コック長が鉄槌を下しますので今しばらくお待ち下さい。
お楽しみいただけたら幸いです。
地方レース場トレセン学園の生徒が走るにはこじんまりした印象があるレース場にウララは来ていた。
中央で戦績が奮わない彼女はこういった場所のレースに出ることの方が多い。しかし、天真爛漫で周囲に笑顔を届ける彼女は行く先々でファンを増やしていた。
控室にて
「今日も頑張るよー」
ガッツポーズを決めて気合いを入れるウララ。
「頑張ってねウララちゃん」
そんな彼女の応援に来たライス。
「それじゃあ行ってくるね!!」
控室からレース場に向かう。
パドックでは選手の状態を見て歓声を上げる人で賑わっていた。トレセン学園から来たウマ娘も出走するという事でいつもより賑わっている。
そんな中で数名が遠まきに見ていた。
「兄貴、首尾ば上々ですぜ。諭吉製菓も束で渡して連中上機嫌です。」
「おう、ぬかるなよ久々の上玉だ」
タバコを吹かしながら視線を合わせずに会話を続ける。
そこにハルウララがパドックに出てきた。
会場の声援は一段と増す。
「眩しいなぁ、おい、たんまり稼がせて貰うぜ」
「へい」
ニタァとした笑顔は邪悪であった。
控え室に帰っててきたウララは上機嫌だった。
「ライスちゃん見てたー!ウララ1番だったよ!」
全身で嬉しさを表すウララは本当に嬉しそうだ。全力で走った結果なのだから当然だ。実力を発揮し日々の努力が報われる瞬間なのだから。
「うん、凄かったよウララちゃん」
しかし、ライスは一つ気になる事があった。
ウララ以外のウマ娘の中には何か感じだことのない感覚があったのだ。何とは言えないがいつも自身が走っている時には感じない感覚。言いようのない感じに違和感を感じてしまった。
(こんなに喜んでるのに水を差さなくてもいいよね)
特に言うことはしないで2人は喜んだ。
ウララのトレーナーは2人が咲かせる歓喜の華に水を差さない様に挨拶まわりに出て行った。
しばらくキャッキャとレースの事を話し帰ったらパーティだね等と話しているとドアがノックされた。
「はーい!どうぞー」
ウララがドアを開ると覆面を被った男が何かを吹きつけた。
身体から力の抜けたウララをそのまま抱き抱える。
「ウララちゃん!」
身体から力の抜けたウララを謎の男が抱き抱えるのと同時にライスは駆け寄ろうとした。
するとウララを抱き抱える男とは別の男が出てきてライスにも何かを吹き付ける。
視界が歪み力が抜ける。しかし、なんとか体に力を入れて踏みとどまる。
「いい根性じゃねぇか。こいつも連れてくぞ」
更に男が増えて先程と同じものを吹き付けられる。
(ウララちゃん)
気合いも虚しく意識を失うライス。
無情にもトレーナーが戻ってくるまでにはまだ時間がある。
トレセン学園
キングは寮でウララのレースを中継で見ていた。地方レースを取り扱うネットチャンネル
直接応援に行くことはできなかったが彼女の頑張りは見ているつもりだった。振り回される事の方が多いが・・・それでも最近は彼女なりに1番を目指して練習していた。
「帰ってきたら祝勝会ね」
祝勝会の準備のためにコック長に話をしなければ・・・
厨房に行く途中コック長はダンボールを満載して歩いていた。
「コック長、凄い量を持ってるのね」
若干引き気味で声をかけるキング。
コック長は背中に4つ背負い込み、片手で3つずつ持っていた。
「ウララが1番取ったって聞いたからな!料理の準備さ」
「それは丁度よかった。私も手伝わせなさい」
暑苦しい笑顔で了解するコック長。
2人は何を作るか話しながら厨房に向かった。
ニンジンを洗いながら
「取り敢えず、ニンジンハンバーグにニンジンジュース。ニンジンソテーにニンジンアイス、ニンジンケーキを考えてるんだが他に何かあるか?」
「十分ね。ニンジンが好きなウララさんの喜ぶ顔が想像できるわね」
丁寧にニンジンの泥を洗うキングヘイローの表情はにこやかだった。
ニンジンの皮を剥き始めた頃にたづなさんが厨房に顔を出した。その顔は切迫している。
「コック長少しよろしいですか?」
「はい、どうしました?」
「理事長室に来てください。キングヘイローさんは今までどおりで」
「はい、ちょっと待っててくれキング」
「ええ」
今まで見た事のない真剣な表情のたづなさんに2人は胸の中を掻きむしられるような不安を覚えるが素直に従う。
終始無言でたづなさんの後ろをついていく。いつもは雑談をしたりと気安く話せる相手なのだが隙が無いというか、話せる雰囲気ではない。そんなこんなで理事長室についた。
理事長室には、ベテラントレーナーと言われる者や各役職で長を務めるものと警備関係者が集められていた。
