トレセン学園コック長   作:ブランチランチ

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誤字報告ありがとうございます。

今回、没案としたコック長がもったいなく感じ
おまけとして追加いたしました。

どちらもお楽しみ頂けたら幸いです。


あの時の思い出

「テイオー達は外で遊んでくるそうです」

 

「そうか」

 

生徒会室、会長席に座るシンボリルドルフは目を閉じていた。何処か懐かしいものを思い出そうとしてるように見える。

 

「会長、お聞きしても良いですか?」

 

「コック長のことかな?」

 

「はい、以前に会っているとの事ですが」

 

「ああ、まったく彼がコック長だったとは現実は甘くないな」

 

はぁっとため息を吐くシンボリルドルフは何処か遠い目をしていた。

 

「聞いてくれ」

 

 

 

 

市長自らが大会運営をし、月1回開催されるレース。未来のスター選手を市から出し観光地とする為に!!という建前のもと。毎回レースを観戦しに来る市長は根っからのレースファンであり未熟ながら懸命に走るウマ娘達を前に毎回涙を流すほどである。

 

そんな大会に私はパパとママに連れられてチビッコレースに参加し見事1着を取った。

 

1着でゴールしてパパとママに頭を撫でてもらい、気分が高揚していたのが悪かったのだろう。

 

先導している気になっていたが、いつの間にか逸れてしまった。

 

「パパァ、ママァ」

 

もう会えないのでは?無性に不安が大きくなる。必死に周りを見渡すがパパもママもいない。周りは私の事など、いないかの如く誰も注意を向けるものがいなかった。

視界は歪み遂に雫が溢れる。

 

「うわぁぁぁん」

 

ちらりと、見る人が何人かいるが自ら厄介毎に首を突っ込む者はいない。

お人好ししか

 

「嬢ちゃん、さっきレースで1着取ったウマ娘じゃないか」

 

私に視線を合わせてしゃがむ青年は大会関係者の腕章を見せて笑った。

 

「大丈夫、心配事は俺が何とかするから泣き止みな!!あんなに立派に走ったんだ。もうちょっとの辛抱さ」

 

爽やかな笑顔でサムズアップする。お兄さんはとても頼もしく見えた。

 

「うん、がんばる」

 

服の袖で涙を拭く私に慌ててハンカチを渡す。

 

「可愛い顔が台無しだ、ちょっと先に関係者テントがあるから一緒に行こう」

 

「うん」

 

優しく手を握ってくれるお兄さんはゆっくりと私に合わせて歩いてくれる。

 

テントに着くと私の名前を聞かれた。

 

「ルナちゃん、今からパパとママを呼ぶからちょっと待っててね〜、これ飲んで座ってて」

 

パイプ椅子に座るとニンジンジュースをくれた。

 

「おいしい」

 

「よかった、お腹空いてない?」

 

「ちょっとだけ」

 

「わかった、軽くなんか持ってくるね」

 

程なくしてお兄さんが戻ってきた。

 

「ピザトーストとパフェだよー」

 

お皿には4つに切り分けられたピザトースト、透明なカップに入れられたパフェがあった。

 

「パフェ!!」

 

好きなものは最後に食べる私は、先にピザトーストを口に入れた。

 

「!?」

 

1口で涙目になった。

 

「??」

 

「に、苦いよぉ」

 

チーズに隠れてて見えなかった子供の天敵、緑の悪魔が潜んでいた。

慌ててニンジンジュースで口の中の苦味を退治する。

 

「ああ!!ごめんね、ルナちゃん!!パフェ、パフェ食べよう!」

 

慌ててパフェを差し出す青年。

 

「うん」

 

何となくまだ、苦い気がする。

目の前のパフェを食べて忘れよう。

 

パフェはソフトクリームにチョコが散りばめられ、茶色で筒状のお菓子が刺さっている。

カップの中にはある程度形を残したクッキーと思われるものがあり薄紫色のものが層を作っていた。

 

まず、ソフトクリームにをスプーンを入れて口に運ぶ。ソフトクリームに混じったチョコの味も加わり2種類の味を楽しめる。

刺さったお菓子を引き抜き、口に入れるとブルーベリーヨーグルトの味が広がる。二口目にはソフトクリームの味にかわり変化を楽しめた。食べ進める度に足の変わるパフェにスプーンが止まらない。最下層のクッキーもバニラ味とブルーベリーヨーグルト味と次々に味が変わる。

