Fate/Immaculate Whiteness 作:クリサンテモ
「召喚、正常に起動確認。サーヴァント、セイバー。此処に現界を致しました。人間、あなたが私のマスターですね。」
慧は目を見開く。当然、成功させるつもりであったのだから、その成功は嬉しい。ましてや最優のクラスであるセイバーを引き当てるとは、との思いもある。
だが、それ以上に驚いたのはそのセイバー自身とその手に持っている剣だ。
純白。そう言い表すのが正しいだろうか。身長は150〜160cmくらい。美しい銀色の髪を肩のところまで伸ばし、目は碧い。天女のような白い衣にその身を包んでいる。
だが、その手に持つ剣は異様だ。黄金の柄と全体に不気味な紋様が浮かんだ刀身。見ている人の欲望を駆り立てるかのような薄気味悪ささえ感じる。セイバーの印象から完全に真逆だ。
少なくとも、もちろん少女というだけでもそうだが、慧が思い描くような「英雄」とはまた異なっていた。
「あ、ああ。そうだ。俺は天海慧。君を召喚したマスターだ。君も、僕のサーヴァントということで間違いないね?」
「ええ、相違ありません。よろしくお願いします、マスター。」
「ああ、よろしくっと。」
慧は無事サーヴァントを召喚できた安堵のためか、思わずよろめいてしまった。無理もない。いくら大聖杯からの助けがあるとはいえ、1番重要なのはマスターからの魔力供給だ。慧の中からごそっと魔力が持っていかれる。その反動は馬鹿にならない。
「....はぁ、本日の戦闘は無理そうですか。」
ため息を吐いて残念そうに呟くセイバー。
「ああ、悪い。ちょっと今日は休ませてくれ。」
慧は素直に謝る。自身にもっと魔力さえあったらなどと思う。せめて5年前のあの事件さえなければ、などと思いながら地下室を出ようとする。
しかし、体は思った以上に疲れているのか、思ったように動かない。無理もない。令呪が宿ったおよそ1週間前から、慧は聖杯戦争の情報を調べるのにいっぱいいっぱいだったのだから。
そこに、
「....肩を貸しましょう。」
そう言いながらセイバーは慧の肩を支える。
サーヴァントも所詮は使い魔であっても、セイバーは滅多に見ないような西洋風美少女。このように密着されては慧の心臓がもたない。
「い、いや。大丈夫だ。セイバー。自分一人で歩けるから。」
その好意はありがたいが、それ以上に自分の心臓がまずいと思った慧はやんわりと断る。するとそれを聞いたセイバーは、
「そうですか。」
「ぶぎゃ。」
あっさりと手を離した。支えを失った慧の体は重力に従って落下し、打ち落とされるとともに情けない声を出した。
いくらなんでもこれはないだろう、慧はそう思う。
「う、うぐぅ。」
慧は辛うじて自身のベッドまで辿り着くと、すぐに襲ってきた睡魔に身を委ねる。
この先やっていけるだろうか、そう考えながら、慧の意識は薄れていった。
◇
午前11時。それが慧の目覚めた時刻であった。
本来学生である慧はとっくに起きていなければならない時刻だが、問題はない。今日は土曜日であるし、そもそも聖杯戦争中は学校に行く気もないのだから。
聖杯戦争、その単語が頭に浮かぶと同時に、昨夜自身が召喚したセイバーを思い出す。
そういえば、あの時は疲れていていたのもあったが、彼女の好意を無碍にしてしまった。寝ている間のことも特に指示をしていない。そう思いながら、1階のリビングに降りる。
天海家は2階建ての大邸宅であり、鈴蘭市屈指の大きさを誇る。一人で住むにはあまりに大きすぎるその家は、普段ならば数名の家政婦を雇って清掃などを任せてはいるが、戦争戦争に参加するにあたって全員に暇を出した。状況次第では此処も戦場となり得る。そんな場所に一般人である彼女らを留めておくわけにはいかない。
故に、今現在この家には主人である慧と、そのサーヴァントであるセイバーしかいない。
余程のこともなければそう荒れることもないーーその筈だった。
「..............」
セイバーはそこにいた。
悲惨な状況となっっているキッチンの前で。
「..............」
慧は絶句した。
戸棚にあるレンジの中は卵が飛び散り、何故かコンロのスイッチは壊れている。フライパンの上の食材は黒焦げになっており、原型がわからない。
何があったらここまで荒れるのかと。キッチン道具を狙った新手の強盗でも、などと思ったがそんな強盗はいないし、セキュリティは万全だ。何者かが侵入すればすぐにわかる。
そんなふうに考えながら慧は下手人であろう少女を見つめる。その前惨劇の中で立ち尽くす彼女を。
