Fate/Immaculate Whiteness   作:クリサンテモ

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2月2日/夜 叛旗を掲げた少女

 4騎のサーヴァントの乱戦から次の夜、大きく欠けた月が天に登った夜。

 

 「光が点いてる......ということは、」

 「ええ、恐らく間違いないでしょう。本当によろしいのですね。」

 

 昨日とは違って今日の天海邸には電気が点いているーーー人が、いる。

 

 ならば遠慮はいらない。

 

 「? どういうことかわからないけど、いいわ。こいつがサーヴァントを召喚してないわけもないからね。」

 「わかりました。では、サーヴァント・ライダー。突撃します!」

 

 かくして2日目の戦いは始まった。

 

 

 「っ! なんだ!」

 「敵襲です、私の後ろに、マスター!」

 

 天海家。そこで休養のために睡眠をとっていた慧は石垣が突如何者かによって破壊された音によって叩き起こされた。魔術によって強固な守りとなっていた石垣、そんなものを力任せに破壊できるのは、それこそ人智を超えた存在ーーーサーヴァントくらいなものだろう。

 

 慧は寝起きの脳を必死に動かして考える。アサシンやキャスターではないだろう。バーサーカーなら風雷が鳴り響く筈だ。昨日手助けしてくれたランサーがいきなりこんなことをしてくるとも思えない。ならば、アーチャーかライダー。そのどちらかだろう。そう考えながら、煙に包まれたシルエットを慧は強く睨みつける。

 

 その視線の先、黒馬に乗った騎士は欠けた剣をたからかに掲げて高らかに宣言した。

 

 「我こそはライダー。此度は我が主、天野凛華様によって召喚されたサーヴァントである。魔術師とサーヴァントよ、我が主のため、汝らを我が剣の錆としよう!」

 

 その堂々とした宣戦布告にセイバーが敵意でもって返す一方、慧はライダーが言ったマスターの名前に驚愕した。

 

 「天野......天野だって!そんなはずは、」

 「そんなはずが、何ですか。」

 

 そんな慧の前に現れたのは、久しく会っていなかった天海家の分家の跡取りであり、顔を見知っていた少女、天野凛華だった。

 

 

 「知り合いですか、マスター。」

 「知り合いというか......」

 

 慧は言いにくそうに口を濁す。しかしその目線の先にいる少女にブレることなく向けられている。視線の先の少女は険しい顔で慧を見ていた。

 

 「いやっ! 待ってくれ! 本当に君なのか、りんちゃ......」

 「そんな風に呼ばないでください。子供ですか?」

 「っ!」

 

 発する言葉も冷たく返された慧は何も言えずに立ち尽くす。どうして、なぜ聖杯戦争に参加しているのか、そんな思いが駆け巡るが、そんな隙を相手が見逃すはずもない。

 

 「ライダー!」

 「はっ!」

 

 凛華の掛け声とともにライダーが突撃する。馬という機動力を十全に活かして哀れな少年の首を狙う。セイバーは一歩遅れて反応するも、遅い。サーヴァントとはいえ徒歩と馬では、それこそ俊足の英雄でもない限り追いつくことはできない。

 

 立ち尽くしている慧は目前に迫った脅威に気づくも対抗する術はない。あるいは、ずっと気を張り巡らせていたのなら、この家に仕掛けられた魔術を起動させて間一髪免れたかもしれないが、そんなことは後の祭り。ここに第6次聖杯戦争最初の敗退者が出るーーーそう思われたはずだった。

 

 「え?」

 

 ライダーは慧の首を落とすことなくその横を通り過ぎていった。

 

 「え、ちょっと。何をしてるの、ライダー!」

 

 凛華は自身のサーヴァントに怒鳴りつける。明らかに殺せた場面だっただろうに。何故そのチャンスを不意にしたのかと。

 

 そんな当の本人は何か考えているように吃っている。

 

 「いえ、しかし、これは......。」

 「......ラ イ ダ ー?」

 「いえ、すみません。しかし... ええ、そうですね。」

 

 一人で何か考えてたと思うと、今度は一人で納得したように頷く。

 

 「マスター。」

 「言い訳は何、ライダー?」

 「私は今、この少年を切りません。」

 「は?」

 「それでは意味もないでしょうし。」

 

 何を言っているのだろうか、このサーヴァントは。そんな思いが凛華の頭を駆け巡る。

 

 「それに、今敵を切れとは命じられていなかったので。」

 「っー!だったらいいわよ。そいつを切りなさい、ライダー!」

 「.......了解しました、マスター。」

 