 

空になった容器を置くと、口を拭かれた。

 

「ルナ、そんなに汚して食べてはダメよ」

 

「そんな顔を見れて安心したよ」

 

パパとママがパフェを食べるのを見守ってくれていた。

 

「ママァ」

 

ママに抱きつき温もりがちゃんとそこにある事を確認した。ママは優しく頭を撫でてくれた。

 

「本当にありがとうございました」

 

「いえいえ、お役に立てて良かったです。

俺が作ったパフェもあんなに美味しそうに食べてくれましたし」

 

頭を下げるパパ。青年は、あははと返事を返す。

 

「お兄さん、ありがとう!!」

 

「今度来た時は屋台にも寄ってね!ルナちゃん、兄ちゃん手伝いしてるから」

 

「うん」

 

目線を合わせてくれた青年はニコリと微笑んだ。元気に返事をすると父に手を引かれて帰宅した。

 

 

それから、1年くらいは大会のたびに青年の屋台を訪れてはパフェをねだった。

 

違う屋台をしている青年は

 

「1着になったご褒美だよ」

 

という感じで作ってくれた。

 

無理を言って屋台の手伝いをさせてもらうこともあった。私は行くたびに屋台を訪れては青年に戯れ付き、甘えていた。ニコニコと私の我儘を受け入れてくれて美味しいパフェも作ってくれる。この時間が大好きだった。

 

しかし、月1回の大好きな時間は突然終わりとなった。青年はヨーロッパに留学しに行ったのだ。料理を学ぶ為に・・・

 

青年は1通の手紙を私宛に残していた。

 

[本当にごめんなさい。ルナちゃんの泣き顔が見れなくて、手紙でのお別れとなってしまい本当にごめんなさい。ルナちゃんはすごいウマ娘になれる!!だから、オレもすごいコックになってくる。今度は最高のパフェ食べてもらうから、すごいウマ娘になるんだぞ!!

それでは、また会う日まで!!」

 

 

「まぁ、そんな感じかな」

 

背もたれに体を預けて天井を見上げるシンボリルドルフ。

 

「なるほど、そんな事が」

 

「今となっては忘れていたが頑なにパフェは食べなかったな。帰ってきた青年のを1番に食べると、ふふっ、おかしいだろ、いつ帰ってくるか分からないのにな」

 

「良いじゃないですか、可愛らしい意地で、コック長には伝えないので?」

 

「まぁ、何年も待たせたんだコック長がいつ気づくか楽しみにしようじゃないか」

 

くるりと椅子を回し、外を眺めるシンボリルドルフの横顔は微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

おまけ:没案 理由:若すぎた。

 

 

「うぇぇぇん」

 

泣き出すウマ娘。しかし誰も彼女に手を伸ばさない中、1人の少年が近寄る。

 

「おぉ、神速の女神に祝福されし少女よ。泣き止むのだ。先程の勇姿が霞んでしまうぞ」

 

跪き目線を合わせる少年に少女は固まってしまう。

 

「安心するのだ。オレは組織の1員である。少女の悩みなど瞬く間に解決してみせよう」

 

大会関係者の腕章を見せてくる少年。オッドアイで両手に包帯を巻き、前髪の1部分だけ白のメッシュにして三日月のようになっている。

 

「ルナと同じ」

 

少年の前髪を凝視するウマ娘、ルナは自分のチャームポイントである前髪を指さす。

 

「ああ、オレは月の眷属になったからな。少女は月の使者殿かな?」

 

「月の使者?」

 

首を傾げるルナに少年は続ける。

 

「ああ、生まれながらに月の印を持つもののことさ。オレは最近月の眷属になったからな。取り敢えず此方に月の使者殿」

 

「うん」

 

 

少年について行くと大会運営テントに案内された。そこでパイプ椅子に座らされている。

 

「月の使者殿、なにぶん「子供の園」迄は距離がある故此方でお待ちください」

 

仰々しい名前に迷子センターを改名した少年はニンジンジュースを入れたコップをルナの前に置いた。

 

「お兄さん、ルナって呼んで、月の使者殿はヤッ!!」

 

名前で呼んでくれない少年にほっぺを膨らまして抗議の声を上げる。

 

「そんな可愛らしく抗議されては此方がもたない。ルナで良いかな?」

 

大袈裟に驚く仕草をして観念したと手を上げる。

 

「うん」

 

満足し、こくこくとニンジンジュースを飲むルナ。

 

「まだ、時間があるだろうから、おやつはどうだルナ?」

 

「おやつ!!」

 

「了解だ!!」

 

問いかけに目をキラキラさせるルナに即答する少年。

 

少したち少年が帰ってきた。

 

「会心の出来だ!ルナよ!!刮目せよ!

