に、砂漠に住む人々のような格好をした、どこか神秘的な少女。
彼女は魔術師ーー否、錬金術師である。アトラス院、人類の滅亡を防ぐために日夜計算をし続ける狂人たち。彼女はその一員であり、彼女の知る人類の滅亡を防ぐために、奇跡を求めた。
「魔力の大量消費。事前にわかっていたこととはいえ、なかなかに....いえ、問題ありません。計算の範囲内です。」
そう言うがいなや、彼女は一つの礼装を取り出す。魔除けの効果を持った3流礼装。この地に着いたのち、襲いかかってきた魔術師から拝借したものである。それを取りだし、強く握りしめたその瞬間、その礼装が砂のように崩れた。
それは本来の性能を発揮することなく、彼女手によって意味を消失した。
それを成した少女ーーライハーナ・ユーサラム・メルヴィスーーは少し疲れが取れた様子でソファに座る。
「先日のランサー陣営との交戦。それ以来他陣営との接触も絶っていましたが、それもここまでですね。計算では、そろそろこの戦いは大きく動く。」
彼女は計算を続ける。あらゆる可能性をシミュレートし続ける。それがアトラスの錬金術師。
そして勝利の道筋を組み立てる。負けは許されない。自身には、為すべきことがあるのだから。
「すべては、あの結果を覆すために...!」
◇
「おいおいおい! 全く敵もいねぇじゃねえか!どうなってやがる、マスター!」
「ふむ、確かに妙だな。」
町で最も高いビルの上。赤い男が横にいる青年へ怒鳴りかける。
「恐らくは、まだ召喚されていないサーヴァントが多いのだろう。現に、現状確認されているのはランサーとバーサーカーのみ。ましてやこんな街中で戦いをさせるとも思えない。そもそも、今回の主目的は戦場の把握。戦うことではないぞ、アーチャー。」
「ちっ、しけてやがる。特に北の山の一部を更地にしたバーサーカーと殺り合うのを楽しみにしてたっつーのに。」
そう言いながら赤い男ーーアーチャーは苛立ったように町を見渡す。人間の街。己が生きていた頃とは比べ物にならない技術力。それを見つめて、
「あぁ、くだんねぇ。」
短く悪態を吐く。神々から離れたのはいい。しかし、所詮は人間。我々に蹂躙されるだけのか弱い者たち。
「.....帰還するぞ、アーチャー。今夜はこれ以上収穫はないだろう。これ以上は無駄だ。」
青年はそう言って階段に向かう。野性味のする端正な顔の青年だ。その金色の髪はどこかくすんでいる。
「しゃあねぇ。今日のところは勘弁してやる。ったく、せっかく忌々しい英雄どもを殺してやれるとおもったのによ。」
「随分と大きくでるな、アーチャー。貴様を殺したのもまた、人間だろうに。」
アーチャーは英雄ではない。反英雄。英雄に打ち倒されることで逆説的に善を証明する者。それに違わず、アーチャーもまた英雄に打ち倒された。
「それはあの糞神どもがあいつを助けたからだろ。そうじゃなきゃ俺が勝ってた。」
「そういうものか。」
青年は口ではそう言いながら、内心は肯定する。チンピラのような物言いだが、アーチャーは神すら打ち倒す恐るべき戦士。文と武を兼ね備えた戦いの申し子。もちろん、相手も偉業を成し遂げた英雄。一筋縄ではいかない相手ばかりだろう。事実、先日のランサーとバーサーカーの戦いは深い爪痕を大地に残し、興味本位で来た魔術師の幾らかは早々に逃げ帰った。しかし、それでもなお断言できる。アーチャーはこの戦いで最強クラスのサーヴァントだと。
そして確信する。このサーヴァントを従えた自分に敵はいないと。
「ふっ、奇跡は私のものだ。」
◇
『マスターに報告。アーチャー陣営は今夜は無駄だと判断して拠点に撤退する模様。』
「わかりました。では他に街にいる陣営はいませんか?」
鈴蘭市の南、海の近くの邸宅。そこでマスターである女性は己のサーヴァントと念話をしていた。
『いや、バーサーカー陣営は工房に籠っており、ランサー陣営も姿が見えず、同じく工房に籠っているものと考えられます。』
女性の頭の中で声が響く。その声はとても透き通った美しい声であり、同時に己の全てを持ってかれるような、そんな魔性の声だった。
「そ、それはあなたの宝具をもってしても捉えられないと?」
女性ーシャロン・ハミルトンーはその声に若干聞き惚けながらも、自身のサーヴァントへ問いかける。
『残念ながら。というか、大丈夫ですか?今、少し引きずり込まれていたりしてませんでしたか?ぼーっとしてませんでしたか?』
そんなマスターに必要な答えは返しつつも、マスターの心配を、否、揶揄った。
「そそそ、そんなこと、あっ、ありません!いいから、監視を続けなさい!」
『はーい。わかりました。それじゃあ、また何かあったら連絡しますね、マスター。』
そう言ってアサシンは念話を切った。直後、シャロンは疲れたようにソファに崩れ落ちる。
「はぁ、だめですね、私。」
大きくため息を吐く。先生の、時計塔の代表としてここにいるというのにこの体たらく。一時期お世話になった、いつも眉間に皺のよっているあの先生に知られたら、怒られること必至だろうな、などと考える。
シャロン・ハミルトン。彼女は聖杯確認のために集められた魔術協会の先行部隊の一員であった。それが何の因果か令呪が宿り、こうしてアサシンのマスターとして参加することとなってしまったのだから、運命とはわからないものである。
彼女に願い事はない。たかが6代続いただけのどこにでもいる魔術師の家系。根源なんていける筈もないし、大それた願いもない。
なぜ自分なのだろう。そう自問自答するも答えは出ない。ならばせめて、大恩ある先生のために勝ち残って大聖杯を手に入れよう、そう考える。
自身の召喚したサーヴァントはアサシンであり、伝説的な暗殺教団の19人の長の一人である。性格にこそは多少問題あれど、その実力は申し分ない。そこに協会のバックアップがあれば、勝ち上がるのは不可能でない。そう考えていると、