 そう言って改めて斬りかかるライダー。しかし、今度はセイバーの剣によって弾かれる。防がれたライダーは馬から飛び退くと、馬を消してセイバーに向き合う。

 

 「これは随分な魔剣ですね、セイバー。これだけの魔剣ならば所有者にも相応の災いが降り注ぎそうなものですが。」

 「......先日のアーチャーといい、どいつもこいつもお喋りが大好きですね!」

 

 ライダーの軽口にセイバーは嫌な顔をしながら勢いよく黒と金の魔剣を振りかざす。ライダーは器用に受け流すと、刺突で心臓を突き刺そうとするも、剣先が折れているためリーチが短いのが災いして、心臓へと届く前に避けられてしまう。

 

 ライダーは困ったように笑いながら、セイバーに剣先を向ける。

 

 「まったく、女性に剣を向けることになるとは。まあ、確かに女性騎士は生前にも会ったことがありますし、手合わせしたこともありましたが、彼女と違ってあなたは奇妙です。その手にしている剣と異なって、あなたのはどこかーー」

 

 ライダーがセイバーについて指摘している途中であったが、セイバーは気にせずに攻撃する。表情を一切変えないセイバーを見て、ライダーは彼女とは大違いだなと思いながら洗練された動きで切り返す。

 

 真夜中の天海邸に剣戟が鳴り響いていた。

 

 

 サーヴァント同士が剣の応酬をしている一方で、その慧は巻き込まれないために少しでも遠くに走っていた。否、本当に距離をとりたかったのはその戦いからではなくてーーー

 

 そんな慧の後ろから銀の閃光が彼を串刺しにせんと容赦なく飛んでくる。

 

 「っ!」

 

 慧は体を逸らして、掠りながらも辛うじて避ける。

 

 血が滲むも、その痛みが慧の心に喝を入れる。これは聖杯戦争だと。敵として向かい合った以上、やるべきことは一つであると。

 

 躱した閃光は旋回しながら再び慧の方へ飛来する。

 

 「其は屈強なる盾なり。」

 

 殺意の篭もったそれを、近くにあった紙を盾に変化させることで防ぐ。

 

 第一波を凌いだ慧は振り返って敵を見据える。追っていた少女も変わったその雰囲気を感じて立ち止まって出方を窺う。そんな彼女に慧は問いかける。

 

 「りんちゃ...いや、天野凛華。これは宗家である天海家への裏切り行為だ。それは分かってるね。」

 

 天野家は天海家の100年ほど前に別れた分家であり、もちろん現天海家当主である慧は何度も顔を合わせたこともある。これまで天野家は従順であり、これまで大規模な魔術儀式をする際も事前に天海家へ連絡していた。そのため、慧やその父である啓治、さらにはその先代からも信頼が厚かった。だが、今回の聖杯戦争に参加してくるなんてことは聞いていない。ましてや、このように本家の家に襲撃をかけてくるなど反抗以外の何者でもない。しかし、あの天野家が本当に裏切りをするのか、目の前の少女の独断なのか、などとも慧は考える。ーーー理由は心当たりがあるゆえに。

 そんな宗家の魔術師に反旗を翻した分家の魔術師は一族の決定を突きつける。

 

 「もちろん、分かっています。私の聖杯戦争への参加は当主である父からの命令ですから。」

 「っ!」

 「父からの命令は天海家を討ち取り聖杯を獲得せよ、ですか...らっ!」

 

 宣告すると同時に凛華は懐から極小の磨かれた鉄の針を取り出して投擲する。それ自体は何ら脅威ではない。しかし、慧は知っている。天野の魔術を。あらゆるものを徹底的に追い詰める猟犬の如き魔術を。

 

 意思を持ったように飛来するそれを、今度は紙の盾では防げないと判断して投げ捨てると自身の足にバネの特性を後付けして一気に距離を取って物置小屋の扉の前まで一気に跳躍した。無論、距離を取ったところで針は追い続ける。その上、肉体に直接負担の大きい特性を付与したことで、慧の足も悲鳴をあげた。だが、その目的は無事果たされた。

 

 一方で目の前から逃げられた凛華はその方向へと走る。先程までならともかく、覚悟を決めたあの男が何の考えもなしに肉体の負担が大きい身体への変化まで使って逃げるはずもない。そう思って駆け寄っていた時だった。

 

 「あっ、きゃ!」

 

 突然凛華の体が鉛になったように重くなった。いや、そう感じているだけである。凛華は慧が距離を取って何をしようとしていたか、遅まきながら気がついた。

 