この、黄金の津波に染められし赤緑の供物とスノーキャッスルに備えられしラビリンステイストを!!存分に食すが良い!!」

 

言っている事はよく分からないが、そこにはピザトーストとパフェがあった。

 

「パフェ!!」

 

好きなものは最後に食べるルナは、先にピザトーストを口に入れた。

 

「!?」

 

1口で涙目になった。

 

「どうした?」

 

「に、苦いよぉ」

 

「な、なんだと!!クソ!!緑の悪魔め!!くっ!!オレの腕が足りないばかりに!!」

 

驚愕し、膝をつく少年はピーマンを憎んだ。

 

「ルナ、スノーキャッスルを食すのだ。その迷宮は君を癒すはず!!」

 

ガバッと顔を上げる少年はルナにパフェを食べるように勧める。

 

ソフトクリームにをスプーンを入れて口に運ぶ。ソフトクリームに混じったチョコの味も加わり2種類の味を楽しめる。

刺さったお菓子を引き抜き、口に入れるとブルーベリーヨーグルトの味が広がる。二口目にはソフトクリームの味にかわり変化を楽しめた。食べ進める度に足の変わるパフェにスプーンが止まらない。最下層のクッキーもバニラ味とブルーベリーヨーグルト味と次々に味が変わる。

 

「迷宮に囚われたようだな」

 

クックックと笑う少年は美味しそうに食べるルナを見ていた。

 

程なくして両親が迎えに来てルナを連れて行った。

 

 

次の大会でも、1着になったルナは両親に頼んで少年を探していた。大会運営委員の人に聞くとすぐに分かった。明るく仕事熱心な少年は、あの奇抜な言動と容姿も相まって有名人らしい。屋台の手伝いをしているらしい。

 

早速ルナ達は屋台に向かうと、以前と変わらぬ姿で屋台の手伝いをしていた。

 

「お兄さん」

 

ルナは一目散に少女に抱きついた。

 

「お?おお?、ルナではないか」

 

少年は衝撃に驚いたが怒ることもなく、ルナの顔を見るとニコリと笑った。

 

「今日も素晴らしい走りだったな!!」

 

ポンと頭に手を置きルナを褒める。

 

「ルナ頑張ったからまたパフェ作って」

 

「おお、見事に迷宮に迷い込んだようだな!!少し待て!!すぐに作ろう!!」

 

嫌な顔一つせずに、許可を取りに一旦その場を離れた。

 

すぐに前回と同じパフェを作ってきた。

 

両親は屋台にいたスタッフ達に謝ったが、全員が口を揃えて

 

「「「あの笑顔の為だ、お気になさらず!!!」」」

 

嬉しそうに言うスタッフ達に感謝するのだった。

 

「うまいか?」

 

「おいしー」

 

「それは良かった。1つ提案なんだが1着取った時のポーズを練習しないか?」

 

「ポーズ?」

 

少女は少年の提案に首を傾げる。

 

「ああ、せっかく1着になって注目されるんだカッコいいポーズでビシッと決め喝采を浴びずどうする」

 

「そうかな?」

 

「そうだとも!!」

 

「わかった!!」

 

真っ直ぐで澄んだ瞳で力強く説得する少年にルナは納得してポーズの練習を少年とした。

 

その様子を見てる両親は少し困った顔をしてるのだった。

 

 

 

「まぁ、そんな感じかな」

 

背もたれに体を預けて天井を見上げるシンボリルドルフ。

 

「ちなみにどういったポーズを?」

 

苦い顔をしながら

 

「ちょっと言いたくないな、その後は1着取るたび別のポーズをしたよ。彼が居なくなるまでは」

 

「と言いますと?」

 

「料理の学校に行くと引越ししてしまってね。彼が居なくなってからはポーズをしてもなんだか寂しくてやめてしまったよ」

 

「なるほど」

 

シンボリルドルフは椅子を回し窓から外を見ながら

 

「あの時の気持ちどうしてやろうか」

 

そう言うシンボリルドルフは微笑んでいた。

 

 

 

 


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