英雄譚   作:繊細なゆりの花

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第16話

「すまない、気づかなかった。いつから来ていたんだ?教官もいつのまにかいなくなっているし」

 

「つい今しがたですわ。教官と門の前ですれ違いました。教官があなたの事をとても褒めて驚いていましたわよ。凄い奴だって」

 

「そいつは光栄だな」

 

「後、これを」

 

「村長が差し出したのは竹筒に入った冷たい茶と握り飯2つと新香だった。

 

「・・・」

 

「エイス、何考えていらっしゃるの?」

 

握り飯を頬張りながらエイスは答えた。

 

「明後日は出立だ。明日は会わないほうがいい。死ぬつもりはないが命をかけるからな。次は村の入り口で言葉を交わそう」

 

「貴方はそう言うと思っていましたわ。私も言うつもりでした」

 

「マークの所に行ってくる。握り飯ご馳走さま。美味かったよ」

 

「暗いから足元気をつけて」

 

「子供じゃないんだから」

 

エイスは苦笑した。

 

村道は暗かったが集会浴場とその下の広場は明かりが多く灯され、温泉客や酔っ払いでまだ賑わっていた。

 

マークは酒場で女性店員を口説いていた。

 

「マーク、酒はほどほどにしとけよ。本調子じゃないんだろ?」

 

女性店員は助かったとばかりにエイスにウインクしてその場から立ち去った。

 

「エイス、邪魔すんなよ。いい所だったのに」

 

「そいつは悪かったな。だが、もう酒はやめろ。お前の為だ。マスター、もうこいつには酒を出さないでくれ。病み上がりなんだ」

 

「そりゃないぜ。他に楽しみ無いんだぜ?」

 

マークはそう言いながらマスターが下げようとするコップに手を伸ばした。

 

その手をピシャリとエイスが叩く。

 

「明日俺は訓練所で剣斧の鍛錬をする。お前も来ないか?無理ない程度に」

 

「ああ、わかったよ。体動かさないとまずいしな。もう寝るよ。これ呑んだらな!」

 

マスターがカウンターに下げたコップを身を乗り出し掴むとマークは一気に飲み干した。

 

「お前・・・」

 

「おやすみ、エイス。じゃな」

 

マークはエイスに振り返りもせず手をぱたぱたと振って自室に消えていった。

 

「あいつ・・・腕は確かなんだけどなぁ」

 

はぁ 

 

エイスは大きくため息をついた。

 

翌日早朝、エイスは自室を出ると、早速訓練場に向かった。

 

誰もいなかったが一階の鍵は開いていたのでエイスは昨日の型を思い出しながら、何度も何度も反復練習をした。

 

朝日が昇る頃教官が道場に来た。

 

「もうやっているのか。まあそうだろうな。どうやら自分の物にしたらしいな」

 

「鍵を開けたのはあんただろ?基本の型は体に覚え込ませたよ。問題は斧の型から剣の型に変形させる隙を無くすことかな」

 

「そう。剣と斧2つの特性を身につけて初めて剣斧使いとなる。斧は一撃は重いが小回りが効かない。剣は斧ほど攻撃力は無いが小回りが効く。変形機能を上手に使い分ける事が出来る様になれば立派な剣斧使いだ」

 

エイスは斧突きから変形斬り、ステップ動作を確認していった。

 

(確かに。これなら攻撃後の硬直を狙ったカウンターを喰らわずに済む)

 

エイスが型を再開しようとした時マイムとレッドがこちらに向かって来るのが見えた。

 

「旦那。朝昼分のご飯ニャ。気は食からニャ。他にニャにかいるものあるかニャ?」

 

「ああ・・・すまん。水10ℓ分持ってきてくれるか?飲み水だ」

 

『了解ニャ』

 

エイスは集中力が並では無かった。

 

鍛錬は夜遅くまで続き、自宅に着いてから泥のように眠った。

 

マーク・シュルツは1度も道場に来なかった。

 

       第5章 古龍観測隊員の行方

 

 エイスがこの村に来て10日。

 

古龍観測隊が行方不明になって18日後の朝が来た。

 

観測隊員の生存は厳しいものになってきているが諦めるわけにはいかなかった。

 

小雨の降り頻る中、村の入り口には多くの村人が見送りに来てくれていた。

 

マークシュルツがいた。

 

「マーク、傷の具合はどうだ?」

 

「昨日寝ていたらバッチリよ。お前は眠れたか?」

 

「ああ・・・問題ない」

 

エイスは、村人たちの中からシェラを探す。

 

互いの目が合う。数秒間。

 

「エイス。おはようございます。よく眠れましたか?」

 

エイスはシェラの目を見つめながら答える。

 

「シェラ、おはよう。彼らを探し、奴を倒して来るよ」

 

「手紙書きました。道中必ず読んで下さいまし。荷物は準備出来ています。ガーグァ4匹、荷車2台、素材回収は定置点の観測隊員の方にお願いしてありますので持ち帰りは大丈夫ですわ」

 

「助かる。行ってくるよ」

 

「お早いおかえりを」

 

村人たちも次々と声をかける。

 

「ハンターさん、必ず戻ってこいよ」 「気をつけてね」 「命より大事なものはないからな」 「無理はなさるな。必ず生きてお戻りを」

 

モミ爺やゲン爺、集会浴場の受付穣の姿も見えた。

 

2人と4匹のアイルーは荷車に揺られながらユクモ村を後にした。

 

御者を前半は人間が。後半はアイルー達とエイスは提案したが、アイルー達は頑なにこれを拒否した。

 

戦闘になれば自分たちは少しの事しか出来ない。だから御者位はやらせてくれと。

 

観測定置点まで北東15里。

 

霊峰までさらに北東15里。

 

エイス達はアイルーの言葉に甘えることにした。

 

「その代わり何か起こったらすぐ叩き起こせよ?後休憩は必要だ。ご飯の時は交代だ」

 

「了解ニャ」 「はいニャ」

 

ふとエイスは2台の隅に目をやった。

 

見慣れないクッションがある。

 

これで移動中腰が痛くならなくて済む。

 

この母衣(ほろ)付きの荷車もそうだ。

 

全部シェラが用意してくれたものだろう。

 

エイスは思い出したように胸ポケットに仕舞っていた手紙を読んだ。

 

【エイスヘ まず最初にお詫びを。この手紙を私が書いたことで貴方の嵐龍に対しての決意を揺るがすような真似をしてごめんなさい。せっかく会わなかったのにね。でも嵐龍を少しでも倒せないと判断したら無理はなさらないで下さいましね。その場合私たちは王都に避難します。村の皆は承知しております。必ず帰ってきて下さいまし。また一緒にお酒を呑みましょう。後もう一点。マークさんにはお気をつけ下さい。彼は何か考えているようです。古龍観測隊の皆様一緒に貴方の帰りをお待ちしております。            シェラより 】

 

※シェラの手紙には古龍観測定置点に詰めているメンバーの名前と特徴が書いてあったのだがここでは割愛する

 

(シェラの奴・・・俺を大事に思ってくれるのは有り難いが俺はユクモ村が好きになっちまった。そうやすやすと逃げて村を見捨てたりはしない)

 

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