「............」
「............」
互いに無言のまま立ち尽くす。
埒があかないので慧は意を決してセイバーに問いかける。
「セイバー.....マスターとして聞くぞ。何があった。」
「そうやら現代の器具と私の相性はよくないようです。」
「もう一度聞くぞ。何があった、答えろ、セイバー。
セイバーの要領を得ない答えに、慧は重ねて問いかけた。すると、セイバーも観念したのか正直に語り出した。
「いえ、マスターの具合が悪そうだったので何かできないかと思い行ったのですが、聖杯は現代の器具についての情報までは与えてくれず、色々やっていたらこうなりました。」
「こうなりました、じゃなけど...」
その善意はありがたい。確かにありがたいが、その結果この惨状を生み出したのなら、ありがたくはない。
セイバーもどこか申し訳なさそうな様子で慧を見つめる。
そんなセイバーを見た慧は、
「はっ、」
「マスター?」
「あはははははっ!」
おかしそうに笑った。意味のわからないセイバーはただただ困惑するばかりである。
「どうしたのですか?マスター?」
「いや、おかしくてつい。嫌な思いをさせちゃったのならごめん。ただ、サーヴァントも人なんだなって。」
不思議がるセイバーに慧はそう返す。
「いや、だってサーヴァントは英霊、人類史にその名を刻んだ豪傑たち。だからというか、どこか緊張してたんだよ。目の前のセイバーも僕なんかとは比べ物にならないすごい人なんだ、って。だけどそれが、目の前で普通の人みたいに失敗して、それがついおかしくて。」
慧からしてみれば、サーヴァントというのは遥か上の存在、とてつもない超人たちなのだと思っていた。
それがどうだ!目の前ですまなそうにしている少女は、まるで普通の人のようではないか!
慧はそれがおかしくて堪らない。
「普通の人みたい...」
笑われているセイバーは、そのことをちっとも気に留めずに慧の言った言葉を反芻している。それは生前、あの人しか言ってくれなかった言葉であり、とても複雑な言葉であった。
「まあ、そんなわけで僕は怒ってないから大丈夫。キッチンを直したいから手伝ってくれる?セイバー。」
「はい、手伝いましょう、マスター。」
2人はそう言ってキッチンを直していく。昨夜に会ったばかりの2人だったが、よそよそしい感じも少し消えていた。
「ところで...」
「? どうした? セイバー?」
突然、セイバーは言いにくそうに慧に話しかけた。
「実は...」
「どうした? なんでも大丈夫だぞ。」
「では、遠慮なく。一回奥のあの広い部屋。そこでも少し荒らしてしまってまして。それから...」
淡々と行われる余罪の自白。慧は死んだ目をしながらそれを聞いていたのだった。
◇
「おお、何という人の数でしょうか、マスター。これらの人全てがこの街で働いているとは。私の時代では考えられません!」
「ちょっと黙って、ライダー! 色んな人から見られてるからやめて!」
鈴蘭市中心部。地方にしては比較的発展したその街で、1組の男女が歩いていた。男の方はまるで騎士のような言動をしながら大声で話しており、少女の方はそれを必死に止めようとしていた。
「すみません、マスター。しかし、仕方ないでしょう。このような素晴らしき街を見せられては、この街を作った人々への賞賛をせざるを得ない。素晴らしき技術は賞賛されるべき。そうでしょう、我がマスター。」
その、まるで劇の役者が言うような口調で話すライダーと呼ばれた男は、周りの視線を釘付けにしていた。芝居がかった話し方もそうだが、それとは別に非常に整った顔立をしていた。太陽に輝く金色の髪に白のメッシュがかかり、いわゆるイケメンというやつであった。その口調も相まって、さながら本物の騎士のようだ。
「ここは! ただの! 地方都市! わかる⁉︎」
その横で叫んでいるのは高校生くらいの少女。マスターと呼ばれた彼女はその男を黙らせようと叫んでいるが、逆に目立つこととなってしまっている。
「なるほど、ではこれ以上の街がまだたくさんあると。素晴らしい! 人類がここまで進歩していたとは!」
そう言いながら進む男。その横で少女、天野凛華は引き止めにかかる。
「ちょっと! 最初の目的を忘れたの⁉︎ あくまで下見に来ただけだって!それなのにあっちこっち行って。しかも服まで強請るなんて。こんなサーヴァントきっと前代未聞よ!」