 簡単な話だ。この家の結界を発動させただけだ。古い魔術の家柄である天海家には強力な結界が敷かれている。それこそ凛華程度の魔術師では突破できない程の結界が。最初はライダーの対魔力と黒馬の突進力によって楽々突破できたが、何も完全に壊されたわけではない。ましてや彼女らは既にライダーの突入場所から正反対の奥まで来てしまっている。これならば、少し時間さえあればその防衛魔術を発動させることもわけないということだ。

 

 重い体をどうにか支えながら凛華は後退を考える。正直、失敗した。このまま奥に進んでも負けるだけ。それよりも、少し崩れて効果も弱くなっているであろう最初の場所に戻った方がいい、そう考える。

 

 だが、それを許してくれるほど、この家の主人も甘くない。

 

 「形勢逆転だ、天野凛華。大人しく降参しろ。」

 

 苦しそうにしている凛華の目の前に木の棒を携えて仇敵がやって来る。

 

 「そんな状態じゃ戦うのは無理だ。大人しく降参してーー」

 「万象へ辿り着け、銀の針よ!」

 

 その仇敵に凛華は全力で3本の針を投擲した。先程とは違い、詠唱もして全霊でもって殺しにいく。

 

 棒を持った魔術師は一瞬驚いたように目を見開くも、針がその体を貫くことはなかった。その手にあった棒がまるで意思を持ったかのように動き、すべての針をへし折ったのだ。

 

 「驚いたけど、それは僕には届かないよ。今この棒には自動迎撃の効果が付けられている。万全な状態ならともかく、そんなよろよろの状態じゃあいくら「必中」の効果があったって僕には届かない。」

 

 「必中」。それが天野の魔術である。変化魔術の一側面でしかないそれを、一族の魔術にまで昇華させた初代から受け継がれてる魔術。天野家は「必ず中る/必ず辿り着く」という魔術で根源を目指す魔術師たちだ。

 

 だが、それも未だ真の意味での必中には遠く及ばない。あくまでもその目的に向かって追い続けることがせいぜいの魔術だ。

 

 自身の渾身の一撃も防がれて凛華は下を向く。慧は一瞬動揺するも、心を鬼にして意識を刈り取るためにその少女へと近づく。

 

 勝敗は決した。その慢心が命取りとなった。

 

 「っ! 今! 万象へ辿り着け、銀の針よ!」

 

 顔を伏せていた凛華が一転、顔を上げて詠唱をする。その手には何も握られていないにも関わらず。慧は驚きつつも、手に何も持っていないと確認したことで避けるのが遅れた。凛華を気絶させるために、棒の自動防御を解いて別のものへと変えてしまっていたことが最大の悪手だった。

 

 天野の「必中」の魔術は確実に目的に辿り着くことを第一とする魔術である。その魔術は当然即興で物に付与することもできるが、宝石に魔力を貯めておく宝石魔術のように、予めその物に魔力を込めておくこともできるのだ。当然ながら、まったく関係のない物や神秘のない物には無理でも、何かに辿り着くという意味を持った物には相性が良い。先程投げていたダーツの矢などはその典型だ。そのため、たかが折られた程度で落とされるはずもない。

 

 折られたて叩き落とされた針は主の命で再び目標へと発進する。そして、

 

 「がはっ!」

 

 それは的確に対象を穿つ。一本一本は小さくとも人体の急所を的確に狙った3本の針は確実に慧を苦しめる。

 

 「万象へ辿り着け、絶死の針よ!!」

 

 その隙を逃さぬよう、凛華は全霊を込めて切り札とも言える毒が塗られた針を放つ。

 

 それは普通の人間なら確実に死に至らしめる猛毒。この戦いのために用意した切り札の一つ。今こそ使い時だと2日目にしてそれは飛んで行った。

 

 慧も毒だとは気が付かずとも、明らかに虎の子であるのは感じ取った。どうにかそれを回避する方法を激痛の中で捻り出さんとする。

 

 そして、

 

 「ぐっ...はっ!」

 

 それは防がれた。

 

 棒への自動防御をかけなおした訳ではない。もっと単純にこの家の残っていた防衛機構をすべて防御にまわしたのだ。

 

 今回の凛華の最大のミスはわざわざ天海邸まで乗り込んで行ってしまったことに尽きる。魔術師の家、即ちの魔術師の工房とはただその魔術師の陣地という意味合いだけではなく、その魔術師の全てが注ぎ込まれた最上級の要塞である。本来、他の魔術師の工房に攻め込むのは自殺行為と同義であり、今回ライダーによって多少壊されようがその優位性は変わらない。慧が今後のことも考えて半壊した工房を酷使したくなかったためその機能をあまり使っていなかったが、それが十全に活かされれば、凛華は慧と工房内で戦った時点でそもそも詰んでいたのだ。