『マスター‼︎』
「っ!どうしましたか!アサシン!」
『可愛い猫がいる!連れて帰ってもいい?」
「....ちゃんと働きなさい、この駄目サーヴァント‼︎」
やっぱりダメかもしれない。
◇
「あー、寒い寒い。まだ夜は冷えるね。」
人気のない雑木林の中、そう言いながら地面に幾何学模様を書いいる少女がいた。
まだ歳は15〜16くらいであり、こんな時間にこんな場所にいるのがバレれば警官による補導は待ったなしである。
しかし、彼女はそんなことを気にも留めない。当然だ。彼女もまた、神秘の徒である魔術師なのだから。
天野凛華。それが彼女の名前である。一見日本人らしい黒髪黒目にポニーテールで髪を纏めた普通の少女に見えるが、その行なっていることは普通ではない。魔法陣ーおとぎ話に出てくるようなそれを、こんな夜更けに外で描いているような少女など普通はあり得ない。
彼女は持ってきたメモと見比べながらそれを描く。
「よしっ。こんなもんかな。」
彼女は魔法陣を描き終える。それはー英霊召喚のための魔法陣であった。
そして厳重に封印して持ってきたその剣先を魔法陣の中心に置くと、詠唱を開始した。
◇
どうしてこんなことに。
それは両手足を縛られ、床に転がされている少年、ガルシア・
翼人はメキシコ人の父と日本人の母を持つハーフであり、地元の高校に通うごく普通の一般人である。
魔術などとは一切無縁の生活を送り、今日も友達に誘われて海沿いにあるホラースポットと化した廃倉庫に(こんな時期にとは思いつつ)肝試しに来ただけだった。
そして倉庫に立ち入った瞬間、謎の重圧が身体中を駆け巡り、目覚めれば手足を縛られていた。
周りを見れば、一緒に来た友達3人も同じように縛られ、転がされてた。
「おい、大丈夫か⁉︎おい、起きろって!」
いくら叫んでも誰も目覚める気配はない。そのまま起こすために叫び続けていると、
「があっ!」
瞬間、身体中に雷が落ちたかのような刺激が翼人のに走る。
「あ、あがががが!」
「うるせえぞ、ガキ。」
あまりの痛みに苦しんでいると、奥の扉から大柄な男が入ってくる。
「テメェらはみんな生贄だ。大人しくしとけばいいんだよ。.....にしても、なんでこのガキだけ起きやがった?まあいい。もう一度眠ってもらうぜ。もう目覚めることもないだろうがな。」
「あああああああああ!!!」
翼人は泣き叫ぶ。なぜこんなことにならねばならないのかと。自分はただ、友達と楽しく遊びたかっただけなのに。侵入禁止の場所に入ろうとしたせいか?だからといって、殺される程の謂れはない筈だ。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
父の、母の、弟の、祖母の、祖父の、学校の友達を、、部活の先輩を、部活の後輩を、学校の先生を、バイト先の同僚を、叔父を、従兄弟を、昔一緒に遊んだきりの人を、皆を。
それら全てが走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
「それでは始めるか。英霊召喚を...!」
少年は痛みにのたうちながら生贄となって死ぬ。
しかし、いかなる運命のいたずらか。天は彼を選んだ。
◇
「よし、完成だ。」
都市中心部より東。海に流れていく雪仲川を越えた先、鈴蘭市屈指の大邸宅がそこにはあった。
そこに住むのは天海家。鈴蘭市では知らぬ人のいない名家であり資産家、というのが表の顔である。
その実態は鈴蘭市のセカンドオーナーの家系であり、10代以上続く魔術の大家である。
5年前の事件で先代当主は亡くなり、まだ子供であった先代の一人息子が当主となり、若干その力を衰えるも、日本に名だたる魔術の名家であることは変わらない。
その現当主、天海慧は地下の工房にて魔法陣を完成させていた。
およそ1週間前、突然手の甲に謎の魔術的な紋章が浮かび上がり、その後聖杯戦争がここ鈴蘭市で起こると騒ぎになると、慧は急いで聖杯戦争について調べ上げた。
7人のマスターと7騎のサーヴァントの万能の願望機を巡った殺し合い。
それを知った慧はすぐさま準備を整えた。流石に急すぎたため、良い聖遺物を手に入れることこそはできなかったが、召喚方法などは頭に入っている。
あとは出たとこ勝負だとして、慧は詠唱を開始する。
◇
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至 る三叉路は循環せよ。」
奇しくも、その時3つの召喚が同時に為された。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じ よ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。」
それぞれの思いを載せて、
「ーーーー告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」
今、此処に、
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷しく者。」
全ての
「汝 三大の言霊を纏う七天し、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
_
◇
現れたのは3騎の英霊
「サーヴァント、ライダー。聖杯の導きに従い現界しました。騎士として、必ずや我がマスターに勝利を捧げましょう。」
それは折れた剣を振るう清廉なる騎士。
「サーヴァント、キャスター。求めに応じ現界しました。私のマスターはあなたですね。」
それは鮮やかな格好をした術師。
「召喚、正常に起動確認。サーヴァント、セイバー。此処に現界を致しました。人間、あなたが私のマスターですね。」
そして、それは魔剣を携えた純白の少女。
今此処に新たな