「勿論、覚えていますとも。我が君よ。服は心の底から感謝します。そして、下見だからこそ様々な場所に行くべきなのです。この土地に不慣れなのはマスターも同じなのでしょう? ならばあらゆる場所を見て回るべきではないでしょうか?」
「あんたねぇ...!」
天野が言い返そうとした、その瞬間だった。
「っ! すみません! マスター!」
「あっ!ちょっと!ライダー!」
突如、ライダーと呼ばれた男は走り出した。ライダーの走り出したその先、足元のバランスを崩して倒れそうになった妙齢の女性がいた。
「っ!危ない!」
その女性が転ぶその瞬間、ライダーはその女性をそっと抱きかかえると、
「お怪我はございませんか、ご婦人。」
そう言って優しく微笑みかけた。周りからは拍手と称賛の声。助けられた女性は驚きながら礼を述べると、
「いえ、美しき女性を助けるのは騎士の本懐。礼など要りませぬ。」
ライダーは恭しくそう言った。
少ししてライダーは主人である凛華の下へと戻り謝罪をした。
「すみません、マスター。説明もせぬまま飛び出してしまい。」
「別にいいわよ。そんな暇もなさそうだったし。というか本当にあなた騎士だったのね。少し見直したわ。」
「ええ、生前もよく言われました。正確には私、だけではなく私たちが、ですが。」
「それは聞きたくなかったなぁ。」
ライダーの軽口で思わずげんなりする凛華。それもそのはず、ライダーは最も有名な騎士の一団の1人であり、とある国では国民的英雄とまでされてるというのに。それがこんなのだとは。しかも彼だけではないというのだから。一体どれだけ脚色されていることやら。
「それじゃあ次はー』
気を取り直して次の目的地を指し示そうとすると、
「おお、あそこは何でしょう。とても楽しそうではないですか。行きましょう、マスター!」
「そこは、ただのゲーセン! って勝手に行かないで、ライダー!」
なんて自由なサーヴァントだ。心の中で悪態を吐きながら凛華は己のサーヴァントの後を追いかけた。
◇
どうしてこうなった。
それは半日前に心の中で呟いた言葉であり、今もまた少し異なった意味を持って少年、ガルシア・鳥院・翼人の中で繰り返された。
キャスター、そう名乗った20代半ば程の女性。黒髪黒目ではあるが日本人とはまた少し異なった顔立ち。カラフルな民族衣装を纏い、それでいてどこか威厳のある独特な女性。彼女は翼人を捕らえていた男をあっという間に気絶させると、翼人の前に跪いた。
魔術のことなど一切知らない翼人からしてみれば訳の分からない状況である。
とりあえず彼の友達をそれぞれ家に返した後、件の廃倉庫の中でキャスターは魔術と聖杯戦争について説明した。
魔術、聖杯、マスターにサーヴァント。日本のサブカルチャーに触れ続けてきた翼人にとって、魔術なんてものは空想上のものでしかなく、まさか現実に存在するとは思いもしなかった。そして、自分がその魔術を扱う魔術師6人と殺し合わねばならぬなど、そんなことは出来る筈がない。
翼人はメキシコ人と日本人のハーフという特質はあれど、あとはどこにでもいる普通の日本人。殺し合いどころか、喧嘩だってまともにしたことはない。
そんな自分が殺し合いなんて、そもそも実感が湧かない。そう翼人が思っていると、太陽も少し顔を出してきており、一旦翼人の家に帰ることとなった。
最初はキャスターを家に連れて帰ることに抵抗を覚えた翼人だが、霊体化によって姿を消せるということで、両親に気が付かれないことを条件に許可をした。
「ハヤト、その混乱は察します。何も知らないあなたはまるで初めて蛇の脱皮を見た人。理解が追いつくものではないでしょう。」
翼人の部屋で、キャスターはそう優しく語りかける。
翼人の家は極一般的な家庭であり、部屋に防音処置が施されてるわけでもない。本来ならば家の中でこのような話をしたくはないが、キャスターの魔術によって外部に声が漏れる心配もなくなっている。
「しかし、残念ながらあなたは既に巻き込まれた。故に決断をしなければなりません。」
キャスターは提示する。己のマスターが決めるべき道を。
「1つはこのまま戦いに身を投じること。6組の主従を倒し、聖杯を手に入れる道。あなたにはその権利がある。」
1つ目の道。それは聖杯戦争に参加すること。サーヴァントを召喚した翼人には、聖杯を手に入れる権利がある。
しかし、それは当然茨の道だ。魔術の“ま”の字も知らぬ子供が勝ち抜けるほど、聖杯戦争は甘くない。
故にキャスターは2つ目の道を指し示す。
「もう1つは私を自害させること。あなたは令呪を持っていない。サーヴァントさえ失えば、あなたを害する者はいないでしょう。」