 

 最後の一発を防がれた凛華は一瞬呆然とするも、次の瞬間襲いかかってきた衝撃によって意識を手放した。

 

 勝者となった慧は体に刺さった針を抜いて目の前に倒れ伏す因縁のある少女を見つめる。まさか聖杯戦争で戦うことになるとは思わなかったが、これをきっかけとしてーーーそう考えていた目の前で件の少女は突如現れた黒馬に攫われていった。

 

 「なっ。ってあれは!」

 

 あまりの早業に呆然とすること数秒。その犯人である黒馬を思い返して慧は後を追った。

 

 

 他方、天海邸の入り口付近では未だ鉄が打ち合う音が響いていた。

 

 セイバーがリーチを活かしてライダーの剣の届かない距離を取ろうとするも、ライダーもそれを許さない。大きく踏み込んで逆に懐に入り込まんとする。

 

 既に双方とも所々に切り傷ができているが、まだ決定打はない。

 

 セイバーは機械のような正確さと蛮族のような荒々しさが混じったような剣で、ライダーは騎士の洗練された剣をもって敵を討たんとするも、互いに崩せずにいた。

 

 「しかし、素晴らしい剣技だ。だというのにその手で振るわれているのが魔剣だとは! 私はなんとも残念でならない。」

 「魔剣だろうが聖剣だろうが、たいして変わらないでしょう。」

 

 ライダーはまるで芝居がかったようにため息をついて残念がる。

 

 「確かに、敵を切るという点では変わらないかもしれません。しかし、あなたがそれを言うのですか?」

 「どういう意味です。」

 「あなたのマスターにしたことです。」

 「!」

 

 ライダーの言葉にセイバーは目に見えて動揺する。まるで触れられたくないことに触れられたといわんばかりに。

 

 「私の目は少し良いので。断言します。そうなった以上、貴方と貴方のマスターに訪れる未来はーーー」

 「u(ウルズ)!」

 

 魔剣士は衝動に任せてに原初のルーンを解放する。ルーンによって破壊力が増した魔剣を突き刺すように敵の心臓へ繰り出す。ライダーも積み重ねられてきた戦闘経験がこれは危険だと察知する。

 

 「ぐっ!」

 

 ライダーの口から苦しそうな声と血が漏れる。寸前で後退しながら身を捻って直撃は躱したものの、ライダーの脇腹からは血が流れていた。完全には躱しきれなかったのだ。赤い血を浴びたその魔剣はまるで喜んでいるかのように妖しく光る。一方で、その攻撃を放ったセイバーも自身を省みないほどの重い一撃だったために容易には止まれず、ライダーから3mほど離れたところでどうにか止まった。

 

 ライダーは血を流しながらも戦意に満ちた顔で剣を構えた。この程度、生前の戦場でいくらでもあった。むしろここからだと。

 

 しかし、この戦いは突然終わりを告げる。ライダーは何かに気がついたかのように顔を険しくすると、大きく飛び退いて剣を下ろしたのだ。セイバーは剣を下ろさずにライダーの不可解な行動を観察する。

 

 「何のつもりですか、ライダー。」

 「すまない、セイバー。騎士として、貴殿と決着の着くまで存分に剣を交えたかったが、今日はここまでのようだ。」

 

 ライダーの撤退宣言の直後、黒馬がライダーのマスターである凛華を咥えて走ってきた。

 

 ライダーは黒馬が放り投げた、気絶している凛華を抱えると同時に黒馬に跨がる。

 

 「では今宵はさらばだ、セイバー!次会う時は主従共々万全になっていることを願っている!」

 

 そう言って駆けていく黒馬に跨がってライダー主従は夜の街に消える。

 

 「はあ、はあ、セイバー! りんちゃんとライダーは!」

 「すみません。私が不甲斐ないばかりに逃してしまいました。」

 

 セイバーの背後から息を切らした慧が駆け寄って来る。

 

 慧はセイバーの報告を聞きつつも、目の前の半壊した石垣とボロボロになった結界を見て乾いた笑いをする他なかった。

 




ライダー
マスター:天野凛華
身長:181cm
体重:76kg
属性:秩序・善
筋力:A 耐久B 俊敏D 魔力C 幸運A 宝具A
クラス別スキル:騎乗A+ 対魔力A
固有スキル:聖騎士A 心眼(真):B ■■の加護A-
宝具
 ■■■■■■■■(■■■■・■■■■)
 ■■■■(■■■■■■■)

解説
 ライダーのサーヴァント。主人を重んじて行動するが、そのためなら命令に背くことも厭わない問題騎士。
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