「悲痛、諸君に集まってもらったのはある事を伝えるためだ」
冷静を繕っているように見える姿は悲しみと怒りが見え隠れする。
「憤怒、本日ハルウララがレース後に消息を絶った。ハルウララのトレーナーの報告によると部屋には何らかの薬品を使用した形跡があり誘拐の可能性があると警察から言われたそうだ」
部屋が騒がしくなる。近くの者と顔を合わせて動揺が部屋中に蔓延する。
「静粛に!!」
理事長が叫び部屋はしんと静まる。
「更に応援に来ていたライスシャワーも行方がわかっていない。誰か連絡のあった者は?」
首を振る面々、ライスのトレーナーも首をふる。そんな中・・・
「理事長、一応レース終了後にライスシャワーからメールはあったが、犯行推定時刻はどの位だろうか?」
女医が手を挙げて携帯を出した。
「17時から18時の間と聞いている」
「メールが来たのは16時です」
「そうか」
みな一瞬期待したがメールの時間が早く落胆した。
「決起、取り敢えず皆顔あげてほしい。今は学園内の警備の見直しとこれからの対応について話す。まずレースについては警察からも犯人側を刺激しないように今まで通り行う。その為、警備の増員とスタッフの身元確認など普段以上の警戒を頼む!!この件は秘匿する。トレーナー諸君はウマ娘達に余計な動揺を与えないようにしてくれ!!」
ハルウララとライスシャワーは別の特別トレーニングという名目で暫く帰らないという筋書きを共有し取り敢えず解散となったが皆の足取りは重い。
厨房に戻るとキングはニンジンの皮剥きを行なっていた。
「コック長?どうしたのかしら表情が硬いわよ?」
「あ、ああ、なんかウララとライスは数日戻ってこないみたいなんだ。帰ってきたら改めて祝おう」
「そうなの、じゃあその時はまた一緒に作りましょう」
素直に聞き分けてくれるキングの笑顔が辛い。
厨房にコック長を含めた数人のコックのみとなった。
「おい、お前らウララとライスが誘拐された」
「おいおい、マジかよ」
「かぁーやりやがったねぇ」
「それでどうするんだコック長?」
「決まってるだろ。助け出すぞ!!」
コックA、B、Cは頷く。
「取り敢えず情報だ片っ端から集めるぞ。俺は警察の伝手に連絡する」
「じゃあ俺らは裏側を担当しましょう。」
そこからの動きは早かった。
コック長は自身の料理ファンであり大のウマ娘ファンである警視庁のお偉いさんに連絡を取った。そこで内密に現段階の捜査状況を聞いた。曰く幾つかの痕跡から幾らかの目星はついているが、現状では証拠不足で警察はすぐには動けないとのこと。更に目撃情報が皆無な事が気掛かりであり、不審者等の情報も上がってこないという。この点からかなりの協力者がいると睨んでいるとのことだ。
最後に、かなり激怒してるらしく「死人さえ出さなければなんとでもしてやる」というお墨付きを貰えた。
そして、コックA、B、Cはハッカー集団に色んなデータ収集をさせていた。そこでわかったことは、今回のレース場近辺の電話、通信量が、ある日を境にある場所に収束している事。更にそこからは大陸との通信量が異様に伸びている事がわかった。
中央興業、建設会社としての顔を持つ極道一家。違法ウマ娘レースを行い過去に警察沙汰になった事がある札付きだ。
「ほぼほぼ黒だが2人がどこに居るかがわからないな」
コックAがそういうと
「そこまで割れてれば大丈夫だ少し近づけば気配と臭いでわかる」
コック長の言葉に頷くBとC
流石にわからねぇよと頭を抱えるA
「取り敢えず向かうぞ」
「おう!!」
4人は動き出した。
中央興業分店内で男達は酒を酌み交わしていた。
「いやぁ、楽な仕事ですねぇ」
「ホンマホンマ!!端金渡したら警備に簡単に穴あけよる!!今回は一回で2人もとはついてるでぇ、んがっははは」
酒瓶ごと豪快に飲み笑うのが今回の絵を描いたのが組長。その太鼓持ちが若頭で実行部隊の隊長である。
周りでは他にも数名が酒を酌み交わしている。
「のう、ライスシャワーちゃん、たんまり稼がせてもらうでぇ。ハルウララと一緒になぁ」
部屋の奥にある座敷牢の鉄格子まで近づきニンマリと下卑た笑みを向ける。
ライスは未だ意識の戻らないウララを抱いて隠すように座っている。
「私たちを返して下さい!!」
震える身体に喝を入れながら睨みつける。
「あきらめぇや、もう戻れん。なぁにレースは好きなだけ走らせたる。いやでもなぁ。んふっふっふ、あっはっはっは!!」
涙を堪えるライス。
(諦めない!!泣かない!!帰るんだ!!ウララちゃんと一緒に)
興味で動画を見てしまい心が痛くなりました。
護らねば護らねば!!