そうなのだ。彼、ガルシア・鳥院・翼人は令呪を所持していない。令呪を持っていたのはあくまでも翼人たちを捕らえたあの男。
キャスターは召喚されるや否や男を気絶させ、翼人をマスターと仰いだ。もちろん、キャスターによって男の手から令呪は剥がされたが、翼人にはまだ移植をしていない。
そして、これがキャスターが薦める道である。
召喚される前、キャスターには召喚陣を通じて翼人の悲鳴が聞こえた。よりにもよって自身に人身御供を捧げるなど、キャスターは許せない。故にひとまず召喚主から令呪を奪い、ひとまず少年をマスターとして仰いだ。
しかし、それもここまでだ。現界するだけの魔力の問題もあるが、それ以上に目の前の少年をこのような世界に浸からせるわけには行けない。魔術などは忘れて普通の日常を生きてもらうことこそが、1番幸せな道である。
だが、あくまでも決めるのは彼である。だからこそ、最低限の情報を話し、問いかける。
あなたはそうしたいのか、と。
翼人は考える。キャスターの言う通り、彼女を自害させれば自分が襲われることはないのだろう。こんなことは忘れて普通に生きていくべきだ。
しかし、同時にこうとも考える。
彼女の、キャスターの「願い」は何なのか、とも。
彼女の話が正しければ、彼女もまた歴史に名を残した偉人であり、なんらかの望みを叶えるために、召喚に応じたのだと。
ゆえに、彼は問いかける。
「あなたは、キャスターさんは何か叶えたい願いがあるんですか?」
「ええ、確かにあります。しかしそれはあなたには関係ないでしょう。」
確かに、そうだ。
自分には関係はない。本人も了承している。だったら選ぶべき道は決まっているだろう?
自分に問いかける。決めるべき道を。自分のためにーーー
「いや、俺は戦う。」
少年はそう宣言した。
「何故ですか? 危険性は十分に伝えたと思ってますが。」
怪訝そうな顔でキャスターは問いかける。
「ああ、確かに聞いた。この戦いがどれだけ危険かは。それでも、俺は戦うよ。」
「.......その理由を聞いても?」
「決まってる。」
そう言って翼人はキャスターの目を見る。
「まだ恩を返してないから。」
「!!!」
「俺はキャスターさんに助けられた。だけど俺はあなたに何も返せていない。その上、自殺させるなんて....そんなこと、できるわけねぇよ!」
翼人は心の底からそう言い放った。
こんなふうに助けてもらってさよならなんてできるわけがない。もし父と母が知に知られても怒られること確実だ。
翼人はビビリですぐ楽な方に流されるただの学生。それでも、人として譲れない一線くらいはある。
「はぁ。」
「キャ、キャスター、さん?」
「まったく、少年ったら...」
キャスターは下を向いて小さく呟く。
「まったく私のかわいい
「っ⁉︎」
キャスターは嬉しそうに言いながら、翼人を抱きしめる。
「いいでしょう、サーヴァント・キャスター。真名をセ・アカトル・トピルツィン。ハヤト、私はあなたをマスターとして守り抜きましょう!」
そう言って、翼人のサーヴァントとしての宣言をしたキャスター/セ・アカトル・トピルツィンは己がマスターを守ると誓った。
「っっっっっっ‼︎」
そのマスターは彼女の胸の中で藻がいていたが。
◇
「セイバー、準備はいいか?」
「はい、魔力も問題ありません。マスター。」
夜、人々が寝静まった頃。聖杯戦争の戦いが始まる。
「へぇ。」
「どうした、アーチャー。」
勝ち残るのはただ一組。
「いや、面白れぇ剣持ったガキがいるからよ。ちょっと挨拶してやるか。」
「程々にな。」
聖杯は誰の手に。
キャスター
マスター:ロペス・鳥院・翼人
真名:セ・アカトル・トピルツィン
性別:女性
身長:161cm
体重:52kg
出典:史実、アステカ神話
地域:中米
属性:秩序・善
筋力C 耐久D 俊敏C 魔力A 幸運D 宝具EX
クラススキル:陣地作成A 道具作成A
固有スキル:神性B 啓示(偽)B
宝具:炎、神をも焼き尽くす(シウ・コアトル)
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解説
善神ケツァルコアトルと同一視されるトルテカの伝説的な「神官王」。それまで一般的だった人身御供を好まず、「トゥーラの法を定めた」と称賛された。一方で悪神テスカポリトカを信奉する者たちと対立し、遂には国を追われた。人々の前から去る際に、「私は一の葦の年に帰る。」と言い残して東へ去っていったとされる。一説には東へ逃れたトピルツィンはマヤの地で文化を広めたとも。