英雄譚   作:繊細なゆりの花

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第10話

 この日は雲一つない良い満月の夜。

 

久方ぶりの晴れだった。

 

こんな時でもなければエイスはまんまるのお月様を見ながら心ゆくまで酒を呑んでいただろう。

 

しかし、彼はユクモ村に着任してから、祭りの時ですら一滴の酒も口にしていない。

 

それは彼の性格に起因する。

 

良くも悪くも狭い視野の彼は緊急時におけるゆとりを持てない。

 

背中を預けられる相棒はいるが、心から頼れる人はいない。

 

しかし、波が船に当たる音と、櫂(かい)を漕ぐ音しか聞こえない単調なこの静寂な世界は、戦の前にもかかわらず、エイスの感覚を澄んだものに変えていった。

 

現地調査員の報告によると、子育て中の金火竜

は銀火竜と一緒に寝てはおらず、孤島全体が見渡せる崖の上に。

 

銀火竜は以前まで大型両生獣の住処だった入江で寝床を作っているという。

 

おそらく上陸してくる小型両生獣をすぐに捕まえられる為だろう。

 

エイスは村長から聞いた金火竜、銀火竜の習性や弱点、縄張りの場所など頭の中で整理していた。

 

島の形がはっきり見えてきた。

 

人影は見えないようだが奥にキャンプテントが見える。

 

近くの岩場に船を隠し、エイスとマークは仮眠を取ることにした。

 

「エイス、お前んところのオトモにも手伝ってもらうぞ。歩哨だ」

 

「わかってる。4匹とも頼むぞ。キャンプを中心に扇形に5メートル間隔でやってくれ」

 

「「はいニャ」」「わかったニャ」「了解ニャ」

 

それからひとときが過ぎた。

 

エイス達はオトモ4匹に大樽爆弾を一つずつ背負わせ、金火竜の「巣」まで音を立てずに慎重に登っていった為普段の倍は時間がかかったが、急襲するには丁度良い時間帯だった。

 

黙々と歩き続けてさらにひととき。

 

天井の低い洞窟、高い洞窟を進みぽっかり空いた出口の先にそれはいた。

 

リオレイア希少種 通称「金火竜」

 

全長 (頭から尻尾の先まで)20m

高さ 7m

全幅 約13m

 

月光を浴びて黄金色に輝くその巨体は、この岩壁上の広場約2ヘクタール(100×200の長方形)

が狭く感じられる程エイス達を圧巻させた。

 

金火竜は眠っている。

 

マイム、レッド、テン、ツウは音を立てないように、4つの大樽爆弾を頭と翼それぞれ2つずつ置いた。

 

同時にエイスとマークは胴体付近に落とし穴を設置。

 

半自動のネジがキリキリと音を立てる。

 

(まずい!)

 

とエイスが思った瞬間、金火竜と目が合った。

 

「点火だ!」

 

2人は横っ飛びし、4匹にはそれぞれ持っていた爆薬で爆弾を点火した。

 

「ゴァァァァアァァァ!!!」

 

鼓膜が破れんばかりの咆哮が静寂の孤島に響き渡った。

 

「くっ!うるせえっんだよっ!」

 

落とし穴にはまっている金火竜へ、エイスは片方の翼の根本へ剣斧を2.3度打ち込み大きな裂傷をつけた。

 

金火竜は爆弾により頭部を覆う堅殻が砕かれている。

 

マークはその頭に更に追撃弾。

 

金火竜は両目が潰れ眼球がせり出ていた。

 

罠から這い出た金火竜は殺気を撒き散らした。

 

ビリビリと強烈な殺気がエイス達を舐める。

 

(仕留め損なった・・・だが、これで奴は飛べないし、突進は鼻で追跡せざるを得なくなる・・・ん?)

 

月の光を隠す程の巨大な影がエイス達を覆い尽くした。

 

銀火竜来襲。

 



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